〈継ぎ目〉の子どもたち   作:イェスコマ

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基本的に人類は動物型、敵性機械側は虫型で設定してるんじゃが、人型欲しい?
後ラビットの姿図作ったんだがどう載せたら良いか分からないので、分かったら載せます。じじいでごめんね。


4話

「一旦ここで切る」

レンの声が落ちて、〈ラビット〉は影道の入口で膝を折る。畝の間に“何か”がある。けれど今の任務は“いない”ことの確認だった。見つけたなら、まずは報告——それがガレキの約束事だ。

 

「ガレキよりギルド。A-08哨戒、異常“なし”で一周完了。ただし、東南セクタで〈芽〉の兆候。写真・熱・耳ログ、送る」

レンが送信する。紙ではなく数字の報告書。ギルドは数字を好む。詩は読まない。

応答までの三秒が長い。三秒は“疑っている時間”に等しい。[※1]

 

「こちらギルド。ログ受領。……ふむ、芽だな。敵性ドール(防護役)が周辺に“いなければ”、潰してよし。ビーコンはそのまま、芽の残骸は回収して提出。規定通りサルベ権はおまえら優先だが、危険物は除外だ」

受付のおっさんの声だ。端末越しでも眉の片方が上がる気配がする。

「敵性判定、どうつける?」レン。

「おまえらの耳(EARS)と腹でつけろ。観測は仕事だろ、ガレキ」

 

回線が切れ、車内の空気が少し軽くなる。

「——やる?」ミナが後席で小さく言う。

「やる。まず“いない”を確認」レン。即答。迷いは、危険物だ。

 

コトの声が続く。「タレット半起き。発射権限はハウス−ワン。〈ラビット〉は停止から二歩だけ前へ。能動点灯は五秒一回。……耳の遅延、ほんのり気持ちいい」

「気持ちいいは計測に入らない」ミナが笑う。

「でも強い」コトが返す。ぼくも小さく笑って、手を締め直す。

 

〈ラビット〉は腹ばいに近い姿勢で、畝と畝の間をのぞく。土に埋もれかけた“何か”は、金属でも植物でもない。細い格子が地表に顔を出し、風に合わせて、ほんの、ほんの少しだけ“合意”の角度に傾く。

 

「芽(スプラウト)だ」ミナが囁く。「糸でも柱でもない、予備構造。ここから“正しさ”を生やす前段」

「周囲、偵察蜂(ハチ)なし。糸(クモ)もいない。地表振動、低い。アリの群れ、遠い」コトが次々に読み上げる。

「——“いない”で合意していい」

レンが結ぶ。「よし。芽の切除、限定交戦で実施。手順は“乱す→固定→切除→焼却→回収”。跳び退き準備」

「了解」ぼくとミナが重なって言う。

 

ミナが用意していた投擲器を送る。「発泡、先に。畝を汚すけど、誰も怒らないよ」

白い泡が芽の周囲にまわる。表面張力で畝の谷へ流れ、小さな“堤”になる。

「固定」ミナ。

「次、切除」レン。

ぼくは〈ラビット〉の首を低く突き出し、パイルスパイクの鞘を外す。片側だけ伸びる、取り回し優先の短い刺突具。

「狙点、ここ。格子の根の“節”」ミナが耳の角度で指示する。HUDに白い点。

ぼくは息を吐いて、押す。

パイルが芽の格子を割る。高音。金属ともプラスチックとも違う、未決の材質が悲鳴を上げる。

「もう一回」レン。

二撃目で、格子の下の脈が切れる。芽は“待っている形”をやめ、ただの形になる。

「焼く」ミナが焼夷を投げ、短い炎が根の穴へ潜る。乾いた熱の匂い。

「消火。回収」レン。

 

泡が沈み、芽だけが露出する。まだ“生きた規格”の名残が、表面をわずかに走る。

「ここからはスパナの見せ場」コトがトレーラーのタレットから身を乗り出し駆けつけ、膝をつく。「ノーズ、照らして」

〈ラビット〉の鼻カメラが光を落とす。

コトはスパナで格子の端を持ち上げ、ワイヤカッターで束を割り、丁寧に“未規格”を満たしていく。

「素材、合成樹脂系の前駆体、補強に微細メタ格子。中に、未展開のマイクロベアリング……おいしい」

「食べるなよ」レン。

「比喩だよ。——袋、三。重量は軽いけど価値は重い。耳、録画切り」

ぼくは〈ラビット〉の前脚でスクレイパをかけ、残滓を袋に寄せる。ミナが熱源の残りをチェックし、焼け跡を撮る。

「芽、完全切除。写真三、熱二、音紋一。ログ追加送信」ミナ。

「ギルドへ。ガレキより、芽一体切除。残骸回収。周辺に敵性ドールなし。——任務完了、A-08離脱」レン。

 

返ってくる返答は短い。「受領。おつかれさん」

おっさんの声が、今度は眉を上げない。代わりに、スタンプの音が聞こえる気がした。

回線が切れ、全員の呼吸が揃う。

「……今回、うまい」コトが袋の口を縛りながら言う。「芽のマイクロベアリングだけで、ベッドのマット一枚、新品にできる」

「乾燥食の“肉っぽいほう”に手が届く」ミナ。

「前金二割+サルベ。数字の上でも“仕事した”」レンが短く笑う。「帰還。ハウスへ」

 

〈ラビット〉は耳を寝かせ、影道に滑り込む。跳躍の必要はなかった。

畑はもとどおり等間隔に見える。芽の跡だけが、新しい記号として残る。

「ハウス・ワン、温度グリーン。右膝の脈、消えた。——帰ったら、足パッドの端だけ削るね。音が、少し気になる」コト。

「“気になる”は計測に入らないんじゃ?」ミナ。

「でも強い」

三人で笑う。レンも笑っている、気がした。

 

 

ギルドに戻ると、おっさんは紙粉の匂いの中で待っていた。

「A-08、哨戒完了。芽一体、切除。ログと残骸」レンがテーブルに袋を置く。

おっさんは袋の口から一片を取り出し、指で“規格”を探るみたいにしならせた。

「悪くない。芽は軽いが、価値はある。工房が欲しがる」

端末に数字が打ち込まれる音。報酬。水カートリッジ三本、ベアリング八、乾燥食十二。前金二割の残り。サルベ換金の即日分。

「追加で、これ」おっさんは小袋を放る。中で小さく転がる音。

「……何?」ミナ。

「“芽ベアリング”のお裾分け。整備に使え。子どもは食うより走れ」

「子ども扱い、継続中だね」コトが肩をすくめる。

「C帯だ。Aになったら“呼び捨て”にしてやる。——ガレキ、次もある」

名前が呼ばれる。砕けた音が、少しだけ丸く聞こえる。

レンは受領印を押し、ぼくらに振り返る。「帰る。耳を洗って寝ろ。数字を数えるのは朝でいい」

「朝は来る」ぼくが言う。

「機械の都合でも、人の都合でも」ミナ。

「今日のベッド、少し柔らかいといいな」コトが袋を抱えてにやける。

 

外へ出る。柱の影が長く、風は乾いて、でも悪くない。

〈ラビット〉はトレーラーの中で耳を寝かせ、静かなふりをしている。ぼくらの一日を、数字に変える準備ができている。

初仕事。哨戒。“何もいない”を確認して、芽をひとつ潰した。

正直、派手ではない。けれど、等間隔の畝に“人間の都合”をひとつ足した。

砕けた名前でも、積めば足場になる。ガレージ・キッズ——ガレキ。

今日は少しだけ、積めた。

 

 

 




———
[※1] ギルドの三秒は、信用の“最小単位”。こちらの報告が定型から外れていないか、端末が確かめる時間でもある。
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