ザンキ99 転生して魔剣士目指しつつナゾの魔道具士やってみます 作:そこの角にいる
「えっ⁉︎ そうなのっ?」
魔法が使えるのかと言う質問に、真っ先に反応したのはやはりシェリンだった。
紐で綴じた本を捲るロアンのところに三人で向かう。
「初歩だけだよ?」
「あたしもお水作れるようになったわ!」
「いやつまり、レムは生活魔法以外の魔法もできるんじゃないの?」
「どうしてそう思ったの?」
「この本。おれが使ってるのと同じなのに、途中から明らかに元の本の内容よりわかり易くすごいんだよ」
だんだん早口になるロアン。
「ロアン、魔法の勉強してるの? 魔道士になるの?」
おお、同志よ。などとレムが考えていると、ロアンが首を振った。横に。
「いや、まだわかんないよ」
「そなの?」
「ほら、ウチの団は魔道士目指さなくても魔法の勉強するのが慣わしだから」
「そか、グナトだものね」
そういえば団員はみんなグナト流だった。
スキルが世に広まる前から、魔道具の
魔法の勉強は当然だった。
とはいえ、本物の
男爵領が魔物の侵攻に落ちた時、保有していた片手半剣(サヒ)は全て失われた。優れた剣者らと共に。
「それで、レムは魔法できるのかしら?」
シェリンに微笑んで、レムは指先に──目で追えないほどの一瞬で魔法陣を収束させ──火を灯した。
「はやい!」
ロアンが驚く。
すぐに火を消すと、【空歩】の要領で魔道語印を物質化して器を作る。
金色に輝く派手なコップの中に水を生成してみせた。
てけてけと寄ってきたアンディがコップの水を飲み干して、また魔道具のところに戻っていく。
コップをパリンと割って消す。
部屋中に魔道語印を投影し、本来の【空歩】を見せる。
ゆっくりと
四人にも促して、飛び跳ねて遊んだ。
「今は魔法陣を最小の単位まで分解して覚えるなんてことしないよね。なのにどうして?」
「
レムがそう答えると、なぜかロアンは衝撃を受けたかのように固まった。
「……レム……キミってやつは…………」
「ぅはい?」
「たしかに団の剣士たちに
「そうなの?」
「ウチは決闘したら負けなしとしてある意味有名だから」
対魔物より対人が強過ぎて──なんでだよ、冒険しろよ──と言われるらしい。
つまり、対人戦磨いてんじゃねえよ、魔物と戦えよ、という意味で。
(知らなかった)
「レムはみんなのためにそこまで考えて勉強してたんだな」
(ちがうよ、ぜんぜん違うよっ⁉︎)
「おれ感動したよ」
(勘違いだってぇ──!)
今さら自分専用の刀が欲しかっただけなんて言えなかった。
「よくわかんないけどさすがあたしたちの弟ね! ね、イロア」
「うん」
(やめて──っ)
四人が帰ってから、部屋を片付ける。
団員の分の片手半剣(サヒ)も実現しなければならなくなった気がするレムだ。
両手でぐしぐしと頭をかき混ぜて、ごろごろと転がる。
本に乗り上げて背中がごりっといって海老反りで悶えた。
「はぁ~……」
しばらくして起き上がると、背中にダメージを与えた本をパラパラとめくる。
魔物図鑑。
絵と解説が事細かに載っている。
絵を写す技術がないので、これはべらぼうに高価な原本だ。
(ブラックドッグ……黒犬……黒い犬ってどうなの? 普通に黒い犬くらいいるだろ。いや、魔物のブラックドッグと聞けば、黒に何か闇的な何かを感じないでもないからまだいい……けど……)
ページを捲る。
(ワイルドベアて。野生の熊て。それただのクマじゃないの? どうなの? ていうか都会の熊とかいんの?)
都会のダンディベアを考え、レムがフフってると、レイグが帰ってきたようだった。
レムは立ち上がると下階へ向かった。
次の日。
「父様、母様、座ってください」
「座っているわ」
「大事な話があります。座ってください」
「なんだどうした? 座っているぞ」
並んで座る父母に向かい合う。
「昨日、子供たちが遊びにきましたね」
「そうだな」
「ええ、仲良くなれてよかったわね」
「はい。子供たちだけで来ました。ぼくは家の周りしか許されていないのに。彼らは普通に買い食いとかしながら来たそうです。屋台でイカ焼きです。これ如何に?」
「あー……」
「もしかしてですけど。そんなはずはあり得ない仮定ですけど。まさか父様母様はぼくが出かけるとトラブルを抱えて帰ってくるとか思ってませんよね?」
「……」
「そんなこと思ってないわよ。でもレム、あなた興味を引かれたら、そのままふらふらと誘われるままにどこへでも行ってしまうでしょ?」
「そんなことは──」
「──ない?」
(あれ? 譲歩を引き出すつもりが雲行きが怪しいぞ)
「母様、お言葉ですがぼくはそんな子供じゃありませんよ」
「子供なのよ、どっからどうみても子供なのよ」
「じゃあじゃあ、初めてのおつかい的な任務をいただければ見事やり遂げまして、心配ないことを証明いたしたく!」
レイグが立ち上がると、レムの頭をがしがし撫でた。
「どこでそういう言葉を覚えてくるんだろうな、おまえは。いいんじゃないか? メルティナ。こんだけ言ったんだからレムも気をつけるさ。この間の決闘騒ぎでわかったろ? なんかあってもレムなら機転を効かせて逃げ切ってみせる」
「何もないようにして欲しいのだけど……でも、そうね。じゃあ『イン』に手紙を届けてくれる?」
「はい! やったー」
「危ないことしたらダメよ?」
頷いた。何度も。
晴れてこの日より、裏路地に入らないという条件のもと外出が許された。
一年後。
朝。
小さな弟を膝に乗せたレムが椅子に座り、母メルティナが楽しそうにレムの髪を高い位置で一つに結ぶ。
お出かけ用のクロークを羽織り、預かった『イン』への手紙をポッケに仕舞い、そして、剣鉈を腰裏に固定する。
レムは意気揚々と家を出た。
「行ってきまー……すっ」
冒険者は基本、各所にある『イン』と呼ばれる〝冒険者の宿〟に所属する。
宿とは言っても宿泊設備がないところもある。しかし確実に酒場は併設されている。じゃあ酒場じゃん、宿じゃないじゃん。という指摘は野暮である。
冒険者たちは所属するインで仕事を請け負い、冒険に向かう。
仕事の完了証明や素材の買取りはギルド門という名の砦で行っている。
インは冒険者の評価判定を行い、会費を徴収して、会員である冒険者たちの冠婚葬祭の援助や、未帰還の仲間の捜索隊を組織したり、情報の提供、雑多な手続きの代行をしたりしている。
インのトップ数名が冒険者ギルドの役員として所属する。
ギルド門通りの最奥に立つ『
『冒険者ギルド』というのはつまるところ
冒険者の宿・ハイアカン。
開けっ放しの扉。
まだ朝なので、酒場は冒険者たちが今日の仕事の受注と作戦会議に使い、呑んでるような者たちは三分の一くらいしかいない。
「レム! こっちよ!」
シェリンたち四人に軽く手を上げて見せ、カウンターに寄って手紙を渡してからみんなに合流した。
インに登録された冒険者集団を
従ってレムは『冒険者の宿ハイアカンのカムレッド、風の剣士団レイグの子、レム』となる。
「さあ、冒険に出かけよう」