神様ムーブは疲れます 作:ゴリランド
裂け目の向こうに広がっていたのは、焚き火の煙と、腐った獣脂の匂いが混ざりあう、石器時代の原始村だった。
枝と骨を縄で括っただけの粗末な柵が、冷たい風に軋む。小屋と呼ぶにはあまりにも歪な骨組みは、獣の肋骨を土に突き刺したかのように並び、泥と血の斑点は乾ききって黒くひび割れていた。皮の端は縮れ、陽に晒されて白く変色している。
空気は重く、湿った土と焦げた獣の匂いが肺にこびりつく。
その光景の中に、異質な影が二つ落ちた。
しかし、村人たちはまだそれを「ただの影」として認識していた。焚き火の煙の向こう、距離感のある異物──それだけだ。
ジブリールはマスターの横顔を見上げ、薄く微笑む。
「マスター、ローカル・ポピュレーションにアテンションをフォースする必要がありそうですね」
その翼が一振り。淡桃色の髪が風を裂き、羽ばたきと同時に頭上に魔力の塊が形成される。
直径数メートルの黒紫色の球体が空に浮かび、次の瞬間、上空で破裂した。
爆音が夜空を裂き、雷にも似た衝撃波が村を舐める。
土煙が舞い、柵が揺れ、焚き火の炎が一瞬消えかける。
幼い子供の悲鳴、獣の吠え声、そして何十もの視線が、一斉に二人に突き刺さった。
マスターは、その注目の中で歩みを進めた。
一人は黒衣の男。逆立つ漆黒の髪、金の光を反射するピアス、全身を覆う漆黒の道着。その歩みはゆっくりでありながら、周囲の時を押し潰すような圧を伴っていた。
もう一人は淡桃色の長い髪を陽光に揺らす翼の少女。白銀に近い羽毛が、光を掠め取って虹色に返す。頭上では金の光輪が規則的に旋回し、その存在が現実と幻想の境を曖昧にしていた。
男――マスターが足を止め、わずかに顎を上げた。
内心では(……うわ、くっさ……煙と脂が混ざって吐きそう……)と呻きながらも、外面は一片の揺らぎもなく声を放つ。
「聞け……地に縛られし存在どもよ。
見よ! これぞ、すべての上に立ち、すべてを裁く唯一の理の御姿!
我が姿を視たその瞬間、汝らは贅沢を知った。
贅沢は傲慢を生み、傲慢は罪を呼ぶ。
伏せよ……額を泥に擦りつけ、その罪を洗い清めるがいい。
さすれば、この神が──汝らの在り方すら、変えてやろう」
言葉の意味が通じたかは分からない。だが、意味など不要だった。
神霊種の声そのものが、鼓膜ではなく脊髄を打つ。背骨が勝手に折れ、膝が泥に沈む。視線は土を探し、口は息だけを吐く。
それは、動物が本能で上位捕食者を前にした時の静寂だった。
天翼種の少女――ジブリールが、口元に薄い笑みを浮かべた。
彼女はマスターの横顔を見上げ、恭しく一礼する。
「マスター、スキャンはコンプリート。ローカル・ポピュレーション、三十七ユニット。……ふむ、随分とアンシャンなプロパティですね。焚き火の煤と脂のアロマ、マスターの御威光には悪くないバックグラウンドかと」
視線はすぐに村人たちへ移る。氷の刃のような冷たさが、光の奥に潜んでいる。
「このロウ・クリーチャーズ……装飾も文化も皆無。生存のためにだけ呼吸しているようなもの。ブリードするだけの個体群ですね。面白みは、まだ皆無です」
マスターはうなずく代わりに、指先を軽く持ち上げた。
その動きだけで、ジブリールは理解する。
「マスターの御所望は?」
「……この群れの頂点を、ここへ引きずり出せ。
今すぐに、だ。神の御前に遅れて現れること、それ自体がすでに罪なのだからな」
「承知いたしました、マスター。標的はすでにロックオン済みですので──あの下層個体、ほんの数秒でこちらに引きずってまいりますので……どうぞ、この無様をご覧くださいませ」
ジブリールの翼がわずかに震える。光輪の輝度が上がり、空気がきしむような音を立てた。
見えない糸が村の奥へ伸び、家屋の隙間を縫って潜り込む。
標的を見つけた瞬間、その空間が裂けた。
粗末な骨組みの家の中、膝を抱えて座っていた老人が、次の瞬間には焚き火の前に立たされていた。
白濁した瞳が、何が起きたか理解できずに瞬きを繰り返す。次いで、その視線がマスターに触れた瞬間――膝が砕けるように落ちた。
「捕縛しました、マスター。……この無様な個体が、この群れのローカル・リーダーに該当するようでございます」
老人の唇が、乾いた葉のように小刻みに震えていた。
言葉を紡ごうとするが、喉は音を拒み、漏れるのは息とも呻きともつかぬ微かな震動だけ。
白濁した瞳は焦点を結ばず、眼球が左右に泳ぎ、今この場で何が起きたのか、まだ輪郭すら掴めていない。
わずかに開いた口からは、かすかな涎が光り、顎先へと震えながら垂れた。
その様は、夢と現実の境を行き来しながら、抗えず流されている溺者にも似ていた。
ジブリールはその様子を見下ろし、肩をすくめた。
「ご覧ください、マスター。ファースト・コンタクトだけでこのザマ……いえ、このマスターのオーラにぶるぶる震えてます。情けないですね」
マスターはゆっくりと歩み寄る。
内心では(……これ、完全にビビらせすぎたら話通じないんじゃ……)と冷や汗を垂らしつつも、声は堂々と響かせた。
「よくぞ来た……群れを束ねる者よ。
この私の御前に立つ──それこそが、汝の唯一の価値である!
……だが、その唯一すら、我が目にはあまりに軽い。
ゆえに、この神自ら、貴様に“別の価値”を与えてやろう。
この集落の価値を示せ。
地を這う者が、天を戴く資格を得るには──まず、供物だ。
持てる物すべてを、神の御前に捧げよ!」
意味が完全に通じたかは分からない。
それでも、声の圧だけは否応なく理解させたらしい。
族長が硬直したまま、震える手を乱暴に振り下ろす。
その合図に、数人の若者が弾かれたように飛び出した。
顔色は血の気を失い、青白く、目だけがぎょろりと動く。
彼らは互いにぶつかり、転びかけながらも、死に物狂いで小屋へ駆け込む。
やがて戻ってくると、腕には干からびた肉の塊、果実、削り出した骨の飾り。
息は荒く、肩で呼吸をしながら、それらを次々と土の上へ投げ出していく。
その動きは、まるで一瞬でも遅れれば、自分が次の供物になるとでも思っているかのようだった。
ジブリールがそれらを一瞥し、冷ややかに鼻で笑った。
ジブリールは土の上に積まれた供物を一瞥し、冷たく言い放った。
「……ふむ。マスター、品質はローグレード。ですが、これが彼らのフル・キャパシティでございます。これ以上を望むなら、肉体そのものを削ぎ落とさねば出せないでしょう」
マスターはゆっくりと顎を引き、芝居がかった口調で応じる。
「よかろう……汝らの乏しき献身、しかと受け取った。
この神の光に触れられること、それ自体がすでに赦しであると知れ」
(……お、あの奥の赤い果実、見た目は悪くないな。ちょっと味見くらい──)
掌をかざした瞬間、供物がふわりと浮き上がり、形を保ったまま淡い輝きに包まれる。
次の刹那、それらは細かな光の粒子へと崩れ、空気の中へと溶けていった。
(──あ、消えた!? ちょ、果実返せ! まだ食べてもないのに!)
光は渦を巻きながらマスターの周囲に集まり、淡く瞬いては体の奥底へと吸い込まれていく。
背筋を走る微細な熱とともに、意識の片隅に冷たい数値の変化が浮かんだ。
【経験値獲得:Lv5 → Lv6】
神は外面の微笑を崩さず、内心で舌打ちを押し殺した。
(……なんだこれ、魔物百匹より効率いいじゃないか。いや、それどころじゃない──今のでレベルが一つ上がったぞ? ありえん。あの果実は惜しいが……これは間違いなく“使える”。供物を捧げられた瞬間に光の粒子化……まるで直接経験値に変換されたような感覚だ。だが、こんな仕様、ゲーム時代にあったか? いや、あるはずがない。神霊種は元々、俺がMODで作ったオリジナル種族だ。モデルも設定も、全スキルの挙動まで、全部俺の頭の中にある。誰よりも熟知している俺が知らないってことは──これはこの世界が勝手に追加した仕様ってことだ。もしそうだとしたら、完全にバランスブレイカー……魔物狩りなんぞより、物を差し出させた方が何倍も効率がいい。いや、それどころか、物の種類や量次第では、経験値効率が跳ね上がる可能性もある。……まずは試すか。次は、生きたものでもいけるかどうかだ。人柱……なんともいい響きじゃないか。まさに神様ムーブの真骨頂だな)
彼は演説を続ける仮面の下で、ひそかに次の実験項目を組み立てていた。
表情には出さず、マスターはゆったりと頷いた。
「貴様らの献身──確かに受け取った。
だが、物など所詮は物……真の価値は命にこそ宿る。
ならば次は──命を捧げよ。
それこそが、この神を満たす唯一の糧である!」
その瞬間、村人たちの空気が凍り付いた。
音が消え、ただ耳鳴りだけが鼓膜を打つ。
息が詰まり、誰も瞬きをしない。
やがて族長が震える声で何事かを叫ぶと、その言葉が合図だったかのように、村人たちの視線が一斉に一人の青年へと突き刺さった。
青年は混乱した表情で周囲を見回すが、誰も目を合わせない。
次の瞬間、背後から荒々しい手が伸び、腕を掴んだ。
彼はもがき、叫び、必死に足を踏ん張るが、複数の男たちが押し寄せ、肩を押さえ、腰を蹴り、無理やり土の中央へと引きずり出す。
その間、村人たちは口々に罵声とも言い訳ともつかぬ言葉を吐き散らし、恐怖を誤魔化すように笑い声すら混じる。
老婆が吐き捨てるように唾を吐き、子どもが怯えた目で遠巻きに見つめる。
誰一人として助けの手を伸ばさず、ただ「自分ではない」ことに安堵し、青年の苦悶を背に隠れてやり過ごす。
それは、人間という種が持つ醜さの凝縮であり、必死に生き延びようとする姿のはずなのに、どうしようもなく浅ましい光景だった。
「……マスター、どうやらボランティアが“選出”されたようです。もっとも、本人的には──ノット・コンファームですが」
ジブリールの声音には、冷ややかな軽蔑と嘲りが滲んでいた。
群衆の中から青年が突き出される瞬間までの光景は、あまりに人間的で、そして救いようのないほど醜かった。
まず、族長の一声が落ちるや否や、周囲の視線が一斉に青年へと突き刺さる。
その目は同情の色を一片も持たず、ただ「自分ではない」ことに安堵する卑小な光で濁っていた。
背後から伸びた太い腕が、青年の両腕を乱暴にねじり上げる。
抵抗の叫びは即座に別の男の拳で塞がれ、もがく脚は容赦なく蹴り倒される。
複数の手が縄を巻きつけ、その節くれだった指は、獲物を縛り上げる猟師のように迷いがない。
押し倒され、膝と頬を土に擦りつけながらも、青年は必死に目で助けを求める。
しかし群衆は、まるでそこに透明な壁があるかのように、一歩も踏み出さない。
むしろ老人が吐き捨てるように「役立たずめ」と唾を吐き、子どもたちが怯えた笑い声を漏らす。
縄でぐるぐるに縛られた青年は、足を引きずられ、供物のあった場所へと突き出された。
泥と血にまみれたその姿は、もはや人柱というより、生贄として選別された家畜そのものだった。
マスターはその様を、微動だにせず見下ろしていた。
だが──供物のときのように光は生まれず、空気は微塵も揺れない。
「……ほう。命を抱えたまま差し出すか──愚かなることよ。
神に捧ぐとは、己が全てを投げ打つこと……それができぬ半端者には、この我が与える光など一粒も降らぬ」
言葉は低く、しかし重く響き、周囲の空気をさらに押し潰した。
「マスター、もしや……デリートしてからオファーすれば、ミッション・サクセスかもしれませんね」
ジブリールは唇の端をわずかに持ち上げ、片手を軽く掲げる。
その眼差しは、人間を試料か何かとしか見ていない透明な冷たさに満ちていた。
マスターは外面の微笑を保ちながらも、内心では(……たしかにな。生きたままじゃ“条件”を満たさない可能性は高い。試す価値はある)と、計算するように頷いた。
次の瞬間──空気が震えたわけでも、刃が閃いたわけでもない。
ただ、そこにあった“空間”が音もなく裂けた。
ジブリールの掲げた手先から、見えない境界線が走る。
それは空間そのものを削ぎ落とすかのように進み、青年の喉元を正確に、寸分の狂いもなく横一線に断ち切った。
青年の瞳が見開かれる。
驚愕が理性に届くより先に、喉奥から赤黒い液が吹き出した。
かっ……かっ……と、息を求めるような音を立てながら、血は顎から胸元へ、そして土の上へと流れ落ちる。
声帯はすでに切断され、叫びは生まれない。
足が震え、膝が折れ、全身が操り糸を断たれた人形のように前のめりに崩れた。
その口は最後まで言葉を紡げぬまま、土と血の中に沈んでいった。
「では改めて、供物として彼らからリ・プレゼントでございます」
死体が光を帯び、供物と同じように粒子化して消える。
その瞬間、マスターの内側で数値が跳ね上がった。
【経験値獲得:Lv6 → Lv8】
(……なにこれ……効率おかしいだろ。魔物百匹より一人の方が……いや、まさか)
マスターは心の中で戦慄と興奮を同時に覚えながらも、外面はあくまで神として振る舞う。
「よいぞ。汝らの命、神の糧となり、この世界を照らす光へと昇華された。
この道を歩むならば、汝らにも救いはある……」
ジブリールが楽しげに微笑む。
「マスター、もしやこのパフォーマンス──信仰心がエモーショナル・リンクとして供物に付与された瞬間、コンバージョン・レートが跳ね上がっている……とか?」
「ふむ……面白い仮説だが、断定はせん。だが、確かに“信じる心”が強いほど、神は力を得る……かもしれん」
マスターは視線を村全体に巡らせた。
恐怖と畏怖に縛られた眼差しが、今や“救い”の光を求めて揺れている。
マスターは視線だけで命じた。
ジブリールは神の意をくみ取り、無言のまま、指先で空間をなぞる。
空気が水面のように歪み、その掌に──金と黒の意匠を纏った聖杯が現れた。
それは、ゲーム時代に神殿の装飾室を飾るためだけに作ったインテリア、完全に趣味のMODアイテムだった。
実用性など考えず、ただ元ネタへの愛と造形のこだわりを詰め込んだ一品。
そして、アイテム欄での説明文もまた、作者である彼自身が面白半分で書き込んだものだ。
【願望機。根源への接続を可能とする、人類の集団無意識の器】
根源──全ての叡智と可能性の記録、過去現在未来における人類史の記録“アカシックレコード”への接続。
発展や生存といった集団の願望を現実に押し上げる力。
だが──それはあくまで、FATEの設定集を見ながらMOD製作中にそう「設定した」というだけの話だ。
(……まあ、この世界で本当にそんな機能を発揮するかは分からん。
ゲーム時代だって、ただの飾りだったんだからな。説明欄にそう書いただけだし……)
マスターは内心で肩を竦めつつも、外面は崇高な笑みを浮かべ、聖杯を族長の前に置いた。
「下天の民よ……汝らが差し出した魂は、すでにこの神の糧となった。
ならば特別に、その愚鈍な器に“叡智”という光を授けてやろう。
これこそ、天を戴く者のみが触れることを許されし器──汝らの願いを映す鏡にして、世界をも造り変える鍵である。
渇望するがよい。己が渇きが強ければ強いほど、この器は応えるであろう……神の御心のままにな」
族長は恐る恐る聖杯を覗き込んだ。
そこには酒も水も、一滴すら入ってはいない。
あるのは──底知れぬ闇のような空洞。
だが、次の瞬間、その闇は揺らめき、形を持ち始めた。
干からびた畑が緑に覆われ、脆い木柵が鋼のように強固な壁へと変わる。
飢えに痩せた村人たちは、満腹の笑みを浮かべ、子どもたちは裸足で笑いながら駆け回っている。
それは現実ではありえぬはずの、あまりにも鮮明な“未来”だった。
族長の瞳孔が広がる。
その幻影から目を離せない。
手が勝手に杯の縁を掴み、肩が微かに震えていた。
背後に立つ村人たちも、次々と聖杯を覗き込み──同じように息を呑み、瞳に濁った光を宿していく。
恐怖だけではない。
飢えを満たしたいという欲、弱さを覆い隠したいという願い、隣人よりも上に立ちたいという野心──それらが渦を巻き、絡み合い、熱を帯びていく。
その光景を、マスターは微笑の奥で冷静に見つめていた。
この瞬間、聖杯はただの飾りではなく──信仰を生み出す“種火”へと変わったのだ。
ジブリールが横で、まるで愉快な見世物でも眺めるように微笑み、囁いた。
「マスター……この群れ、すでに完全に降伏状態でございます。
お望みとあらば──今夜のうちにでも、レベルをツイン・ディジットまでジャンプアップできるかもしれませんね」
マスターは視線を村人たちに向けたまま、ゆるやかに口角を上げた。
「ふむ……だが、急ぎすぎれば群れは恐怖で壊れる。
家畜はな……肥え太らせ、甘き蜜を与え、己が檻を楽園と思い込ませてから屠るものだ。
それに──人間の欲は尽きぬ。
ひとつ与えれば、ふたつを求め、ふたつを得れば、三つを欲する。
その際限なき渇きこそ、神が最も甘美に刈り取れる果実なのだ」
(……やった、アダムとイブっぽいことしてんじゃん俺! 知恵と楽園を与えて、最後には全部いただきますって……完全に神様プレイじゃん!これは……これはちょっとテンション上がるぞ)
外面の厳かさを崩さぬまま、マスターの内心はこっそりとガッツポーズを決めていた。
ジブリールは唇の端を吊り上げ、翼を軽く広げた。
「なるほど。マスターのファーム・マネジメント、理解しました。
このロウ・クリーチャーズを長期的にブリードし、エモーショナル・リンクをマキシマイズした上で、最終的にコンバートする……と」
マスターは頷きつつも、内心では(……やっぱりなにいってるかわかんねぇ)と苦笑を飲み込む。
だが、この冷酷さこそ利用価値がある。
「よいか、ジブリール。この地に“神の法”を刻め。
一つ、供物は定期的に捧げること。
二つ、命を差し出すは、神殿と神の御前においてのみ許されること。
三つ、逆らう者は──神の敵と見なし、即刻滅ぼす。
そして四つ……我を祀る神殿を築き、そこを聖域と定めよ」
(……さっきの供物で経験値が入った。なら、神殿を用意して“そこで”供養させれば……俺の御前じゃなくてもいけんじゃね?あくまで仮説だけど)
「了解いたしました、マスター。では、リピートします──
供物の定期化、命の捧げ先の限定化、逆らう者の即時エリミネート、そして神殿の建立と聖域化。
この四条を神律として、この村の人間の潜在意識にインストールいたします」
ジブリールが光輪を一際強く輝かせる。
淡桃色の髪が夜風に揺れ、白銀の翼から無数の光粒が舞い降りた。
その光は村の隅々にまで広がり、焚き火の赤を押しのけるように地面を照らす。
やがて村人たちの体が震え、まるで見えぬ刻印を打ち込まれたかのように、一斉に膝をつき、額を土に擦りつけた。
マスターはその光景を見下ろし、ゆるやかに顎を上げる。
「崇めよ……讃えよ……神を!
汝らの命も魂も、この私の掌の上にあると知れ。
この地は今日より、神の庭──そして神殿はその中心となる。
汝らはその土に芽吹く雑草にすぎぬ。
だが、私が手ずから育てることを許そう……熟れた果実となるその日までな」
焚き火がパチリと爆ぜ、闇がさらに濃く降りてくる。
淡桃色の髪と黒衣の裾が夜風に揺れ、二つの影は振り返らずに村を後にした。
背を向けた瞬間もなお、村人たちは額を土から上げられなかった。
(……悪くない。魔物狩りの百倍効率的だ。
あとは、この法則が世界全体で通じるかどうか……試すだけだ)
夜風が、二人の背を押した。