ザンキ99 転生して魔剣士目指しつつナゾの魔道具士やってみます 作:そこの角にいる
「あー、俺も防御系は覚えてねえなあ……」
「チッ、おやっさんも役立たずかよ」
「おいコラ誰だ今言ったの」
「……」
「……」
「……」
「ったくよお。悪いな、若坊ちゃん。だが、補助系なら隠密スキルの【毒の目利き】が使えるぞ」
「おお! そんなものが! さすがおやっさん!」
「うるせえ! …………おう、使ってみたぞ。どうだ?」
「あー……目に魔法陣が浮かんだけど、小さすぎるし発光が邪魔でわからないです」
「うーん、斥候スキルに【罠を探す】ってのがあったが、スキルに頼る必要がなくて覚えてねえなあ。あと戦士スキルに【雄叫び】があったかなあ、覚えてねえけど」
「チ、役立たずが!」
「よしお前ちょっとこっち来いぶっ飛ばす」
スキルは
マギステルにそんな機能はない。
使用する武器や傾向によっていて、剣士スキルのこれとこれを覚えていると次の何々を覚え易い等の指針にもなっている。
実際の職業にも連動していたりもして、騎士の募集要項に騎士スキルを複数個習得していることなどと書かれていることもある。
爵位もなく騎士団にも所属せずとも、騎士スキルをすべて習得した者が自らを騎士と名乗ることもあるし、そういった者を世間では自由騎士と呼んだりもする。
騎士スキルと光に関するスキルを覚えることで聖騎士を名乗り教会に仕えたりということもあるようだ。実際は聖騎士スキルという分類はない。
「じゃあ、もう一回、突進技がいいかなー。【
『いやいやいや』
「ムチャ言うー」
「じゃ、【一閃】で。ゆっっっくり、ですよー」
「おう」
「おっしゃ」
「く、カッテニ、ぅぅぅ動くうううう──────っ」
「ぉぉぉおおお! お? あ、やべ。キャンセルされた」
「おらあああっ! 俺が、最速だああ!」
「バカがッ」
「あっテメ! 足引っかけやぎゃろっぷるるるらあばばばばッ⁉︎」
「うーん……なるほどざわーるど」
何人かで一瞬視認できた魔法陣を紙に書きつける。レムもぶつぶつと意味のない呟きを零しなつつ同じ作業にあたる。
ただしこれはあらかじめ有ると予測できていた魔法だからこそ、なんとなく確認ができる、という方法でしかないな、とレムは思った。
残念ながら、知らない魔法を簡単に収集できるものではない。
「そううまくはいかないなー……でも、」
でも予測を事実に変えることはできた。
「若坊ちゃん、何かわかったんだな?」
サビラがにやりと笑う。
「うん。ソード・スキル使用時にほぼ確実にあるだろうと考えられる効果──」
「速度の上昇だな」
レムが頷く。
「いくつか予想できていたけど【
レイグとの稽古でも見せた、レムが風一陣と呼んでいる暴風加速に使われている魔法陣。
想像も、理解も、魔力も、不足ない。
【ギヤ】
〈
「ほーぅ」
「おお⁉︎」
瞬間的な加速は風一陣に劣るが、持続力においてはこちらだと思われる。
ロアンの【一閃】に迫る勢いで、且つ縦横無尽に動き回る。
団員にも、ロアンの【一閃】にも速度で勝ることができないのは、練度の問題か、あるいはスキル【一閃】にまだ何かあるのだろうか、と考えながらサビラの横に戻った。
乱れた息を整える。
「まだまだ、……魔力の、量が……」
「そんだけやれりゃ上出来だろ」
「そう、でしょうか……」
「焦ることはねえよ」
「はい」
目をキラキラさせて嬉しそうに駆け寄ってくるロアンを見つめた。
「やー、さすが若坊ちゃんだわ」
「なー」
「すげえス」
皆で訓練場の入り口までレムとロアンを見送ってから、ソファやテーブルが置かれた一角にぞろぞろと向かう。
「あれでまだ9歳だしな」
「こりゃ団も安泰だな」
「んだ」
そんな会話を遮る者がいた。
「なあっ、ちょっと待ってくださいよ! なんだよそれは!」
レムやロアンより年上だが、まだ十代の若い団員のグループ。
「なぜレムをそんなに持ち上げるんですか?」
先頭に立つ、役者のように整った顔立ちの青年が、舞台上の役者のような仕草で苦しげに顔を歪めた。
日常の中の一場面としては少し大げさに見えるのがその少年──ジュリアンの特徴だった。
「俺だって、当時グナト最強の剣士と言われたゼンキの子です。若い世代の中じゃ誰にも負けない」
サビラがじょりじょりと顎を撫でた。
「ふむ? で結局おめえさんは何が言いたいんだい?」
「レムが団長の子だからみんな必要以上に気にかける。それを少なくともここにこうして不満に思ってるヤツらがいるってことです」
後ろの少年少女をジュリアンが両手を広げて示す。
「団の子供であってもその子一人のために団の誰もが時間を作ってあげることなんて普通ないでしょう? レムを除いて」
「つってもなあ。団で最も忙しいのは団長だ。必然的にレムの剣を見てやる時間も少なくなる。お前たちはこうして合同練習の時間以外でも親が付きっきりで見てくれたり、そうでなけりゃ、誰かどうか冒険に誘ってくれるだろう? なあジュリアン。若坊ちゃんの扱いとお前たちの扱いの違いがそれほど不満か? 若坊ちゃんは9歳だぜ? そりゃ可愛いがるさ。でもお前らのように冒険に誘ったりはしないぜ?」
「……そうかもしれませんがその呼び方もおかしいでしょう。若坊ちゃんて。まるで、いずれ団長になることが決まっているかのような呼び方じゃないですか」
「え? そう?」
「っ、副長であるアナタがそんなだから、…………団長は血筋で継ぐものじゃないでしょう? それに、彼は本当は──」
「──おい」
「っ!」
サビラの意識的な情動に反応して一瞬、場の魔力が荒れた。
若者たちは重い空気が圧し掛かるように感じて息を詰める。
「今何言おうとした。どこで知ったか知らねえが、それを口に出したら許さねえぞ。誰にとっても良いことはねえ。お前にとってもな……」
「……」
「まあ、おめえさんたちの言いたいことはわかったよ」
少年少女たちの大半は、親への独占欲や嫉妬といったもっと自分を見て欲しい、自分を認めて欲しいという自然な欲求によるものだろう。
問題はジュリアンを始めとした何人か。
(意識してのことなのかまではわからねえが、若坊ちゃんへの不満に向かったのはこいつらが誘導する形になったためだろうなあ)
サビラはがしがしと頭を掻いた。
ジュリアンには父親がいない。若手では一番の腕であるという自負もあり、自分こそがレムの立ち位置にいるべきだと思っている。
サビラはひとつ大きく息を吐いた。
そういう欲望や野望などと呼ばれるものを、サビラは微塵も悪いとは思わない。
だが、ジュリアンのはまったく足りてない。現状、思い上がりでしかないのだ。
「だがなあ、おめえさんたち。俺は……贔屓はするぜ?」
堂々とそう言ったサビラを若者たちは驚きで見つめた。
「団員たちが若坊ちゃんを呼ぶ声の中に親しみ以上の敬意のようなものが含まれていたとして、おめえさんたちがそれを敏感に感じ取ったとして、それが資質ってもんだ」
ジュリアンが悔しそうに顔を歪めた。
「そしてそれは若坊ちゃんが〝器〟を示し続けているからこそ」
冒険者でいる以上、死は隣にある。
仲間を失うことも時に避けられない。
そんな仲間の家族を見捨てたりはしないが、稼ぎ頭を失うことでどうしたって生活水準は落とさざるを得ない。
援助されてる負い目も感じる。
「そんなところに若坊ちゃんは仕事を作り出したぜ?」
ザンパは商会を立ち上げ、団の未亡人だけでなく、街で困窮していた人の新しい生きがいになっている。
少しずつ手を広げている。
「魔法においてはすでに一端の魔道士だ。我々を真に一流のグナトの剣者にするために、
サビラは思わず苦笑する。
「こうして改めて並べると、なんだこの
団の大人たちもまた苦笑していた。
「……少し前のことだ。ジュリアン、おめえさんが異を唱える若坊ちゃんの個別練習を終えたあと、こんな話をしたことがある──」
サビラはその日、
「坊ちゃんならきっと最強の剣者になれるなあ!」
「剣者はどうかわからないけれど、ぼくはもう最強ですよ」
「おっとお? 大きく出たな」
「そうでもないです。たったの一度、相討ちでもいいなら、ですから」
「ん? そりゃあ、どういうことだい」
「検証できない魔法の手持ちがそれなりに貯まってるんです」
「うん?」
「試せないけど、強力な攻撃能力を企図して構築してみた魔法陣がいくつかあります。それが成功するにしても、失敗して
「……」
「だから、選択肢の一つに入れておいてくださいね。団のみんなが危険にさらされたとき、団のみんなの大切なひとが危機に陥ったとき、ぼくを止めないで」
「坊ちゃんそれは……!」
「べつに必ず失敗するわけじゃない。あっさり魔法が成功して敵だけ討つことができるかもしれません。だからサビラ副長。副長にお願いしたいのは、もしその時が来たら、父様と母様を止めてください。きっと二人は頑としてぼくを行かせないと思うから」
レムはそう少し照れ臭そうに笑っていた。
『だからどうか、お願いしますね──……』
「……──わかるか? 冗談で、大げさに振った何気ない雑談が、いつの間にか覚悟の話になっていた。若坊ちゃんのじゃない、若坊ちゃんはすでに持っていた。俺だ。俺に、覚悟を決めろと、決意を促していたんだ」
若者たちも、団の大人たちでさえ初めて聞いた話に唾を呑み込んで、身を震わせた。
「俺が若坊ちゃんを侮ることはない」
ロアンと別れて家に帰った。
カーペットの上で弟とごろごろする。
お手伝いさんから渡された絵本を開くと、弟がころがってぶつかってきた。並んで絵本を見る。
「『まじんシグマとかえんおおかみ』だって」
「うじゅ」
弟が絵本をパシパシ叩いた。
「うん、まじんシグマだね。こっちの赤いぼっぼ燃えてるのがおおかみだって」
「ぼぶ」
「ボブじゃないね、ボブって顔じゃないね。おおかみだしね」
「ぼむ」
「ボム? そうだね。燃えてるからね、爆発しそうな危険なヤツかもね。メルトは天才かな? 天才だね」
どうやらこの絵本は昔あった事実を元にしているらしい。
魔の領域は激しい炎に包まれたが、死熊はものともせずに暴れ回った。
火炎狼は数を減らし、窮地に立たされた時、彼らの中から、新たな魔人が生まれる。
彼は見事、死熊を打倒し、森を燃やしながら群れと魔の領域の奥へと去った。
人々は囚われた者たちの救出に成功したものの、真赤炎狼の炎に焼け出され、慣れ親しんだ土地を追われることに。
結局、死熊が支配していた土地に戻りそこで暮らそうと決めたが、なんと死熊はアンデッド、シニグマとして蘇った。
人々はシニグマの奴隷ではなく、仲間になった。
シニグマは炎を憎む。
今も真赤炎狼を喰いちぎる時を待っている。
魔の領域で火災が起きたなら、きっとそこには真赤炎狼かシニグマがいることだろう。
「いや、人々よ。人々死んじゃってんジャン。マイルドな書き方してるケド死んでんジャン」
「じゃ」
絵本だからといって子供向けというわけではなかった。
貸本業によって本は身近になったが、やはりあくまでも借り物。
むしろ絵本だからこそ高価とも言えた。
無情を感じながら引き続き弟とごろごろ。
魔力を消費した日は一生ごろごろしていたくなる。
「ごろんごろんごろにゃーご」
「わんわん」
「その発想力! メルトは天才だね!」