ザンキ99 転生して魔剣士目指しつつナゾの魔道具士やってみます 作:そこの角にいる
ガラスの鉢に沈むゴブリンの耳。
討伐証明部位。
報酬をもらった後、冒険者たちはいくつかの耳を持って酒場に向かう。
持ち込んだ耳を鉢に放り込み、一杯のビアと交換する。
耳とスライムゼリー溶液が反応し、人工的な魔石に変わり、鉢の底に溜まる。という仕組み。
魔石はモンスターならどいつも体内に持っているという訳ではない。
そういう天然の魔石は貴重で、一攫千金を狙える宝石である。
冷蔵庫やコンロといった家財の魔道具に魔石は必須だが、それは人工の魔石で賄っている。素材として価値のないモンスターでも、溶液に漬けておけば魔石に変わるので、十分な供給があり、ここスレーヴェンの特産品とも言えた。
「…………魔石かー」
レムは家路を走った。
とりあえず『炎の剣』を作るにあたっていま直面している問題点。
それは【
それから、より強い火の魔法陣の候補はあるが、逆火が危険すぎて試せないことだ。
蜘蛛糸スパイダーシルクを繋げて魔力を流してみたが、距離に応じて拡散してしまう。
顔料でのコーティングもダメだった。
線を被覆する技術はない。開発してる時間もない。
線を密閉空間に通せば魔力は散っていかないのかそもそも確証はない。
考えるほどにどんどん大げさに、大掛かりになっていってしまう。
そこで魔石だ。
なぜ気付かなかったんだとレムは走りながら思った。
魔石はつまり有形の魔力だ。
蜘蛛糸からの少量の魔力を呼び水にして、魔石から剣に魔力が流れるようにする。
蜘蛛糸に流す魔力は遠隔スイッチの役割だ。
現状これが一番単純な方法ではないだろうか。
とにかく試してみようと思った。
次の日、レム、モジャ先生、ズンガと三人連れ立って街の外に出た。
見晴らしがよく、誰も見当たらない平原に、ガチャガチャと何本もの剣がぶつかる音が響いた。
炎の剣から数十mの距離を取って魔力を流す。
蜘蛛糸を魔石に巻きつけ、剣の柄に接触させて固定。
そのまま蜘蛛糸を伸ばして距離を取り、魔力を流す。
遠く、剣から炎が上がった。
「きた!」
「きおった!」
「ポーゥ!」
治癒や強化のような身体に直接作用する魔法には利用できないが、敵に飛ばすような攻撃魔法ならこれで試せることがわかった。
今度は石を積んで、剣の柄を差し込み、切っ先を空へ向けた。
刻印した【
「次【火射】」
剣先に魔法陣が収束して上空に炎が擊ち出された。
三人は互いを見合って叫んだ。
『よっしゃあああっ‼︎』
剣はまだ六本残っている。
どれも鍛造鋼の剣で、最低でも一本25万。
そこにそれぞれ微妙に違う魔法陣が彫り込まれている──五本爆散した。
「これで最後。剣も魔石も蜘蛛糸も最後。失敗した剣の魔法陣の並びから考えてこいつは成功する可能性が高い、気がする」
そして──。
「おお……!」
ズンガが震えるように言った。
剣が纏う炎の中に、時おり、黒い炎がちらつく。
これが【焦熱】の再発見ということになった。
改めて剣を直に手に取って、魔力を流す。
音を立てて炎が剣身を包んだ。
ズンガとモジャ先生が後退る。
「やっぱりぼくにはまだ重いや」
爆散した失敗剣の残骸に刃先を落とすと、抵抗なく──ス──と焼き切れた。
『おお~っ』
二振りの『炎の剣』を持って、三人は大騒ぎで家路に着いた。
【炎上】と【焦熱】の炎の剣をザンパに見せる。
【炎上】を販売するための相談をする。
何度も通って炎の剣を見せてもらいお世話になった『コリンの魔道具店』に置いてもらいたいと思っている。
「そりゃあいいんですが、これ、騒ぎになるんじゃ?」
「だろうなあ」
ズンガがザンパに同意した。
「まさに〝炎の剣〟でやすから。しかも若坊ちゃんが魔法陣を描いてるなんて知れたら、誘拐されやす」
「おぅ……。……どう? 似合う?」
レムはさっきズンガから貰ったシルクハットを被りつつみんなに聞いた。
「ええ。よく似合ってやすよ」
「俺が作ったからな」
「いいんでない?」
それぞれから言葉をもらって、レムはでッヘッヘと笑った。
「……素性、隠しやすか」
ザンパがシルクハットを見ながら言う。
「探られるのもつまらねえでやしょ?」
「まあそうだけど。でもすでに調べればここに辿り着いちゃうんじゃない? 今まで隠そうとしてこなかったし」
「若坊ちゃんに関してはそれほど問題ないかもしれやせんね。作業を見られでもしない限りはまさか8歳の子供が作ってるとは思わないでやしょう」
「じゃ問題ないね」
「いや俺たちは?」
「え? 隠すの?」
「お前の主導だからな。お前が表に出ないなら俺らも出ない」
「そもそもボクぁ矢面に立たされるなんて嫌だかんね」
「では、でっちあげやしょう。謎多き魔道具士を。御三方はその方の弟子ってことで。誰かに何か言われても、師に黙って勝手に決めることはできないと躱せばよろしいでやしょ」
「じゃあじゃあ、お師匠の名前はマッドハッターで」
「なんだそりゃあ?」
「マッド」
レムはモジャ先生を指差した。
「ハッター」
次にズンガを指差す。
「誰がマッドだい」
「確かに俺は帽子屋だがね」
「では、どうしても人前に出なきゃならない時はそのシルクハットと仮面でも被ってもらうってことで」
謎の魔道具士マッドハッターがぬるっと爆誕した。
すっかりひと仕事終えた気のモジャとズンガが酒を飲み始めたため、二人を置いてレムはザンパと彼の部下を伴い、風の剣士団の長屋を訪れた。
二階建て
主要メンバーのほとんどが遠征に出かけているので、今は依頼を抑え、残ったバン副長指導のもと、しばらくは訓練に重きを置くことになっている。
林の中に気合いの声が響く。
ぐるりを囲む塀、
板金鎧や巻き藁など稽古用の的が並んでいる。
若い団員の血気盛んな気勢。
ベテランは隅で静かに素振りや弓を射っていたり、一角に建てられた
風の剣士団──正式には『ヴィントベルク男爵の剣士団』には三人の副長がいる。
五十代のオニイサン──サビラ。
甘いマスクのシェリンとアンディの父──ダスティン。
そして、最後の一人が剣式『グナト』の
実のところ副長の中にも序列がある。
上から、サビラ、バン、ダスティンの順である。
サビラは元々、諜報を通じて男爵の政務の補佐に当たっていた立場で、本来、軍部を取り仕切る団長とは対等な位だった。
ダスティンは剣士団の副長である。二十代での抜擢は異例であった。経験を積ませたい意図もあった、反対意見もあった、しかし彼の才覚は誰もが認めるところだった。
バン副長は、剣式『グナト』のナンバー2を意味する。剣士団に留まらず、グナトを学ぶ者たちのすべて──グナト流派の副長である。
ただ、マイナー流派のうえ男爵領も失った今となっては、団員とてその序列を知る者は少ない。
「バンチョー」
レムはバンをそう呼ばわって手を振った。
バンも軽く手を上げる。
気付いたロアンが駆け寄ってきた。
「レム!」
「やあ、ロアン」
「もしかして、出来たの?」
ザンパたちが抱える剣を見て、ロアンが瞳を輝かせる。
「残念ながらまだまだいろいろ足りなくって。ちょっと団のみんなに協力してもらえないかと思って」
なんだなんだと集まってきたベテラン団員たちにソファや木箱なんかに座ってもらう。
ザンパと彼の部下が丁寧に剣を台に並べていくのを見て、団員が声を上げた。
「マジで
「だがこれは
「ままま、落ちついてくださーい」
レムは抑えて抑えてと手振りでみんなに示し、説明を始めた。
サヒを作るにはまだクリアしなければならない課題が多いこと。
まずは炎の剣から始めてみたこと。
みんなの協力が必要なこと。
差し当たって資金の調達をしたいということ。
「ロアンに聞いたんですけど、なんでもウチは対人決闘で負けなしなんだとか。そこで、賭けで儲けつつ、炎の剣を売り込んで稼ぎます」
「こら8歳児」
一人の言葉に笑いが漏れた。
レムも笑う。そして続けた。
「
「確かに!」
膝を打ってあっけらかんとした言葉に、今度はみんなから笑いが起こった。