国を変えようとした。
性を持て余す全ての国民にとって、パラダイスのようなドスケベ国家を作りたかった。
性風俗や性表現への規制を強化する、ヤツらが気に入らなかった。
だから性行為が禁忌ではなく、当たり前にある社会を目指した。
あるスポンサーの老人が言った。
「はっはっはっ、貞操観念なんてクソ食らえですか。こりゃまるで、ワシが若い頃にやってたエロゲーにそっくりな舞台設定ですな」
ヤケクソな公約だが同志は既にいたし、支持基盤もあった。
地方議会には、既に信者を議員として何人も潜り込ませている。
事実、その地方の温泉街は花街が復活した。
寂れた観光地は息を吹き返した。
工作員として、美男美女の信者を重要人物に送り込んだのも大きく貢献したが。
SNSでの選挙活動は特に上手くいった。
メディアが放送できないような内容の政権公約を、投稿した動画で明け透けにした。
政見放送も限界ギリギリまで攻めた。
これが大いにウケた。
インターネットでは、私はアイドル的な存在となった。
新興宗教の教祖をやっているし、もはや慣れたものだ。
送り出した地方の候補者は、はじめはイロモノの泡沫候補者扱いだった。
だが、地方における選挙活動の過程で、信者も大幅に増えた。
結果的に、カルト政党である性政党は国政選挙で議席を得た。
我が党の法案提出に対して強硬に反対する議員達には、徹底的に裏工作を仕掛けた。
政治家や官僚、財界人がする夜街での私事など、私に言わせてみれば全てが筒抜けだ。
なぜなら、だいたいの繁華街にある店は私の支持層だから。
法が緩くなれば、彼らも商売がしやすくなる。
我が国の政治家は、第二次大戦期における英国首相のような狡猾さに欠ける。
彼らは我々が仕掛ける裏工作に対して、全くの無防備だ。
秘密を握られ身動きが取れぬ、欲に敗北した愚者どもめ。
骨抜きなった彼らの面は、今でも思い出す程に滑稽なものだった。
私自身のスキャンダル?
はじめから汚れ切っている人間に対して、何のダメージがあろうか。
何なら、私自身が相手を”接待”する事もある。
シン立川流の教祖は、年齢性別不詳なのだ。
政党の代表者プロフィール欄に中年で男性であると、バッチリ記載しているがね。
なぜか会う人たち皆、私の年齢と性別を信じてくれないのだ。
生放送の討論会で、性別を疑われたときは脱いで放送を中断させた事を思い出す。
今となっては、良い思い出だ。
かくして、ぬるい与野党を出し抜いた。
狐のようなズル賢さを持つ、野党とも共闘した。
彼らはマキャベリズムに則った、優秀なインテリジェンスを持つ集団だった。
彼らのおかげもあって、何とか政権を奪い取った。
私の理想とする楽園が、国家単位でやっと実現できる。
そう思ったんだ。
だけど私の代じゃ、ダメだったよ。
腕に覚えのある私でも、銃火器は無理だった。
それでも戦友や同志達によって、間違いなく私の夢は実現されたと思う。
その確信がある。
心残りな事は、そうだな…
私自身が、そのパラダイスを味わえなかった事くらいかな。
♢
田畑がちらほらと見え始めてから、街道沿いに歩くこと数刻。
ようやくワクビスと呼ばれる街に着いた。
周辺を壁に囲まれた立派な都市だ。
門には鎧姿の男性二人が陣取っている。
隠匿スキルのおかげで、人外に見られる事はなかった、最高。
困ったのは、身分証の提示を要求された事くらいかな。
通行手形的なヤツとか持ってないし。
そう言えば、名前を考えていなかった。
なんたる失態。
以前は荼吉夫(たきお)だったし”ダキ”にするか。
ダキニ様を名乗るには、畏れ多いし。
二文字くらい拝借する分には大丈夫でしょ。
ダキと名乗ったのち、守衛には袖の下をくれてやった。
賄賂が通用しないのは、日本の警官くらいだ。
この金はおもに、あの兄妹から拝借したもの。
ありがとう、ウォーラン兄妹よ。
我が胎内で仲睦まじくするが良い、そわかそわか。
守衛二人には賄賂に応じてくれたお礼として、物陰で一人ずつ口で抜いてやった。
この身体になってから、随分と倫理観が薄くなったな。
サキュバスにとって口淫とか、ドライブスルーでハンバーガー食べるようなモンだし構わんけど。
ちょっとお腹減ってきたし、ちょうど良かったわ。
ともあれ、無事に入場。
しかし、まいった。
とにかく道行く人の目を引く。
なぜかって?
スレンダーだった妹さんの服を、バインバインのギャルが着てるからね。
そりゃあパッツンパッツンよ。
後で、体格の良かったお兄さんの服に着替えよう。
はじめからそっちを着れば良かったんだけどね。
すいません興味本位でした、ハイ。
何はともあれ街に到着した私は、短期的なビジョンを大まかに定めた。
・鍛錬
・収入
・食糧源
・住居
間違いなく戦闘力は上げるべきだ。
この世界における命の価値は、私の故郷よりも遥かに低い。
弱いヤツはあっさりと死ぬ。
だから鍛錬が必要だ。
コレについては、冒険者組合に加入して討伐依頼をこなしていくのが王道だそうだ。
モンスターの討伐についても、収入が得られる。
それと魔術についても情報が欲しいから、そのツテも得られるとなお良い。
特に水に関する魔術の習得は急務だ。
理由は後述する。
食事と住まいについてだが、これに関しては一石二鳥の策がある。
実店舗を構える風俗、いわゆる”箱ヘル”だ。
決して箱HELLではない。
いや、搾り尽くして相手を殺せば、その限りでは無いけど。
これを住居兼店舗にしてしまえば、その二つは同時にクリアできる。
副産物として、お金も入るし。
ただ、白昼堂々と看板に「セックスできます!」なんて書くことは出来ない。
風紀という邪魔なヤツが、それを許さないようだ。
だから表向き風呂屋兼マッサージ店として開業する。
そして、風呂屋に必須なのは、お湯。
たくさんの水が要るのだ。
水魔術だれか教えてけれー!
風呂屋の課題は先送りにして。
こういった店を営むにあたり、街の有力者への根回しも忘れてはいけない。
これについては、金か身体…または両方を差し出せば問題なかろう。
さて、とりあえず冒険者にでもなりに行くか。
TIPS:ワクビス
伝説の勇者達が一時期拠点としていた街。
王国と魔族国との交戦中は、前線の砦への兵站拠点としても重要視され大いに栄えた。
平時になって久しい今、その役割は失われつつある。
聖女の施しを受けた有名な娼館があったが、花街そのものが衰え今はその影もない。