もしも第1部と第2部の間の話が存在するのなら、おそらくこんな感じかなと思いながら書きました。
原作の雰囲気をできるだけ壊さずに大事に書いています。まほよファンの方にぜひ楽しんで欲しいです。
応援よろしくお願いします。
陽も早々に暮れ、凍てつく寒い夜がやってくると、丘の上の洋館に暖かな光が灯った。
「唯架さんからの言づてなんだけど、近くへ来ることがあれば顔を出してほしいそうだ」
紅茶を飲もうと持ち上げたカップが口元で止まる。
と同時に、青子の表情が曇っていくのを、草十郎は知る由もない。
「げっ。明日は放課後に卒業式のリハーサルあるのよ。あーあ。また鳶丸に借り作ることになるのか、面倒だわ」
「なぜ明日なんだ? 唯架さんは会田教会の近くに来た際に寄ってほしいと言ってたんだが」
「唯架がそう言っている時は、いつも急いで来いって意味なのよ」
「だったら、そう俺に伝えるんじゃないのか」
「あれでも一応あそこのシスターだからね。人様を救うのが役目。だから人に迷惑をかけたり、指図するのを嫌うのよ」
草十郎は、あごに手を当て、一瞬悩んだ後、
「建前と本音というやつか」
と、最近学んだ教訓を呟いた。
「というわけで、明日は教会に行くけれど問題ないわよね、有珠」
一人ゆっくりと居間の片隅で紅茶を楽しんでいた有珠は、青子の言葉に眉をひそめると、音を立ててカップを置いた。
しかし、それはどうやら紅茶の時間を邪魔されたからというわけではなさそうだった。
「今、とても微妙な立場にいる青子が呼び出される理由はおそらくひとつよ。それは分かってるのでしょうね」
「ええ。間違いなく、先日の件で間違いないと思う」
「なら、どうして行くの?」
「そろそろ呼び出される頃かなって思ってたし。自分からは行かないけど、呼ばれたら行くつもりだったから。仮に私が行かなかったら、きっとあいつらここへ来るわよ。有珠が結界を張ったとしても、いざとなれば無理矢理にでも乗り込んでくる連中だもの。教会の人間ってそういうものでしょ。有珠に迷惑はかけられないわ」
「あなたが良いなら止めないわ。だけど、気をつけなさい。一歩間違えればあの人たちと戦う羽目になるわよ」
「そこは上手くやるわ。自分で落とし前はつけてくる。安心して待ってなさいよ」
くしゃりとした笑顔をした青子とは対照的に、有珠の表情は晴れないままだ。
「青子のそういう時が一番信用ならないのよ」
と、ここで今まで完全話に混じれなかった兼言づて人が口を開く。
「不穏な話に聞こえるんだけど、俺も同行していいかな? 力に慣れそうな気がするんだ」
「今回もまた物騒な話なんだから、あんたは引っ込んでて大丈夫よ」
「うん。そうなんだろうことは何となく会話から察した。ただ、蒼崎よりも俺の方が教会の人たちとずっと仲が良いだろう。仲介役として話し合いの場に居ると便利なんじゃないかと思ったんだ」
ぎょっとして、青子は草十郎を睨みつける。が、彼は悪気や意地悪で言ってないことは百も承知なので、それが一方的な怒りの気持ちなのは間違いないのだが、だからこそタチが悪いのである。
「どうせ私は仲が悪くて、嫌われてるわよ。そうよ、有珠なんてもっと仲が悪いんだから」
「ちょっと。私まで巻き込まないでくれる。私はあえて距離を置いているだけよ。荒事を起こしたことなんて一度もないわよ」
「そう? 有珠が教会に行くと、例外なく殺気立っているわよ。隙あらばって感じね」
「誤解よ。敵に回したいなんて思ってないわ。だから極力接しないようにしているのよ」
「まあいいわ。そこは深く聞かない約束だものね。そして、草十郎。さっきのことだけど、返事はノーよ。私も有珠と一緒。あいつらと争いたいわけじゃない。これは私の問題なの。一人でいくわ」
「そうか。けれど、おそらく俺をあの時救ってくれた方法が良くなかったから、じゃないのか?」
こいつ、こういう時、妙に鋭いのよねと青子は思った。
「あんたが気にすることじゃない。何度も言うけど、これは私一人の問題よ。仲良しこよしの関係でどうにかなるものでもないのよ。それだったらとっくにお願いしてるわけだし」
これ以上は平行線だろう。
「分かった。蒼崎がそこまで言うならこの話はおしまいだ」
草十郎は頭を切り替えることにして、ふたつ目の提案をすることにした。
「ところで全然話は変わるんだけど、唯架さんからケーキを貰ったんだ。みんなで食べないか?」
草十郎は冷蔵庫から真っ白な小箱を取り出すと、テーブルの上で開けてみせた。
中からショートケーキとモンブランとチーズケーキが露わになると、青子と有珠が静止した。
その様子を見た草十郎は、まずかったかと焦り始める。
「教会からの手土産は嫌か? すまない。配慮に欠けた」
「ちょっと待った!」
肩を落としながらケーキをしまおうとする草十郎の背中に戸惑いの声がかかる。
「ケーキに罪は無いっていうか、ねえ、有珠」
「ええ、そうね。甘いものに教会も協会も関係ないはずよ」
二人は草十郎からケーキの箱を奪い取ると、てきぱきと皿とデザートフォークを準備していた。
先ほどの険悪なムードはどこへ飛んでいってしまったのだろう。
何にしても良かったと、唯架さんの言う通りだったなと、草十郎は笑みをこぼし、再び冷めてしまった紅茶を淹れ直し始めた。
青子とその姉である橙子の戦いから、そして、青子が魔法を行使してから、落ち着きを取り戻しつつあった日常も、こんな風にしてまた非日常へと移りゆくのであった。