スキルを自作できるようになった俺、好奇心で世界をリセットし続けたら人類悪になっていた   作:パラレル・ゲーマー

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第17話 白き駒、奇跡の受肉

 空木(うつぎ) 零の部屋の時計が、無機質に、時を刻んでいた。

 彼の目の前の巨大なモニター群は、今や、世界の混沌を映し出す、神の窓となっていた。その中心で、最も大きく表示されているのは、アメリカ合衆国、コロラド州の、荒涼とした大地。そこでは、ほんの十数時間前に、彼が解き放った「悪のカリスマ」――ケイン・コールドウェルと、彼が率いるテロ組織『終末の使徒(アポストル・オブ・ジ・エンド)』が、州兵の部隊を赤子の手をひねるように蹂躙し、その勢力を、雪だるま式に拡大させていた。

 ケインのスキル、王権強奪・賦与(キング・ドレイン)は、零の想定以上に、凶悪な性能を発揮していた。彼は、敵対するアルターや、屈強な兵士たちから、その力と生命力を吸い上げ、自らを強化し続ける。そして、そのおこぼれを、忠誠を誓った下僕たちに分け与えることで、彼の軍勢は、質、量ともに、指数関数的に増大していた。

 

「……うん。実に、いい仕事をしている」

 

 零は、カップ焼きそばの最後の一口を啜りながら、満足げに呟いた。

 ケインという「魔王」は、彼の遊戯盤を、大いに盛り上げてくれている。彼という、絶対的な悪意の存在によって、世界中の、バラバラだった「悪」のアルターたちが、一つの旗印の下に、集い始めているのだ。

 だが、零は、同時に、ある種の「物足りなさ」も感じていた。

 ゲームにおいて、あまりに強すぎるボスキャラクターは、プレイヤーの意欲を削ぐ。物語において、乗り越えられない絶望は、読者を退屈させる。

 彼の「実験」も、同じだった。

 このままでは、ケインとその軍勢が、世界を蹂躙して、それで終わりだ。それでは、面白くない。

 「魔王」には、それに対抗しうる、「勇者」が、必要不可欠なのだ。

 

「……アメリカに巨悪が誕生したし。次は、善を仕込むか」

 

 彼は、日本の神崎(かんざき) 勇気に、思いを馳せた。

 SS級スキル、万能者の器(ばんのうのうつわ)を持つ彼は、確かに、人類側の最大の希望だ。だが、彼は、まだ若すぎる。そして、彼の能力は、あまりに万能すぎるが故に、ピーキーでもある。

 何より、ケインの、あの「触れるだけで、全てを奪う」という能力。

 あれは、勇気や、日本の鬼頭(きとう)のような、近接戦闘を主体とするタイプの、天敵とも言える能力だった。

 ならば、答えは一つ。

 

「相手が、触れるとドレイン……か。ならば、そもそも、触れさせなければいい。触れられない能力が良いかな」

 

 零の脳内で、新たなスキルのコンセプトが、練り上げられていく。

 あらゆる攻撃、あらゆる物理干渉を、その身に届く前に、無効化する、絶対的な「防御」。

 

「全てのベクトルを制御出来て、触れる物体を反射出来る、無敵の能力にしようかな」

 

 それは、ただのバリアではない。運動量、熱量、光、音、ありとあらゆる、方向性を持つエネルギー――「ベクトル」そのものを、完全に操作する力。

 銃弾は、撃った本人に、そのまま跳ね返る。

 殴りかかってきた相手は、その拳の力で、自らが、宇宙の果てまで吹き飛ぶ。

 触れることすら、許されない。まさに、神の領域。

 

「じゃあ、それっぽい能力を作って、と」

 

 零は、目を閉じ、その、あまりに強力なスキルを、こともなげに、創造した。

 

▶ スキル創造:【絶対領域(パーフェクト・リフレクション)

▶ ランク:SS

▶ 効果:術者の周囲に、自動的に、不可視のベクトル制御フィールドを展開する。術者に向けられる、あらゆる物理的・エネルギー的ベクトルを、任意に、反射、屈折、あるいは、無効化する。

 

 さて、と。

 この、規格外の「盾」を、誰に与えるか。

 

「そして、誰に上げるか、だな」

 

 零は、再び、電子世界の神(デジタル・ゴッド)の力で、候補者の検索を、開始した。

 ケインという「死」を司る王に対抗するには、それに相応しい、背景を持つ者がいい。

 強靭な肉体を持つ、軍人や、アスリートでは、面白みに欠ける。

 その対極。

 死を、誰よりも身近に感じている者。生きることを、誰よりも渇望している者。

 

「うーん……難病の、18歳の青年で良いかな」

 

 その方が、ドラマチックだ。

 絶望の淵にいる人間に、奇跡と、そして、使命を与える。これほど、人間を、劇的に変貌させるシナリオは、ないだろう。

 

「ついでに、難病も治して、『悪を倒すのだ』と吹き込もう。よし、じゃあ、探して、と」

 

 彼の意識は、全世界の医療データベースを、瞬時にスキャンする。

 そして、一人、完璧な候補者を、見つけ出した。

 アメリカ、アリゾナ州のホスピス。

 ジョシュア・レヴィン。18歳。

 彼は、進行性の筋ジストロフィーを患い、医師からは、余命一年を宣告されていた。かつては、天文学者になることを夢見ていたが、今では、ベッドの上から、天井を眺めることしかできない。

 だが、その瞳の奥には、諦念の中にも、まだ、知性の光が宿っていた。

 

「よし、みつけた。じゃあ、接触、と」

 

 零は、あの、光り輝く、神々しい「スキル神」のアバターを、その身に纏った。

 

     ◇

 

 アリゾナの、乾いた空気。

 ホスピスの一室は、消毒液の匂いと、静かな諦観で、満たされていた。

 ジョシュアは、ベッドの上で、ただ、窓の外を眺めていた。自分の身体は、もはや、自分の意志通りには動かない。呼吸すら、時折、苦しくなる。

 死。

 それが、すぐ、そこまで来ている。

 彼は、恐怖も、悲しみも通り越し、ただ、無感動に、その事実を、受け入れていた。

 その時だった。

 部屋の、何もない空間が、柔らかな、温かい光で、満たされた。

 なんだ? 薬の、副作用による幻覚か?

 彼が、そう思った瞬間、光の中心に、人影が、ゆっくりと、形を結んだ。

 白いローブをまとった、性別も、年齢も、超越したかのような、神々しい存在。

 

『――ジョシュア・レヴィン』

 

 その声は、彼の脳内に、直接、響き渡った。

 

「……誰だ」

 ジョシュアは、驚くこともなく、ただ、静かに、問いかけた。もう、何も、彼を驚かせることはなかった。

 

『ワシは、スキル神じゃ。今、アメリカで、巨悪が目覚めた。世界の均衡を保つために、お主に、善として、働いて欲しい』

 

 その、あまりに唐突な言葉に、ジョシュアは、ふっと、力なく笑った。

 

「……善? 悪いが、人選ミスだ。見ての通り、俺は、難病で、もう一年も生きられないと、言われてるぜ。済まないな、爺さん」

 

 その、達観しきった若者の言葉に、スキル神は、静かに、首を振った。

 

『――うむ。その難病は、既に、ワシが治したぞ』

 

「は?」

「いえっ……!」

 ジョシュアが、そう叫んだのは、言葉によるものではなく、彼の身体が、先に、反応したからだった。

 奇跡が、起きていた。

 彼の、萎縮し、硬直していたはずの筋肉が、内側から、生命力で満たされていく。指先が、ぴくり、と動く。腕が、上がる。

 あんなに、苦しかった呼吸が、嘘のように、楽になっている。

 彼は、恐る恐る、ベッドから上半身を起こした。そして、自分の足で、一年ぶりに、床の上に立った。

 立てた。

 自分の足で。

 

「……ほんとだ……身体が、自由に、動く……!」

 

 涙が、彼の頬を、止めどなく伝った。忘れていた、健康な身体の感覚。生きている、という実感。

 

『うむ。これで、善として、働いて貰えるかのう?』

 

 スキル神が、再び、問いかける。

 ジョシュアは、その場に、深く、ひざまずいた。そして、感謝と、そして、新たに生まれた、燃えるような使命感と共に、叫んだ。

 

「――はい! もちろん! その使命、この命に代えても、果たして見せます!」

 

 その力強い誓いを、スキル神は、満足げに、受け止めた。

 彼は、ジョシュアの額に、その光の指を、そっと、触れさせた。

 絶対領域(パーフェクト・リフレクション)の、膨大な情報が、彼の魂へと、流れ込んでいく。

 

『うむ。良い返事じゃ。じゃが、その力、最初は、制御が大変じゃからな。いきなり外に飛び出したりせず、まずは、その力を理解し、勉強するんじゃぞ。ではな』

 

 その言葉を最後に、スキル神の姿は、部屋を満たしていた温かい光と共に、すっと、消え去った。

 残されたのは、完全に健康な肉体と、神の如き「絶対防御」の力を手に入れた、一人の青年だけだった。

 彼は、自分の両の拳を、固く、握りしめた。

 絶望の淵から、希望の、光の戦士へ。

 アメリカに魔王が生まれたその日に、奇しくも、もう一人の、規格外の存在が、産声を上げた。

 空木(うつぎ) 零の遊戯盤の上で、白と、黒のキングが、ようやく、その位置についた瞬間だった。

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