お母さん、無自覚美人です  お盆帰省編   作:松田義和

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夏が過ぎても

──夏休みは終わっても、戦いは続く

 

夏休みが終わり、大学が再び賑やかさを取り戻した頃。

僕は正直、あの盆踊りの夜のことは、町の思い出として胸の奥にしまっておくつもりだった。

──が、その目論見は開始5分で崩れた。

 

「おう、〇〇!」

振り向くと松田さん、剣崎さん、高橋が揃って立っていた。

「新学期早々だな」と笑う松田さんの背後、もう一人、見慣れた長身の男がいた。

 

「……白鳥」

「やあ、〇〇くん。久しぶりだね」

その笑顔は相変わらず涼しげで、目の奥にはあの夜と同じ光が宿っている。

 

 

昼休みの学生ラウンジ。

僕は何気なく周りの会話を聞き流していたのだが、妙な単語が耳に入った。

 

「なあ、『女神』って知ってる?」

「知ってる知ってる。〇〇の母さんだろ? 浴衣の似合う美人の」

「それ! この前白鳥が写真見せてくれた」

 

──嫌な予感しかしない。

案の定、少し離れたテーブルで、白鳥が数人の女子に囲まれ、楽しそうに話している。

「そう、彼女こそ“女神”。僕が惚れた女性だ」

「惚れたって…!」女子たちが笑い、スマホを覗き込む。

 

松田さんが低い声で「おい…」と呟く。

剣崎さんは腕を組み、完全に戦闘モードだ。

高橋は「やべーな、これ完全に宣戦布告じゃん」とニヤけている。

 

 

放課後、校門の前。

白鳥が僕に歩み寄り、耳元でささやく。

「松田が鳳凰なら、俺は白鳥。どちらが女神に相応しいか…キャンパスでも証明しようじゃないか」

 

その後ろで松田さんが「……望むところだ」と笑い、剣崎さんが「面白くなってきたな」と続く。

高橋は「勝手に女神争奪戦やってろよ」と呆れつつも、明らかに楽しそうだ。

 

 

こうして、母さんを巡る“聖闘士”vs“白鳥”の火花は、夏が終わっても消えることなく、むしろ大学の中でますます燃え広がっていくのだった。

 

 

学内での静かな(いや、わりと派手な)火花から数日後。

午後の講義終わりにスマホを開くと、1件のLINEが届いていた。

 

白鳥:今からお母さんに会いに行く。

 

……いや、は?

思わず立ち止まった僕の背後で、松田さんと剣崎さんが同時に「なに?」と声を揃える。

高橋はメッセージを覗き込んで「……あ、これ完全に突撃だな」と笑った。

 

 

30分後。

僕の家の前。

白鳥は紺のシャツに薄いグレーのスラックスという、妙に小洒落た格好で立っていた。

「やあ、〇〇くん。偶然この辺に用事があってね」

(偶然なわけあるか!)

 

母さんは家の中で夕飯の支度中。

このままだと、あの涼しい顔で堂々と上がり込む未来しか見えない。

 

「すみません、母上は今取り込み中でして」

松田さんがすかさず玄関の前に立ちふさがる。

「後日にしてもらえますかね」

剣崎さんは腕を組んで横に陣取り、「訪問はアポを取ってからだ」と低い声。

 

白鳥は余裕の笑みを浮かべたまま、ふっと視線を僕に向ける。

「松田が鳳凰なら、俺は白鳥。直接お会いして、その美しさをこの目に刻みたい」

「刻まなくていい!」僕は即座に突っ込む。

 

 

高橋が小声で「なあ、これ完全に門前バトルだよな」とニヤニヤ。

松田さんは「この場は俺たちが守る」と宣言。

剣崎さんは「侵入許可は下りない」と断言。

 

白鳥は一歩も引かず、逆にポケットから何かを取り出した。

──花束。

「せめてこれだけでも渡してくれないか。ロシアでは花は尊敬の証だ」

 

一瞬、僕も含め全員が黙った。

……この人、やっぱり本気だ。

 

 

結局、母さんが玄関まで出てきて、笑顔で花束を受け取り、

「まあ、わざわざありがとうね。みんなでお茶でも──」

というところで、松田さんと剣崎さんが同時に「今日は時間がないので!」と声を揃えた。

 

白鳥は穏やかに礼をし、「また来るよ」とだけ言って去っていった。

 

その背中を見送りながら、高橋がぼそっと呟く。

「なあ〇〇…これ、来年のお盆まで持たないんじゃないか?」

 

……僕もそう思う。

 

 

 

 

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