淫魔がゆく ~転生淫魔の成り上がり~(旧題:転生淫魔による立身出世と楽園都市建設計画)   作:アスタロット

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ユーリの出立

 

ザグレフ一味を吸収してから数日が経った。

 

私は砦の奥で、焚き火を見つめながら思案している。

今の状況は安定とは程遠い。

正直なところ、私は焦っていた。

 

「報酬を急がないと…ザグレフたちは実戦経験こそあるが、いまだ欲に忠実なまま。早く報酬なり何なりを与えなければ、忠誠などすぐに崩れる。周囲に点在する賊を併合しながら忠義心を醸成するにも、いかんせん時間が要る」

 

忠実な部下が、何としても欲しい。

私はため息を吐いた。

 

「ユーリを使いとして、ワクビスへ送る……いや…また、同じ過ちを繰り返すのか?」

 

以前ルティオンを単独で教会本部へ向かわせた結果が、どうなったか。

 

よく憶えているよ。

あの失敗が、私の破滅に直結した。

下手な仕掛けが、自らの死を招いたんだ。

 

まあ、リースというクソ女が予想以上に手強かったのもあるけど。

 

しかしながら、愛弟子のユーリはまだ未熟だ。

面は割れていないが、まだまだ純粋すぎる。

彼がもしワクビスの人間に怪しまれたら……

最悪の場合、二度目の破滅を招く可能性もある。

そうなったら、もう一目散に逃げるしかない。

今の私には、ヤツらに対抗できる術は少ない。

 

私は悩んだ。

 

「それでも…リスクは承知の上。それに、ユーリを教会に行かせるわけじゃない」

 

私は独り言を呟いた。

今は報酬を確保する方が優先度が高い。

 

ザグレフ一味が暴発すれば、せっかく築いた基盤が一瞬で崩れる。

 

私の生存を、教会の連中はまだ知らないはず。

リースの預言も、ルティオンから聞く限りでは、かなり曖昧で具体性が低い。

生まれ変わって私は黒髪から銀髪になったんだ、正体を隠すにはうってつけ。

 

その隙を突くしかない。

 

私はユーリを呼び、指示を出した。

 

「ユーリ。あなたに大切な役目を任せたい」

 

ユーリはすぐに真剣な顔になった。

 

「はい、師匠!何でもおっしゃってください!」

 

「ワクビスへ行き、私の仲間を連れてきなさい。”木の花”という店で働いている私の部下たちを。可能な限り一緒に。この手紙を渡せば、信じてくれるはず……ただし、絶対に目立ってはならない。教会の目がまだ残っている可能性がある。」

 

私は手紙を渡しながら、計算する。

 

失敗すればユーリは捨て駒。

最悪のケースは、私の生存がバレて再び教会の追手がかかる。

成功すればエザルドたちが来て、手駒が一気に増える。

分が悪い賭けになるけど、今はこれしかない。

まあそれも『木の花』が健在であれば、の話だが。

 

しかしながら…私に付いてきてくれたユーリには感謝しないとな。

 

彼が無事に仲間を連れて、ここへ帰って来れたら…

まあ、その時は色々と労ってやろう。

 

 

「……行ってらっしゃい、ユーリ。無事に戻ってきなさいね」

 

ユーリは緊張しながらも、力強く頷いてくれた。

 

「はい、師匠! 必ず成功させてみせます!」

 

私はその背中を見送りながら、静かに目を伏せた。

 

「…あれ?純粋な男の子のユーリが”木の花”に行ったら、普通にエザルドとかに食われるんじゃない?…うん…まあ、良いか」

 

 

翌朝、ユーリは二人の仲間を伴ってワクビスへ旅立った。

 

私は砦の壁に腰を下ろし、遠くなる彼の背中を見送っていた。

 

そこへ、足音を立ててザグレフが近づいてきた。

 

「……おう、姉さん」

 

私はゆっくりと振り返った。

 

「何か用?」

 

ザグレフは腕を組み、胡散臭そうな目で私を睨んだ。

 

「あのガキをワクビスに送ったのはわかった。だがよ……お前、本当にあの『木の花』のダキなのか?冒険者やったり聖女の格好して、派手に店を広げて、挙句は教会に睨まれて処刑されたって噂の……あの人間を騙った魔物が」

 

私は小さく笑った。

 

「ふふ……よく知っているわね」

 

「へっ、知らねえわけねえだろ。賊の頭目やってりゃ、あの店の名前と、お前の噂くらいは入ってくる…しかしな、そのダキって名乗る魔物は、焼かれて死んだ、って聞くぜ」

 

「…灰から甦った、って言ったら信じてくれるかしら?」

 

「そうだな…気でも狂ってると思うぜ」

 

「でしょうね」

 

彼は少し声を低くして続けた。

 

「で?本当のところはどうなんだ?お前は何者だ?人間じゃねえのは確かだろう?」

 

私は冷たい微笑みを浮かべ、真正面からザグレフを見据えた。

 

「そうね……知りたければ、もっと私に尽くすこと。そうすれば…いずれ、すべてを教えてあげるわ」

 

ザグレフは鼻を鳴らす。

 

「相変わらず気取った口をききやがる。まぁいい。あのガキが本当に”木の花”の女どもを連れてこれるなら、俺たちは大人しく待ってやるよ。だがよ……来るのが遅れりゃ、俺たちは欲求不満で暴れ出すぜ?」

 

「心配しなくてもいいわ。私は約束を破らない……ただし、成果を出した者にだけ、報酬を与える主義だけどね」

 

「俺たちに成果だの何だの言うけどよ。とどのつまり、姉さんは何をしたいんだ?」

 

目的を知らせずに、彼らを命令に従わせるのも無理があるな。

ここは、しっかりと伝えておくべきか。

 

「そうね………”国”を興すわ」

 

「へぇ、そいつぁ大層なこった。こんな”ならず者”どもを集めて建国とは…俺たちも随分と買われたモンじゃあねえか」

 

大言壮語と受け取られても仕方無し。

 

「あら、嫌なの?」

 

「んや、嫌じゃあねえ…それが本当なら、むしろ有難いくらいさ。俺たちには安心して住める場所がねえからな。だがなぁ、姉さん…よもや”ここ”で国を興す訳じゃあないんだろ?」

 

「あら、よく気付いたじゃない。その通りよ」

 

「はぁ…悪いが、それこそ世迷いごとさ。ここの立地は、アンタだって分かってるだ?」

 

「勿論」

 

「ここは南は王国、北は魔族国に挟まれた国境地帯だ。俺たちみたいな輩の根城にはちょうど良いが…独立なんて宣言した日にゃあ、下手すりゃ南北から挟み討ちだせ?」

 

ザグレフ…粗野なだけの人間かと思っていたら、割と俯瞰的に物事を見られる。

指揮官としての才が目込めるな。

 

「そんなことは百も承知よ」

 

「わかってんなら良いけどよ」

 

「ま、安心しなさいな。もしそうなっても”楽勝”だから。じゃあ、そろそろ私は行くわね。新しい仲間を探しに、”お散歩”してくるから。あなた達は、開墾作業を引き続きお願いね?」

 

私はそう言い残し、その場を去った。

 

ザグレフは私の名を知っていた。

 

やはり生きるために、あらゆる情報が必要な賊なら当然か。

使える駒ではあるが……まだまだ油断は禁物だな。

 

しかし、人手がないよりは遥かに良い。

 

ユーリが無事に戻って来られる事を信じて、色々と頑張るとしようかね。

 

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