カードゲーマー転生者の自称モブ、おちこぼれ主人公を育成する 作:カシゼイ
――あの後、俺は一夜考えてツバキちゃんのデッキを可能な限り強くすることを決めた。
理由は二つあって、一つはちょっと敵の強さが洒落にならないということ。
俺のデッキはこの世界基準だと十年くらい先を生きているのだけど、敵のデッキも五年くらいは先を生きているのだ。
なにせ、この世界の「AGEs」は先行がガーディアンをセット、バックを2枚セットしてエンドしても問題ないくらいの速度の環境なんだから。
二枚初動で妨害を構えられて大型が三体並ぶデッキはちょっとやばいどころの話じゃない。
そしてもう一つは――そもそも俺のカード資産だと、どうしたってデッキが強くなるからだ。
基本的に、コンダクターは自身と適性のあるカードを集めがちだ。
俺の場合は、先日使った“機界王”デッキ以外にも、邪悪な挙動をするデッキが数多く存在している。
複数あるのだ、ああいうデッキが。
そこからカードをピックするとなると、まぁどうやってもデッキが強くなる。
問題はそれをツバキちゃんが回せるのか……というか、適性があるのか、という話だが。
最悪適性がなくとも、ツバキちゃんのドロー力ならある程度はなんとかなるはずだ。
8パック剥きデッキですら、ギリギリなんとか回してみせたのだから。
というわけで翌日、俺は昨日と同じく、スーツ姿で公園に居た。
なんでスーツかって言えば、俺にはホビアニ世界特有の特徴的な髪型がないからだよ。
昨日と同じ格好をしていないと、地味過ぎて気づいてもらえない事が多いのだ。
特徴的な髪型が普通の世界だと、こういう弊害もあるんだなぁ。
とか、思っていると、ツバキちゃんの声が聞こえる。
「――セイカさん!」
呼びかけられて、振り返ってみると――
――そこには、えらいめかし込んだツバキちゃんの姿があった。
うお、美人……
この世界だと地味な部類に入るツバキちゃんだけど、俺からしてみれば前髪が白のツートンになっているだけでもかなり派手だ。
加えて、今日は更にふんわりとした印象のワンピースを身にまとっており、随分と気合が入っている。
なんというか、これは……その……デートかってくらい気合を入れてるね?
「や、やぁツバキちゃん、どうも」
「こ、こんにちはセイカさん。お、おまたせしてしまったでしょうか……」
ツバキちゃんは、髪をいじりながらもじもじと視線を恥ずかしそうにそらしている。
その動作が、なんとも少女らしくて俺まで少しドギマギしてしまうんだが、ええと……こういう時はとりあえず褒めておけばいいのか?
「ええっと……似合ってるよ」
いや、何をだよ。
もっと具体的に褒めろよ。
「……っ!!」
そしてツバキちゃんは、顔を真赤にして伏せてしまった。
あ、えっと、これでいいのか……?
「あ、ありがとうございますぅ……」
「い、いや。なんか……うん、とりあえず……場所を変えようか」
「ふぇ……」
そこで、ツバキちゃんは不思議そうに顔を見上げる。
「こんなところで話すのも何だし……それに時間もちょうどお昼時だろ?」
「は、はい」
「――だから、何か食べながら話をしようかと思って」
「えっ」
そこで、ツバキちゃんはなんというか。
デフォルメされた顔で、フニャフニャになりながら――
「えぇええええええぇぇぇええっ!?」
と、すごい勢いで驚いていた。
□
まぁ、なんてことない話。
ツバキちゃんの家は貧乏で、外食なんてほとんどしたことがないらしい。
そんな中で、突然の外食。
といっても、行くのは安いことで有名な某ファミレスなんだけど。
それにしたって。
「ほ、本当にいいんでしょうか」
「ああ、俺の奢りだから、自由に頼んでくれ」
「え、えぅ……あの、えっと……」
「いいんだよ、これくらいは年上として当然だ」
「あぅうう」
ツバキちゃんは結構渋ったけれど、最終的に折れてくれた。
しかし、最後はなんかまた顔を赤くしていたのだけど、どこに照れる要素があったんだろう?
年上? いやいやまさかそんな。
「……えと、その、ありがとう、ございます」
「いいって、いいって。俺が善意でやってることなんだから」
それからファミレスで、ツバキちゃんはソフトドリンクを頼むと、目を輝かせてメロンソーダを持ってきた。
どうやら本当に初めて飲むらしく、「憧れだった」と目を輝かせている。
更にはやってきたスパゲティ――カルボナーラだ――を視て、それはもうこれまでにないくらい嬉しそうにしている。
「せ、セイカさん! ほ、本当に来ました。こ、これ……カルボナーラです!」
「美味しいよね。いただこうか」
「あ、は、はい」
そうして、ツバキちゃんは姿勢を正す。
何をしているんだろう、と思ったら――
「――いただきます」
どことなく品のある仕草だった。
多分、日頃からマナーとかを意識しているのが感じられる。
「礼儀正しいんだね」
「え、あっ……ママから、礼儀作法はきっちりしなさいって……ずっと言われてて」
「良いお母さんなんだね」
「……はいっ!」
俺の言葉に、ツバキちゃんは満面の笑みを浮かべる。
それから俺達は、暫く昼食を楽しむ。
合間合間に、軽く雑談を挟みながら。
内容自体はなんてことのない内容だけど、ツバキちゃんは自分の話をあまりしないことがわかる。
母のことは積極的に話をするけど、それくらいだ。
これは本人にとって、学校とかであまりいいことがない……というのもあるんだろうけど。
なんか、随分とこっちのことを聞きたがるんだよな。
いや、本当になんの面白い話もないよ。
就活で連敗が続いてるとか、そんな……
ともあれ。
「――ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
「あ、……えへへ」
凛とした仕草でツバキちゃんが食べ終わった後にごちそうさまというものだから、俺までつられてしまった。
それに気づいたのか、ツバキちゃんも少し恥ずかしそうだ。
さて――本題はここからである。
「それじゃあ、少し待っててね。今のうちに、飲み物を補充してくるといいよ」
「あ、はい。……何をするんですか?」
「あ、ツバキちゃんは知らないか。――テーブルを『AGEs』モードにするんだ」
いいながら、俺はファミレスの注文用タブレットを操作する。
その中に「AGEsモード(90分/100円)」という項目があるので、それをタップ。
すると、テーブルが――
「わわ、『AGEs』のフィールドが」
「ファミレスでエイジスバトルをする人もいるからね、それ用のモードが在るんだ」
有料で。
なんというか、この世界ではいたるところでバトルが行われる。
ファミレスはもちろん、図書館にすら専用のスペースがあるんだからすごい話だ。
そして、こういう場所でバトルをする時、周囲の迷惑にならないようテーブルには防音機能がついている。
ホビアニ世界特有の、謎の技術力だ。
「じゃあ、早速『AGEs』の話をしよっか」
「は、はひっ!」
店員さんに食器を片付けて貰って、ツバキちゃんが飲み物を採ってきて。
準備ができたので話を始めると、何やら今まで以上にツバキちゃんが緊張している様子。
よっぽど不安なのか、と思っていると……
「あ、あの、あの!」
覚悟を決めた様子で、ツバキちゃんが俺の目を視てくる。
実に真剣な雰囲気に、俺も思わず居住まいを正した。
そして――
「し、師匠って、よ、呼ばせてもらっても、いいでしょうか!」
ええと……
「師匠!?」
「あ、だ、だめでしたら、せ、セイカ様……でも……」
「い、いや、えっと……」
……師匠!? セイカ様!?
なんか、朝から思ってたけど、ツバキちゃんの俺に対する信頼が厚くない!?
そこまでのこと、何かした!?
い、いやまぁでも……
「と、とりあえずその二択なら……師匠でお願いします」
あ、なんか敬語になった。
「は、はひぃ……」
そしてツバキちゃんは、ゆでダコのようになってぷしゅう、と空気が抜けるのだった。
――ところで、この時俺は色々と鈍いので気付かなかったけれど。
ツバキちゃんは貧乏な家の子だ。
だというのに、かなりしっかりと今日はめかし込んでいる。
どう考えても、普段から持っているタイプの服ではないだろう。
そういう服を用意するには、一体
俺はこの時、知る由もなかったのである――
基本的にはツバキとのラブコメ進行です。
ファミレスのテーブルが90分有料でバトル用に変形するのはカードゲームモノっぽいと思うのは自分だけでしょうか。
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