淫魔がゆく ~転生淫魔の聖女的楽園建国計画~(旧題:転生淫魔による立身出世と楽園都市建設計画) 作:アスタロット
それが彼女にとっての幸せなのかも
ルンビニィの里は、穏やかな日々が続いていた。
銀の姉さんと呼ばれるようになった記憶喪失の女は、村人たちに深く溶け込んでいた。
過去の思い出がなくとも、女はただ純粋に村の生活を楽しんでいた。
昼下がり、女は子供たちに囲まれていた。
「銀の姉さん、髪きれい!まるでお月様みたい!」
子供たちが女の長い銀髪を嬉しそうに触り、編み込みをして遊ぶ。
女は記憶がないのに、自然と古い童話を語り始めた。
「むかしむかし、あるところに……」
子供たちは目を輝かせて聞き入り、女の膝に寄りかかった。
一人の幼い少女が、ふと顔を上げて言った。
「銀の姉さんは、お母さんみたい!」
その言葉に、女の胸が一瞬、締め付けられた。
(……お母さん……?私に……?そんな…記憶は……)
女は優しく少女の頭を撫でながら、胸の奥に微かな痛みを感じた。
失われた何かの記憶なのか。
それはまだ、ぼんやりとしか浮かばなかった。
村の収穫祭の日、女は大活躍した。
「飾り付けはこちらに集中させて、食べ物の配分はこうすると効率が良くなります」
女の計算を活かした提案で、祭りの準備は驚くほど円滑に進んだ。
夕方には村の踊りを一目見て即座に覚え、優雅に舞う姿に村人たちが釘付けになった。
祭りの夜、焚き火を囲んで村人たちと話す中で、女は無邪気に微笑んだ。
「みんなの笑顔が……大好きです」
その言葉に、村人たちは温かい拍手を送った。
しかし、女は心のどこかで違和感を覚えていた。
(……私は……こんなに無邪気に笑う人間だっただろうか……?)
村のトラブルも、女の存在で次々と解決されていった。
ある時、雨が続き水路が詰まる。
決壊のおそれから、農地が危機になった。
女は地形をじっくり観察し、危険を顧みず水路を力技で補修した。
村の若者同士の恋愛トラブルでは、コミュ力を活かして自然に仲を取り持った。
ある日、村の老人が転倒し怪我を負った。
女は無意識に、その老人を手際良く応急処置し介抱した。
村人たちは女への尊敬をさらに深めた。
村人との交流が、女の日常を彩っていた。
村の老婆から「銀の姉さんは寂しそうに見える」と指摘された時、女はめそめそと泣きながら言った。
「私……何か大切なものを忘れている…そんな気がするんです…」
「可哀想に…でもね、心配する事はないよ。好きなだけここに居てくれて良いからね」
老婆の優しい抱擁が、女の心身を暖めた。
村の若者が女に恋心を抱き、告白してきたこともあった。
女は優しく断りながらも、「ありがとう……本当に、ありがとう」と涙し微笑んだ。
そして、村全体で女のために小さな誕生日会を開いた。
その日が女にとって、大切な誕生日となった。
女は子供達から貰った花冠を被り、涙を浮かべた。
「……みんな……ありがとう……私……家族ができたみたい……」
記憶がない女は”家族”のような温かさに、心の底から触れていた。
しかし、ある曇天の日。
村に黒いローブの集団がやって来た。