転生淫魔による立身出世と楽園都市建設計画   作:アスタロット

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東奔西走

 

冒険者ギルドのロビーは、相変わらず喧騒としている。

 

久しぶりに組合へ顔を出した私は、カウンターで用事を済ませると、出口に向かおうとした。

 

すると、背後から声が飛んできた。

 

「おう、ダキじゃねえか。随分と久しぶりだな」

 

振り返ると、ワンオペ時代からの常連客たちが数人揃っていた。

剣士の男、魔法使いの女、盾を背負った大男。皆、古株組の面々である。

 

その中にいた戦士の男が、大げさに肩を落として言った。

こいつは今は亡き友、リュディとよくつるんでいた冒険者仲間だ。

リュディが死んでからは、よく店に来るようになった。

アイツに遠慮して、これまで来なかったのだろう。

 

「最近、店に全く顔を出さねえじゃねえか。知ってるぜ、娼婦どもを雇ったんだってなぁ?忙しいのはわかるがよ、俺らなんかもう寂しくて仕方ねえぜ。一人の頃は、毎日お前さんが直接ヌルヌルやってくれてたのによぉ。今じゃあ予約を取るのも一苦労だ」

 

魔法使いの女が、頰を膨らませて続ける。

彼女は冒険者としての私に憧れを抱き、仲間にならないかと執拗に誘ってきた女だ。

その上、私の店に乗り込むなり風俗嬢をやめろと言う始末。

仕方なく、手篭めにしてやった。

それ以来、大切な女性の常連客となっている。

 

「もぅ、本当よ!ダキ様の特別コース、めっちゃ楽しみにしてたのに。最近は他の子がメインで…なんか物足りないのよね」

 

「そう…とても…寂しい」

 

盾を背負った大男は、寡黙に頷きながら低い声でぼそっと言った。

こいつは見ての通り寡黙な人間で、ややコミュニケーションが苦手だ。

ちょっと店で優しくしてやったら、やたら懐いたのを憶えている。

 

私は軽く息を吐き、落ち着いた男口調で応じた。

 

「ふん……相変わらず騒がしい連中だな。店が大きくなった以上、私もあちこち奔走せねばならんのだ。まぁ、お前らみたいな古株は特別だから、もう少し待っていろ。拡張が一段落したら時間を取ってやる」

 

 

 

そいつらと幾らか情報交換した後、店に戻った。

そこで従業員たちを集めた。

今は冒険者ではないので、お淑やかな口調に戻す。

 

「皆、聞いて。この店はまだ一浴室しかありません。これでは予約が取りづらく、お客様にもご迷惑をおかけしています。そこでお店を拡張します。目標は五浴室で、一般用四室と特別コース用一室に分けます。冒険者の方々から貴族の方々まで、幅広い客層に対応できる店にしたいと思います」

 

エザルドが目を丸くしている。

 

「はぁ!?部屋を追加ぁ?しかも五室!そんなに増やして、私らの給料払えるんでしょうね?」

 

どうやら設備投資による出費が心配のようだった。

まぁ、それは否定できないが。

給料は何があっても絶対に払う。

 

「ええ、勿論。この街にも”本物の店”が必要なのです。貴女がたに見合うような店が」

 

「本物、ねえ」

 

“本物”その言葉に気を良くしたエザルドは、腕を組みながら反応した。

何を以て本物なのかは、面倒なので説明しない。

 

「それに、先ほども言った通り…貴女達の中から、要人の相手をする者が出るでしょう。それには、貴人に見合う所作の女である事が必須。そのために、もう一つ上の接遇研修を受けてもらいます」

 

VIPは私が直接接待するべきだろうが、稼働には限界がある。

故に嬢のスキルアップはマストだ。

 

「へえ、悪い気はしないわね。なら今すぐやって頂戴な」

 

エザルドはこういう事にはハングリーなのか、前向きのようで助かる。

 

「厳しくいくわよ、覚悟しなさい」

 

私は店のキャスト達に講習を施した。

上流階級を持て成す知識や手順は、一朝一夕では習得できないから、定期的に行う。

エザルド達は、私の座学に必死に講義に食らいついた。

その結果、普段の仕事以上に気疲れしたみたいだ。

これに関しては、早く慣れてもらう他ない。

 

 

その翌日、私はガレント商会に向かった。

忙しい。

小間使いが私を見るなり応接室に通し、商会の主人に取り次ぐ。

 

「ガレント様、ご相談が…」

 

「おお、これはダキさん。何なりとお申し付け下さい。私に出来る事ならば、いくらでもご協力いたしますぞ」

 

私にはガレントが、胡麻を擦る幻が見えた。

そんなに遜る事はないと思うが。

win-winが基本の対等な関係なのだし。

 

「助かります。実は私に、腕の良い職人を紹介していただきたいのです。浴室拡張の設計と施工を任せられる、信頼できる職人を。従業員の人数に対して、設備が少な過ぎるのです」

 

「なるほど、わかりました。ならば、そうですね…ルシウス工房、あそこなら間違いないでしょう。すぐにでも紹介状を作らせます」

 

ガレントはすぐに頷いた。

優秀な商人は話が早くて助かる。

 

さらにその夜は、ケベック子爵の執務室を訪れた。

マジで忙しい。

 

「子爵様、先にお話しした計画を進めようかと存じます。これから店の拡張をいたします。税収をさらに増やす時です」

 

“木の花”の経営が軌道に乗り、収入に比例して納税額が上がってきた今。

この代官に直訴する時が来たのだ。

しかし課題もある。

複数の個室浴場を抱えるとなると、絶対的に必要なのは水回りだ。

 

「複数の浴室を整備するには、沢山の水が要ります。ただ…私の店だけが完璧な上下水道を整備するのは、市民から見れば不平等に映るかもしれません。たとえ公金を投入しなくとも、水の優先権を獲得されたと思われるでしょう」

 

「まあ、当然の事であろうな」

 

「そこで、店だけでなく街の各所に公共の水場と簡易的な排水施設を整備するのはいかがでしょう?衛星環境も向上するはずです。これは子爵様が行った公共事業として、ワクビスの街をより良くした功績としても、中央の政権にアピールできるはずです」 

 

私の店にも上下水道が完備され、市井の民にも水が周り、代官は支持率アップを狙える。

まさに相手良し、手前良し、世間良し。

 

その提案にケベックは腕を組み、しばらく考え込んだ後、ゆっくりと頷いた。

 

「ふむ、確かにその通りだな。一部の者、そのためだけに予算を使ったり許可を出すのは悪目立ちする。街全体の上下水道整備という名目ならば、教会も悪い目では見ぬだろう。だがな、金はどうする?いくら私でも、無い袖は振れぬぞ」

 

金は出したくは無いが成果は欲しい、と来たか。

為政者としては当然だな。

まあそれの懸念も織り込み済みだが。

 

「商人組合から低金利で広く支援を募ります。その代わりに、子爵様からは支援者に勲章を授けて欲しいのです。商人は貴族様による箔が欲しく、名誉にも飢えております」

 

この提案については、既にガレントをはじめとした商人組合との会合で同意を得ている。

あとはこの男次第。

 

「なるほどな…よし、詳細な計画書を用意してくれ」

 

子爵もクリア、と…

 

 

翌日、ガレントから紹介されたルシウス工房にやって来た。

忙しい!休日が無い!

 

工房の主たるルシウスは、私が用意した簡単なイメージ図を食い入るように見つめた。

当初は興奮した様子だったが、徐々にその表情が曇っていった。

 

「ダキ様、これは個室中心の浴場ですか。マットプレイ?という男性向けの奉仕ができる防水設備、温度を自由に調整できる仕組み、太陽熱を活用した温水供給…確かに革新的ですね。ですが、正直に申し上げます。これらは技術的にも、経済的にも極めて困難です」

 

浴場を中心とした娼館を作る事に、一切の疑問が無いルシウス。

「娼館など作る気はない」と一蹴されるのも覚悟していたが、良かった。

私は彼を高く評価した。

仕事に貴賎無し、とはこの事だ。

 

ルシウスの真摯な態度に感心しつつ、私は出来る限り穏やかに、その本意を質した。

私のイメージ図なんて、素人の浅知恵を詰め込んだに過ぎない。

日ノ本を近代化まで見届けた自負はあるが、私は技術者ではないからな。

 

「具体的に、どの部分が問題なのですか?」

 

ルシウスは羊皮紙にメモを取りながら、専門的な懸念を次々と挙げ始めた。

ここからが、やり取りの本番だ。

 

「まず最大の問題は水です。五つもの浴室へ同時に給水させるとなれば、膨大な水の量が必要になります。川や井戸から新たに水道を引くにしても、下流の農地や他の施設に影響が出ます。それに最悪、水不足の年に諍いが起きる可能性もあります。水圧も不安です。ピーク時に客が集中したら、供給が追いつかず、苦情が出るでしょう」

 

ルシウスはさらに続けた。

 

「排水も課題です。その施設にからは汚水が大量に流れ出ます。簡易な浄化魔法だけでは完全に処理しきれず、川の汚染が進みます。場合によっては街全体の衛生問題に発展し、教会から目をつけられる危険性があります。この供給と排水の問題。いずれも公共事業の分野となりましょう。こればかりは行政の分野です。私には如何様にもなりません」

 

「そして、一番の難関は大量の温水の供給です。しかも安定的な。これは太陽熱だけでは到底足りません。冬場や曇りの日は特に心配です。火の魔石を主力にすれば、それも叶いますが…魔石の価格によっては経費が跳ね上がります。魔石の効果も永遠ではありませんからね。また、薪を大量に使えば、煙と臭いで近隣住民から苦情が殺到します」

 

ルシウスは長いため息をつき、ダキの目を見て結論を述べた。

 

「率直に言って、厳しいかと。五浴室は失敗する危険が大きすぎます」

 

水の供給も子爵に融通してもらう手筈とは言え、あんまりやり過ぎるとダメか。

ちと、理想を高くし過ぎたかな?

 

「分かりました。では、どのようにしたら良いのですか?」

 

ルシウスはあれこれ呟きながら、暫く思案した。

私は彼が考え終わるのを、じっと待った。

 

「私から提案があります。個室浴場は三つに抑えましょう。一般用の二部屋と、上級用の一部屋。これなら水と温熱装置のバランスが取れます。残りの需要は、複数の蒸し風呂で対応するのはどうでしょう?蒸し風呂は温水を大量に必要とせず、温度を高めに保てば十分に楽しめます。体を温めてから洗い場で身体を洗い、奉仕に移る…という流れにすれば、利用者の満足度も保てるはずです」

 

専門家が言うんだ、たぶんこれが限界なんだろう。

ここで話を打ち切って、別の職人を探しても良いが…

それは紹介してくれたガレントに申し訳ないし、ルシウス以上の技師がワクビスにいるとは考えにくい。

ここが落とし所か。

 

「三室の温水浴室に、蒸し風呂を複数…なるほど。ルシウスさん、それは現実的で賢い妥協案ですね。ええ、それでいきましょう。貴方の技術を信じています」

 

ルシウスは安堵した表情で頷いた。

 

「ありがとうございます。これなら、私の技術で責任を持って作り上げられます。ダキ様のご要望にも、十分に応えられるでしょう」

 

拡張工事はつつがなく着工した。

 

工事中も「木の花」の一室は、通常通り営業を続けていた。

着工から間も無くの頃。

職人たちが店の一角で作業をする中、私は時折現場を訪れ手土産を持参した。 

 

「皆さま、本当にご苦労様です。お茶と軽い食事を持参しました。どうぞお体を労ってくださいませ」

 

ルシウスは作業服のまま笑顔で言った。

 

「ダキ様、本当に変わった依頼人ですね。でも、こんなに熱意を持って浴場を作りたいという方は初めてです」

 

私は知っている。

職人の中には”放置されると手を抜く者”がいる、と。

故に私はその後も視察を兼ねて、何度も差し入れのために顔を出した。

男というものは、実に現金なものだ。

美人が応援してくれれば、簡単にやる気が出る。

カッコよく仕事をする姿を見せたいのだ。

当然手を抜くものなど、誰一人としていなかった。

 

 

約一ヶ月。

その間、私は目覚ましく動いた。

待機しているキャストに教育を施し、商人組合とガレント商会を行ったり来たり、夜は子爵とミーティング兼癒し活動、ルシウス技師とは山積みの課題に対する解決策を相談。

目まぐるしいひと月だった。

 

その結果、なんとか無事に拡張工事が完了したのだ。

マジで疲れた。

こんなの選挙に出馬した時以来だよ。

エザルドのおっぱいパフパフが無ければ、挫折していたかもしれない。

 

ともあれ「木の花」は以前の一浴室だけの小さな店から、三つの浴室と、三つの蒸し風呂を抱えるソープランドへと拡張された。

 

温水の熱源は、火の魔石を共通としている。

しかし、これがマジで高額。

なので、火力の全てを魔石で補うことはコストの面で避けた。

 

一般用の二室については、冒険者でも頑張れば利用しやすい価格帯。

熱源は魔石に加えて、太陽光による蓄熱を併用する事によりコストを下げた。

 

一方の上流階級用は豪華に仕上げた。

また基本の魔石による熱源に加えて、薪を追加する。

火力のある薪の追加加温により、暖かく新鮮な湯が素早く供され、高級な洗剤なども完備されている。

 

蒸し風呂については、焼き石を置いた簡素な個室と、水を張った桶がある洗い場、奉仕するための寝台が設置されている部屋を一セットとして複数用意した。

サウナに関しては、設備投資の負担が比較的少ないので助かる。

 

さらに行政の事業として、街の数カ所に水場と簡易排水施設が整備された。

これから少しずつ、街の各所に水路を拡張していくつもりらしい。

下水処理に関しては、下流域の農地で汚染があるとヤバい事をケベックに訴えた。

その結果、下水道に浄化魔法陣を敷設。

その上を通して川に放流するみたいだ。

浄化魔法にそんな使い方あるのか、と思ったが、この方式は初らしい。

まあ下水処理なんて、普通考えないよね。

 

こうしたケベック子爵による公共事業支援の呼びかけに対して、商人以外からも多くの者が参画した。

結果的に、工事に関する予算が不足する事はなかった。

この世界で公債を導入したのも初らしい。

 

代官であるケベック子爵の政治手腕は市民からも好評を得た。

これは私の入れ知恵も大きいけど。

 

私は完成した店内を一人、ゆっくりと歩きながら呟いた。

 

「以前は、わずか一つの浴室だけでした。狭い空間で、必死にお客様をお迎えし、精一杯の力で接客をしていました。ですが、何という事でしょう!匠の手によって、三つの見事な浴室と蒸し風呂が完成しました!一般のお客様向けの広々としたお部屋!貴族の方々にもご満足いただける豪華なびっぷなルーム!遂に形になったのです!」

 

気分は劇的ビフォ○アフター。

腕を広げ、完成した店内をぐるりと見回す。

 

「ようやく、ようやく形になってきた!!最高の風呂に、最高のローション!!どりゃあ!!!」

 

踊り昂った気持ちを抑えられず、私は用意していたローションを浴場にぶち撒けた。

 

床一面がヌルヌルになる。

 

「ヒャッハー!!!新陰流奥義!ヌルヌル真剣ぺぺ○ーションキィィィック!!」

 

滑り散らかすヌルヌル床で、童心に帰って遊ぶ。

最高だ。

 

「いーヒッヒッヒッ!!あー!!楽しぃー!!!」

 

「なんだか騒がしいと思ったら…アンタなにやってんの……」

 

「あっ」

 

様子を見に来たエザルドに見られてた。

はしゃぎ過ぎて気配を感じなかった。

一生の不覚。

 

「呆れた…」

 

やめて!!

私のカリスマが!!

なくなっちゃう!!!

 

「私の威厳のために忘れて!!」

 

「どうしようかしら、ねえ?」

 

「お願いします、なんでもしますから」

 

「へぇ?なら、今からアタシに奉仕しなさいよ。アンタが言う、最高級のコースとやらのね」

 

「…!!仕方ありませんねえ!」

 

人は無理が祟って、疲れから変なテンションになる事がある。

諸君らも、忘れる事なかれ。

 

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