淫魔がゆく ~転生淫魔の成り上がり~(旧題:転生淫魔による立身出世と楽園都市建設計画) 作:アスタロット
ダキがワクビスで処刑されてから『木の花』の状況は悲惨なものだった。
かつては高級店として賑わっていたこの場所は、今や見る影もなくない。
看板は色褪せ、客足は激減。
ダキという最大の看板を失ったことで、上客の多くが離れていった。
残った客は質が落ち、単価も大幅に低下。
「魔物が経営していた店」という話が広まり、新規の客も寄り付かぬ。
一方で、行政や教会による締め付けも苛烈を極めていた。
定期的な監査、寺銭や税の不当な増額、営業時間の制限、あらゆる制約が店の営業を締め付けた。
エザルドが必死に店を守ろうとしているが、経営は赤字続き。
商人組合や冒険者組合との関係も悪化して、材料費や護衛費は増える一方。
従業員への給金も遅れ始め、キャスト達の士気は著しく低下していた。
エザルドはカウンターに肘をつき、ため息を吐いた。
「……もう、限界かしら。このままじゃ、店を畳むしかないわ……」
『木の花』では、そんな暗い日々が続いていた。
♢
ユーリはザグレフが選んだ二人の護衛と共に、砦を出てしばらく。
森を抜け、街道を進みながら、彼は何度も師匠の言葉を胸の中で繰り返していた。
(師匠……俺、絶対に失敗しない。エザルドさんたちを、ちゃんと連れて帰る……!)
同行者の一人、屈強な男が低い声で言った。
「坊主、顔が強張ってるぞ。緊張しすぎだ」
もう一人の、道に詳しい瘦せ型の男も苦笑した。
「まあ、焦るな。ワクビスはもうすぐだ。おめぇ、顔は知られてねえんだろ?なら変に目立たなきゃ、問題はねぇはずさ」
ユーリは小さく頷いたが、心臓の脈は不安で速まる一方だった。
(世間では、師匠は死んだ事になってる……それなのに、生きてて、銀髪になって……本当に、エザルドさんたちが、信じてくれるかな……)
三人は無事ワクビスへ到着した。
そして人混みに紛れ、花街へと足を踏み入れた。
そうして歩みを進める中、やっと目的としていた『木の花』と書かれた色褪せた看板が見えた。
瞬間、ユーリの足が自然と速くなった。
同行者二名を店の出口付近に待たせて、店内に入る。
すると、馴染みのある甘い香りが鼻をつく。
ダキの身体と似た匂い。
カウンターにいた女性が、こちらを見て眉をひそめた。
「誰?新顔ね…どのコースが良いかしら?」
ユーリは深く息を吸い、手紙を彼女に差し出した。
「えっと、エザルドさん……ですか?師匠からの手紙を預かってきました」
「は?アンタだれよ?それに師匠ってなに?あのねぇ…客じゃないなら、帰って欲しいんだけど…こっちは仕事中なの…おわかり?坊や」
「お、俺はユーリといいます。師匠の名は、ダキ」
エザルドの表情が一瞬で凍りついた。
「……は?」
ユーリは言葉を続けた。
「師匠は生きています。銀髪になって、アジトで待っています。みんなを……連れてきてほしいと」
エザルドは渡された手紙を握りしめ、震える声で言った。
「……ふざけないで。私は……あの人…いえ、あのバケモノが焼かれるところを、この目で見たのよ……?そうよ…それこそ、灰になるまで!!……それなのに、生きてるって……どういうこと……?冗談でもそんな事は言わないで!!!」
エザルドはカウンターを手のひらで叩き、そう叫んだ。
店内にいた他の娼婦たちも、ざわつきながら近づいてきた。
「エザルドさんが信じてくれなったらコレを…って」
ユーリはエザルドに木箱を渡した。
彼女はそれをユーリから奪い取り、乱暴に開けた。
中から出てきたのは、明らかに使用済みのパンティーだった。
「……は?いったい何のつもりよ……?」
彼女は一瞬、嫌悪の表情を浮かべたが、次の瞬間だった。
パンティーを鼻に近づけた途端、身体がびくりと震えた。
「ふぐぅ……んんっ!?」
くん…くんくん…
エザルドはパンティーを両手で握り、顔を深く埋めるようにして嗅いだ。
スゥーッ…ハァーッ…
「ん……っ……この匂い……!」
彼女の瞳がとろけ、頰が真っ赤に染まっていく。
「はぁ……っ……あのバカの……このメス臭……くっさ…頭がクラクラする……箱に入れる直前まで履いてたやつね、コレ……このシミがある部分……まだ匂いが残ってる……」
エザルドは我慢できなくなったように、パンティーを鼻と口に押しつけ、深く深く嗅ぎ続けた。
すんっ…すんすんっ…
「んふ……っ……くっさぁ……でも……最高……
この下品で、むせ返るような……あの人の匂い……ああ……やば…頭おかしくなる……」
彼女の太ももが小さく擦れ合い、息が荒く熱を帯びていく。
エザルドはしばらくの間、満足するまでパンティーに顔を埋め、夢中になって匂いを嗅ぎ続けていた。
他の娼婦たちが呆然と見守る中、エザルドはようやく顔を上げ、潤んだ目でユーリを睨んだ。
「……はぁ……はぁ……間違いない……あの女のアソコの匂いよ……ダキは生きてる……本当に生きてるのね……」
彼女はパンティーを胸に押し当て、照れと興奮を隠すように乱暴に言った。
「……ふざけないでよ……死んだと思って散々泣いたのに……こんな下品な証拠で信じさせるとか……ほんっとうに最低な女……」
エザルドは深く息を吐き、決意を固めた声で続けた。
「……行くわよ。あのバカのところに。ただし、条件があるわ。『私たちは慰み者じゃない。娼婦として、ちゃんと対等に扱え』って言うからね」
その日の以降、『木の花』はもぬけの殻となった。