スキルを自作できるようになった俺、好奇心で世界をリセットし続けたら人類悪になっていた   作:パラレル・ゲーマー

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第13話 神との謁見

 夜の闇に包まれた霞が関は、今や、巨大な戦場の跡地と化していた。

 ひしゃげた装甲車両から立ち上る黒煙。アスファルトに刻まれた、おびただしい数のクレーター。そして、その中心で、異形の樹木に拘束され、ぐったりと意識を失っている「怪物」――鬼頭(きとう) 丈二。

 その異様な光景を、何重もの非常線を張った警察の機動隊が、遠巻きに、そして恐怖と畏怖の入り混じった目で見つめていた。彼らの誇る武力も、秩序も、たった一人の男に蹂躙された。そして、その男を、さらに訳の分からない、謎の少年が、訳の分からない力でねじ伏せた。

 彼らの脳は、この現実離れした出来事を、まだ処理しきれずにいた。

 

 混乱の中心、即席で設営された現場指揮本部のテントの中では、さらに濃密な混乱が渦巻いていた。

 神崎(かんざき) 勇気は、パイプ椅子に座らされ、数名の刑事に囲まれていた。その中には、この国の秩序を根底から揺るがす、この未曾有の事態に対応するため、急遽トップに就任した、内閣官房・超常事態対策室室長、黒田の姿もあった。

 勇気は、疲労困憊だった。万能者の器(ばんのうのうつわ)の力で、二つのスキルを同時に、しかも限界を超えて行使した代償は、彼の肉体と精神を、容赦なく蝕んでいた。だが、彼は、目の前の大人たちが向ける、厳しい視線から、逃げることはできなかった。

 

「……単刀直入に聞く、神崎勇気君。君は、一体何者だ?」

 

 黒田の、鋭く、そして重い問いが、テントの中の空気を震わせた。

 勇気は、乾いた唇を舐め、正直に、知っていることの全てを話すしかなかった。

 

「……僕は、ただの高校生です。でも、一週間くらい前に……」

 

 彼は、あの日の出来事を、懸命に説明した。

 電車の中で見た、不思議な夢。自らを「スキル神」と名乗る、謎の存在。そして、授けられた、SS級のスキル万能者の器(ばんのうのうつわ)

 にわかに信じがたい、荒唐無稽な話。勇気自身、説明しながら、これは本当に現実の出来事なのだろうか、と、改めて自問せずにはいられなかった。

 案の定、刑事たちは、その証言を聞いて、騒然となった。

 

「スキル神、だと……?」

「馬鹿な……。スキルの出所は、やはり、何者かの意図によるものだったというのか……」

「少年、君は疲れているんだ。幻覚を見ていた、という可能性は……」

 

 刑事の一人が、そう言いかけた、その時だった。

 テントの中の空気が、ふっと、軽くなった。いや、密度が変わった、というべきか。照明が、一瞬、瞬き、全ての電子機器から、微かなノイズが走った。

 そして、何の前触れもなく、テントの中央、勇気と刑事たちの間に、それ、は、現れた。

 星々のきらめきを織り込んだかのような、深い闇色のローブ。顔は、フードの影に隠れて見えない。物理的な質量を持っているとは思えない、どこか揺らいだ輪郭。

 夢の中で見た、あの超越的な存在。

 スキル神、その人だった。

 

「――うむ。ホントじゃぞ」

 

 その声は、男でも女でもなく、老いても若くもなく、ただ、空間そのものが響いているかのような、不思議な音色を持っていた。

「なっ……!?」

「何だ、貴様は!」

「銃を捨てろ! 動くな!」

 刑事たちが、一斉に腰の拳銃を抜き、その謎の存在に銃口を向ける。だが、スキル神は、その殺気立った雰囲気など、意にも介していないようだった。

 ただ一人、勇気だけが、その出現に、安堵と喜びの声を上げた。

 

「うわーっ! スキル神さん! 来てくれたんですね!」

 

 その無邪気な声に、スキル神は、僅かに、頷いたように見えた。

 

「うむ。戦いは、見ていたぞ、少年」

 

 スキル神は、勇気に向かって、語りかける。その声には、どこか、教え子の成長を喜ぶ、教師のような響きがあった。

 

「コピーした能力を、ただ使うだけではなく、組み合わせ、応用する。その発想、見事であった。よく、あの怪物を、止めたものじゃ」

「えへへ……ありがとうございます」

 

 勇気は、照れ臭そうに頭を掻いた。

 だが、その二人だけの世界を、黒田の、鋼のような声が、断ち切った。

 

「……あー……失礼。あなたが、『スキル神』、ということで、よろしいか?」

 

 黒田は、銃こそ抜いていないが、その全身から、一切の隙を感じさせない、極度の緊張感を放っていた。目の前の存在が、この一連の事件の、全ての元凶である可能性が高い。彼の脳は、神速で、この状況をどう処理すべきか、シミュレーションを繰り返していた。

 

「……我々、日本政府として、あなたに、詳しく話を聞きたいのですが……?」

 

 黒田の問いに、スキル神は、やれやれ、といった風に、首を振ったように見えた。

 

「うーむ……。ワシも、これでも忙しくてのう」

 

 その言葉は、空木零の、本心でもあった。彼は、この茶番を、あまり長引かせるつもりはなかった。だが、ここで、決定的な「情報」を、彼らに与えておく必要があった。彼の実験を、より面白く、より複雑にするための、神による、筋書きの提供。

 

「ワシは、今、色々な者に、スキルを配って回っておるのじゃ。善なる者に、力を与え、この世界の均衡を保つために、の」

「……均衡? それは、どういう意味ですかな」

 黒田の問いに、スキル神は、重々しく、そして、用意していた「嘘」を、語り始めた。

 

「――悪人に、あやつが、スキルを渡し始めたのじゃ」

 

「……あやつ?」

 

「そうじゃ。ワシと同じ、あるいは、それ以上の力を持つ、もう一人の『神』。じゃが、そやつは、ワシとは違う。ただ、混沌と、破壊と、悪意だけを、この世界にばら撒こうとしておる。お主たちが『鬼神(きじん)』と呼んだ、あの哀れな男も、その被害者の一人に過ぎん」

 

 スキル神――空木零は、架空の「邪神」を、この場に創り出した。

 全ての悪意の根源。全てのカオスの元凶。

 そして、自らを、それに対抗するために、善人に力を与える、もう一方の「善神」として、位置づけた。

 なんと、都合の良い、そして、人間が飛びつきやすい、物語だろうか。

 その、あまりに突飛で、しかし、妙な説得力を持つ言葉に、刑事たちは、完全に思考を停止させていた。

 神々の、代理戦争。そして、人間は、その駒。

 自分たちが、今、そういう、壮大な物語の、当事者になっている。

 黒田もまた、その衝撃的な「真実」に、言葉を失っていた。だが、彼は、すぐに我に返った。これが本当なら、一刻の猶予もない。

 

「……対抗、できる者を、増やさなければ、と言うわけですかな」

「うむ。その通りじゃ。故に、ワシは忙しい」

 

 スキル神が、すっと、その姿を消そうとする。

 その瞬間、黒田の隣にいた、ベテランの刑事が、必死の形相で、叫んだ。

 

「お、お待ちください!」

「……なんじゃ」

「そ、そのお話、あまりに、我々だけでは……! すみません、どうか、10分で、いえ、5分で結構ですので! 我々の、上長の前で、ご説明をお願いできないでしょうか!」

 

 その刑事の目には、涙が浮かんでいた。それは、この国の未来を憂う、偽りのない、魂の叫びだった。

 空木零は、その必死の形相を、フードの奥から、冷たく、そして面白そうに、観察していた。

 よし、食いついた。

 これで、彼の存在は、日本政府にとって、「敵」ではなく、「協力すべき、未知の超常存在」へと、その立ち位置を変えるだろう。実に、都合がいい。

 

 スキル神は、少しだけ、考える素振りを見せた後、やれやれ、といった風に、頷いた。

 

「……うむ、よろしい。今回、少年の見事な働きに免じて、少しだけ、時間をくれてやろう。では、行こうか」

 

 そして、スキル神は、まだ状況が飲み込めていない、勇気の方を向いた。

 

「――少年。お前も、付いて来なさい」

「え、僕もですか!?」

「当たり前じゃ。お主は、ワシが選んだ、人間側の代表の一人。お主が、これからの戦いの、希望の星となるのじゃからな」

 

 その、大仰で、しかし、勇気の心をくすぐる言葉。

 スキル神は、勇気の肩に、そっと、その実体のない手を置いた。

 そして、黒田たちが、何かを言うよりも早く、二人の姿は、きらめく光の粒子となって、その場から、忽然と、消え去った。

 残されたのは、静まり返ったテントと、呆然と立ち尽くす、刑事たちだけだった。

 

 黒田は、しばらくの間、二人が消えた空間を、ただ、見つめていた。

 そして、ゆっくりと、自分の懐から、官邸の総理執務室へと繋がる、最高機密レベルの、衛星携帯電話を取り出した。

 彼の指は、僅かに、震えていた。

 だが、その声は、驚くほど、冷静だった。

 

「……室長の黒田だ。総理に、繋いでくれ。……ああ、緊急事態だ。……『ソース』が、……そうだ、『神』が、我々の前に、姿を現した」

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