重厚なカーテンが閉ざされた部屋。
壁には祖国から持ち込んだ絵画、棚には金色の縁取りが施された書物が並ぶ。
その中央に置かれた大理石のテーブルに、白鳥はゆっくりと腰を下ろした。
「……あの人に会うためには、邪魔者を排除しなければならない」
低く響く声。
揺れるランプの明かりが、彼の灰色の瞳に鋭い光を宿す。
後ろに控えていた執事セバスチャンが、驚愕に目を見開いた。
「ぼ、坊ちゃま……! ま、まさか、彼らを使うつもりなのですか!?」
白鳥はワイングラスを傾け、真紅の液体をひと口。
ゆっくりとグラスを置き、意味深に微笑んだ。
「そうだ。やつらを排除するためには、彼らの力が必要だ」
沈黙。
やがてセバスチャンの口から震える声が漏れる。
「……あの伝説の、ノーザンクロス五人衆を……!」
白鳥はゆっくり立ち上がり、窓辺へ歩み寄る。
カーテンをわずかに開けると、月光が彼の横顔を照らした。
「松田が鳳凰なら、俺は白鳥。だが鳳凰の背後には、まだ二人の聖闘士がいる。
──正面から挑むだけでは勝てぬ。だからこそ、北の十字を背負う者たちの力が要るのだ」
セバスチャンは深く頭を垂れ、震える手で懐から古びた黒電話を取り出す。
受話器を握る指が汗で濡れていた。
「かしこまりました……本国より呼び寄せましょう。あの五人衆を……」
その瞬間、部屋の空気が張りつめる。
まるで遠いシベリアの吹雪が、この邸宅の中に吹き込んできたかのように。
白鳥は月を見上げ、冷ややかに呟いた。
「女神に会うためなら、手段は選ばない。
──聖闘士よ、俺のノーザンクロスを受けて立て」
数日後
厚いカーテンで閉ざされた大広間。
天井から吊るされたシャンデリアが淡く揺れ、その下に五つの影が並んでいた。
氷のような緊張感が漂い、執事セバスチャンはごくりと喉を鳴らす。
「……ま、まさか本当に全員が揃うとは……!」
白鳥は大理石の椅子に腰をかけ、静かに手を上げた。
「来てくれたな、ノーザンクロス五人衆よ」
その言葉を合図に、シルエットの一人が前に進み出る。
⸻
「──氷原を統べる者、フロスト。
この身は氷雪と共にあり、敵を凍てつかせるために存在する。
白鳥よ、我が氷壁を、君の戦いのために捧げよう」
空気が一瞬で冷え込み、白い息が広間に漂った。
⸻
次に進み出たのは巨体の影。
「北の荒野で鍛え上げたこの斧、我が名はグラーツ!
砕けぬものはない。倒せぬ者もない。
白鳥様の道を阻む者あらば、我が一撃で粉砕してみせよう!」
床板がその足音で震え、シャンデリアがかすかに鳴る。
⸻
二人の影が同時に歩み出る。
「我が名はアルト」
「そして私がエリス」
「二つで一つ、幻影の双子」
「真実と虚像を織り交ぜ、敵を惑わせよう」
二人の声が交互に重なり、広間に不思議な残響を生む。
⸻
闇からにじみ出るように、一人の影が進み出る。
「……ヴォルク。
血に飢えた狼は、ただ主の獲物を追うのみ。
白鳥様の狙う女神──必ずこの牙で引き寄せてみせる」
低い声が響いた瞬間、セバスチャンの背筋に冷たい汗が伝った。
⸻
最後に進み出たのは、長い金髪を編み込んだ女戦士。
紅のマントを翻し、青い瞳をまっすぐ白鳥に向ける。
「我が名はカタリーナ。
北天を統べる剣は、今やあなたのために振るわれる。
白鳥よ──あなたの宿命に、この刃を預けよう」
その声は冷たくも澄んでいて、他の四人さえも背筋を伸ばすほどの威厳を帯びていた。
⸻
五人の影が揃い、白鳥の前に片膝をつく。
白鳥は椅子から立ち上がり、冷たい月光を浴びながら宣言する。
「この五人衆が北の十字を描くとき、聖闘士たちよ、貴様らの時代は終わる!」
広間に轟く声。
セバスチャンは震えながらも、胸の奥で直感した。
「……これは、嵐の序章にすぎぬ……!」