青白人間にはならない   作:ろーるしゃっは

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 目を覚ます。その瞬間、青年を出迎えたのは何処までも永遠に続く黒だった。

 上も下も、右も左も分からない漆黒の中で立っているのか横になっているのかも自分では分からない。

 

「ハロハロ~♪Youご愁傷さまだねぇ~」

 

 その場には似つかわしくない軽薄な声が響く。

 

「実はねぇ、とある世界で空白が出来ちゃってさ。その穴埋めをしてもらおうと思ってね」

 

 どこか嘲笑すら感じさせる声色の声に、しかし青年は何も言えなかった。

 ただ、頭の中にシロップでも流し込まれたかのようにぼんやりとしている。

 青年の状況を知ってか知らずか、声は愉しげに言葉を紡ぐ。

 

「という訳で、ちょこっと改造して行ってきて頂戴ね」

 

 改造?という青年の疑問に答えは返ってこない。

 代わりに、ある感覚が彼を襲った。

 

(体が……崩れる…………)

 

 激痛なのだろう。それすらも、今の彼には分からない。

 ただ、皮膚、筋肉、神経、骨。体表から徐々に徐々に()()()()()()()()

 

「さあて、そこから()()()()()()。そしたら晴れて、君は()()()

 

 声は愉悦に踊っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 超能力が魔法という枠組みとなり科学技術と共に現実へと降りてきた時代。

 

「…………参ったな」

 

 一人の少年の新生活が幕を開ける。

 桑名正弦(くわなせいげん)は、空を見上げて首を傾げた。

 真っ白な髪に、その両目はまるで鮮血を散らしたようなピジョンブラッド。整った顔立ちをしており、アルビノではあるが日光過敏症を患っている様子はない。

 正弦は困っていた。

 

「ここは、どこだろうか?」

 

 端的に言えば、迷子である。

 彼の感情は常に平坦であるが、だからと言って微妙なふり幅が無い訳ではない。本人も気付かぬ内に盛り上がってしまっていたようだ。

 

「ふむ……瞬間移動は最終手段として……足を使うか」

 

 特に目的地を指定する事無く、歩き出す。

 国立魔法大学付属第一高等学校。それが、彼が今年度の入学を果たした学校だった。

 歩いて、歩いて、歩いて。辿り着いたのは、中庭。

 ベンチが設置されており、その一つには既に先客である少年が腰掛け書籍データに目を落としていた。

 人が居るのなら大丈夫だろう。そんな心持ちで正弦は近くのベンチに腰を下ろした。

 そして徐に制服のポケットから取り出したのは、掌に収まる程度の金属のキューブ。

 掌に乗せられたそれは、独りでにふわりと浮かび上がるとその表面に幾つもの直角のラインを引いていく。

 ライン引きが止まり、直後分裂。金属のキューブは凸凹とした幾つものブロックへとその姿を変えて空中へと浮かび上がった。

 ベンチの背もたれに体を預け、手を組んだ正弦は浮かび上がった金属の凸凹ブロックをぼんやりと見つめている。

 すると、金属のブロック達は独りでに空中を動き出し互いが互いに凹凸を交えて複雑に絡み合い、やがて一塊になるまで纏まった。

 後はその繰り返しだ。知恵の輪のように絡み合うブロックを切り離しては空中を泳がせ、再び一回に纏める。コレを淡々と繰り返すばかり。

 正弦にしてみれば、手遊びでしかない。だが、その光景は異常だ。

 

(……どうなっている?)

 

 視界の端で自由自在に縦横無尽に飛び回る金属ブロックを認め、司波達也は書籍データより顔を上げた。

 魔法というのは、プログラミングだ。しかも、打ち込める中身は限界がある上に()()()()()()()()()()

 

(移動術式に加速術式か?いや、重力制御魔法を利用しているのか…………だが、CADを用いていない)

 

 CAD。Casting Assistant Deviceのそれぞれの頭文字を取って、そう呼ばれる日本語名は術式補助演算機。

 現代魔法扱う上でほぼ必須の機材だ。無くても魔法の発動は可能だが、その速度と精度は大きく劣る事になるだろう。

 だが、達也が見た限り金属キューブを操っているであろう彼にCADを有している様子はない。

 気になる。しかし、他人の魔法を詮索する事はマナー違反とされる。

 

 そんな視線を受けながらも、正弦は気にしなかった。そもそも、視線を感じ取ってすらいなかった。

 彼にしてみれば物理法則に喧嘩を売るような光景も、手遊びでしかないからだ。

 

「――――新入生ですね?そろそろ時間ですよ」

 

 金属が飛ぶ音を遮る様に、少女の声が転がった。

 達也がそちらへと顔を向ければ、一人の女子生徒が微笑んでいる。

 背丈は低いが、その一方で制服の上からでも分かるプロポーションに加えてかなり整った目鼻立ちの持ち主。

 何より、その手首に付けられた腕輪型の汎用型CAD。

 

(確か、CADを校内で携行できるのは生徒会役員や特定の委員会の所属者だったか)

 

 内心で相手の素性を予想しつつ、同時に達也は別の目的を果たそうと僅かに視線をずらした。

 彼の視線につられるように、女子生徒もまたその視線の方へと顔を動かす。

 そして、目を見開く。

 

「校内での、CAD無断使用は禁止ですよ!」

「…………ん?」

 

 声を掛けられて、そこで漸く正弦は虚空を見つめていた目を他所へと向けた。

 

「…………僕か?」

「そうです!とにかく、CADを「生憎だが、持っていないぞ」――――え?」

 

 思わぬ言葉に、説教も止まる。

 同時に、虚空を見上げた正弦は何を確認したのか右手の平を空へと向けて持ち上げる。すると、その掌の上に元のキューブ状態に戻った金属ブロック群が収まるではないか。

 そのままキューブをポケットに収めて、正弦はベンチから立ち上がった。

 

「会場は、どちらだろうか」

「…………」

「……?聞いているか?」

 

 首を傾げる正弦だが、肝心の女子生徒は反応を返してはくれない。

 これでは参ってしまう。それこそ、奥の手の瞬間移動を解禁せねばならないと考えてしまう程度には。

 だが、捨てる神あれば拾う神あり。この場に居るのは二人だけではない。

 

「入学式の会場は、あっちだ」

「……そうか。ありがとう」

「俺は、司波達也。君も、新入生だろう?」

「ああ………………そういえば、名乗られたのなら名乗るべきか。僕は、桑名正弦。植物の桑に名前の名。それに正しい弦で正弦だ」

(桑名……?ダメだな、絞れない)「さっきまでの動きは、俺も見ていた。CADを使っていないというのは、本当なのか?」

「ああ。僕は、CADを使うのが苦手なんだ」

「苦手……?」

 

 眉根を寄せて、達也は正弦の制服のエンブレムを見た。

 空白。それはつまり、この第一高校で二科生を意味する印。

 一応、おかしな話ではない。対応するとはいえ、基本的にCADは現代魔法向き。古式魔法などの内特殊な儀式を必要とするものなどは作用を解析せねばCADで発動できない。

 そこで、達也の脳裏にとある可能性が過る。

 

(BS魔法か)

 

 現代魔法や古式魔法などとは違う、本物の超能力。生まれつき個々人が持ち合わせた異能であり、系統魔法等と比べてもかなり特殊。

 そして、そんなBS魔法師はCADを用いた魔法を苦手にする者が居る。勿論、全員が全員そういう訳では無いが。

 少なくとも、現状の少ない情報から達也は目の前の相手をそう定めた。

 この間に、宇宙を背負っていた女子生徒が現実世界に戻ってきた。

 

「えっと、CADを持ってないの?」

「持ってないな。必要なのか?」

「寧ろ、魔法科高校に何しに来てるの!?…………ッ、はぁ……貴方、お名前は?」

「尋ねる前に、自分が名乗るべきじゃないか?彼は、そうしたぞ」

「うっ…………んんっ!第一高校生徒会長の七草真由美です。七草と書いて“さえぐさ”と読みます。よろしくね」

「桑名正弦。よろしく、生徒会長」

「桑名正弦…………確か、入試の成績はそこまで良くなかった……わよね?」

「知らないな。あんなもの、合格するだけなら特に難しくもなんともないだろう?」

「ソレを、二科生のお前が行っても説得力は無いと思うが…………」

 

 達也は呆れる。だが、真由美の反応は違った。

 

「……一つだけ、変な答案があったわ。最初から最後まで解いた問題は全問正解。なのに、6割前後でピタリと解くのを止めて後は真っ白な答案よ」

「まさか……」

 

 二人の視線が、向けられ正弦は首を傾げる。

 

「受かる点数が分かっているのなら、その分だけ解けばいいだろう?受験なんてものは、合格すればそれで良いんだから」

「えぇ………で、でも高得点なら一科生にも成れたんじゃないの!?」

「メリットが無い。僕としては、一々教員に絡まれるのはご免だね」

「いや、えー……そう、かしら?」

 

 納得できるか、と問われれば難しい。

 というのも、教員の有無が現在の第一高校の問題の一つである一科生と二科生の関係性に関して根元の一つであるから。

 教員の有無が魔法的素養の飛躍につながるかと問われれば否ではある。だが、居ると居ないとではどうしても差が出来るのも確か。個人で出来る事には限界があるのだから。

 

「もう良いだろうか?僕は別にお喋りが好きじゃないんだが」

「え、あ……そう、ね……?」

 

 まるっきりペースを握る事が出来ず、真由美は頷く。

 補足をすれば、正弦に場を引っ掻き回している自覚は無い。彼にとっては聞かれた事に答えただけだから。説明を詳しくしなかったのは、単に面倒だったから。

 

 去っていく背中を、達也はジッと見つめていた。

 彼は、ペーパーテストではあるが平均最高得点を叩き出して入学を果たした。それこそ、教師陣の注目を集める程度には凄まじい成績だ。

 だが、そんな達也であろうとも、果たして合格点ジャストの点数ピッタリと取る事が出来るかどうか。

 

 何より、合格点ジャストを途中で問題を解く事を止めた上で取れるという事は、裏を返せば最後まで解いていれば満点を取れたという事にも繋がる。

 

(警戒をすべきか)

 

 得体のしれない相手だ。伝手を使って調べる必要がある、と頭の中で記録しておく。

 

 

 余談ではあるが、この後散々に振り回された真由美に、達也の成績に関して食いつかれ気苦労する事になるのだが蛇足である。

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