ザンキ99 転生して魔剣士目指しつつナゾの魔道具士やってみます 作:そこの角にいる
天意、と呼ばれるものがある……。
(そんなのこれまで聞いたことなかったけど)
あるいは、精霊の導き、と呼ばれるものだ。
偶然の幸運をそう呼ぶこともあるが、昔は事実としてある種の現象をそう呼んだ。
現代ではスキル、かつて
火や攻撃的な魔法を行使する時、赤い布を巻くとか、赤い宝石がついた指輪をするだけで効果は高まる。
回復魔法を使うに際し、生命の象徴たる植物を手にすることも有効だし、神官の聖印のような人工物も効果がある。
魔法など使えなくても、激しい感情に周囲の魔力は反応するし、致命と思われた魔法の爆発に耐えたり、肉体は死んでいるのに意識を保ち大切な者の到着を待ったり。
魔道書にこんな一文が添えられている。
『聞き届けるのが誰であろうと、祈りには力がある。』
魔道具でもなんでもない木の枝が割と有効である事実。
赤は火、攻撃に。青は水や精神に、など。
「はー……」
魔道書から顔を上げて呟いた。
魔道具作りをしている時にそうじゃないかとは思っていた。
「にしても、色かー……色」
素材は気にしていたが色も、というのは新しい発見だった。
「着色するだけでも効果が高まる……?」
うーん、と考える。
ベタベタと色を塗りつけるのはあんまりしたくないな、と思う。
(あ、いやそもそも……)
陣を彫ったところに
自然な素材で色も合わせていきたいところだ
しかし、そのためには何よりも。
「鍛治師だ。腕のいい鍛治師が必要だ」
レムは立ち上がると部屋を出た。
弟を膝に乗っけて、母メルティナに髪を結ってもらう。
「鍛治師はいねが~。鍛治師ぃ~。ん〜?」
弟のほっぺをふにふにしてから、母を見る。
「母様、誰か心当たりありません?」
「お世話になってる工房じゃだめなの?」
「できれば専属が欲しいんです」
「ウチに所属してくれるなら見習いでもいいってわけじゃないのよね?」
「はい……」
「うーん、探してみるけど……」
「お願いします」
弟を母に渡し、腰に剣鉈を固定する。
フードを被り、戸を開けて、こちらに歩いてきていたロアン兄妹とシェリン姉弟に叫ぶ。
「鍛治師はいねが~。鍛治師ぃ~。ん〜?」
ロアンを除いた三人がきゃーきゃー逃げるのを追いかけた。
薬草採取しながら、たまに土の中から飛び出してくる植物系モンスター、
「ただいまー」
四人と別れて家に帰ると、またもいる副長二人。さらに今日は三人団員が増えていた。
「お帰り、若坊ちゃん」
サビラを筆頭に口々に言われ、いらっしゃいませと返す。
三人の団員の内、二人は親子だ。最近正式に団員として認められた目つきの鋭い少年は十六歳。
レムも近くに座って話を聞く。
「海賊が増えている」
「カリブラ海だな?」
「積荷がかなりやられてるって話だ。時にウォーフの港まで来て荒らしていくらしい」
辺境伯領第二の都ウォーフ港。
ここスレーヴェンから南に800km弱。
辺境伯領流通の重要拠点の一つ。
「人も物資も滞るか。やだねぇ」
「最近ここに流れてくる奴らのガラが悪いのって海賊でも混じってんじゃねぇ?」
「海で稼いでんだろ? なんで陸に上がってくんだよ」
「あれ? この街にガラの良い人なんていました?」
レムが首を傾げて言うと、「そりゃそうだ」と皆が笑った。
なぜか十六歳の彼に睨まれて、レムは目をぱちくりとした。
レイグたち団の主だった者がウォーフの状況を確認するために旅立った。
団の、特に古参連中はほとんど。
冒険者の一集団でしかないのに、なぜそんなに気にするのかと、ちょっと思ったレムだが今はそれどころじゃなかった。
魔法に魔導具にやること、やりたいことが山積みであるし、レイグが留守の間、自分が家族を守らねばと意気込んだ。
レイグたちが旅立って翌日。
この日は
肉の塊を抱えて家に帰ると、母が肉を受け取りながら、そういえば、と噂を聞かせてくれた。
「商店通りの奥さんに聞いたんだけどね、あちこちの鍛冶場でドワーフが追い出されてるのを見たって。同じ人かはわからないけど、シルクハット被ってたからたぶんそうだって言ってたわ」
「行ってきまーす!」
スレーヴェンは広い。
見つかるかどうかわからないがとにかく探してみようと、まずは近くの工房から訪ねることにした。
「馬鹿野郎ッ!」
目の前をシルクハットが横ぎって、数人がかりで手足を持たれた背の低いがっしりした男が道に放り出された。
「何しやがるっ! 俺は伝説のムックリン・ボルサリーノの孫にしてモッサリーニの子、ズングリーノだぞ!」
「うるせえ! 馬鹿」
「バーカ、バーカ!」
「なんだとぉっ⁉︎」
「……」
シルクハットを拾ってドワーフに差し出す。
「ん? お、悪ぃなぼうず」
「こんにちは、ぼくレム。趣味は
「おお?」
南区の職人通り。
ドワーフに話を聞けば、雇われていきなり親方にダメ出しを始め、同僚にも「か~、なってねえなあ!」「下手くそがこうやってやんだよお!」と、これから一緒にやっていく仲間として親睦を深めようと軽く助言をした、と。
本人としては馬鹿にするとか一切なく、助言できることがある、というのが嬉しくて、また高め合っていく仲間ができたと嬉々として教えていたつもりだったらしい。
「いい加減な仕事しやがってよお!」
ドワーフは職人通りを歩きながら大声で叫ぶ。
「ちょっと教えてやろうとしたらこれだ! 器が小っせえんだよ! ちんちんついてんのか⁉︎ 情けねえ奴らだッ!」
「うっせえ! バーカ!」
ちょうど通りかかった工房からいろんな物が飛んできて慌てて逃げ出した。
「さっきの鍛冶場にもいたんだね?」
「おとつい一日だけな」
ようやく落ち着いて歩けるようになった。
ドワーフが髭を撫でつけ、シルクハットをかっちり被り直した。
大通りに入って、行き交う人たちの様相が変わる。
この辺の治安はさすがにある程度は守られている。時たま喧嘩騒ぎはあるが、気を付けなければならないのはスリの方だ。
屋台でテリヤキチキンサンドを買ってドワーフに片方渡す。
「……うめえな」
「でしょう?」
「ビヤがあれば最高だったがな」
「8歳に言われても」
「おめえ、8歳か」
「うん」
「あー、ん? 名前なんつったっけか」
「レム。あなたは?」
「おう! 俺は伝説のムックリン・ボルサリーノの孫でモッサリーニの子、ズングリーノだ。ズンガと呼んでくれ」
なぜこの街に、と問えば、「祖父を超えるため」とズンガは答えた。
「祖父が引退してから俺んチは帽子屋になってな」
「はい?」
「親父と祖父さんの折り合いが悪くてな、親父は家を飛び出して、帰ってきた時には帽子屋よ。ちょっと祖父さんが鍛治師として凄すぎたな。親父も別に才能がなかったわけじゃないんだ。帽子屋も国で流行を作ったからな」
「それで、ズンガは鍛治師なの?」
「親父からも学ぶと同時に祖父さんの弟子からも教わった。俺は武器でも防具でも最高を目指すのさ」
レムは思った。
(ああ、なんて都合がいいんだろう。もしかしてこれが精霊の導き……?)