淫魔がゆく ~転生淫魔の聖女的楽園建国計画~(旧題:転生淫魔による立身出世と楽園都市建設計画)   作:アスタロット

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破滅の始まり

 

雪崩れ込んだ男たちの中で、先頭の者が冷たい声で宣告した。

 

「ダキ……貴様には、淫魔の特異個体である嫌疑がかかっている。よってこれより、貴様を聖浄異端審問局が拘束する」

 

次の瞬間、ダキの瞳が獰猛に輝いた。

 

「くそがっ!」

 

家具を先頭の男に叩きつけると同時に、彼女の身体が爆発的に動いた。

両脚を強く踏み込み、床板を軋ませて重心を低く沈め、全身の力を解放。

髪が激しく翻り、魔物の本性が露わになった瞬間、彼女は床を蹴り、先頭の審問官に肉薄した。

手刀を喉仏に叩き込み、頸椎を折り、肘打ちで鳩尾を突き刺す。

 

「一匹!」

 

返す手で、二番手の男の胸倉を掴んで床に叩き付ける。

床板が破れる。

 

「二匹!」

 

流れるような動きは、まさに前世で得た技を、淫魔の身体能力で昇華させたものだった。

 

「さん……!!!」

 

しかし、そこまでだった。

 

「聖鎖展開!」

 

周囲の審問官が一斉に聖遺物の鎖を投げつけた。

金属が擦れる音を立ててダキの両手首、首、腰、両足に鎖が巻きつく。

強烈な浄化の力が、彼女の力を奪い尽くす。

 

「ぐあっ……!?」

 

ダキは歯を食いしばり、鎖を引きちぎろうと全身の筋肉を隆起させたが、聖遺物の影響で身体が重く、思うように動かない。

 

(……くそっ!刀さえ……刀さえ手元にあれば……!)

 

ダキの脳裏に、剣の記憶が閃いた。

もしこの手に愛刀があれば、こんな鎖など一瞬で切り裂き、部屋中の審問官を皆殺しにできたはずだった。

 

前世の剣豪としての技量と、淫魔の身体能力を合わせれば、この程度の数など問題ではなかった。

 

しかし、この油断。

今のダキは徒手。

 

しかも、聖遺物の効果で力の大半を封じられている。

 

「この……このような鎖で……私が……こんな……ーッ!!!」

 

ダキは咆哮を上げ、拘束されたまま頭突きで一人を倒すが、次から次へと鎖が巻きつき、ついに膝を床につかされた。

 

審問官の1人が冷ややかに告げた。

 

「無駄だ。お前の力はすでに封じられている」

 

ダキの瞳に、底知れぬ屈辱と絶望が浮かんだ。

 

(……剣が手元にあれば……こんな、馬鹿げた状況など……一瞬で蹴散らしてやれたものを……!)

 

彼女は血が滲むほど唇を噛み締め、震える声で吐き捨てた。

 

「……私の計算が……こんなタイミングで……!」

 

聖浄異端審問局の審問官たちは、容赦なく彼女の身体を引きずり上げた。

 

夕暮の風が窓から入り、彼女の長い髪を乱暴に乱した。

 

店の外ではすでに数十人の黒ローブが周囲を包囲していた。

ダキは冷たい風に髪を乱されながら、馬車へと強引に押し込まれた。

 

馬車の中では厳重な結界が張られ、座席には重い鉄の枷が備え付けられていた。

両手は背中で固く縛られ、首の鎖は床の鉄環に繋がれている。

馬車が動き出すと、ダキはゆっくりと息を整えた。

 

(まだだ!!まだ終わっちゃいない!!)

 

彼女は鎖の隙間から、向かいに座る審問官に視線を投げかけた。

その瞳に、淫魔の本性をわずかに滲ませる。

 

「ねえ……あなた方、本当にこれでいいの?」

 

声は甘く、湿った響きを帯びていた。

鎖に封じられていても、彼女の肉体が放つ妖艶なフェロモンと、完璧に整った肢体はまだ武器として機能する。

 

「私は……ただ、この街の人々を幸せにしたかっただけなのに……あなたも、疲れているのでしょう?そんな固い表情をしていても……本当は、温かい抱擁が欲しいんじゃない?」

 

ダキは体をわずかにくねらせ、鎖の音を立てながら審問官に身体を寄せようとした。

聖女の衣装が乱れ、白い胸元がわずかに露わになる。

 

一瞬、審問官の瞳が揺らぐ。

しかし、次の瞬間。

 

「黙れ、穢らわしい淫魔」

 

男は冷たく吐き捨て、懐から浄化の札を取り出して掲げた。

 

強い光が車内を満たし、ダキのフェロモンが一瞬で霧散する。

 

「我々は訓練を受けている。貴様の手など、とうにお見通しだ」

 

ダキの表情が歪んだ。

 

(……効かない……この程度の鎖と紙切れで……私の能力が……!?)

 

彼女はさらに必死に言葉を紡ごうとしたが、浄化の力が強くなり、声が喉に詰まる。

身体の奥底から、活力を削り取られる感覚が広がっていく。

 

「くそ……剣があれば……いや、力が少しでも残っていれば……この程度の男など、簡単に……!」

 

ダキは唇を血が滲むほど噛み締めた。

馬車は夕闇の道を、教会本部へと容赦なく進んでいく。

彼女の長い髪が、暗闇の中で虚しく揺れていた。

 

「どうなる……これから、私はどうなるというんだ……?」

 

絶望が、ゆっくりと、しかし確実にダキの心を蝕み始めていた。

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