ザンキ99 転生して魔剣士目指しつつナゾの魔道具士やってみます   作:そこの角にいる

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15 ゴブリンの耳で一杯飲める

 

 

 

 

 

「なんで?」

 

 ひょろ長のモジャ先生とずんぐりズングリーノが向かい合っていた。

 

「おう、世話になるぜえ」

「なんで?」

 

 モジャ先生とズンガがレムを見た。

 どっちももじゃもじゃだなー、とレムは思った。頭か髭か。

 

「しばらくお願い! 先生」

「ウチの炉じゃ鍛治はできないんだに? 知ってた?」

「うん。だから鍛冶場を造る」

「おお! 俺の鍛冶場!」

「ぼくらの鍛冶場ね」

「団長殿は今留守でしょ? そんなお金使えんの?」

「使えないからぼくら三人で稼ぐんです」

「さてボクぁ寝るかんね。さいなら」

「待ってちゃんとお金を得られるから、間違いない。ぼくを信じて」

「なんか杜撰な詐欺師を相手にしてるのかなって思った」

「俺も」

「ひどい。8歳に」

「で、どうやって稼ぐんだい?」

「魔道具を売ります。三人なら今出回ってるのより良い魔道具がぜったいに造れる。ふっふっふ、そして団のみんなも宣伝に使います」

「あー、悪い顔だ。8歳のくせに」

「しつれいな! 先生しつれいな!」

 

 

 その日からモジャ先生の家に入り浸った。

 

 確かな技術があることを証明する宣伝用の魔道具と販売する魔道具を並行して作る。

 宣伝用の方は風の剣士団に着用してもらうつもり。

 販売するのは知名度からいって『炎の剣』がいいだろうということに。時々、店売りを見るので比較がしやすいのも良い。

 

「ということで、宣伝用に風の剣士団をイメージした紋章を空間に描き出す演出の魔道具を作ります」

「それはいいが、それでどうすんだ?」

 

 決闘はなにも諍いの解決策というだけのものではない。交流や興行にも利用され、時に大会と名を変えて、冒険者ギルドが主催して賭けが行われたりもする娯楽の側面もある。

 

「積極的に決闘を仕掛け、賭けにして、名乗りの際にばばーん、と」

「はーなるほどな」

「それで腕輪、にしようと思ったけど、演出の道具に腕を占有されるのはちょっとないかな、と思い直しました」

 

 金属篭手をしてる人も革の手甲を巻く人もいるため邪魔になる。

 

「じゃあどうする?」

「マフラー……襟巻き的なのがいいかと思って。……ところで、魔力を通し易い素材で魔法陣を織り込んだら魔法は発動するのかな? 折り畳まれた状態はどうかな?」

「ふむぅ……わからんな」

「試してみるしかないか」

 

 そこから試行錯誤が始まった。

 モジャ先生は特殊な配合の術式補助液(フォーミュラ・インク)や溶剤を作ったり、鍛冶場を見学したり。

 ズンガは昼間鍛冶場を借りて鉄剣を量産し、夕方からは襟巻きの製作。

 レムはそれぞれの意匠を考え、子供たちと素材集めに出かける。

 

「うー……」

 

 マフラーに織り込む素材にレムは唸る。

 魔力を伝えやすい灰銀(ミスリル)の金属糸が欲しかったが、いろいろ試すには高すぎた。

 採掘できる場所なんて誰かに管理されているし、新しい鉱床を見つけるなんて無理。

 代わりになるものとなると、似たり寄ったりの希少性か、戦闘という意味で難易度が高くなる。

 都合よく近くに棲息しているのかという問題だけは、お隣の魔の領域に踏み入れば解決するだろうが。

 

 ということで、風の剣士団が所属するイン──ハイアカンの宿で情報をもらった。

 

 魔の領域のなるべく浅層で魔力を通す素材が得られる魔物。

 

宝珠編み(オーブウィーバ)』というのがいるらしい。

 

 バレたら母だけでなく、シェリンやロアンにも怒られるだろうが、レムは一人で偵察に出かけた。

 オーブウィーバは蜘蛛型の魔物だ。子蜘蛛の卵や、収集癖があるのか何か気に入った物を自身の糸でぐるぐる巻きにする。それが魔力にぼんやり光るので宝珠編みという。

 戦闘においてはそれほど脅威ではない。

 

(問題は──)

 

 格闘蜘蛛(グラップラスパイダ)という護衛が張り付いていることだ。

 

 魔力の働きでこの世界の戦闘者は驚くほど素早いし頑丈で身体能力が高いが、魔物たちはそれを軽く上回る。グラップラスパイダもまたそうだ。前肢の二本が鉄球のようになっている。

 

 子供たちと一緒に行くわけにはいかない。

 疲れが出たのか、この辺で不自然に記憶が途切れたりしたが、頭を振って気合いを入れ直す。

 蜘蛛糸の採集は、風の剣士団に頼むにしても、レムをよく知っている者でなければ、説得以前の問題だ。ということで、三人で出かける。レムにモジャ先生とズンガの三人だ。

 正直、今回はこの編成が一番手っ取り早いと確信があった。

 

 そして決行──蜘蛛どもを誘き寄せて爆弾で片付けた。

 森を騒がせてしまったが、無事素材である蜘蛛糸スパイダーシルクを手に入れた。

 

 早速、モジャ先生が「腰が……脚が……筋肉痛が……」とポーションをがぶ飲みしながら錬金術で加工した蜘蛛糸を、襟巻きに魔法陣として織り込んでみる。

 襟巻きを広げた状態で【火射】の魔法陣を起動。

 襟巻きが燃えた。

 

 蜘蛛糸を術式補助液(フォーミュラ・インク)の染料で染め、顔料でコーティングする。

 襟巻きを広げた状態で【火射】の魔法陣を起動。

 襟巻きが燃えた。

 むしろ激しく燃えた。

 

「やはり、素材との相性は無視できんな」

 

 ズンガがアゴ髭を扱く。

 

 襟巻きを緩く畳んだ状態で【火射】の魔法陣を起動。

 襟巻きが燃えた。

 

 襟巻きをかっちり折り目を付けて畳んだ状態で【火射】の魔法陣を起動。

 爆発した。

 

逆火現象(バックファイア)か!」

 

 燃え上がるのはある意味、正常に魔法陣が起動したということらしい。

 

 襟巻きに補助液で魔法陣を描いただけでは、空間に魔法陣を投射するのと変わらない。

 単純に魔力を流すだけの作業で済むように、回路が必要だ。

 緩く畳んだ状態でも発動するということは、魔法陣が歪んでいるということにはならないのか。広げた状態で歪んでなければよいのか。

 少なくとも、剣に彫ったとき歪んでいたら発動はしない。

 

 薄い銅板に魔法陣を描き折り曲げてみる。

 爆発。

 広げた襟巻きにわざと歪んだ魔法陣を織り込んでみる。

 発動しない。

 

 広げた状態で正確に魔法陣が描けていれば、多少シワが寄ったところで発動できるとわかったが、安全性を考えるとこれで良しとはできない。

 実際に折り込むのは、空間に魔法陣を描く魔力の技術であり、魔法発動の前段階で中止するような、魔法とも言えないようなものではあるのだけど。

 

「折れない位置に小さめに縫い付けるか?」

「うーん……」

 

 小さいと複雑なことはできない。それなら板や腕輪を鞄から取り出すのでいい気がする。

 

 最終的に、大きめの金属板の襟留めに、魔法陣を彫ることにした。

 なにか従来の貴族の玩具とあまり変わらないが、刻印式の応用ではこれ以上は無理と判断した。

 剣士団で揃いの襟巻きということと、編み込んだ蜘蛛糸(スパイダーシルク)が光ることで差別化を図る苦肉の策に落ち着いた。

 いずれ解毒や寒暑を和らげる効果などを付与できたらいいのだけど。

 

 

 次は炎の剣に取り掛かる。

 

 店売りしている炎の剣は、ほぼ貴族の権威を誇示する道具に過ぎない。

 極端な話、武器ではないのだ。

 彫られた魔法陣はほとんど装飾的な演出のためのもの。

 

 中央での流行りから、この辺の装飾的技術だけは他の魔法関連に比べて随分と進んでいる。

 魔法陣の装飾というのは元々、敵に使用魔法を特定されないため、魔法を奪われないための戦術の一環であったという。

 それがやがて魔法の所属一派の特徴づけに使われるようになり、今ではほぼ貴族用の技術になった。

 

 現在作ることのできる炎の剣は、【(スパーク)】という点火の魔法陣に、装飾的演出を組み込んだものだ。

 弱火。

 しかもただの炎でしかないため、素早い切りつけに炎は何の意味もない。

 

 

 実用性を考えるなら、炎を纏うのではなく【火射】を撃てるようにした方が良い。

 炎を纏う必要性に疑問を持ったレムだが、三人で話し合って、やはり炎の剣という〝見た目〟は重要という結論に至った。

 目標は、炎を纏わせつつ【火射】も放てるようにする。

 

 鉄剣に魔法陣を彫り込み、試作品を作る。

 松明くらいの炎を纏えれば相当な高品質と言われる。

 

 剣身に【燧】の魔法陣をいくつも連ねることで実現したが、魔力の消費が酷かった。

 

 次は補助記号『符号(デコ)』で飾り立てる。しかしデコるにも限度がある。符号を魔法陣に接触させないといけないし、魔法陣を大きく彫るにしても、デコり過ぎて刻印が潰れてしまっては意味がないし、【火射】の魔法陣も彫らなければならないし。

 

「世にある強力な炎の剣はどうなってるんだ。研究してないの?」

「少なくとも刻印式を真似ても意味がなかったって聞いたに? あと、刻印がまったく無いのもあるなんて話もあったかね」

 

 試作の剣を覗き込みながらモジャ先生が言った。

 

「失われた製法か、前にどっかで読んだぞ……?」

 

 出来上がった剣を持ってきたズンガが言った。

 

「たしか、呪文蓄積だったか?」

「それから精霊封印式──ですね。字面からなんとなく想像できるけど、やり方はさっぱりですね」

 

 

 

 作業の間に何度か意識を失い、なぜか何度か時間が跳んだ。

 夢を見たが、思い出せそうで思い出せない。

 

 

 

 冒険者の宿(アドヴェンチュラーズ・イン)・ハイアカン。

 インの資料室を出る。

 酒場の喧騒が聞こえてくる。だいぶ日も傾いてきた時間帯。そろそろ酔っ払いどもの時間だ。

 レムは階段を降りると、カウンターで温かいお茶をもらってちびちびと飲んだ。

 

 ここ数日、炎の剣制作に行き詰まっていた。

 

 物に魔力を通すと、天意あるいは精霊の導きによって単純に壊れ難くなる。剣なら鋭さが増すし、槌なら打撃力など。意識的に魔力を流すことでその効果はさらに高まる。

 だから炎の剣も特別な処理をせずとも、炎を纏うことで刃がダメになるようなことはない。

 

 ……はずだった。

 とりあえず魔力の消費量に目をつぶって、炎を剣身に纏いつつ【火射】を組み込んで試射したところ、結果、刃が溶けた。

 天意を上回る火力が出力されたということではなく、剣への負荷が大き過ぎた。

 安価な鉄剣からグレードを上げてみたが、失敗と費用が嵩む。

 ズンガの武器と〈活力の短剣〉をザンパに買い取ってもらい資金を繋いでいる。

 

 点火の魔法【燧】と【火射】の共通する魔道語印(アトン)を重ねることで、剣の限られたスペースの節約と、予想外の火力アップを実現できたのだが、そこまでだった。

 まだ足りない。

 根本的に【燧】では不足なのだ。生活魔法ではなく、攻撃魔法の魔法陣が要る。

 

 実のところ、レムにはこれに限らずいくつもの魔法の案がある。

 自身の記憶とこれまで読んできた書物の記述と魔道語印(アトン)を組み合わせた魔法が。

 しかし、やはり二の足を踏ませるのが逆火現象(バックファイア)だ。

 

 今回の場合は魔道具で、逆火が起こっても自分の身体が内から爆発するなんてことはないから、強行できなくもない。

 ただ魔道具が爆発するにしても規模がわからない。

 父母を悲しませるようなことはできない。

 爆発しなかったとしても、そんなマネをしたこと自体、彼らを悲しませることになると理解している。

 

 十分離れたところから炎の剣を起動させることができればいいのだが、成功していない。

 宙空に描く魔法陣は、当然、自身の魔力によって描かれ、少し離れたところにも投射できる。ならば、離れたところから魔法陣を炎の剣に接触させ、剣に魔力を流し込めないかと思ったが、そもそも十m先に魔法陣を描くのも難し過ぎた。

 

 優れた魔力伝導体たる蜘蛛糸スパイダーシルクを炎の剣に貼り付けて伸ばし、遠くから魔力を流してみたが、伝導体といえど蜘蛛糸では伝う過程で魔力がかなり散ってしまう。起動するには至らなかった。

 さらに優れた灰銀(ミスリル)は、資金の問題から試すこともできない。

 

 酒場を見回してみると、カウンターの隅に大きなガラスの鉢がある。

 錬金術師がスライムゼリーを調整して作った中の溶液が、魔力でぼんやり光を放っている。

 

 そこに、大量の耳が沈んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

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