ギルドを出ても、胸の中の音が落ち着かない。
紙粉と金属の匂いが袖に残って、代わりに“作戦の余韻”が鼻に居座る。報酬袋は軽いのに、中身は重い。数字はそういう顔をする。
ハウストレーラーまでの影道、四人とも口数が少ない。
最初に言葉にしたのはミナだった。
「——肩の“6t”って、ああいう音なんだね」
レンがうなずく。「短い音は、強い」
コトは工具袋を抱え直して、小さく笑う。「胸の“6×6”は、温度のペン。糸が黙るの、はっきり見えた」
〈アッシュパイル〉の影は、まだ目の内側にいる。両手のパイルバンカー、両肩の6t級カノン、両胸の4t級“6×6”。80tの歩き方が“地面を汚さない”という事実。
ぼくはラビットの耳(EARS)に触れて、現実を確かめる。12tの耳は軽い。軽さは武器だ。——でも、重さも武器だ。
ハウスに入ると、レンが作戦卓の端末を起こす。
「報酬確認。前金残り、外縁ビーコンC+の分。サルベの即日換金、芽ベアリング……よし」
数字は淡々。ぼくたちの呼吸はまだ早い。
沈黙が一拍だけ伸びて、ぼくは口を開いた。
「明日、行こう。A-02の跡地」
ミナが即答する。「行く」
コトは端末を覗き込む。「“外縁サルベ許可”の申請、今のうちに出すね。[※1]」
レンが頷く。「混ざらない。拾うだけ。——戦うなら帰る」
机の上に簡易の“拾い物リスト”ができる。
ハチ(Vespoid):翼根ユニット/発信器の基板。→耳(EARS)の逆探知フィルタ強化、通信のノイズ耐性。
クモ(Weaver):糸射出口のタンク、配圧バルブ。→発泡器の改造/投擲器の圧保持改善。
サソリ(Scorp):尾基部の軸受、薄装甲のリブ。→後脚のトーション補強/パイルスパイクの座金強化。
ついでに散逸した冷却チューブ、吸気フィルタ。→右膝一次ループの“脈”対策。
「火力は?」ミナ。
「短砲身の榴弾ポッド、一本分だけなら載る。——でも重さは嘘をつかない」コトが即答する。
レンがまとめる。「“一つ載せたら一つ降ろす”。足を残す。跳び退きを残す」
ぼくはうなずく。〈ラビット〉の本業は“見られず、乱して、節だけ叩く”。重さで欲張ると、それが嘘になる。
「駆動は、軸受しだいで化ける」コトは楽しそうだ。「芽ベアリング+サソリ尾の軸受、組めたら、跳び退きの回生が少し良くなる。気持ちよくなる」
「計測に入らない」レン。
「でも強い」三人で、条件反射みたいに重なる。
レンが端末に予定を打つ。
「明朝、影道からA-02外縁へ。行程は“観測→拾得→即撤退”。耳は受動、能動は点灯五秒以下。ビーコンは立てない。ギルドの“道”に乗るだけ」
「撤退裁量、ドライ」
「了解」ぼく。跳躍バルブに親指が乗る感覚が、言葉より先にうなずく。
ミナが布の天井を見上げる。「ラビット、耳に“翼根”ついたら、角度、もっと細かく出せる」
「角度は可愛い」コト。
「可愛いは強さ」ミナ。
ぼくは笑いながら、メモに“角度:1°→0.5°”と書く。文字は食えない。でも、胃の形が広がる。
レンが最後に釘を刺す。「アサルト級の真似はしない。——見る、拾う、帰る。背伸びは一日一回」
「今日は“見る背伸び”」ミナ。
「明日は“拾う背伸び”」コト。
「計測に入る」ぼく。
四人で笑って、ハウスの空気が少し落ち着く。
コトは工具箱を開き、ラビットの右膝パネルを外す。
「夜のうちに“脈”を抑える。朝の砂利は嘘つくから」
レンは帳簿の端に小さく書き足す——〈外縁サルベ申請/許可待ち〉。
ミナは袋から昨日の布切れを出して、小さなポケットを縫い始めた。ビーコンの予備バッテリが入るサイズ。色は薄緑。
ぼくは“杭打ち機の手入れ”のページをめくり、余白に一行だけ書く。
“観測は作戦。サルベも作戦。欲は軽く、足は速く。”
布の天井が、小さく波打つ。
80tに憧れるのは自由だ。けれど、12tの自由を削って真似るのは負けだ。
“混ざらないで見た”今日のログは、明日の足場にする。
明日は拾う。跳ぶ必要があれば跳ぶ。跳ばずに済むなら、もっといい。
外で、柱の骨が夜の温度に合わせて鳴る。
耳(EARS)を倒して、灯りを落とす。
むずむずは残る。でも、そのむずむずは、前に行くための“余白”だ。
明日、そこに手を入れる。軽く。速く。
———
[※1] 外縁サルベは都市圏の“灰色”業務。ギルドに申請し、許可が出た区画だけに入る。許可が降りる前に拾うと、数字が全部“罰”になる。