カードゲーマー転生者の自称モブ、おちこぼれ主人公を育成する 作:カシゼイ
さて、なんか思わぬところでツバキちゃんの人生において忘れられない日を作ってしまったわけだけど。
本題はあくまでツバキちゃんのデッキを、クモ怪人達に負けないようにしていくことだ。
しかし、ハードルが高いなぁ。
クモ怪人達のデッキパワーは高すぎるのだ。
この世界の平均的なカードパワーは、戦闘したガーディアンをデッキに戻して別のガーディアンを特殊配置したり、デッキからガーディアンを退場ゾーンに送ってアドバンテージを採っていくデッキがかなり強いとされるくらいのカードパワーだ。
それに対し、二枚初動で盤面を完成まで持っていけるクモ怪人達。
最悪、デッキからガーディアンを素材に融合……もとい統合配置しかねない。
時代が二つくらい違うぞ。
「こほん、えー……あー……それじゃあ、早速なんだけどツバキちゃん」
「は、はひっ、なんでしょう師匠っ!」
「君が集めたカードの中で、一番”これだ”と思うカードを教えてくれないかな」
「あのその……前回聞いた時から思ってはいたのですけど、どうして、カードを一枚決める必要があるんですか?」
ああ、まずはそこから説明しないといけないな。
そして、やっぱり師匠というのはむずかゆい。
様付けよりはいいかもしれないけれど。
「ええと、『AGEs』をプレイしていくうえで、思い入れのあるカードっていうのは大事だと思うんだ。そのカードを中心にデッキを構築することで、一気にデッキの輪郭ってやつが見えてくる」
「つ、つまり……そのカードと心中するつもりで、デッキを組めってことですね!」
「言い方!」
「あ、ご、ごめんなさい。でもその……師匠と選ぶカードですし……」
……後半、なんか。
小声でごにょごにょって言ってたから、自分の聞き間違いかもしれないんだけど。
なんだか……すごく重いことを言ってない? ツバキちゃん?
「ええと……色々考えたんです、けど」
「うん、どんなカードかな?」
「この子……とかどうでしょう」
そう言って、ツバキちゃんはカバンの中からデッキを取り出すと、ごそごそとクロスデッキを漁って、カードを一枚取り出した。
どうやらツバキちゃんは、クロスデッキのモンスターをエースにすると決めたようだ。
「”
「……連動配置ガーディアンか」
「え、えっとその……ダメだったでしょうか」
「あ、ああ、いや」
連動配置ガーディアンを配置するには、触発ガーディアンというガーディアンを別のガーディアンとチューニング……もとい触発させる必要がある。
そしてツバキちゃんのデッキには、触発ガーディアンが一枚も入っていなかったはずだ。
散らばったカードを集めたときにちょっと確認しただけだから、もしかしたら入ってるかもしれないけど。
「なんとなく、どうするかの方向性が見えてきたから」
「そ、そうなんですねっ! さ、さすが師匠ですっ!」
「いや、褒め過ぎだって」
流石に照れてしまう。
とにかく、カードのテキストを確認させてもらう。
えーとなになに……?
「……配置時にフィールドのガーディアンを一体装備して、破壊される時に破壊を装備しているガーディアンに肩代わりできる。そして相手がスペル、トリックカードを発動した時に装備しているカードを破壊することで、そのカードの発動を無効にして破壊……」
「相手ガーディアンを蔓で縛って、それを盾にしたりする感じ……でしょうか。植物ガーディアンですし」
…………うーん。
…………えーと。
…………強くない?
配置時に実質モンスター一体を除去できて、耐性があって、しかもバックの妨害まで構えられる。
打点は2500と少し控えめだけど、この打点はアレだし。
しかもこれ、昨日戦ったクモ怪人の破壊耐性をすり抜けるぞ。
なんか……割と行ける気がしてきたな。
でも絵面がエグいぞ、主人公のエースだけど大丈夫か?
「あ、あとこんなカードもどうでしょう!」
「”
うーんどこかで聞いたことあるカード……実家のような安心感……
どうやら先日のバトルでは、こいつを使って上級の植物ガーディアンを配置したらしい。
それなら、あのデッキでもこいつさえ引けてればバトルにはなる、か。
そして、なんとなくだけどツバキちゃんのデッキの方向性が見えてきた。
「ツバキちゃんは、植物ガーディアンを中心にデッキを構築したいんだね」
「あ、そ、そうですね……二枚とも植物ガーディアンですし」
「……? 他に何か理由があるのかな?」
「え? あ、えっと……」
「あ、ああごめん、言えない理由があるなら、いいんだ。不躾だった」
「い、いえ……」
何やら、俺にも秘密にしておきたい理由があるようだ。
いや、言えなくはないんだけど、言うのが恥ずかしい……って理由かな?
まぁ、そのうち話してくれるだろう。
ともあれそういうことなら、一枚いいカードを俺は持っている。
いや、正確にはダダ余ってるんだけど、複数枚渡して投入するとデッキが事故りそうで……
「じゃ、じゃあ俺から。一枚、いいカードがあるんだ。これをツバキちゃんに送ろう」
「い、いいんですか!?」
「ああ、三十枚くらい余ってるから」
「ええ……」
いやだって、そのカードは俺の適性を考えると、集まって当然のカードなんだもの。
俺はそのカードを取り出して、ツバキちゃんに見せた。
「――”花精霊ツボミ”。相手がガーディアンを特別配置した時、
「……手札から、ですか? あ、この子触発ガーディアンなんだ……」
「そう、手札から」
それは、いうなれば「AGEs」の最終兵器。
このカードの存在が、「AGEs」を一つ上の次元まで引き上げてしまった、と言えなくもないカード。
すなわち。
「――手札から誘発して発動するんだ」
「えっと…………」
しばらく、ツバキちゃんはその言葉を、噛みしめるようにしていた。
なんというか、自分なりに俺が強さを説明する前に説明しようとしている気配を感じる。
努力家なんだなぁ。
「……あっ! 相手のターンでも発動できるんですか!?」
「そう、相手が先行を取った時、こっちから妨害ができる」
「……えーと」
しばらく、ツバキちゃんは言葉を選んでいるようだった。
何やら神妙な面持ちで、悩みながらも一言、口にする。
「…………何と戦うんですか?」
「……邪悪なるこの世の理不尽、かな」
「こ、怖いですね……」
そしてそんなこの世の理不尽を振り回すのが、俺です。
はい。
ともあれ、俺はこれを一枚だけ渡しておく。
ツバキちゃんのドロー力を考えると三枚――デッキにいれられる上限まで渡すと、手札に毎回三枚来そうだから。
それはそれでつよいのだけど、この世界だとガーディアンを特別配置せずにターンを渡すことは普通にある。
そうなった場合の腐り方がやばそうなので、とりあえず一枚だ。
「さて、デッキの方向性はわかった。俺としても他に渡せるカードは何枚かあるんだけど」
「……何枚かあるんですか」
「あるんです。ただまあ……基本的には一から集めたほうが早いかもしれないね」
ただそうなると、一つだけ問題が発生するのだ。
「けど、多分今日は次の準備だけして、解散になるかな」
「え、ど、どうしてですか?」
「カードを集める方法が、ね」
――そう、カードを集める方法に問題があるのだ。
俺もツバキちゃんも、手持ちのお金に余裕はないから、カードショップでカードは買えない。
だったらできる方法は――カードを拾うしかない。
具体的には――
「――
「えっ」
「今日は軍手とか、シャベルとか、必要なものだけ揃えて、また今度にしようか」
「えっえっ」
いくらなんでも、めかし込んでるツバキちゃんとは山には行けない。
服を汚しちゃいけないからね。
「ええーーーーっ!?」
そんなツバキちゃんの驚きの声は、バトル用モードの防音機能によって、周囲に広がることはないのだった。
カードは拾った(山菜採り)