ザンキ99 転生して魔剣士目指しつつナゾの魔道具士やってみます 作:そこの角にいる
気付いたら、赤ん坊だった。
もうじき25の誕生日を迎えるはずだったのに。
なぜ?
中村玲夢は混乱の極みにありながら、なぜか思考はぼんやりと定まらない。
生後間もないと思われるが目は見えた。
赤ん坊。
それも問題だけれど……。
(水ん中ぁ⁉︎ しぬぅぅうう──っ。死んでしまうぅ!)
一気に意識が覚醒した。
赤子であるということ以上に、なにか水に抵抗がある。とろみが。
長いことじたばたしてから気付いた、苦しくない。
巨大な瓶の筒に入っている。スぃー。
いくつも並んでいる一つのようだ。
他に女の人やケモノが瓶の中央に浮かんでいる。
そういうのが周りを埋め尽くすように林立してる。
ホルマリン漬けのカエルになった気分。あ、カエルいた。
筒の底が空いた。
瓶を満たす溶液と一緒に排出される。
チューブの中を通って、電灯が明滅する部屋に転がり出た。
咳き込む。
肺を満たす溶液を吐き出す。
死ぬほど苦しい。
点滅する薄暗い明かりの中に浮かび上がる部屋。そこそこの広さ、タイル張り。必要なものを全て取っ払った古い浴室か便所かといった雰囲気。
そして、赤子は男に掲げられた。
ひょろ長の男だ。照明の具合もあってひどく顔色が悪い。落ち窪んだ目、影に沈んだ瞳を見ることは叶わない。
赤子は泣くこともなく、男の顔を見続けた。
やがて男は赤子を荷物のように小脇に抱え部屋を出た。
暗い石の通路を歩く。水滴がしたたる音。カサカサと何かが動き回る音。
やがて男が足を止めたのは建物を貫く巨大な縦穴の縁。
(おい、まさか──)
男が赤子を放った。
(落としやがった! コイツ!)
赤子はぎゅっと目をつぶることしかできなかった。
そっと目を開けると、落ちている。
落ちていく。
遠く、穴の淵に立つ男の姿が見えた。
「ぁばあああ~~~ぁぁぁ──…………」
ぐるぐるとした空間に呑み込まれていく。
そんな光景を、三回見た。
夜空が見える。
マッパの赤子が精一杯首を巡らせ確認したところによると、森の中の拓けた空間のようだった。あまり鬱蒼とした感じでもないように思われる。
草がチクチクして泣きそう。
なんとか起き上がれないかとジタバタしたが無理だった。
赤子はひと通りあがいた後だった。
夜空を見ていた。
(あ~……詰んだぁ……)
なんで自分がこんな目にと、体の横の大きな石を力任せに叩いてみたが、ぺちぺちという音すらしない。
そんな非力な赤子に、もうできることはなかった。
散々叫んだ。もう声も出ない。
大きな石のてっぺんからぴょこんと覗く若木の先が風に揺れてる。
(人はいそうにないし…………どういった条件が揃えば、獣は人間の赤ちゃんを育ててくれるんだろう……?)
もはやそんな現実逃避を始めていた。
(たぶん、お腹が減ってないことは絶対条件だよね。あとなんだろ? 子育て中で母性本能MAX状態とか?)
赤子はぶるりと体を震わせる。
風が強くなってきた。
(やばい、寒い)
人だの獣だの以前の話かもしれない、と考えていたところで、体に布が掛けられ抱き上げられた。
見上げればとんでもなく整った顔の男。髪や耳にも装飾品が揺れているが、しっかりした骨格や厚い胸板から男で間違いない。
(た、助かった? …………いや、まだ安心するのは早いだろ。いきなり穴に捨てられてここにいるんだ、まだ何かあっておかしくない)
身動ぎした赤子がぐずってると思ったのか、男が顔を下げ赤子を見つめた。
「すぐに街に着く」
赤子は男の言葉に耳を傾けるようにぴたりと大人しくなった。
男は一度赤子を確認して再び前を向き步を進める。同時にぽつぽつと言葉を紡いだ。
話していた方が大人しくしていると思ったのだろうか。
「お前をある夫婦に預ける。案ずるな、我が友である。男爵領の元騎士でもある。今は冒険者だが」
(…………おぅ、男爵に騎士に冒険者……)
「俺も処理すべき事が済んだらまた様子を見にこよう」
必死に目を開けていたが、この絶妙な揺れが眠気を誘う。すぐに赤子はすやすやと寝息を立て始めた。
◆
クラド辺境伯領──第三の都。
ゴーゴーと、風が鳴いている。
赤子を抱いた男が、
ノックする音のあと、聞こえてきた声に反応し、レイグは急ぎ扉を開けた。
「おー、久しぶりだな、アト」
レイグは笑顔で男を見上げた。
レイグの身長は180cmほど。対してアトの身長は250cmを優に超えていた。
顔も身体も非常に均整の取れた大男の抱えるものを見て、レイグは眉根を寄せた。
「お前の子か?」
「いや、違う。お前の子だ」
「は?」
アトに問いただす間もなく、レイグは後ろから肩を掴まれ、歪んだ扉の如くギギギと音を立てて振り返った。
笑顔の鬼女がそこにいた。
「へえー? レイグ? どういう、こと、かし、ら?」
言葉が区切られる毎に、ギチギチと肩が砕けそうな痛みに襲われる。
「いや違う! 違うぞメルティナ! おいこらアトふざけんな!」
「名は──レムだ」
微笑を浮かべたアトがメルティナに言った。
「そうじゃねえよっ! 説明しろぉっ!」