スキルを自作できるようになった俺、好奇心で世界をリセットし続けたら人類悪になっていた 作:パラレル・ゲーマー
彼の目の前の巨大なモニター群は、今や、世界の混沌を映し出す、神の窓となっていた。その中心で、最も大きく表示されているのは、アメリカ合衆国、コロラド州の、荒涼とした大地。そこでは、ほんの十数時間前に、彼が解き放った「悪のカリスマ」――ケイン・コールドウェルと、彼が率いるテロ組織『
ケインのスキル、
「……うん。実に、いい仕事をしている」
零は、カップ焼きそばの最後の一口を啜りながら、満足げに呟いた。
ケインという「魔王」は、彼の遊戯盤を、大いに盛り上げてくれている。彼という、絶対的な悪意の存在によって、世界中の、バラバラだった「悪」のアルターたちが、一つの旗印の下に、集い始めているのだ。
だが、零は、同時に、ある種の「物足りなさ」も感じていた。
ゲームにおいて、あまりに強すぎるボスキャラクターは、プレイヤーの意欲を削ぐ。物語において、乗り越えられない絶望は、読者を退屈させる。
彼の「実験」も、同じだった。
このままでは、ケインとその軍勢が、世界を蹂躙して、それで終わりだ。それでは、面白くない。
「魔王」には、それに対抗しうる、「勇者」が、必要不可欠なのだ。
「……アメリカに巨悪が誕生したし。次は、善を仕込むか」
彼は、日本の
SS級スキル、
何より、ケインの、あの「触れるだけで、全てを奪う」という能力。
あれは、勇気や、日本の
ならば、答えは一つ。
「相手が、触れるとドレイン……か。ならば、そもそも、触れさせなければいい。触れられない能力が良いかな」
零の脳内で、新たなスキルのコンセプトが、練り上げられていく。
あらゆる攻撃、あらゆる物理干渉を、その身に届く前に、無効化する、絶対的な「防御」。
「全てのベクトルを制御出来て、触れる物体を反射出来る、無敵の能力にしようかな」
それは、ただのバリアではない。運動量、熱量、光、音、ありとあらゆる、方向性を持つエネルギー――「ベクトル」そのものを、完全に操作する力。
銃弾は、撃った本人に、そのまま跳ね返る。
殴りかかってきた相手は、その拳の力で、自らが、宇宙の果てまで吹き飛ぶ。
触れることすら、許されない。まさに、神の領域。
「じゃあ、それっぽい能力を作って、と」
零は、目を閉じ、その、あまりに強力なスキルを、こともなげに、創造した。
▶ スキル創造:【
▶ ランク:SS
▶ 効果:術者の周囲に、自動的に、不可視のベクトル制御フィールドを展開する。術者に向けられる、あらゆる物理的・エネルギー的ベクトルを、任意に、反射、屈折、あるいは、無効化する。
さて、と。
この、規格外の「盾」を、誰に与えるか。
「そして、誰に上げるか、だな」
零は、再び、
ケインという「死」を司る王に対抗するには、それに相応しい、背景を持つ者がいい。
強靭な肉体を持つ、軍人や、アスリートでは、面白みに欠ける。
その対極。
死を、誰よりも身近に感じている者。生きることを、誰よりも渇望している者。
「うーん……難病の、18歳の青年で良いかな」
その方が、ドラマチックだ。
絶望の淵にいる人間に、奇跡と、そして、使命を与える。これほど、人間を、劇的に変貌させるシナリオは、ないだろう。
「ついでに、難病も治して、『悪を倒すのだ』と吹き込もう。よし、じゃあ、探して、と」
彼の意識は、全世界の医療データベースを、瞬時にスキャンする。
そして、一人、完璧な候補者を、見つけ出した。
アメリカ、アリゾナ州のホスピス。
ジョシュア・レヴィン。18歳。
彼は、進行性の筋ジストロフィーを患い、医師からは、余命一年を宣告されていた。かつては、天文学者になることを夢見ていたが、今では、ベッドの上から、天井を眺めることしかできない。
だが、その瞳の奥には、諦念の中にも、まだ、知性の光が宿っていた。
「よし、みつけた。じゃあ、接触、と」
零は、あの、光り輝く、神々しい「スキル神」のアバターを、その身に纏った。
◇
アリゾナの、乾いた空気。
ホスピスの一室は、消毒液の匂いと、静かな諦観で、満たされていた。
ジョシュアは、ベッドの上で、ただ、窓の外を眺めていた。自分の身体は、もはや、自分の意志通りには動かない。呼吸すら、時折、苦しくなる。
死。
それが、すぐ、そこまで来ている。
彼は、恐怖も、悲しみも通り越し、ただ、無感動に、その事実を、受け入れていた。
その時だった。
部屋の、何もない空間が、柔らかな、温かい光で、満たされた。
なんだ? 薬の、副作用による幻覚か?
彼が、そう思った瞬間、光の中心に、人影が、ゆっくりと、形を結んだ。
白いローブをまとった、性別も、年齢も、超越したかのような、神々しい存在。
『――ジョシュア・レヴィン』
その声は、彼の脳内に、直接、響き渡った。
「……誰だ」
ジョシュアは、驚くこともなく、ただ、静かに、問いかけた。もう、何も、彼を驚かせることはなかった。
『ワシは、スキル神じゃ。今、アメリカで、巨悪が目覚めた。世界の均衡を保つために、お主に、善として、働いて欲しい』
その、あまりに唐突な言葉に、ジョシュアは、ふっと、力なく笑った。
「……善? 悪いが、人選ミスだ。見ての通り、俺は、難病で、もう一年も生きられないと、言われてるぜ。済まないな、爺さん」
その、達観しきった若者の言葉に、スキル神は、静かに、首を振った。
『――うむ。その難病は、既に、ワシが治したぞ』
「は?」
「いえっ……!」
ジョシュアが、そう叫んだのは、言葉によるものではなく、彼の身体が、先に、反応したからだった。
奇跡が、起きていた。
彼の、萎縮し、硬直していたはずの筋肉が、内側から、生命力で満たされていく。指先が、ぴくり、と動く。腕が、上がる。
あんなに、苦しかった呼吸が、嘘のように、楽になっている。
彼は、恐る恐る、ベッドから上半身を起こした。そして、自分の足で、一年ぶりに、床の上に立った。
立てた。
自分の足で。
「……ほんとだ……身体が、自由に、動く……!」
涙が、彼の頬を、止めどなく伝った。忘れていた、健康な身体の感覚。生きている、という実感。
『うむ。これで、善として、働いて貰えるかのう?』
スキル神が、再び、問いかける。
ジョシュアは、その場に、深く、ひざまずいた。そして、感謝と、そして、新たに生まれた、燃えるような使命感と共に、叫んだ。
「――はい! もちろん! その使命、この命に代えても、果たして見せます!」
その力強い誓いを、スキル神は、満足げに、受け止めた。
彼は、ジョシュアの額に、その光の指を、そっと、触れさせた。
『うむ。良い返事じゃ。じゃが、その力、最初は、制御が大変じゃからな。いきなり外に飛び出したりせず、まずは、その力を理解し、勉強するんじゃぞ。ではな』
その言葉を最後に、スキル神の姿は、部屋を満たしていた温かい光と共に、すっと、消え去った。
残されたのは、完全に健康な肉体と、神の如き「絶対防御」の力を手に入れた、一人の青年だけだった。
彼は、自分の両の拳を、固く、握りしめた。
絶望の淵から、希望の、光の戦士へ。
アメリカに魔王が生まれたその日に、奇しくも、もう一人の、規格外の存在が、産声を上げた。