昇星は光路にて再会する   作:はくとう

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言うなれば共通編。


昇星は光路にて再会する

 

 

 

『走り抜けた人生、定められた結末、そして独り墜ちる暗路。とても好みだ、こうでなくちゃ』

『と、思っていたんだけどな。より上のモノが再会を望むなら、それもいいか』

『さあ、起きなよ。性悪な観測者はここで退散しよう』

 

 

 

 

 

 

 

 

――ピッ、ピッ、ピッ

 

遠い。何が?分からない。ただ遠い。

 

――ピッ、ピッ、ピッ

 

まだ遠い。何だ、音?もう少し近くに……

 

――ピッ、ピッ、ピッ

 

音、か。電子音、一定、すぐそばから。

 

 

 

「――ッ、はあっ!?」

 

電子音!?なんで聞こえる、なんで呼吸してる!?視界、かなりボヤけてる、けど見覚えのある機器、なんでだ!?

 

――ピッピッピッピッ

 

俺の鼓動にあわせて、電子音が騒ぐ。すぐに扉の開く音と、慌ただしい数人の足音。まだ本調子じゃない五感を刺激する、別れを告げたはずの世界。

俺の周りに集る白っぽい人らが口々に異国の言葉を投げつける。そのほとんどが頭を通り過ぎて抜けていくが、分かったことがひとつある。

 

ああ、マジかよ俺の天運……

 

俺が死の間際に行った無駄な足掻き。命を賭けた0%のギャンブルに、勝ったらしい。

暗路に足を踏み入れ、5年が経とうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜ竜胆ナツメがこうして生きているのか。理由は自分を賭け金に、ある勝負をしていたから。

なんせ異常な生体データだ、この身体のことを研究したい機関は海外にいくつもある。中には()体データすら欲しがるとこもあった。だから俺はそこに賭けてみることにした、どうせ死んでもともとな訳だし。

 

『俺はもうすぐ死ぬから、好きに調べればいい。ただ、特別に身体を提供する代わりにもし俺を生かす道があるなら、数年はその研究をしてくれ』

 

あまりにテキトーで、勝算がない。そもそも機関側が死体との約束を守るメリットがない、死人に口なしだ。一応は「生かす道」に関しての事前説明を受けたものの、興味がなさ過ぎてほとんど憶えてないのが正直なところ。

過剰に成長する内臓(なかみ)が肉体を食い潰す、というのが俺の死因である以上、成長を止め仮死状態にしてその間になにか方法をうんぬんかんぬんどーたらこーたら……もうホントどうでもいいわ。実現可能性は0に等しい言うてたし。

 

なお、俺そのものの研究についてもある程度の決着がついたようで「竜胆ナツメの特異性に再現性や応用性はなく、調べるだけムダ」とのこと。その話を聞いて「再現性応用性があれば人類ウマ化計画とかあったのか?」と少しゾッとした。

ともあれ、俺はもはやほぼお役御免。データ取りついでのリハビリを終えれば、早々に放り出されてしまい途方に暮れる。命こそ繋がったものの、異国の地に身一つ……まあその身がほかの方々とは少々異なるけれども。

 

結局俺のアタマとカラダは壊れたままで、治療法も存在しない。研究者たちは俺の異常に解答を出した訳でなく、言うには「色々やってたらなんか急に臓器の過成長がなくなっただけ」らしい。それでいいのか研究者。

 

「はあ、もういいや。専門家が分からないなら俺が考えたってしょうがない。それよりも……」

 

そう、それよりもだ。俺の脳裏には2人の顔が浮かんでいる。

まずは、母さんに俺のことを伝えなくてはならない。何が何でも再会して今までの身勝手を謝る、これ以上に親不孝を重ねることは絶対にダメだ。

 

そしてもう一人……お互いに最も重要な3年間を駆け抜けた、俺の最愛。

 

「……まずは、どうにか帰国しないとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死ぬほど面倒な数々の手続きを終え、なんとか2か月で帰国できた。その間に母さんへ手紙を送り、無事に空港で再び顔を合わせることが叶った。今は実家で家族2人、これまでとこれからの事を話す時間だ。

俺の5年の事情説明を終えて、身勝手の謝罪をしっかりと受け入れてもらってから、暫しの沈黙。『生きて帰ってきた以上、絶対にしなければならないことの一つ』は終わった。ならば、残ったもう一つは……

 

「会いにいかないの?」

 

静寂を破ってそのまま俺の芯を刺してきた、母強い。

 

「正直、迷ってる」

 

話は聞いている。俺が用意していた手紙(ウソ)は早々に看破されて、祝福したかった最愛のヒトの未来を俺自身が歪めてしまった。それも5年も前のこと……自分の中で膨らむ罪悪感とどう折り合いをつければいいのか分からない。

今更どんな顔で会うというのか、それにもし再会したとして、また彼女の生活を壊すことになるんじゃないか?

このまま静かに暮らしているほうが彼女のためになるなら、それもまた愛情の在り方のように思えてくる。

 

「……ふう。ナツメ、こっち来なさい」

 

「え?あ、うん」

 

母さんに呼ばれ、実家の洗面台に立つ。鏡に映るのは俺と、後ろで呆れているように見える母。

 

「今のナツメはらしくないよ。よ~く鏡を見て思い出してみて……竜胆ナツメがどういう人間か」

 

言われた通りにしっかりと鏡を覗き込む。伸び放題だった髪は一応切ったものの、全然整っていない。毛先や前髪に入れていたお気に入りの赤メッシュも、時の流れと共に抜けた。トレセン学園でバリバリやってた頃と比べて酷いもの。

ただ、久しぶりにこうして「竜胆ナツメ」を真正面から捉えてみると……やっぱり俺は顔と名前がカッコイイ。

 

「ああ……そっか、そうだよな。確かにさっきまでの俺は、竜胆ナツメじゃなかった」

 

どんな顔で会えばいいか分からない?どんな顔してでも会うんだよ。

また生活を壊してしまうかもしれない?もしそうなったら正面切って頭下げんだよ、それが誠意じゃないのか。

離れてる方が彼女の幸せ?竜胆ナツメはそうじゃないよな。

 

俺が隣でいることが一番の幸せになる未来を創る。それでこそ本当の俺だ。

 

「うんうん。自分の息子ながらちょっと引くくらいの自意識だけど、ナツメらしい良い顔になったよ」

 

「だよな、でも俺はこうじゃなきゃ。身の程を弁えるのは他の人に任せる」

 

 

 

数日後、実家の玄関にて準備は完了。身なりはできるだけトレセン学園の時のものに寄せている。白いロンT、黒のフードジャケット、グレーのカーゴパンツ。うわあ、25歳でこれはどうなんだ、学生ファッション感がしゅごい。まあ、今は「俺」だと分かりやすい方がいい。

髪は美容院で切り直して整え、ゆるく遊ばせた柔らかな毛先。赤メッシュも入れて竜胆ナツメ On Fireって感じ。やばーい、恥ずかしくなってきた。いや大丈夫、25なんてまだ全然若いから。顔が良けりゃ何だっていいんだから。

 

「ふぅーーー、よし。そろそろ行くか」

 

気合いを入れろ、竜胆ナツメ。向けられるモノが激昂でも、悲嘆でも、嫌悪でも、無関心でも、真っ向から受け止める。そして、届くはずのなかった未来、3年間のその続きを。

 

「気をつけていってらっしゃい」

 

「あぁ、いってきます」

 

俺の心の真ん中にいる彼女へ、会いに行こう。

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