目の前に、ダキがいる。
彼女とは一両日だが、戦闘で背中を預け合った仲だと俺は思っている。
美しく、武の志も高く、素晴らしい剣士だ。
街の組合で燻らせておくのは勿体無いほどに。
そんなダキが無防備に、艶やかな肌を俺に晒している。
身体は密着し、互いの熱と汗と体臭が入り乱れる。
それらが焚かれた香と混じり、更に混沌とした臭気が充満している。
ふとした瞬間に、ダキがサイドテーブルの上に視線を向ける。
「んっ…あら、もう御仕舞いのお時間みたいですね。どうしますか、ルティオン様…また、延長します?」
そこには最後の砂粒が穴から滑り落ち、上部のガラス容器が空っぽになった時計があった。
俺がこれだけ必死に動いて、ダキに嬌声を上げさせても、彼女は冷静に時間を見ていた。
「ぜぇ…ぜぇ…くそぅ…え、延長で…」
一方の俺は、ずっと息が上がっている。
これほど苦しいのは戦いでもそうそう無かった。
体力は限界、それなのに身体は疼いて堪らない。
もっと彼女を味わいたい。
彼女を喰い尽くしたい。
俺の思考は霧に包まれていた。
そんな中、こんな楽しみを知らずに今まで生きてきた事だけは後悔していた。
「あんっ!ありがとう…ございます」
ダメだ、冷静になれない。
俺の意識全てが、彼女のソコに持っていかれるのが分かる。
でも
まだ足りない。
もっと気持ち良くなりたい。
ああ
どうしてこうなったんだ
♢
ある日の事だ。
リース…いや、聖女に呼び出された。
教会ではなく、彼女の私室に。
リースは教会の聖女であり、俺の幼馴染だ。
物心ついた時から彼女とはずっと一緒だった。
お互いが成長するにつれ、彼女はとても魅力的になっていった。
以前までは、彼女を家族のように思っていた。
けれど、今は違う気がする。
なぜかわからない。
部屋に呼ばれただけで、不思議とそわそわする。
そんな浮ついた気持ちで、俺は彼女の部屋に向かった。
部屋に行くと、いつも通り彼女は物が少ない部屋で茶を飲んでいた。
しかし、何となくいつもと違う。
努めて平静を保っているような…
「来たよ、リース。相変わらず”出涸らし”茶を飲んでるのかい?そこまで質素倹約にしなくてもいいと思うけど」
「いえ!この茶葉もまだまだ頑張れます!あと三回くらい!」
「ほら、良い茶葉を持ってきたから。これで美味しいのを飲みなよ」
そんな彼女に呆れながら、茶葉の入った袋を渡す。
「ありがとうルティオン。また在庫が増えたわ」
「あのさぁリース…いい加減お茶を消費しないと、茶葉が積み上がるだけだぞ」
「ルティオンがくれたお茶だから…大切に飲みたいんです!保存もききますし!あ、ルティオンも飲みます?淹れましょうか?ホラ、これなんか二回目で贅沢品ですよ!」
そう言いながら、リースは部屋の中で干されている小袋を指差している。
おそらく、二回目の贅沢品が入っているのだろう。
「だから”出涸らし”はやめろって。はぁ…で、話って何?」
「二回目が一番美味しいのに…んんっ!!ルティオン、私的なお願いがあります。ワクビスへ向かって下さい」
彼女から切り出された話は、任務の依頼だった。
なぜか分からないが、少しがっかりする。
依頼なら教会に呼び出して、正式に出せばよかったのに。
「急にどうした、リース。君が預言した災厄は、調査隊によって終息宣言が出た筈だろ」
「ワクビスに向かったウォーラン兄妹が消息を断ちました」
柔らかかったリースの雰囲気が、聖女らしく厳粛なものに変わる。
俺は意外な知らせを聞いた。
ウォーラン兄妹とは何回か任務を共にしたから分かるが、彼等は優秀な冒険者だった。
そんな彼等の連絡が途絶えるのは、何か大事があったに違いない。
「何だって!?いやいや、もしかしたら…災厄にやられたかも」
ウォーラン兄妹が災厄の犠牲になったとは考えたくなかったが、消息不明の原因はこれしか有り得ない。
「今回の災厄は”人喰い沼”です。沼の跡地には溶かされた犠牲者達、彼らの遺留品が多数あったそうですが…ウォーラン兄妹の物は無かったようです」
「なら、一体どこに…そう簡単にやられる二人じゃないのは、君だって知ってるだろ」
「それが分からないから不安なのです。聖女として再調査の依頼を出すにしても、終息宣言を出した調査隊…彼等の面子があります。だから私的なお願いなんです」
「まあ、調査隊の中にお歴々がいたらしいから、その配慮は分からなくは無いけど。そこまで心配なら、預言って事にして再調査を依頼すれば良いじゃん」
「神からの御言葉以外、私が預言を授ける事は許されません」
「変な所で真面目だなぁ」
「お願い、ルティオン。頼れるのは貴方だけなんです」
リースは俺の手を取って、上目遣いで俺に乞い願う。
俺の心臓が煩くなったのが分かる。
こうなると俺は断われない。
「うっ………はぁ、分かったよ。で、具体的に俺は何をどうすれば良い?」
「ありがとうルティオン!それでですね…
♢
森の調査を終えワクビスに戻った俺は、気づけば吸い寄せられるようダキが紹介した店に行き、予約表に名前を書いていた。
予め彼女から詳しい所在地を聞いていたので、それは迷う事なく済んだ。
偶然にも、翌日の早い時間に予約にする事が出来た。
宿屋に帰った俺は、そわそわしてその晩よく眠れなかった。
そして翌日…
「いらっしゃませ。ご予約ありがとございます、ルティオン様」
「なっ!?なんで君がこんな所に!?」
店で俺を出迎えたのは、つい先日、俺と共に森で戦った女性の剣士…ダキだった。
「私、商売女ですから」
「冒険者とは嘘だったのか?」
「勇者様相手に嘘なんて恐れ多い。私は間違いなく、ワクビスの冒険者です。それに加えて、この店の主でもございますれば」
「君ほどの者なら、身体を売らなくても十分以上に食べていけるだろ!なんでこんな事を」
「まぁまぁ、手前の事情などお気になさらず。せっかくお越しいただいたんですから。それに、童貞…捨てたいんでしょ?」
「ッ!…悪いけど、一時とは言え、戦友だった君を抱く訳にはいかない。それにリース…やっぱり彼女にも不義理だ。お金は置いてくから、じゃあこれで」
「あら、良いのですか?勇者様とあろう者が、この程度の事で恐れ慄いて…みっともない。それに、奉仕をせずに代金を受け取る事は出来ません」
「なら、今回の予約は取り消してほしい」
「ええ、ええ、それも結構です。ですが、勇者様。直前での予約を取り消し…それこそ相手に不義理では?それに、貴方のソコは、貴方の仰る事とは別のご意向があるようですけど♡」
ダキは視線を俺の下半身に移しながら、手を絡ませ身を寄せる。
その動きに一切の澱みは無い。
気づけばダキは両手足を蔓の如く、俺の身体に絡み付かせていた。
「なぁ!?」
「ここであった事は、誓って他言致しません。どうか、憂いのないよう。リース様のためにも、大人としての階段を昇り、技を磨いて下さいまし」
「あっ!がっ…な、なんだコレ…」
彼女は吐息を込めて、俺の耳元で囁く。
耳から頭、頭から背中、背中から腰へ。
心地の良い痺れが走り、身体が僅かに痙攣する。
「んふ……ふぅーーーっ♡」
「ぐっ…ぎぃっ…」
湿った吐息が耳穴に流れ込む。
身体が震える。
「あはぁ、お耳がお好きなようですね…特に、右耳…」
「わ、分かった!分かったから!さっさと終わらせよう!」
「ええ!ええ!勇の者は、そう来なくては!では、一人前の男子になってもらいますね♡さぁ、こちらに…」
俺はダキに腕を引かれ、妙な匂いの香が満ちる奥の部屋に入った。
俺はそこで、童貞を捨てた。
女性の身体は最高だった。
柔らかいし、匂いも、味も良い。
俺を優しく包み込んでくれるかと思えば、強烈に求めるよう刺激してくる。
延長に延長を重ねて、大金を失ってしまった。
でも構わない。
ふと思い返す。
ダキと”する”のが、なぜあんなに抵抗があったのか、理解できない。
ダキの身体を、もっと早く知っていれば良かった。
聖女には、調査に関して順調に進んでいる旨の文を送っている。
彼女から貰った滞在費は、とうに使い切った。
宿屋のランクを随分と下げて、ダキへの費用を捻出した。
追加の経費を請求するにしても、額がおかしい。
だから偶然組合にいたダキに相談した。
店でしている最中では、恥ずかしくて言えなかった。
「馬鹿者…ルティオン、お前は阿保か。お前の腕前なら幾らでも稼ぎようがあるだろう。“この街のために貢献したい”…組合で、そう言えば良い。それだけで難しい依頼を寄越すだろうさ。今となっては、私も毎日冒険者をする訳にはいかないからな。それと…今の私は冒険者だ。店でやるような受け応えは期待するな」
結果、俺はワクビスの冒険者組合で依頼を請ける事にした。
これでまたダキを味わえる。
あれ、何のためにここに来たんだっけ
まあいいか