スキルを自作できるようになった俺、好奇心で世界をリセットし続けたら人類悪になっていた   作:パラレル・ゲーマー

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第4話 神託と、次なる一手

 無限の時間が流れる、星々の海。

 無名の男子学生は、自らを「スキル神」と名乗る、人ならざる存在と対峙していた。現実の時間は止められていると告げられ、彼は途方もない思考の海へと投げ出される。

 どんなスキルが良いか?

 その問いは、彼の脳内で万華鏡のように様々な欲望を映し出した。

 天を衝く巨人のような力が欲しいか? いや、そんなものを手に入れてどうする。怪獣映画の主役でもあるまいし。

 億万の富を生み出す力が欲しいか? 確かに魅力的だ。一生遊んで暮らせる。だが、あまりに即物的で、夢がない気もする。

 あらゆる異性を虜にする力が欲しいか? それは……かなり、いや、ものすごく魅力的だ。だが、もしこれが本当に夢だとしたら、目が覚めた時の虚しさは計り知れない。

 思考が巡り、堂々巡りを繰り返す。だが、彼の思考はある一点で奇妙な冷静さを取り戻した。

(……そうだ。どうせ、これは夢だ)

 こんな非現実的なことがあるものか。神を名乗る怪しいやつが現れて、スキルをくれる? 馬鹿げている。これはきっと、昨夜遅くまでやり込んだゲームの影響で見ている、長くてリアルなだけの夢に違いない。

 そう結論付けた瞬間、彼の心は軽くなった。

 夢ならば、選択はもっと自由でいい。もっと、クレバーで、面白いものがいい。ゲームの主人公なら、ここで何を選ぶだろうか?

 炎や氷の魔法? 一時的には楽しいだろうが、応用が利かない。単純な身体強化? それも芸がない。

 そうだ、ゲームで一番面白いのは、敵の技をラーニングしたり、様々なジョブをマスターしていく、そういうトリッキーで、可能性に満ちたキャラクターだ。

 ならば、答えは一つ。

 

「……スキルを、コピーする能力がいいです」

 

 学生は、意を決してそう告げた。そして、少しだけ悪戯心が湧いて、こう付け加えた。

 

「どうせ夢ですし、そういうのが一番、面白そうなので」

 

 その答えを聞いた瞬間、スキル神――そのアバターの中にいる空木(うつぎ) 零は、思わず笑みを漏らした。その笑いは、フードの奥から、くぐもった、しかし確かな響きをもって空間に広がった。学生は、その響きに人間的な温かみが一切ないことに、僅かな寒気を覚えた。

 

「――うむ。スキルコピー系、か」

 

 スキル神は、楽しそうに頷いた。

 面白い。実に面白い。被験者第一号は、空木零の想像以上に「分かっている」人間らしい。ただ目の前の欲望に飛びつくのではなく、未来の可能性に投資する。なんと素晴らしい実験対象だろうか。

 元々、零は彼にコピー系のスキルを与えるつもりだったが、彼自身がそれを望んだという事実は、この実験の幸先の良さを示しているようだった。

 

「良いだろう。汝の望み、聞き届けた。我が直々に、汝のためだけのスキルを創造してやろう」

 

 スキル神が、すっと片手を天に掲げる。その宣言に、学生は「え、今から作るの?」と呆気に取られた。

 次の瞬間、世界の全てが光に塗り潰された。

 

「――はっ!」

 

 スキル神の短い気合と共に、その掲げられた掌の上に、太陽よりも眩しい光の球体が生まれる。それは、星々がその輝きを失うほどの、圧倒的な光量。空間が、いや、世界の法則そのものが、その一点を中心に軋みを上げているかのような錯覚を、学生は覚えた。

 光の球体は、やがて複雑な幾何学模様をその内部に描き出しながら、ゆっくりと収縮していく。まるで、一つの宇宙が生まれ、そして完成していく過程を、早送りで見せられているかのようだった。

 

「よし、出来た」

 

 スキル神がこともなげに言うと、光はすっと消え、その手には、水晶のような透明な珠が握られていた。珠の内部には、銀河が渦巻いているように見えた。

 

「では、授けるぞ」

 

 スキル神が、その珠を学生に向かって差し出す。珠は、ふわりと浮き上がると、真っ直ぐに学生の胸へと飛んでいき、その身体に吸い込まれるように消えた。

 途端に、凄まじい量の情報と、そして得体の知れない全能感が、学生の魂に直接刻み込まれる。

 

「ぐっ……あ……!」

 

「そのスキルは、万能者の器(ばんのうのうつわ)。SS級の、規格外のスキルじゃ」

 

 スキル神の声が、頭の中に直接響く。

 

「最初は空っぽで、何の役にも立たぬだろう。じゃが、他者のスキルをその目で見るたび、汝はそれを己が力として、無限に蓄えていくことができる。そうして、いずれは万能の存在へと至るであろう。……せいぜい、励むが良い」

 

 学生は、あまりの情報量に膝を突きそうになりながらも、必死に顔を上げた。

 スキル神の姿が、少しずつ薄れ始めている。

 

「あ、あの……!」

 

「ちなみに、夢じゃないからの」

 

 スキル神は、悪戯っぽくそう言った。

 

「もし、疑うのであれば、現実に戻った後、心の中で『スキルリスト』と念じてみるが良い。我が、ささやかな贈り物として、汝が自らの力を確認する術も与えておいた。……では、またの」

 

 その言葉を最後に、スキル神の姿は完全に消え去った。

 途端に、星々の世界が、まるでガラス細工のように砕け散っていく。

 

     ◇

 

「――次は、終点、池袋、池袋。お忘れ物のないよう、ご注意ください」

 

 車掌の、気の抜けたアナウンスで、学生ははっと我に返った。

 ガタン、ゴトン。聞き慣れた電車の走行音。窓から差し込む、生温い太陽の光。周囲には、スマホをいじる人々。

 いつもの、見慣れた日常だった。

 

「……うーん、変な夢だった……」

 

 彼は、寝ぼけ眼をこすりながら呟いた。スキル神? 万能者の器(ばんのうのうつわ)? あまりにリアルだったが、やはり夢は夢だ。SS級、なんて、いかにも自分が考えそうな設定だ。

 だが、彼の心の片隅に、神の最後の言葉が、妙に引っかかっていた。

 

(……スキルリスト、と念じると、スキル一覧が出る……?)

 

 馬鹿馬鹿しい。そう思いながらも、彼は試さずにはいられなかった。

 どうせ誰も見ていない。心の中で思うだけだ。

 

(……スキルリスト)

 

 祈るでもなく、念じるでもなく、ただ、単語を思い浮かべる。

 その瞬間。

 彼の目の前、満員電車の乗客たちの頭越しに、半透明のウィンドウが、音もなく現れた。

 

▼ 保有スキル一覧(計:2)

1.【万能者の器(ばんのうのうつわ)】ランク:SS

2.【スキル一覧】ランク:F

 

「………………は?」

 

 心臓が、喉から飛び出そうになった。

 学生は、目をゴシゴシと擦り、もう一度見た。だが、それは消えない。確かに、そこにある。ゲームのステータス画面のようなウィンドウが、現実空間に浮かんでいる。

 彼は、慌てて周囲を見回した。だが、他の乗客たちは、誰一人として、この異常な現象に気づいた様子はない。どうやら、これは自分にしか見えないらしい。

 

「うそ……だろ……」

 

 冷や汗が、背中を伝う。

 夢じゃ、なかった。

 あの神は、本物だった。自分は、本当に、スキルを授かったのだ。

 恐怖と、そして、それを遥かに上回る、凄まじい興奮が、彼の全身を駆け巡った。

 彼の退屈だった日常が、今、確かに終わりを告げた。

 

     ◇

 

 その頃、空木零は、自室のモニターに映し出された、山手線の車内カメラの映像を眺めていた。そこには、驚愕と興奮の表情で固まっている、被験者第一号の姿がはっきりと映し出されていた。

 

「ふむ。初期接触、及びスキル付与は成功、と。反応も上々。面白いデータが取れそうだ」

 

 彼は、誰に言うでもなく、淡々と呟いた。まるで、実験の経過を報告書にまとめる研究者のように。

 一人の少年の人生を、根底から覆しておきながら、彼の心には何の感情の波も立っていない。それは、彼にとって、シミュレーションゲームのNPCに、レアアイテムを与えた程度の行為でしかなかった。

 

「うーん、いいことをしたし、次はヴィランでも作ろうかな」

 

 彼の言う「いいこと」とは、少年に無限の可能性を与えた、という彼なりの解釈だった。そして、物語には光と闇、秩序と混沌、ヒーローとヴィランが必要だ、と彼は考えていた。その方が、観測していて面白いからだ。

 彼は、自分の作った「ヒーロー候補」が、今後どのような成長を遂げるか、それを想像し、口元に僅かな笑みを浮かべた。だが、その成長を促すためには、敵役、すなわち「ヴィラン」の存在が不可欠だった。

 

「どうしようかな……。一人一人、夢に現れて、悪の道に誘うのも面倒くさいな」

 

 彼の本質は、やはり面倒くさがりだった。神の如き力を持とうと、その根っこは変わらない。

 もっと効率的で、自動的で、そして彼の「悪趣味」を満たすような方法はないか。

 彼の視線が、モニターの片隅に表示されている、ウェブ広告に留まった。

 

「……そうか。広告でいいか」

 

 悪人の前にだけ、都合よく現れる、魔法の広告。なんと素晴らしいアイデアだろう。

 

「身体が透明になるスキルや、お札をコピーする程度の能力……うん、そういう、小物感溢れるスキルをどんどん配ろう」

 

 彼は、早速新たなスキルの創造に取り掛かった。

 

▶ 要求概念:『特定対象への限定的広告配信及びスキル付与』

▶ 機能分析:全世界のネットワークを監視し、特定のパラメータ(犯罪歴、検索履歴、SNSでの発言内容などから『悪性』と判断された個人)にのみ、広告としてスキル付与の選択肢を提示する。

▶ スキル生成を開始します。

『スキルを作成しました:【悪意の選別・欲望広告(イーヴィル・アドバタイザー)】ランク:SSS』

 

 そして、彼はその広告の内容をデザインし始めた。

 表示されるのは、シンプルで、しかし人間の根源的な欲望を刺激する、こんな言葉。

 

「――欲望を、開放したくないか?――」

 

 この誘い文句を、《電子世界の神》の力を使って、瞬時に世界中のあらゆる言語に翻訳し、ばらまく。広告をクリックした者の前には、いくつかの選択肢が現れる。

 

▼ あなたの欲望を叶える力を選べ

・【錠前開錠(ロックピック)】ランク:F

・【軽度の透明化(ステルス)】ランク:F

・【紙幣複写(ペーパーコピー)】ランク:F

・etc...

 

 どれも、大きな悪事はできないが、しかし確実に人を堕落させるには十分な、小物たちのためのスキルだ。

 

「よし、これで行こう。じゃあ、広告を設定して、と。内容は……これでいいな。これを、様々な言語で、世界中にばらまいて……と」

 

 彼の指が、キーボードの上を踊る。いや、実際には指一本動かしていない。彼の意識が、神の速さで、全世界のネットワークに、この悪意に満ちた「罠」を仕掛けていく。

 ものの数分で、準備は完了した。

 

「よし、出来た」

 

 空木零は、満足げに椅子の背もたれに深く体を預けた。

 彼のモニターは、二つに分割されている。

 片方には、まだ自分の運命に戸惑いながらも、無限の可能性に胸を躍らせる、日本の男子学生。

 そしてもう片方には、今、この瞬間にも、世界中で、欲望に負けて広告をクリックしようとしている、名もなき悪人たちのリアルタイムマップ。

 

「じゃあ、どうなるか。見ていこうか」

 

 神の観測室で、たった一人の観客が、世界の混沌の始まりを、静かに、そして楽しそうに、見つめていた。

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