カードゲーマー転生者の自称モブ、おちこぼれ主人公を育成する 作:カシゼイ
この世界はカードゲーム至上主義の世界だ。
世界の命運すらカードで決まり、超高額レアカードは世界全ての金を集めても手に入らない。
そんな世界で多くの人にプレイされているのが「
コストの概念を持たない某遊戯王系のカードゲーム。
モンスターはガーディアンと呼ばれ、プレイヤーはコンダクターと呼ばれる。
そんな世界に、俺、
生まれた当時は、大好きだったカードゲームの世界に生まれ変われたことを本気で喜んだ。
前世ではただの社畜オタクで、モブそのものだった俺も、この世界でなら輝けるのではないか。
本気でそう、考えていたんだ。
しかし俺に待っていたのは、ホビーアニメというか――カードゲームアニメ特有の、才能の壁だった。
この世界には、カードに関するあらゆるものに“適性”とでも呼ぶべきものが存在する。
世界には無数のカードが存在するが、その中で手に入るカードには偏りがあるのだ。
パックを買っても自分の適性にあったカードばかりが手に入り、それ以外のカードを手に入れるにはシングル買いやトレードくらいしか方法がない。
そしてこの世界のカードは前世に比べても圧倒的に高価。
下手なバニラ――何の効果も持たないカード――ですら一枚千円以上するんじゃ、そうそう適性外のカードになんて手が出ない。
結果としてカードの適性は、
そして、適性というのはカードだけにはとどまらない。
そもそも適性外のカードをデッキにいれると、ドロー力が著しく低下したりと、適性は人の運勢にまで影響する。
加えて、どれだけカードに係る事件に巻き込まれるか、についても適性が影響してくるのだ。
無論それがいいことだとは言わない。
事件に巻き込まれたら、魂を抜かれたりカードにされたり、最悪命を落としたりしてしまう。
一応、敵の大ボスさえ倒せばよほどのことがなければ死んだ人間も復活するけれど。
それでも、事件に巻き込まれる人間の人生が、波乱に満ちたものになることは明らかだ。
――俺には、後者の才能がかけらもなかった。
どれだけ近くで事件が発生しても、せいぜいたまにイビルコマンダーと呼ばれる闇のカードを操る敵に襲われるくらい。
ようするに、事件の被害者役のモブなのだ。
そんな俺がイビルコマンダーを倒せても、事件に影響はないのである。
だから、俺は結局異世界に転生してもモブだった。
カード適性の問題もあって、就活では連敗を続けている。
この世界でも、俺はモブから脱出することはできないのだろう、と、そう思っていた。
そんなところに、遊動ツバキが現れた。
――この世界には、主人公がいる。
正確には、俺が主人公と呼んでいる、特別事件に巻き込まれる適性の高い存在がいるのだ。
彼等はときに、世界の命運をかけたバトルに挑み、そして勝利する。
その特徴は、天性のバトルセンスと特別としか言いようのないドロー力。
最低限のパックだけでデッキを組み、それを初めてのバトルですら“回せている”というレベルで回せてしまう主人公。
遊動ツバキは、そういう存在だ。
本人は、自分をおちこぼれだという。
それは彼女がこの年まで「AGEs」をプレイできなかったことからつけられたあだ名だろう。
だから、そうではないのだ。
きっとツバキちゃんは、これからとんでもなく強くなっていって、世界を変えるほどのコンダクター――マエストロになるだろう。
そんな彼女の始まりに、俺は出くわしてしまった。
じゃあ俺は、一体彼女にどんな言葉をかければいいんだ?
□
「……私、パパがいなくて、ずっとママと二人暮らしだったんです。ママはいっつも仕事で遅くまで働いてて……家はカードを買う余裕もなくって……」
「それで、この年になるまでコンダクターになれなかったのか……」
「はい、それで周りからはいっつも『落ちこぼれ』扱いされてたんです……」
なんというかそれは、大変な話だ。
今の時代、この世界のすべての人間は多かれ少なかれコンダクターだ。
カードをほとんどプレイしない人は居ても、カードをプレイしたことのない人は居ない。
なにせ、学校で「AGEs」の授業をするのが、この世界の常識なのだから。
そのうえで、ツバキちゃんのように、カードを買えない家計事情の子どもは、別に珍しくない。
しかしそういった子でも、周囲からいらないカードを分けてもらったり、いろいろな偶然が重なって幼いうちからデッキを手に入れるのが普通なのだ。
中学生までカードを手に入れられないなんてこと、普通じゃそうそう起こらないのである。
「……カードが手に入らないのって、やっぱり私が落ちこぼれだからなんですよね」
そう、ツバキちゃんは悲しげに苦笑する。
自分が落ちこぼれであることに、すでに諦めと折り合いがついてしまっているかのような表情だ。
でも、違う。
そんなことはない。
俺はそう口に出せる。
けど、どうやってツバキちゃんに言葉をかけてあげればいいのだろう。
彼女の人生を変えてしまうかもしれない一言に、俺は悩む。
けれど――
「……あの、ありがとうございました。こうやって、一緒にカードを拾ってくれて。嬉しかったです、『AGEs』のことでアタシのことを褒めてくれて」
そう言って、悲しげに立ち上がろうとするツバキちゃん。
――だめだ、このまま行かせちゃ。
それは、わかる。
でも、モブの俺にできることなんて――
「……ま、待ってくれ!」
立ち上がったツバキちゃんに、答えが出る前に俺は声をかけていた。
ダメだ、何も思いつかないけど……ツバキちゃんをこのままにするわけにはいかない。
「花糸道……さん?」
ツバキちゃんは、目に涙を浮かべながら先ほど伝えた俺の名を呼んで、俺の方に振り返った。
ああやはり、俺が無責任にただカードを拾っただけで終わらせようとして、彼女は傷ついたんだろう。
ダメだ、それは。
「ええと、その……ツバキちゃんは決して『落ちこぼれ』じゃない! その、特別……というか、人とは違う……というか、ええと、なんだ」
「え、えっと」
「とにかく、決してツバキちゃんは『落ちこぼれ』じゃないんだよ。ああ、クソ、さっきと言ってること同じだぞ」
頭が全然回らない。
もともと、人付き合いなんてそんなに得意ではない。
前世でも今の人生でも、かなり友人は少なかったのだ。
だから……とにかく。
「……ふふ」
「あ、あー……」
結果、ツバキちゃんからは笑われてしまった。
情けないなぁ。
いやでも、泣きそうだったツバキちゃんが笑ってくれるなら、それもいいのか。
「……ご、ごめんなさい、なんだか可笑しくって」
「いや、いいよ。なんか情けないところをみせて、ごめんな」
「いえ。……ありがとうございます、花糸道さん。そう言ってくれて、ほんっとうに嬉しいです」
そうしてツバキちゃんは、笑みを華やいだものに変えた。
うん、少しだけど、彼女の気持ちが上向いたなら、俺としても嬉しい。
でも、話はまだ終わっていない。
「……そうだ、ツバキちゃん」
「ええと、なんですか?」
「もし明日、時間があったら……またここに来てくれないかい? カードのことで、君にアドバイスできるかもしれないんだ」
「え……」
「ただ見ての通り、俺は口下手だからさ……考える時間がほしいんだよ」
目を見開いて、ツバキちゃんは俺を見る。
本当に意外なことを提案されたみたいで、目を白黒させていた。
「それと……今、君が集めたカードの中から、君が好きだと思うカードを選んでおいてほしいんだ」
「……あ、えっと」
やがて、俺がそう提案すると。
ツバキちゃんは、なんだかすごく恥ずかしそうに顔を赤らめて――
「ふ、不束者ですが……!」
「え、いやその言い方はなんか――」
「よろしくお願いします!」
「ツバキちゃん!?」
すごいことを言い出して、ペコリと頭を下げてから飛び出していってしまった。
な、何か変な誤解をさせてない!?
□
――その夜、俺は自宅に急いでいた。
就活で最近よれていなかった場所に顔を出したり、明日のツバキちゃんとの話のための準備をしていたり、と。
色々やっていたら、遅くなってしまった。
夜道を進む俺は、しかしなんというか――嫌な予感を感じていた。
それはなんというか、後ろから追いかけてくる“影”が原因だろう、とも。
そして――
『お前が、花糸道セイカだな』
――不意に、声をかけられる。
背後から、人ならざるモノに。
「……イビルコマンダーか」
『そのような、俗な名前で我々を呼ぶな』
そいつらは一言でいうと、蟲だった。
巨大なクモだ、なかなかおどろおどろしい見た目をしている。
ともあれ――
『我らは、“蠱毒”。――遊動ツバキに関わるな』
「蠱毒、蠱毒ね……孤独なのはツバキちゃんの方だっての」
『つまらないことを言う』
こいつらは、やる気のようだ。
ならば俺も否やはない。
俺が懸念しているのは、ツバキちゃんにどんな言葉をかけるべきか、だ。
イビルコマンダーとはかつて何度か戦ったことがある。
だから、戦うこと自体に懸念はないのだ。
俺はエイジスバトルにおける決闘盤である、“シールド”を展開。
イビルコマンダーも同じようにシールドを展開し――
「AGEs――エンゲージ!」
エイジスバトルの、開始を告げた!
本作は弟子のツバキちゃんとラブコメしつつカードで敵をボコにしていく感じになると思います。
次回バトル。