異聞ロマサガ2 〜無限ループを抜け出すための法〜   作:donguri3

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SIDE:ヴィクトール/クジンシー戦

「ヴィクトール様!」

「何事か!?」

「しゅ、襲撃でございます!七英雄、ソーモン、く、クジンシー!」

 

最悪の知らせであった。

アヴァロンの市街地に目を向ければ既に遠方からの土煙。

外門を固く閉めたとて、かの七英雄に対してどれだけの時を稼げるものか怪しい。父上と弟が居ないのは不幸中の幸い、ここは今から死地となる。

 

相手が七英雄であるならば俺は死ぬかもしれん。

だが、命に換えても帝国は、そして民は守る。

 

愛剣に手をやり、、、ふと傍にジェラールが渡してくれた古の名剣が視界に映った。

 

太陽の光を封じ込めた様な輝く刀身。分厚く鋭い刃。先程手に持ったが見た目に反して重さはなく羽根の様に振えるだろう。長い時間を経て鞘は無いようなので誂える必要はありそうだが、確かにとんでもない業物だ。

 

我が自慢の弟は幼きから書に触れ賢才を示すことがあったが、その中で古の武具についても知り得たのだろう。

 

ただ…思えば、彼には剣術をじっくり教えてやれなかった。

 

だから長い時間手入れもしていない古い武器をいきなり実践で使うリスクが実感として沸かないのも無理はない。

実践では僅かな違和感や破損が命を分ける。手に馴染む武器で無ければなかなか戦えるものではない。

 

…残念だが、これは置いていく他ないだろう。

 

なに、これほどの業物ではないが、我が愛剣もなかなかのものだから。

生きて帰ってきた暁には剣術をきちんと教えてあげる時間を工面して弟への詫びにしようじゃないか。

 

「ヴィクトールが、出陣するぞ!」

 

さあ、戦いだ。

 

***

クジンシーは歯噛みしていた。

 

「アローレイン!」

「アローレイン!」

「アローレイン!」

「皆死ね矢!」

 

先程から遅々として侵攻が進まぬ。

驚くことに、降り注ぐ矢の嵐がクジンシーの軍勢の進行を難むのだ。

 

当然ジェラール()の仕込みであり、弓を打ってる本人達も困惑している。スキル継承のアイテムを255個も作ってたのはこのためであったが、この現場にいる敵も味方も知る由もない。

 

クジンシー自身も剣を振るうが、技は不思議なほど躱されてしまい、技も何も無い力業と破城槌等の攻城兵器(押してるモンスターがすぐに死ぬため次々送り込むが損耗率が酷い!)で漸く外門を破った頃にはもう日が暮れそうだ。

 

「クジンシー!七英雄ともあろう貴様が何の了見か!」

 

当然、門の先では皇太子ヴィクトールと近衛隊が万全の陣形で待ち構えていた。奇襲失敗である。

 

***

 

「(想定外だが…、だが、都合は良いか…?)」

 

クジンシーにしてみれば今回の奇襲は誰か皇族を仕留めて力の違いを分からせ、アヴァロンを降伏させるのが目的だ。

なるべく無傷に近い形で帝国のリソースを手に入れて世界征服の礎としたい。

 

その意味で皇帝を殺す、では混乱しそうであるから、皇太子ぐらいならうってつけの相手ではあった。

 

「クックック…我が世界征服の野望のため、アヴァロンを下僕に加えてやろうと来てみれば城に篭る腰抜け皇子しかいないとは。ガッカリだ。」

「何!?」

「我が名はクジンシー、七英雄。一騎打ちをして勝てば引いてやろうかと思ったが、無理よなあ?城にこもって震えてる腰抜けにはなあ?」

 

この皇子は血気盛んで若い。多人数では「例の技」は分が悪いし、力の差をこの国の連中に見せつけて恐怖を口から口へ、と考えるにも、やはり一騎打ちが都合は良い。

 

「貴様!良いだろう、醜く落ちぶれ果てた英雄の成れの果て!アヴァロン帝国皇太子ヴィクトールが直々に成敗してくれる!尋常に勝負せよ!」

 

ほうら、乗ってきた。

クジンシーはほくそ笑んだ。

 

“アレ”が有れば勝利は盤石であるし…

 

***

 

なんと安い挑発なのだろう、七英雄と言えど頭は良く無いようで、クジンシーが一騎打ちに何らかの邪悪な策を以って臨んでいることが見え見えだ。冷静に考えて近衛兵と共に押しつぶす、それが最善手。

 

だが、ヴィクトールには不思議な確信があった。

 

クジンシーに全く脅威を感じない。何故かその秘策とやらを食い破れる不思議な感覚が。

 

乱戦になれば兵は損耗する。民に被害が及ぶかも知れない。

 

ならば、一騎打ちだ。

 

ついでにアジって兵の士気も上げておこう。

だから、ヴィクトールは敢えて邪悪な英雄の罠に踏み込んでみせた。

 

***

かくして両雄はそれぞれの思惑と共に対峙した。

 

「小僧、我が醜いと申すか?」

「ああ、だが、醜悪にして邪悪な貴様の内面にはお似合いであろうな」

 

ジリ…互いに剣を構えて一歩距離が縮まる。

 

「森羅万象にはすべて意味がある。醜いとお前が言う我の姿にも。善だ悪だは浅い考えぞ。」

「知らん、貴様と交わす言葉はない」

「ふむ、若い…な!」

 

はじめに仕掛けたのはクジンシーであった。基本、彼は足がなく宙に浮いている。歩くに合わせたリズムから急変し滑り間を詰める。

 

「死神のカマ!」

実体の剣に重なる様に振り回した霊体のカマが途中から剣速を追い越し疾り抜ける。実にトリッキーな動きであり、初見では躱せないはずの業。

 

だが、一歩。

一歩だけ下がる事でヴィクトールは悪魔の軌道から免れた。

 

「!?」

 

ジェラールから伝授された見切りが発動したのだ。

 

だが、弟の贈り物に驚く間は無い。

後ろに踏み込んだ勢いを反転して攻勢へ。

 

「巻き打ち!」

「グエ!」

 

クジンシーに刃がヒットする。

クジンシーとしてはダメージよりも業が綺麗に躱されたショックの方が大きい。

 

立て直すべく、クジンシーが大きく後ろに下がり両者の間が空いた。

 

「流し斬り!」

次に動いたのはヴィクトールだ。開いた間合いを一気に差を詰めると得意技を炸裂させる。

 

ーキン!

 

だが、これは防御に専心したクジンシーの刃に弾かれる。

 

「今度こそ!」

再度の流し斬り。先ほどより勢いの増した斬撃がクジンシーを切り裂かんと迫る。

 

「ふむ…なるほど」

 

すると、驚いた事にクジンシーが構えを解いた。

 

ーザクッ!

 

モロに入る流し斬り。

 

「何を!?」

 

クジンシーの肉体が裂け、向こう側の景色が覗く。

 

だが、クジンシーの貌は笑っていた。

 

「なかなかやるではないか。だが……まだ若い。」

 

実は流し斬りではそこまでダメージが無いと判断したクジンシー。

力の差を分からせるパフォーマンスとして敢えて切らせていた。

 

意識すれば半分霊体の身体は自在に形も変えられ修復も出来るため、

実害はゼロに等しい。

 

ここで皇太子の最大の一撃を受け切り、続く必殺技で仕留める。

 

そんなプロレス的に派手な完全勝利であれば帝国の者達の心をより折ることが出来るだろう。

そんな浅い打算だ。だが、彼はこれまでそれで成功し英雄となった自負がある。

 

 

ーさあ、

 

「ソウルスティール!」

 

ー刮目せよ!そして絶望せよ!英雄の偉大なる力の前に!

 

***

 

ソウルスティール。

 

禍々しい雄叫びと共にクジンシーの拳から放たれた赤黒い光、或いは闇。ソレは贄を求めて空中を一畝りしてから、正確にヴィクトールの心臓…正確には魂の収められた神核という霊的な次元の位相を目指して飛んできた。

 

それを。

 

ヴィクトールは酷くゆっくりした時間の流れの中で見ていた。

 

頭に何故か父レオンの声が響く。

 

ーソウルスティールは、唯一無二。魂を直接砕く秘法だ。

 

ーその原理は肉体の心の臓を入り口として霊体のある位相に侵入し、邪悪な蛇が魂の器…座を噛み砕くもの。

 

ー蛇は円環を成す生き物。心の臓が成す血の循環を道標とするから、時計と反対に回る事で目標を見失い霧散するだろう。

 

ーこれを、ジェラール、お前に伝承する。必ずや父と兄の仇を…

 

「(父と兄の?仇?どういう事だ?)」

訝しむヴィクトールであったが継承された見切りの業は身体を動かし始める。

 

ー蛇が、来た。身体が回転し始める。

 

ー蛇が腕に触れる。痛みはないが悍ましい寒気が伝わる。

 

ー蛇が腕に潜り込む。吐き気に近い感触も、体の回転が続き、蛇も腕と共に回転を始める

 

ー一回転、蛇の侵入が止まった。

 

ー二回転、蛇の潜っていた部分が半分抜けた。

 

ー三回転、蛇が頭から弾き出された。

 

ーそして宙に放り出された赤黒い蛇は宙で霧散した。

 

 

ー世界の時間が、加速して元に戻った。

 

 

「な、ななな、なん、なんだと!」

 

クジンシーの恐れ慄く声が響く。初見殺しの技。普段使うこともほぼなく、こんな若造に見切れて対処される様な業ではない。

 

その困惑はクジンシーの思考に一瞬の空白と停滞を生んだ。

 

一方、ヴィクトールは確信していた。

弟が齎してくれた力が全て本物であり、それはもう一つ残っていると。

今こそ使うべきだと。

 

だから。

 

ー愛刀を斜めに掲げた。

 

闘気を刀の奥に集中させる事で、周囲の熱を奪い白雪が顕現する。

剣に生涯を捧げたある剣豪がたどり着いた剣技の最高境地。

 

極限まで圧縮された闘気と共に。

人体と刀が最も理に適う経路で滑らかに。

 

ーこの世のみならず彼方の世界まで斬り捨てる。

 

ーその業の名は…

 

「乱れ雪月花!」

 

花と舞う白雪と刀の光が瞬いた。

 

「がああっ!」

 

半霊体のクジンシーとて、この絶技の前には塵芥となる。

 

だが、この悪党は狡猾で用意周到であった。

床に何か弾の様な物を投げつけ爆散させたかと思うと、

 

ー煙と共に忽然と消えてしまったのだ。

 

釈然としないが、敵はいない。

 

撃退したと思われたので、ヴィクトールが勝鬨を上げた。

 

すると、周囲から万歳の喝采が上がった。

 

こうしてヴィクトールはアヴァロンを守り抜いたのだった。

 

***

 

後日談。

 

後にまだソーモンがモンスターの支配下であるとの噂が届き、逃げおおせたのだと分かったヴィクトールは歯噛みをして悔しがったという。

…その弟は「計算通り」とこっそりほくそ笑んでいたとも聞くが、真偽は不明である。

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