転生淫魔による立身出世と楽園都市建設計画   作:アスタロット

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人喰い沼を呑む

 

ー上野国桂萱郷ー

 

「この度は、どこの馬の骨とも知れぬ輩をお迎え頂き、感謝申し上げます」

 

「よいよい、儂も指南をひと段落付けた故な。それに、そなたも諸国を旅しておったとか」

 

「いやあ、まいりました。まさか世話になっていた寺が焼かれるとは。我ながら、よく逃げ延びたものです」

 

「織田弾正忠か…儂の耳にも届いておるぞ。悉くが首を刎ねられたと聞くが、ご苦労だったな」

 

「はい。ですが、こうやって流れ付いた上野国で、先生に相まみえる事ができました。これも仏様の御縁にございましょう」

 

「しかして立川殿、その得物は飾り物であるな?刀を抜かずに旅をするとは…その胆力、大したものよ」

 

「おや、剣聖はお見通しでございますか」

 

「使い手なら誰が見ても分かるわい。さてはお主、無刀流か?」

 

「はい。ですがこの機会に、先生に剣のご指南をいただきたく」

 

「ふむ、諸国を歩いたお主の無刀流も気になるが…どれ、試しに弟子と手合わせをしてみぬか?こちらの獲物は木刀ではなく、その袋竹刀だ」

 

「おお、それが噂の竹刀でありますか。それならば斬り殺されたり、殴り殺される事もありませんね。徒手空拳の私でも、何とかなりそうです」

 

「よく言うわい。はて、”何とかする”のは、お主か、門弟か…どちらの方かのう」

 

 

「先程の手合わせ、見事であった。到底、人のする身のこなしではなかったな。それに、その所作…お主、見た目通りの歳ではないな?」

 

「ええ、まあ。こう見えて伊勢守殿よりも、ずうっと長く生きておりますね」

 

「なにぃ!?まことか!?はっはっはっ!!どうりで!儂の目も、まだ衰えてはおらんようだ。まさか仙人がおわすとはな!!良し、儂の剣を指南しようではないか。代わりと言っては何だが、仙人の術を儂にも指南してくれぬか?寄る歳には勝てんのか、近頃は足腰が弱ってのう」

 

「喜んでお請けいたします。では、まず先生の丹田を開ける事から始めましょうか。先生…衆道は、お嫌いですか?」

 

「女と見紛う美男子のお主に、興味が無いという方が可笑しいと言うものだ」

 

「ふふ…なれば、今晩は酒をお注ぎ致しましょう。丹田を開けるのは、その後にて」

 

「さようか!!これは妻に秘密にせねばな!」

 

「奥方様も若さを取り戻せますが。いかが致します?いっぺんに二人をお相手する事も、やぶさかではありませんが」

 

「まず儂が試してから妻にさせる。よし、立川殿。しばらくは我が屋敷に留まるが良かろう」

 

「お気遣い感謝致します」

 

「うむ。そういえば畿内におったと言うが、胤栄には会うたか?」

 

「槍使いの僧でございますか!ええ!ええ!鬼の如き槍術をお持ちの僧でございました!」

 

「あれも儂の弟子だ」

 

「なんと!さすがは先生でございますね!」

 

「ふふん、そうであろう!何だかお主に褒められると、気の良い遊女と居るようだな」

 

「まぁ、お世辞がお上手で。先生のお弟子様は、みな揃ってお強いのですね!」

 

「無論よ。お主、柳生の庄にも行ったか?」

 

「但馬守殿ですね!それはもう素晴らしい使い手でー

 

 

 

 

 

災厄の出現により、深き森が封鎖された。

周辺での採取活動も禁止されている。

ダキは組合に黙って、そんな森にやって来た。

数日店を閉めると、店頭にも告知した。

 

ダキにとって、その森は初めてではない。

森にいる獲物と報酬を求めて、何度も入っている。

しかし、いつもは聴こえていた筈の囀りや、獣の嘶きはない。

時折り吹いた風で木々がざわめく中、彼女は林道を進む。

 

森をしばらく行くと、風景が変わってきた。

 

「匂い立つな…」

 

所々の木々は薙ぎ倒され、そこかしこに血飛沫が残っている。

戦闘の痕跡だ。

 

「こんにちわ。こっちきて、きれいな水、あるよ」

 

すると、か細い声を奏でながら、にわかに木々の影から人影が現れた。

女だった。

それは不適な笑みを浮かべて、ダキへ話しかける。

 

「こっちきて、お水、あげるよ」

 

「泉そのものが生命を捕食するか。つくづくヤバすぎる世界に来たもんだ…そうだろう、悪食な泉の精霊さん?」

 

「ッシィ!!」

 

正体を見抜かれた泉の精霊は、水魔術による水圧カッターをダキに向けて手から放った。

 

「っおっと!」

 

その攻撃は、上半身をのけ反らせたダキに躱された。

攻撃は空振りし、背後の木々がバキバキと音を立てて薙ぎ倒されただけである。

 

「死角から狙撃すれば良いものを」

 

もしカッターが直撃していた場合、ダキの半身は上下にサヨナラしていた。

 

「オマエ強い、ニンゲンじゃない。ワタシと同じ」

 

泉の精霊もまた、ダキの正体を感じ取っていた。

 

「男を惑わすのがせいぜいの、泉の精霊如きが生意気に言葉を介すか…人喰い沼の精霊くずれが」

 

「オマエも人食う。ワタシと同じ」

 

「見境なく喰らう獣同然の精霊が…よく喋る。いったい何人を泉に喰わせた」

 

「たくさん食わせた。オマエも食わせる。オマエ食わせて、もっと大きくなる。ワタシも強くなる」

 

「そうかい…お前、リュディ…大斧のリュディも食ったな?」

 

「しってる、食わせたから。アイツ強かった。オマエ見て思い出した。リュディ、オマエのこと好きだった。だからワタシもオマエ好き。オマエとケッコンしてオマエを食わせる」

 

成長した人喰い沼は、捕食した者の一部の記憶も簒奪する。

奪われた記憶は、運命共同体の精霊にもその一部が共有されていた。

 

「捕食対象の記憶までも泉は吸収するか。言語も介すのも頷ける」

 

「最後にきたヤツラ、みんな強かった。だから大きくなった。オマエ食わせて、もっと大きくする」

 

「こんな災厄が発生するとは…極稀とは聞いたが、まったく恐ろしい世界だよ。仕方ない…」

 

ダキは納刀されたままのサーベルに手をかけた。

左手は鞘に、右手は柄に。

そのままスタスタと歩きながら、精霊と距離を詰める。

 

「リュディの仇打ちといくか………えいやっ!!」

 

「??」

 

精霊を間合いに捉えた瞬間。

ダキはサーベルを抜刀しながら斬り上げ、精霊は上下に切り分けられた。

 

「きかない」

 

「っ!」

 

しかし水で構成された精霊の身体は、サーベルで両断されてもなお、即座に修復された。

次の瞬間、精霊の両手から水が放たれる。

危険を察知したダキは、すぐさま距離を取って水圧カッターを回避した。

 

「物理的な攻撃は効果が薄いか。ならば、氷属性付与で、斬る!」

 

ダキは魔術でサーベルに冷気を纏わせ、精霊を斬りつけた。

 

「ぎゃあ………なんて、ね」

 

切断面を凍らせて修復を阻害できた、と彼女は思った。

しかし、冷気を帯びた斬撃は精霊の切断面を凍らせることは無かった。

ダキはやむなく精霊から距離を取る。

 

「っ………ふむ、手応えが無い。なぜだ」

 

「きかない。ニンゲンのまじゅつ、もうきかない。ワタシ強くなった」

 

人喰い沼が成長した事により、特異個体の精霊もまた強化されていた。

 

「そうか…捕食の結果、属性耐性も習得したか。これは精鋭部隊も壊滅する訳だ。厄介だなあ、こりゃあ」

 

「おとなしく食われろ。じゃないと、両手と両足、切り落とすよ……シィッ!!」

 

精霊の両手から高圧の水が放たれる。

 

「すまんが、ダルマは私の趣味じゃあないんだ」

 

ダキは避け続けるが、精霊の攻撃は止まることは無い。

結果、周囲の木々が次々と切り倒されていく。

 

「うごくな、はやく食われろ」

 

精霊はダキに向けて、手当たり次第に水圧カッターを放った。

 

「っと危ない!いやはや、困った。妹さんから貰った属性付与魔術も効果が薄いとなると、どうしたものか…」

 

「さっさと、オマエ食われる。食われて死ぬ。それだけ」

 

「黙れ…精霊くずれの、成れの果てが。死ぬのはお前の方だ」

 

ダキはサーベルを鞘に納める。

そのまま精霊の攻撃を掻い潜り、三度距離を詰める。

 

「オマエの攻撃、きかない。オマエ死ね」

 

「どれ、撹拌してやろう」

 

ダキは初撃と同じく、抜刀と同時に精霊を斬り上げた。

そのままでは、即座に修復されてしまう。

ダキは斬り上げたサーベルを即座に返し、精霊を袈裟斬りにする。

 

「あ…へ…!?」

 

ダキは目に見えぬ程の速さで、精霊を斬り刻み始めた。

ばしゃばしゃ、と音を立て精霊は微塵切りにされていく。

精霊の身体は元に戻ろうとするも、修復が追いつかない。

精霊を構成する水が、サーベルで撹拌され飛び散っていく。

 

「ほらほらどうした!早くしないと、水溜りになってしまうぞ」

 

「ー!!ー!!ー!!」

 

しばらくの後、精霊の水分は足部分を残して完全に四散した。

精霊の足元には水溜りが出来上がった。

 

「ふぅ。ここまですれば、さすがの修復にも時間がかかりそうだな…さて」

 

ダキは隠匿のスキルを解除した。

側頭部には捻じ曲がった角。

背中には蝙蝠のような翼。

臀部からは、蛇頭が生えたような尻尾がうねっている。

淫魔としての、本来の姿が現れた。

 

「吸うか…頂きます♡」

 

ダキは尻尾の先端を水溜りに添え、吸引を始めた。

 

「おっ…おお…吸い出すの、相変わらず…んぁっ…気持ち、良い…んっ…この姿…まるで掃除機か…んぉっ…いや…んぁっ…むしろバキュームカーか」

 

彼女は、あっという間に精霊を構成していた水分を全て吸い切った。

 

「うーん…微妙…水魔術の習得もない…やはり本体は泉か。強さの規模的には湖になってるかも。吸い尽くすには、ちょっと時間かかりそうだなぁ」

 

ダキは森を散歩するように進んでいく。

 

「そういえば…いつだか忘れたけど、池の水すべて抜くとかいうテレビ企画あったなぁ。この場合は、人喰い沼の水すべて抜く大作戦かな」

 

 

 

 

深き森の厄災に対して、王国と教会から部隊が派遣された。

しかし、彼らが森で目にしたのは切り倒された木々と、渇水し底がヒビ割れた沼の跡であった。

被害者の遺品らしき数々の装備品や武具もあり、厄災が存在した事は間違い無かった。

 

また、跡地の中心部には大斧が突き刺さっており、何者かによって花が添えられていた。

部隊は周辺の調査を終えた後、人喰い沼が自然消滅したと判断した。

沼の拡大に対して補給が足りずに餓死した、と推定。

部隊は被害者の遺品を回収し、帰還。

その後、沼の跡地は枯れた土地となり、その箇所に木々が戻ることは無かった。

 

 

時は同じく。

ワクビスにあるリラクゼーションマッサージ店『木の花』に、高額コースのソーププレイが追加された。

このコースでは、客が温かい風呂に入浴でき、全身洗浄サービスを受けられる。

性欲だけでなく身体もサッパリできた、と利用者から高い評価を受けた。

また店主は殉職したリュディについて、災厄に対して勇敢に立ち向かった戦士として、彼を永年無料特別会員に指定した。

 

 

TIPS:人喰い沼

生命を吸収して拡大する沼。

沼の水そのものは動かない。

特異個体の精霊を使役し、獲物を沼に溺れ殺した後に溶かして捕食する。

沼の規模に比例して精霊は強化される。

周辺の生命を喰らい尽くすと、自然と沼は消滅する。

手が付けられなくなる前に、精霊を駆除するのが鉄則。

沼が消滅した後の土地は栄養に富み、生命が溢れる森となる。

それは、沼が得た養分の全てを土地に還元するため、とも考えられている。

しかし、深き森にできた、人喰い沼の跡地には自然が戻ることは無かったようだ。

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