カードゲーマー転生者の自称モブ、おちこぼれ主人公を育成する 作:カシゼイ
――イビルコマンダー、この世界における悪役の総称だ。
彼等は闇のカードを操って、様々な悪事を働く。
一般的な犯罪者から、今回俺が戦っている“蠱毒”なる連中のように完全な人外もいる。
あまりにも多種多様な存在をまとめてイビルコマンダーと呼ぶものだから、その呼び方を俗と嫌う連中も多い。
まぁ、結局のところカードを使って悪いことをする連中には変わりないのだ。
とはいえ今回は――少し厄介というレベルじゃないやつが相手になったのだけど。
なにせ――
『私は“アロマBeeスト・クイーンホーネット”を配置!』
「でたか、大型ガーディアン……!」
敵が使うデッキは、『アロマBeeスト』デッキ。
ビーストと『
その特徴は、下級のガーディアンを配置すると仲間をデッキから呼び出し配置する展開力。
そして最終的にエースである『クイーンホーネット』を、下級『アロマBeeスト』を退場させることで配置するのだ。
これらは少ない手札で行うことができ、二枚初動で大型を並べることができるようだ。
お陰で、妨害一枚じゃ全然止まらなかった。
『本来であれば、もう一体のホーネットを並べるところだが、貴様を殺すにはこれでも十分すぎるほどだ』
とはいえ、相手のエースの数が一体減ったようだ。
相手が何の妨害を飛ばしてくるかは知らないが、こっちの誘発を貫通するのに手札を多く切っているから、そこまで心配はないだろう。
『さあ、ターンはこれで終いだ。くくく……』
「……俺のターン!」
宣言して、カードをドローする。
俺がそう考えた時、ふとクモのイビルコマンダーから怪しげな気配が吹き上がる。
これは……!
『我はこのタイミングでクイックスペル*1“蠱毒噴出”を発動! フィールドに最上位昆虫ガーディアン*2がいる時、クロスデッキ*3から昆虫ガーディアンを特殊配置できる!』
間違いない、あの蠱毒噴出というカード、闇のカードだ。
基本的に闇のカードは、ひと目見ただけでヤバいカードだとわかる“気配”をしている。
大抵の場合はガーディアンが闇のカードになっていることが多いが、どうやら“蠱毒”という組織は、“蠱毒噴出”という共通の闇のカードを使う組織のようだ。
まぁ、結果的に呼び出されるガーディアンも実質闇のカードなのだが。
なお、“蠱毒噴出”は“クイーンホーネット”が配置される以前からセットされていたカードである。
『現われろ“ポイズンポット・ダークスパイダー”!』
“クイーンホーネット”の横に、巨大な漆黒のクモが降り立つ。
なんとも禍々しいカードだ。
『このガーディアンと最上位昆虫ガーディアンがフィールドにいる時、フィールドの昆虫ガーディアンは効果では破壊されない! この展開力! この防御性能! そして何より、これより貴様に見せる絶望の数々! さぁ、カードをプレイするがいい! そのたびに、我は貴様を一つ一つ絶望させてやろう!!』
耐性を付与してきたか。
しかも……一つ一つ絶望って、それはつまりこちらのカードを妨害するということか?
……だいぶ厄介だが、こちらの手札も悪くない。
やっていこう。
「
“機界王リブラ”は優秀な一枚初動だ。
これを手札に引き込めたのは大きい。
そして何やら敵が反応しないのだが、このまま続けてもいいのだろうか。
「何もなければ、俺は“リブラ”の処理でデッキから――」
『ま、待て! 無効! 無効だ! “クイーンホーネット”は手札を一枚捨てることで、相手のカードの効果を無効にする!』
「ならしょうがないな。俺は更に――」
『――――だから待てと言っているだろうが!』
うん? と俺はクモのイビルコマンダー……長いな、クモ怪人が何を言っているかわからず首をかしげる。
「なんだ、一体。もう処理は済んだんだから次のプレイに入ってもいいだろう。まさか直接的に妨害に走るつもりか?」
『我らはそのような野蛮な集団ではない! 無効にしたなら、デッキからガーディアンを退場させるのも無効のハズだ!』
「……アレはコストだが?」
『
――――なるほど。
俺は一気に、コイツらに対する警戒心を高める。
デッキからガーディアンを退場させるコストを“厄介”だと理解しているのだ。
しかも、手札をコストにするとはいえ、少ない初動から動けて妨害を構えられる盤面を構築できる。
しかも相手の手札は二枚、妨害にターン制限がないなら、こちらが一枚妨害を入れてるのにもかかわらず、安定して二妨害用意できる。
これは――
「……お前ら、何者だ?」
『それはこちらのセリフだ!』
――とてもではないが、ホビーアニメでそうそう拝める布陣ではない!
特に厄介なのが、盤面の作成が非常に容易という点だ。
クイーンホーネットが非常に出しやすい大型であるのに加えて、蠱毒噴出は奴らにとってキーカード。
この世界では、適性のあるカードは引き込みやすいという特性がある。
“蠱毒”の連中が“蠱毒噴出”を手札に引き込む確率は――ほぼ100%!
こんなもの、普通のコンダクターじゃ勝負にもならないだろう!
……とにかく今は、眼の前の敵を倒すことだ。
このまま続けていくとしよう。
その後俺は――“リブラ”を素材にクロスデッキからガーディアンを覚醒配置*5その効果で戦場カードを手札に加えようとするも、これも“クイーンホーネット”によって妨害。
仕方なく、手札から別のカードを通常配置。
更にそれに反応して、コストとして送ったガーディアンを特別配置、通常配置したガーディアンは別の“界王”カードがフィールドにある時“界王”スペルかトリックをサーチできるので、改めて戦場カード*6を手札に。
それを発動したところ、今度は“ダークスパイダー”がスペル、トリック*7の発動を妨害してきた。
つまり、実質三妨害を相手は構えられることになる。
もう一体のガーディアンは……もしかしてこれ、リソースの回復が可能だったりしていたのか?
とてもではないが、この世界の基準からするとデッキパワーが高すぎる!
まぁ、それでも俺のデッキは展開を続けられるのだが。
『な、なんだ……なんだ、こいつは……!』
正直、今回は手札が良かったのも在る。
後攻スタートでもちゃんと妨害を一枚は確保していたし、捲りに使える札は豊富だった。
相手の妨害も“ダークスパイダー”の方は、あまりこちらに有効ではないバックへの妨害。
相性もそこまで悪くなかったと言える。
だからこそ――
「俺は“大機界王サジタリウス”の効果発動! 退場ゾーン*8の“機界王”ガーディアンを取り除くことで、相手ガーディアンを手札に戻す!」
『こちらの防御を抜いてきただと!』
「そしてこの効果に、ターン制限はない」
『………………は?』
俺は“ダークスパイダー”と“クイーンホーネット”を除去し――
「“サジタリウス”で攻撃! サジタリウスの攻撃力は攻撃時、退場ゾーンの“機界王”一体を指定し、その攻撃力分アップする!」
『ぐあああああ!』
――クモ怪人をワンキルした。
□
――俺はある事情から、企業の実技試験で全戦全敗であると語った。
その原因は非常に単純。
俺の適性が、
基本的にこの世界のカードに関わる企業には二種類ある。
イビルコマンダーのような悪の組織を倒す企業、もしくは官憲。
これに関しては、俺の事件に関わる適性がなさすぎて、そもそも入社試験を受けることができない。
なんかこう、色々あって結果的に受けられなくなるのだ。
事故に巻き込まれたり、通行に使う道をチャリオッツバトル――ライディング・デュエルのようなもの――に使われて通れなかったり。
そしてもう一つは、カードを使ったエンタメに携わる企業だ。
こういった企業はコンダクターにもエンタメ性を求める。
ガチすぎる俺のデッキは、普通に戦ったらどんな相手もほぼ塩だ。
少なくともこの世界で、俺と対等に渡り合えるデッキパワーを持つ人間はいない。
チートじみたドロー力で渡り合うタイプなら、多少いるけど。
なので、実技試験ではデッキパワーを落とし、エンタメに振ったデッキを使っているのだが――適性が皆無でバトルがボロボロになってしまう。
結果、俺は就活に失敗し続けていた。
そこに加えて、今回。
俺はツバキちゃんの事件に巻き込まれることとなる。
放っておけなくて声をかけてしまったわけだけど、俺の就活は更に暗雲立ち込める事態になってしまったわけだ。
俺はこの事実に今ようやく行き着き、消滅するクモ怪人を眺めながらどうしたものかな……と考えを巡らすのだった。
邪悪な一枚初動が複数存在する斬機とサイバースの間の子みたいなデッキです。