ザンキ99 転生して魔剣士目指しつつナゾの魔道具士やってみます   作:そこの角にいる

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12 水は野生のあるがまま

 

 二章 異世界ふしぎ発見!

 

 

 

 

「先生、来ましたー」

 

 モジャ先生の工房の戸は常に新しい。ばーんと開けて声をかける。

 

「いらっしゃい」

 

 錬金釜(アルケミク・カルドロン)で何かをかき混ぜつつ、丸眼鏡を外し、モジャ先生が振り向いた。

 

「出来てるかんね。窓際の台に置いたるよ」

 

 藁を詰めた木箱に入れてある彫刻刀(チゼル)をそっと手に取る。

 試しに魔力を通してみると、青白い冴えた光を刃が纏う。

 

「完璧だね。ありがとう、先生」

「うん。インクはいつもの棚だかんね」

「はーい」

 

 ガラス戸を開けて、術式補助液(フォーミュラ・インク)の小瓶を取り出す。

 

「短剣の使用感はどうですか?」

「いいね。〈活力の短剣(ビガー・ダガー)〉、冒険者に売れんじゃない?」

 

 この一年の間に、レムが作った魔道具(マギア)だった。

 体力増強、疲労回復、24時間戦えますか。

 探索時間・継戦能力向上を第一に、解体や副兵装としての実用性も両立させたかった。

 なので短剣自体は本職が作ったものを買ってきた。そのため形状はバラバラだ。すべてレイグに渡し、団で使っている。

 

「手間の割に利益がね」

「八歳の言葉じゃないね」

 

 怪我の治癒ではなく、体力の回復ということで、魔道具とはいえ貴族に売りつけることは難しく、人気の品にはなり難い。だから価格を高く設定出来ない。

 そもそもの話、体力回復のポーションからして人気がないのだ。

 体力回復するだけに金をかけたくないと考える者が多く、それが必須と考えるほど長く探索行を続ける者が少ない。

 売り手側からすると、治癒のポーションと素材がかぶるという側面もあり、それなら治癒を売ったほうが儲かる。

 

 一方で、風の剣士団は普通の冒険者パーティからしたら考えられないくらいのハイスピード且つ、積極的に魔物との戦闘を行うので〈活力の短剣〉はとても喜ばれた。

 

「月銀の彫刻刀があればかなり作業が楽になると思うんです。そしたら売り出してもいいんだけど。実際やってみないとわからないよね」

月銀(イスリル)ねぇ……」

 

 受け取ったこの彫刻刀も魔道具だ。

 最も硬いとされている不屈鉱(アダマンタイト)の刀身を鍛治師に特注して、魔力との親和性に優れた灰銀(ミスリル)をモジャ先生にコーティングしてもらったもの。

 それを術式を刻んだ持ち手の先に挿し込んで使う。

 

 この彫刻刀で魔法陣を彫り込み、補助液(インク)を流し込んで魔力の通り道を作ってやることで、魔道具に変える。大雑把に言うとこういうこと。

 

 刻印式と呼ばれる手法で、現代に残る唯一の魔道具製作法だった。

 

 剣など限られたスペースに強力な魔法陣を刻むのは難しいため、炎の剣などと呼ばれるものであっても、どんな硬い魔物も焼き切るだとか、切りつけたら対象が燃え上がるなんてことはない。松明の代わりに使えたなら相当な高品質と言える。ただし値段に見合うかはわからないが。

 

 刻印がし易い家財道具作りが長らく魔道具士の仕事だったが、今は見栄え優先の貴族向け装飾品作りが魔道具士の花形。

 剣どころか、手のひら大のプレートに刻んだ魔法陣で空間に家紋を映し、擬似的に花びらを散らして自分がどこの誰だかを誇示する、といった演出装置的魔道具が中央で流行っている。

 

 レムはちょこちょこと試してきた中で、素材が魔法効果を高めることがわかり、色々とやりようがあるんじゃないかと思っている。

 

 それは『鍛治の工程の複雑化による高価な物質要素と、錬金術による秘伝物質要素の増幅効果利用。』

 かつてそう呼ばれていた物であることをまだレムは知らない。

 

月銀(イスリル)は誰もが見ているが、手にするのは難しいかんね」

「うん」

 

 夜空に輝く銀の月。

 イスリルの砂に覆われた天体。

 

 月銀(イスリル)の彫刻刀ならばわずかな魔力で紙に絵を描くがごとく彫金できるらしい。

 

 

 

 

 

 家に帰るとレイグが副長の二人とテーブルで向かい合っていた。

 一人はサビラ。五十代のオニイサン。

 もう一人がダスティン。シェリンとアンディの父。

 

「お、若坊ちゃんおかえり」

 

 いち早く気付いたサビラがニヤリと笑う。

 

「ただいまー」

「やあ、おかえり。久しぶりだね」

「副長、いらっしゃいませー」

 

 柔らかく笑う金髪のイケメンにお辞儀した。

 ダスティンはまだ29の若さだ。

 

「あ、レム! 帰ってきた!」

「レム」

 

 シェリンとアンディがソファに座る母メルティナのところでおやつのクッキーをもらい、弟のほっぺをつんつんしながらくつろいでいた。

 

 

 

 三人でレムの部屋に上がる。

 部屋の一角では紙の束が塔になっている。

 

 机に木箱に入れたままの彫刻刀を置く。

 アンディがじっと見つめる。表情は全然読めないが、アンディはやっぱり魔道具に興味があるんだな、とレムは机の下に立てかけてあった板を取り出した。

 板には魔法陣が刻まれている。ただ発光するだけの魔法陣だ。

 板をアンディに渡す。

 

「魔力を一定に流して、安定して光らせられるようになったら、アンディの彫刻刀(チゼル)をあげる。魔道具を一緒に作ろう」

 

 アンディは頷いて渡した板を抱きしめた。

 

「レム、あたしには?」

「え? 魔道具作りたいの?」

 

 シェリンは首を横に振った。

 

「……じゃあ、魔法の練習する?」

「もう書き取りはやーよ」

「じゃ、外で」

 

 レムが言い終わる前に、シェリンは部屋を飛び出した。と思ったら、戻ってくると入り口から顔と手だけ出して手招きすると、今度こそ外へと走っていった。

 

「今日も元気いっぱいだね」

 

 ん、とアンディが頷いた。

 

 

 

 家の裏庭の塀の一角は、他と比べて分厚く高い。

 その塀の前に的が立てられ、弓の練習ができるようになっていた。

 父も母も弓ができる。というかグナト流は弓も習うのだ。

 ただレムと弟の世話で、長いことメルティナは弓の練習ができていない。

 

 塀と的の間で三人の子供たちがしゃがんでいた。

 三人が見つめる先の地面には魔法陣。

 

「魔力を通すよ」

 

 魔法陣が微かに輝き、魔法陣の上にもこもこと柔らかい土が生成され、魔法陣が縮んで消えた。

 

「魔法陣は上手く魔力を同調させれば他人でも干渉できる。良くも悪くも」

「どういうこと?」

「魔法が発動する前に同調できれば、魔法を奪うことも魔法陣を壊して消してしまうこともできるってこと」

「すごい! できるの⁉︎」

「実際やるとなるとむずかしい」

「なーんだ。そうなの」

「うん。次は呪文ね」

 

 さっき作った土に手をかざす。

 

【ディオーディオーアロス】

 

 手の前に魔法陣が出現し、そこからぽろぽろと土が溢れた。

 

「というか、地味ね!」

「ま、ね。コップ一杯の水を生成するのと同じだからね。生活魔法レベルってことだけど、知られていないのは……使う人がいないんだろうね」

「この土はほんものなの? 消える?」

「これは消えない。時間で消える土もできるみたいだけど」

 

 土石流で敵軍を粉砕した記録があり、一日後には敵軍の死体と削れた大地だけだったという話。

 

「ほぉー」

 

 声に振り向くと大人たちまでいた。

 

「ずいぶんと勉強してるんだな」

「ふふん、レムはすごいのよ!」

 

 どどーんと胸を張るシェリン。

 ダスティンがシェリンの頭を撫でる。

 

「僕らも敵に使われたら厄介な魔法の組成は覚えるけど、魔道語印(アトン)まではなかなかね」

魔道士(メイジ)じゃなければそんなものなんじゃないですか?」

 

 サビラが何か思い出すように腕を組んだ。

 

「いや~、最近じゃ魔道士だって丸暗記っていうぞ?」

「えー、そうなんだ……でもこの土の生成はわかり易いと思う」

 

 土の生成は三つの魔道語印(アトン)から成っている。

 一つずつに分解して訳すと「神々を待つところ」と読むことができ、その三つで構成された呪文の意味は「大地よ」となる。

 

「どう? なんとなくわかる気がしない? これが火の場合だと〝天気を待つ道〟みたいになってわかりにくいんだ」

 

「へえ。若坊ちゃん、すげえじゃねえか。ホントに八歳か?」

「へっへ」

「はい、先生」

 

 ダスティンが手を挙げた。

 

「はい、ダスティンくん何かね?」

 

 レムが無いヒゲを擦りながら問う。

 シェリンとアンディが笑った。

 

「土の生成は一回につきこの量なのかな?」

「いえ水の生成と同じように、魔力を注ぎ続ければ土を生み出し続けます。でも個人の魔力量じゃ結局大した量にはならないでしょう。あくまで生活魔法レベルのものですから」

「じゃあ……」

「はい。ここからは魔法の領域に入ってきますが、魔力1に対して土1だったものを、魔力1に対して土を5にも10にもすることができます」

「それレムはできるのか?」

 

 今まで黙って聞いていたレイグが言った。

 

「できます」

「なんで父親が知らないんだ?」

 

 サビラが言い、レイグが目を逸らした。

 

「うるさい」

「それでここに盛り土作っていいですか?」

「ああ、いいけど……?」

「よかった。火の魔法を練習するためにもお願いしようと思ってたんです」

「火のまほうっ⁉︎」

 

 シェリンが飛び跳ねて喜んだ。

 みんなが離れたのを確認してから、両手をかざした。

 

【レアエインディオーディオーディオーアロス】

 

 湧いてくるように土が盛り上がり山になり、あっという間に高さ3m辺りになると止めた。

 

 矢の的の後ろに土の山、その後ろに同じくらいの高さの塀という状態になった。

 

「で、今のはどういう意味?」

「増えよ大地よ、って感じです」

 

 

 

 

 

 

 

 

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