カードゲーマー転生者の自称モブ、おちこぼれ主人公を育成する 作:カシゼイ
念願かなって、俺、花糸道セイカはカードゲームがすべてを左右する世界に転生した。
ホビーアニメみたいな世界で、前世と変わらないなんてことのない平凡な男に生まれ変わった俺は、この世界を堪能することにしたのだ。
昔からカードゲームが好きで、どうすれば勝てるか、どんなデッキが強いかを研究してきた。
たとえ主人公みたいなとんでもドロー力を有する相手にも、構築で戦えるだけの自信はある。
アニメ特有の理不尽なパワカにも、プレイングで対抗すればいい。
そう考えていた。
しかし現実は、ただデッキを構築して、カードをプレイするだけでは解決しないこともあって。
たとえばそれは、就活という世知辛い現実の壁として、俺の前に立ちはだかっていた。
「……これで二十社連続お祈りだぁ」
季節は秋、すでに就活戦線も佳境に差し掛かりつつあるなか、俺はまったく結果が出せて居ない現状を嘆いていた。
原因ははっきりしている、受けた企業がすべてカードゲーム――「
これらには採用の際、カードゲームでバトルをする実技試験が必ずと行っていいほど存在する。
そして俺は、とある事情からこの実技試験を全戦全敗。
実技試験で敗北したからといって、必ずしも面接で不採用をくらうわけではないが、採用のハードルはバク上がりする。
結果として、俺はこれまで一度として内定を取ることができていなかったのだ。
「ほんと、どうしたものかなぁ」
カードゲーム世界に生まれ落ちて、カードゲームに関わって生きていきたい。
そんなささやかな願いすら、俺みたいなモブでは叶えることができないのだろうか。
そんなことを悩みながら、公園のベンチでたそがれているのが、今の俺だ。
――そうしてたそがれる俺の耳に、ふと声が聞こえた。
「きゃあああああああっ!」
甲高い少女の悲鳴。
思わずハッとなって立ち上がる。
ここはカードで命のやり取りが発生する――正確には本当に命が奪われるわけではないが――世界。
こういう悲鳴は、時として何か事件が起きている可能性を示唆していた。
ゆえにこそ、俺はそれを聞いて急いで声のした方に向かう。
俺みたいなモブにできることは少ないが、何もしないわけにはいかない。
そうしてたどり着いた先では――
二人の少女が、「AGEs」でバトルを繰り広げていた。
ほっと胸をなでおろす。
まぁ、実際のところ悲鳴が聞こえても、ただバトル――この世界では「エイジスバトル」と呼ばれるそれを繰り広げていだけ、というパターンの方が圧倒的に多い。
モンスターのダメージを受けると、思い切り吹っ飛ぶことはバトル中は日常茶飯事だからな。
とはいえ、状況は厳しい。
ふっとばされた少女の方は、フィールドにモンスターはゼロ。
ライフも後一発攻撃を受ければゼロになってしまうだろう。
というか、相手の少女――金髪ドリルのお嬢様みたいな子――の場にはモンスターが二体。
今少女が吹き飛ばされたのが、一体目のモンスターの攻撃ならば、二体目のモンスターの攻撃で詰みだ。
吹き飛ばされた少女は、特徴的なツートンカラーの髪色の少女。
前髪が白で、それ以外が黒髪の少女だ。
随分派手な髪色だけど、この世界だとかなり普通の部類。
雰囲気も相まって「地味」と言っても差し支えない雰囲気の少女だ。
年の頃は金髪ドリルもツートンカラーの少女も中学生くらいか。
どちらも同じブレザーの学生服を着ているから、同級生同士のバトルである。
「――ふん、所詮雑魚は雑魚。貴方程度の雑魚コンダクターでは、わたくしには到底及ばないということですわ」
「く……!」
金髪ドリルの少女の言葉からして、ツートンカラーの少女は雑魚――「落ちこぼれ」扱いを受けているようだ。
すでに決着のついている盤面からどういったバトルの推移を辿ったのかはわからないが、金髪ドリルの少女のライフがそこそこ削れているところからして、一応反撃はできたらしい。
それでも、ガーディアン――この世界におけるモンスターカードの名称――を展開され、敗北は決定的となった……といったところか。
「これにこりたら、もう二度と“マエストロ”になるという不遜な夢を抱かないことですわね! やりなさい! <ブラック・リリィ>!」
「ああああああっ!」
そして、ツートンカラーの少女のライフがゼロになった。
マエストロ――というのは、凄腕コンダクターのことだ。
コンダクターに関しては、この世界でカードをプレイする人間の総称。
何にせよ、その後金髪ドリルの少女はツートンカラーの少女を罵倒すると、高笑いをしながらその場から去っていってしまった。
「う、うぅ……」
少女が起き上がる。
敗北したことでデッキが“シールド”から外れてしまったのだろう、カードが彼女の周囲に散らばる。
泣きそうになりながら、少女はそれを拾い集めはじめた。
「カード……せっかく集めて、やっと……アタシ、コンダクターになれた……のに」
空は曇り空で、今にも雨が降ってきそうな状況だ。
この世界のカードは雨に濡れてダメになるほど軟じゃないが、だからといって濡らしていいというわけでもない。
ファイトそのものは彼女たちの問題だから、大人の俺が割って入るべきではないけれど。
せめてカードを拾うくらいは、大人としてやるべきだろう。
「――大丈夫かい」
俺は、少女に声を掛ける。
少女は暫く、ぽかんと俺を見上げた。
……一応散らばったカードを集めるために声を掛けるというのは、この世界だと普通の善行なんだけど。
不審に思われてしまっただろうか。
「ど、どにゃたしゃまでひょうか!?」
「お、落ち着いて! さっきのバトルを見てたんだ。カードが散らばってしまっているから、俺も拾おうかと思って」
「……あ、ありがとう、ございますぅ」
そう言うと、少女は顔を真赤にして俯いてしまった。
負けてしまったことが、恥ずかしいのだろう。
さっきからチラチラと、俺を見上げてくるのは謎だけど。
「あ、あうう、ご、ごめんなさい……情けないバトル……でしたよね」
「いいや、全然。最後の方しか見ていなかったけど、ちゃんとライフは削れてたから、反撃はできたんだろう。むしろ立派だと思うけどね」
「えっ!? あ、ひゃう……で、でもそれは……向こうが……わざと隙を作って……アタシ、それに乗せられちゃったんです。……落ちこぼれ、だから」
「それでも、君は道を切り開いたんだ」
そんな話をしながら、俺はカードを拾っていく。
わざと作った隙を突いたことで、罠にかけられた。
確かに、それ自体は彼女の言う通り「おちこぼれ」のやってしまうことなんだろう。
しかし、俺はカードを拾い集めるたび、そしてそのカードを確認するたび。
ふと、ある疑問が湧いてくる。
だって、このデッキはあまりにも――
「――それに、アタシ……これが初めてのバトルだったから」
「……!? 初めてのバトルで、わざと作られた隙とはいえ、その隙を突いて反撃に成功したのか!?
――その時、俺は衝撃を覚える。
ありえない、とは言わない。
マエストロなら、このデッキでもあの少女に勝利することは可能だろう。
でも、初めてのカードバトルで、しかもこのデッキで――
「このデッキは、どうやって組んだんだい?」
「え? えっと」
そして、少女は語る。
「集めたんです。落ちているカードを、一枚、一枚……集め始めて、十年以上かかりました、けど」
落ちているカードを拾うことは、この世界だと合法だ。
むしろ、推奨もされている。
なにせそういったカードは“拾われるために生まれた”のだから。
とはいえそれでも、拾ったカードだけでデッキを組むことはあまりにも無謀だ。
少なくとも、この少女のデッキはデッキの体をなしていない。
コンビニなんかで売っているカードのパックを8パック買って、そのカードだけでデッキを組むようなものだ。
エイジスにはメインデッキに入らないカードもあるから、そこまで単純な話ではないけれど。
何にせよ――そんな悪い言い方をすれば“紙束”でしかないデッキを回してしまう才能。
おそらくは、ドロ―力と、天性の直感。
紛れもない、この少女は落ちこぼれでもなんでもない――本物の原石。
――主人公だ。
「……あの、君……名前は?」
「え、えっと……遊動……遊動ツバキ……です」
遊動ツバキ。
きっとこの子はこれから、多くの事件に巻き込まれ、それを解決していくことだろう。
それは、いい。
いや、困難もつきまとうから良くはないんだけど。
ただ、結果として――そんな彼女の最初のバトルに、俺みたいなモブが絡んでしまったこと。
明らかに、彼女の今後の行く末を決めてしまうような重要なイベントに、俺が絡んでいいのか?
果たして俺は、彼女にどんな言葉をかければいいんだ――!?
カードゲームモノです、カードゲーム描写もありますがラブコメもあります。