ザンキ99 転生して魔剣士目指しつつナゾの魔道具士やってみます   作:そこの角にいる

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22 おじいちゃんは司教で親王で法務官で

 

 

 

 

 

「ぎゃあああっ⁉︎ ヘビに! 噛まれたあ⁉︎ 毒ぅ……死ぬぅっ……」

「レムって毒の時だけ大騒ぎするよね」

「うん、それでなぜか何もかも諦めて安らかな顔で動かなくなるのよね」

 

 この世界の人々は、毒に対する危機意識が足りない。

 各種毒消し薬が豊富で、魔法もある。

 毒を見破るスキルもあるし、後遺症もなく治ってしまうし。

 一時的な状態異常という認識でしかないのだ。

 一瞬で身体が欠損するとか、即死するとかでない限りあまり恐れない。ダメ押しに即死耐性なんていう効果の魔道具さえ見つかるのだからなおのこと。

 

「さっさと解毒剤飲みなさいよ」

 

 シェリンがレムの口に小瓶を突っ込み、イロアが噛まれた箇所に軟膏を塗る。

 その間にロアンが蛇の尻尾を持ってぐるぐると振り回し、頭を岩に叩きつけていた。

 

 レムの毒への恐れは、この世界の人々にとっては【呪い】に対する感情が近い。ワケの分からない災いはだいたい呪いだ。死病も呪いだ。

 

「……はあー」

 

 ふらふらしながら立ち上がる。

 

【ハネスアロスナールオールフアインシー】

 

 魔法陣が端から細かい光に変わり身体に吸い込まれていく。【継続治癒(リジェネ)】は問題なく機能した。

 

 夕方。

 小高い丘の中腹から見渡せば、いくつかの冒険者グループが見て取れる。

 戦闘中の者たち。

 丘の訓練場へ向かう者たち

 魔の領域へ進む者たち。

 スレーヴェンに帰る者たち。

 

 ボンッと音が聞こえてそちらを見る。

 

「うわ、腐屍者(ゾンビ)!」

 

 嫌そうなシェリンの言葉通り、どこからか這い出てきたゾンビに魔道士(メイジ)が【火射】をぶつけていた。

 体内のガスに引火して小爆発。ゾンビが燃える。

 

「最近多いらしいね、ゾンビ。あと魔道士も」

 

 ロアンの言葉に首を傾げた。

 

「なんで?」

「魔道士の立場を脅かすモノが現れたから、かな?」

 

 指差す方を見ると、冒険者が炎の剣を振るっていた。

 そんなに数売ってないが、スレーヴェン小領主にも『炎上』と『焦熱』を両方とも売っていた。断ることはできなかった。

 そこからなんらかの噂が広がって魔道士に危機感を与えたらしい。積極的に冒険者の活動に協力しているとか。

 

「まーそっちはいいや、どうでも。ゾンビはなんで?」

 

 今度はロアンが首を横に振った。

 魔の領域からこちら側に這い出てくるゾンビ。何年振りかで望まぬ再会を果たすことになった者らもいるとか。

 

 丘を降りながら向こうに見えたものにレムは指差す。

 

「あれ、どうする?」

 

 ゾンビの一団。

 不死者(アンデッド)は、個人差と時に術者の技量にもよるが、生前の記憶を多少保持している。

 戦闘技術を有したままの冒険者ゾンビなんかもいて侮れない。

 視線の先にいるのはそのゾンビだった。しかもパーティを組み、一塊で周囲を警戒しながら進んでいる。

 

「なんか、まるで深い森の中とか、遺跡の迷路を行くかのような慎重さだねぇ」

 

 ロアンにレムは頷いた。

 

「ここめちゃ開けてるけどね」

 

 先頭のゾンビはハンドサインなんかも後方に送っている。ほかのゾンビ見てないけど。

 彼らに見つかるとどうなるのかちょっと興味があった。

 彼らもスレーヴェンの方に向かっている。

 このまま行けばじきにかち合うことになる。

 流れに任せてみようかと思ったところに、白を基調とした装備に身を固めた集団がきらきらしながら向かってきていた。

 ゾンビへと走る。

 

「教会の戦士団?」

 

 距離が10mを切ったところでゾンビたちも気付いた。遅い。いろいろ腐ってるから仕方ない。

 何をするでもなく先頭のゾンビが斬られた。

 引き攣った叫びを上げるゾンビたち。

 教会戦士たち5人がゾンビを囲むように広がる。全員が同じモーションで武器を構えた。

 

「あ、光った」

 

 全員。

 魔力が増大する。

 白い光に輝く武器を振り下ろすと、眩い光に溶けるようにゾンビたちが消滅した。

 

「【聖撃(ディバイン・スマイト)】かな?」

「たぶん?」

 

 レムは攻撃そのものより、直前の魔力の増大が気になった。

 

(一時的にでも自分の魔力を増やす魔法があるんだ……知りたいなー」

 

 レムたちが見ているのに気付いていたのだろう、教会の戦士団の爽やかな男前が笑顔で手を振ってきた。

 誰だか知らんけどわーきゃー言われてんだろーなー、と思いつつ、レムもゆるく手を振り返した。

 なぜかシェリンはレムの前でがるると威嚇し、イロアはふいとそっぽを向く、ロアンは笑みを浮かべてシカトしていた。

 

「あれー?」

「衆道の伝統があるからね」

 

 

 

 

 世界には古くから精霊信仰が根付いている。

 熱心に信仰していなくとも〝精霊の導き〟と言われる魔力の働きもあり人は自然、不意の幸運や病気の快癒の際「精霊の導きに感謝します」と祈ったり、戦闘者も難局を凌いだ時には「精霊よ!」と叫ぶことはよくある。

 なのでどの宗教も精霊そのものを否定することはない。

 

 現在、最も広く信仰を集めているのが『神意教会(チャーチ・オブ・ディオーエス)』である。

 世界を創造した神の下に、魔を祓う天使たちに寄り添う者たち。

 天使を支援する集団から始まったとされる宗教である。

 天使とは人間に似た外見を持ち、背中に羽毛の翼を持つ者。

 人は創造神を知ることはできない。〝天意〟という極々小さな断片に触れられるのみ。

 そのため信仰は天使たちを束ねる大天使──天使徒(アポストロン)に向けられている。

 各大天使により魔を祓う活動に差異があるとして、神意教会の中で天使徒の名を冠した宗派に分かれている。

 

 そして、ここ帝国にはもう一つ大きな宗教勢力──というか、国教である『天地教(ウ・ガヤ・フォーキス)』がある。

 数百年前に一代で帝国を築いた神皇を崇拝対象とするものだ。

 

 神皇とは〝天地を支える者(ウ・ガヤ・フォーキス)〟であり、つまり、神皇とは天地に等しい。

 ゆえに、教徒とは〝天地を支える者(ウ・ガヤ・フォーキス)〟である。

 

 真なる皇帝は神皇ただひとり。

 歴代の皇帝は代弁者である。

 

 帝国の正式名称を──ウ・ガヤ再生帝国(リバース・エンパイア)

 

 神皇の帰還が約束された地。

 

 神皇が寝所と呼び、自らを封印した場所──霊廟を中心に、ここ辺境伯領・高平原連峰一帯が聖地の一つとして知られている。

 

 

 

 

 

 レムはレイグの隣の椅子を引いた。

 

「聞いててもいいが、面白くないぞ」

「ん。いいです」

「そうか?」

 

 レムはおとなしくクッキーをかじりつつ、四人の会話を聞く。

 レイグ。

 サビラ。

 ダスティン。

 ザンパ。

 

「中央の失策で辺境伯が割を食ったな」

「貿易航路課税に対する正当な抗議活動だったはすなんだが、政治的パフォーマンスがこうもこじれるか」

通商連(トレードフェデ)ですか──」

 

 貿易船団を抱え、ギルド連合とは違う独立した商業組合である。

 南方諸島の各地で小規模な組織を吸収、統合し、肥大化した多国籍の複合商業連合体であり、貿易カルテル。

 帝国内にもヌートハー大商会として根を張っている。

 

 荷止めから間もなく、通商連は海賊の増加を理由に防衛戦力の補強と称し、船団を艦隊に作り変えた。

 

「海賊の何割かは仕込みでしょうや」

「通商連の偽装、ですか?」

 

 ダスティンの言葉にザンパは確信を持って頷いた。

 

「ええ。帝国議会議員への多額の寄付金で過剰な武装も合法でさ」

 

 帝国は魔王と魔境という難問を抱えたまま、こう着状態にある。停滞は内部の腐敗を生んだ。

 

 嵩む戦費、汚職、絶えぬ権力争い。

 そんな中にあって、通商連の軍隊化。

 

 帝国議会は今になって危機感を抱いた。

 なんなら通商連を抑制すると同時に資金を確保しよう。

 

「──なんて締め付けを強くしたもんだから、辺境伯領第二の都ウォーフ港を通商連に武力封鎖された、と」

「で、どうなるんです?」

「これから交渉団が派遣されるらしい、それ次第だ」

「交渉は辺境伯に丸投げして、か。めんどくせえことにならなきゃいいが……。まあ、中央から派遣されてくるよりマシか」

 

 サビラがあごを擦る。無精髭がジョリジョリいっている。

 

「それなんだが」

 

 レイグが卓に置いた紙をトントンと叩いた。

 

「ギルドから指名依頼だ」

 

 レイグがザンパを見る。

 頷いたザンパが新しい情報を告げる。

 

「どうやらつい先日、大司教様が管轄の神皇御聖所に向かうところを連れ去られたようで」

「大丈夫なんですか?」

「めんどくさいことになりそうだ」

「救出作戦への参加依頼だ」

「リディクラウス・アブサード大司教様といえば大公であり法務官。天地教お社は司法府の最高機関でありますから、大司教様はそこの頂点に立つ御一人ということになりやす」

「めんどくさいことになるのは確定したな」

「腐敗が囁かれる中にあって良心と言われる方です」

 

「妙なんだよな」

 

 レイグが呟く。

 

「だよなぁ……通商連も含めて動きに腑に落ちないことが多い。そこにきてこの誘拐」

「大丈夫なんですか?」

 

 ダスティンがもう一回言った。

 

「さぁて……な?」

 

 

 

 

 

 

 

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