淫魔がゆく ~転生淫魔の聖女的楽園建国計画~(旧題:転生淫魔による立身出世と楽園都市建設計画)   作:アスタロット

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淫魔と聖女

 

馬車は夜通し走り続け、遂には教会本部へと到着した。

本部の地下牢へと続く石の階段を、ダキは引きずられるように降りていった。

 

両手は背中で固く縛られ、首と腰の聖遺物の鎖は重い鉄球に繋がれている。

 

歩くたびに鎖がじゃらじゃらと鳴り、彼女のプライドを削っていく。

 

(……ここが……教会本部……)

 

ダキは唇を噛み締めながら、周囲の冷たい石壁と、漂う聖なる香りに吐き気を催した。

 

地下の奥深くにある特別審問室に連れ込まれると、彼女は中央の鉄の椅子に座らされ、さらに厳重に拘束された。

 

手首、足首、首、腰……聖遺物の鎖が全身を覆い、力は完全に封じ込められている。

 

部屋には数名の審問官と、上級の審問官らしき男が立っていた。

その審問官の一人が、冷たい目でダキを見下ろした。

 

「ようこそ、聖浄異端審問局の本部へ。ダキ……いや、聖人を装っていた上位淫魔よ。ここで貴様の罪をすべて洗いざらい吐いてもらう」

 

ダキは乱れた髪の間から、相手を睨みつけた。

 

「……私はただ、この街の人々のために活動していただけです。誤解です……どうか、話を聞いてください……」

 

声はまだ聖女らしい柔らかさを保とうとしていたが、すでに微かに震えていた。

しかし、上級審問官は嘲るように笑った。

 

「誤解?山賊の根城に残された血痕、人喰い沼の消失、ウォーラン兄妹の消息不明、在野娼婦たちからの複数回のタレコミ……そして勇者ルティオンの異常行動。すべてが貴様を中心に繋がっている。聖女リース様が直接、我々に情報を提供されたのだ」

 

その言葉を聞いた瞬間、ダキの胸に深い絶望が突き刺さった。

 

(……リース……本当に動いて……くそっ…ルティオン…しくじったのか……)

 

彼女は初めて、自分の計算が完全に外れたことを自覚した。

王都支店構想、欲望の楽園、王国全体を手中に収める未来。

それらが、すべて幻のように消えていく。

 

ダキは鎖に繋がれたまま、ゆっくりと目を伏せた。

「……せめて……せめて、剣だけでも持たせてくれれば……こんな、馬鹿馬鹿しい状況には……」

 

その呟きは、誰にも聞こえないほど小さかった。

審問官が冷たく告げた。

 

「これより、正式な審問を開始する。覚悟はいいか、淫魔」

 

地下室の重い鉄の扉が、冷たい音を立てて閉ざされた。

ダキの長い髪が、虚しく垂れ下がる。

 

地下深くにある聖浄異端審問局の特別審問室は、冷たい石壁に囲まれ、薄暗いランプの光だけが揺れていた。

 

ダキは中央の鉄製の拷問椅子に固定されていた。

両手首・足首・首・腰に聖遺物の鎖が何重にも巻きつき、魔力を根元から封じ込めている。

 

上級審問官が三人、彼女の正面に立っていた。

中央の男が、低い声で尋問を開始した。

 

「では、始めよう。ダキ……貴様は上位淫魔であることを認めるか?」

 

ダキは髪を乱しながら、必死に聖女らしい微笑みを浮かべた。

 

「……誤解です。私はただ、ワクビスの人々のために……」

 

「答えよ」

 

審問官が合図をすると、傍らの審問官が杖を掲げた。

 

純白の浄化の光がジリジリと、ダキの全身を包み込んだ。

ダキに流れ込む神聖な力は、淫魔の身体にとって猛毒だった。

皮膚が焼けるような激痛が全身を駆け巡り、ダキの背中が弓なりに反った。

 

「ぐあぁっ……!?」

 

「山賊の根城に残された大量の血痕……人喰い沼の消失……ウォーラン兄妹の消息不明……在野娼婦たちからのタレコミ……すべて貴様の仕業だな?」

 

痛みが引かないうちに、次の質問が飛んでくる。

ダキは歯を食いしばり、震える声で答えた。

 

「……違う……私は……あぐぅっ…」

 

浄化の光が再び強くなった。

今度は鎖が直接肌に食い込み、皮膚を焼き切るような激痛が襲う。

ダキの身体が痙攣し、鎖がガチャガチャと激しく鳴った。

 

「聖女リース様が、勇者ルティオンの異常を憂いて直接情報を提供された。貴様が勇者を堕とし、リース様にまで手を伸ばそうとしたのだろう?」

 

ダキの瞳が大きく見開かれた。

 

痛みと屈辱で、彼女の思考が乱れていく。

 

審問官は容赦なく続けた。

 

「次に聞く。貴様はこれまで、何人の人間を捕食した?特にウォーラン兄妹は、貴様に喰われたのではないのか?」

 

ダキが答えを拒否すると、審問官は再び杖を掲げた。

 

今度は光がより長く、強く照射された。

 

ダキの全身の神経が焼かれるような激痛が走り、彼女は喉を反らして悲鳴を上げた。

 

「あぁぁっ……! やめ……!」

 

髪が汗でびっしょり濡れ、白い衣装が乱れ、肌が赤く腫れ上がる。

 

それでも彼女は、必死にプライドを保とうとしていた。

(……この私が……こんな連中に……拷問されるなど……!)

 

審問官が冷笑を浮かべた。

 

「まだ序盤だ。明日からは本格的な浄化に移行する。貴様ら淫魔の本性を、すべて暴き出すまでな」

 

ダキは鎖に繋がれたまま、荒い息を吐いた。

王都支店構想、欲望の楽園、すべてが遠ざかっていく。

彼女の瞳に、深い絶望と、底知れぬ屈辱が宿っていた。

 

ー翌日ー

 

地下の特別審問室に、聖女リースが入ってきた瞬間、ダキの心に真っ黒い深淵が広がった。

 

(……これが……聖女リース……)

 

金色の髪、純白の聖衣、穢れを知らない透き通った瞳。

 

その気高く清らかな佇まいは、ダキの胸を容赦なく抉り、深く深く突き刺さった。

 

リースが静かに言った。

 

「あなたがダキさんですね。ルティオンから、あなたの話をたくさん聞きました。彼は……あなたに深く心を奪われ、変わってしまいました」

 

その言葉が、ダキの心を粉々に砕いた。

 

(この小娘……私を哀れむような目で見下ろしている?…ふざけるな!)

 

ダキは鎖に繋がれたまま、必死に嘲るような笑みを浮かべようとした。

しかし、その笑みはすでに形を成さなかった。

 

過去の栄光が、脳裏に容赦なく蘇る。

永遠に思われた、絶頂の日々。

特別室の最上階から街を見下ろし、ケベック子爵を掌中に収め、商人組合を完全に掌握し、花街を支配し、市民から”聖女様”と崇められていた。

王都支店構想を練り、欲望の楽園をこの世界に実現させる未来を、酒盃を傾けながら甘く夢見ていた、あの至高の時間。

前世では、立川荼吉夫として教団を立ち上げ、政治の表舞台に立ち、すべてを計算し、操ってきた。

 

それが今。

 

聖遺物の冷たい鎖に全身を繋がれ、地下の暗い部屋で、ただの一介の聖女に説教を受け、辱められている。

 

「うっ…ふぅ…ううぅ…」

 

(……馬鹿げている……私が……この私が……

こんな、惨めな姿で……鎖に繋がれて……涙を流している……?)

 

ダキの胸の奥で、激しい後悔と絶望感が爆発した。

 

リースが悲しげに続けた。

 

「彼は……あなたに性的な技術を教わり、それを私に……使おうとしました。とても、穢らわしい欲望に囚われて……」

 

その言葉が、ダキの最後のプライドを粉砕した。

 

(……穢らわしい……?この私が与えた快楽を……

この清廉潔白な小娘が、穢らわしいと断じるのか……?私が積み上げてきたすべてを……一瞬で、否定するのか……!)

 

ダキの視界がぼやけ、熱いものが頰を伝った。

 

(……私は完璧だったはずだ……すべてのリスクを計算し、すべての駒を配置し、王都への道筋まで完璧に敷いていた……欲望の楽園を、この世界に実現させるはずだった……それなのに……この箱入り聖女の一言で……すべてが……瓦解していく……?私の人生……前世も今世も……こんな、愚かな結末で終わるのか……?)

 

彼女の肩が、小刻みに震えた。

リースは静かに、しかしはっきりと告げた。

 

「あなたは……本当に、人の心を弄ぶのがお上手なのですね。でも、それではいけません。人は、欲望に飲み込まれてはいけないのです。あなたが救われるためには、あなた自身が欲望から解放される必要があります」

 

その言葉が、ダキの心を深く、深く、容赦なく踏み潰した。

 

(……飲み込まれる……?ふざけるな……私は飲み込まれた側などではない……私は欲望を支配し、利用し、最高の形で謳歌してきた……それなのに……この小娘に……こんな、説教じみたことを……言われている……?私は……負けた……?完璧に計算していた私が……こんな、惨めに……!)

 

ダキは鎖の中で身体を震わせ、低く、力なく、壊れたように笑った。

 

「……救う……?はは……笑わせてくれますわ……聖女様……私は……救われる必要など……ない……ただ……この屈辱だけは……決して……忘れない……」

 

その笑みは、すでに完全に崩壊していた。

 

清廉で気高いリースと、悪辣で陰湿だったダキの対比は、極めて残酷だった。

 

ダキは今、人生で最も深い絶望の底に、ゆっくりと、しかし確実に沈み落ちていた。

 

その頃、ルティオンは教会本部の一角にある”反省の間”と呼ばれる部屋に隔離されていた。

ルティオンは簡素なベッドに座り、膝を抱えるようにして俯いていた。

部屋の扉は外から施錠され、窓には鉄格子。

彼は”保護観察”の名目で軟禁状態に置かれていた。

 

「ダキ……ダキ……」

 

彼は繰り返しその名を呟いていた。

目には熱っぽい光が宿り、時折、リースの顔を思い浮かべては唇を震わせる。

リースに手を出そうとしたあの夜。

彼女の純粋な拒絶と、恐怖に染まった瞳を思い出すたび、ルティオンは胸の奥が熱くなった。

 

ダキに教え込まれた”女を悦ばせる技術”を使おうとした自分が、どれだけ愚かだったか。

 

でも、それ以上に、ダキにまた会いたいという欲望が、彼を蝕んでいた。

 

部屋の外では、教会の監視役の聖職者が常時立っている。

ルティオンはすでに数回の事情聴取を受け、ダキとの関係を根掘り葉掘り聞かれていた。

 

「ダキは……俺を強くしてくれた。俺はただ、リースを……本当の意味で愛したかっただけなのに……」

 

彼は壁に額を押しつけ、苦しげに呟いた。

ルティオンはまだ、ダキが拘束されたことを知らされていない。

彼はただ、自分が原因で何かが起きているという漠然とした罪悪感と、ダキへの強い依存の中で、悶々と日々を過ごしていた。

 

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