ザンキ99 転生して魔剣士目指しつつナゾの魔道具士やってみます   作:そこの角にいる

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23 残気

 

 

 

 

 

 間違いなく、決闘大会で目に留まったのだろう。

 加えて新たな魔道具を生み出した者との繋がり。

 所属する『冒険者の宿ハイアカン』の売り込みもあったかもしれない。

 

 レイグたちはインに通い、共闘する小領主のエージェントとの打ち合わせを行なっている。

 交渉団の出立後、秘密裏に動く。

 

 レムも急ぎいくつかの魔導具を仕上げ、前からコツコツと製作していたマフラー等も含めて渡した。

 本当は片手半剣(サヒ)を渡してあげたかったが、そこまではとても間に合わない。

 

 今回の作戦に失敗は許されないとして、風の剣士団は普段なら班を分けるところを上から順に精鋭で固めた。

 団長、副長三人に隊長格の四人の八名で任務に当たる。

 

 ある日、それぞれが別々に街を立った。

 

 

 

 

 

「勝負だレム! 勝負勝負勝負しょーっぶっ‼︎」

 

 駄々っ子そのものの動きで木剣を上下に振って叫ぶのは、レムより一つ年上の少年エリックだった。

 団の訓練場、四阿(あずまや)の長椅子で寝そべっていたレムは、読んでいた伝記から顔を上げた。

 

「だめだよ、エリック。ぼくと戦うなら試練を乗り越えないといけないんだ」

 

「なんだそれは! 偉そうだなおまえ!」

「我がツルギに勝てたならお相手しよう」

「偉そうだなおまえ!」

「イロアー」

 

 エリック少年が「んげっ」と仰け反った。

 トトトとイロアが駆け寄ってくる。

 

「ん? なに?」

「ずるいぞおまえ!」

 

 エリックがレムを指差して叫ぶ。

 すでにエリックはイロアと何度も勝負して、すべて負けていた。泣いていた。

 そこで最近は標的をレムに変えたのだった。

 

「こいつはダメだ!」

「わがままだなー。じゃあ、我がチカラに勝てたならお相手しよう」

「偉そうだなおまえ! なんだチカラって」

「シェリンー」

 

 呼ぶと遠くにいたシェリンがぐりんと振り返る。

 

「なによっ⁉︎」

 

 エリックがビクつく。

 ずももももっと走ってくるシェリンを見てエリックは後退った。

 

「ひ卑怯だぞ! おまえ!」

 

 エリックは以前、シェリンが丸太の案山子を粉砕したのを見ていた。引いた。

 そのためシェリンはメスオーガじゃないかと疑っている。こわい。泣いた。

 

「ここここいつはダメだ!」

「なんでよっ⁉︎」

 

 訳もわからないのに反射で食ってかかるシェリンにエリックはまたビクついた。

 

「しょうがないなー……」

 

 レムは立ち上がり、ふっと笑って言った。

 

「お前を有名にしてやるよ」

「はあ? なんだそれっ? おまえ偉そうだな!」

「ビリー・ザ・キッドが相手を撃つときの決めゼリフだよ」

「誰だそれ!」

「意味わかんない」

 

 隣で聞いてたシェリンも言った。

 

「誰かは自分で調べてね」

 

 調べても判明することは一生ない。

 

「でもカッコイイな!」

「でしょ?」

「なんでよ!」

 

 木剣を持って四阿を出る。

 レムとエリックは距離を空けて向かい合う。

 剣を構えたエリックに対し、レムは印を結んで【火射】の体勢に入る。

 

「ちょっと待って! おいおまえ!」

「え? なに?」

「フツーに魔法を撃とうとするなよぉ! まわりのジジイたちと違うんだぞ! 死ぬぞ!」

「大丈夫だよ威力は抑えるし。それよりほら、周りの先輩方が悲しい顔してるよ?」

「え? なんで?」

「あー、うん、いいやなんでもない。じゃ、行くよー」

「待ってって! いきなり魔法を撃つなって言ってんの!」

 

 地団駄を踏むエリック。

 

「えー? ロアンっ」

 

 向こうにいるロアンに呼びかけると同時に【火射】を連続で放った。

 ロアンは「何すんの?」と言いながらひょいひょいっと避けた。

 

「ね?」

「ロアンは2コも上だろ!」

「じゃー、イロアっ」

 

 今度はイロアに【火射】を放った。

 イロアは首を傾げつつ短刀で炎の塊を切り裂いた。

 それを見ていたシェリンがずもももっと走っていって、期待に目を輝かせてバッチコーイと両手を挙げた。

 レムが【火射】を放つ。

 シェリンは回し蹴りで横に弾いた。その横の方から野太い悲鳴が聞こえたがそっちは無視だ。

 

「ね? 弱める分には割と容易なんだ」

「ぅぐぅ……」

 

 魔法にはそれぞれの限界値がある。

 威力、規模、距離、時間。

 魔法とは強力なものになるほど呪文も魔法陣も長く複雑になっていくのかというと、一概にそうとも言えない。

 

 魔法陣を構成する魔道語印(アトン)には対応する意味があり、数字があり、読み方があり、印契の結び方(ジェスチャー)があり、呪文としての真なる言葉がある。

 

 それぞれの持つ固有の数字が関係していると考える。

 

 同じ系統の魔法が複数あるのは、限界値が違うためで、たまに書で見かける等級(グレード)の記述は定められた規格故ではないのか。

 現代でそれがあるのかどうかは、現状魔道士ギルドと距離を置いているレムにはわからないが。

 

「てことで勝負よりまずは──」

「──うわん!」

 

 エリックが泣きながら走り去った。

 

「あれ?」

 

「若坊ちゃん、あまりいじめてやるなよ? 弱虫だが筋はいいんだ」

「そんなつもりはまったくないんですけど。むしろ期待してるんですけど」

 

 

 

 エリックも含めた同年代のみんなでグナトの基礎を行う。

 

 ヤットーヤットー。

 

 バン副長が留守でも戦術指導者(タクティカル・コマンダー)はいる。

 

 ヤットーヤットー。

 

 男爵領が魔に堕ちたとき、グナトの剣士たちは仲間と共にグナトの剣理を記した書を命懸けで守ったという。

 

剣理ノ書(ソード・オーソドクシィ)』に曰く──。

 

「刃物闘技の真髄は、「勝ち」もなく、また「負け」もなく、「生」も「死」もなく、「おのれの実体」すらないを知ることなり、か…………」

「ほーぅ、さすが若坊ちゃんです。よく勉強していますね」

「意味わかんない!」

「これはシェリンに同じ」

「ぜんっぜんわかんない」

「うん」

「……」

「おまえ偉そうだぞ!」

 

 口々に子供たちが言う。

 レムが続ける。

 

「これは達人の心の在り方をあえて説明すればこうなんだよ、て話だと思うよ。だからつまり──」

「つまり?」

「──気にしてもしょうがない」

「わかったわ!」

「身も蓋もない」

 

 指導のお兄さんが空を仰いでから言う。

 

「平常心って大切だねってこと。余計なことを考えていると、何万回繰り返して身につけた技も思わぬところで狂ってしまう」

 

『剣理ノ書』には研鑽を纏めた以下の事柄が記されている。

 ──諒解しておくべき根幹の考え方、剣法(ソードメソッド)

 ──刀術の(もと)となる基本姿勢(フォーム)

 ──基礎にして奥義(おくぎ)たる魔力と身体の動き。

 ──勢法(カタ)と呼ばれるいくつかの業形(テクニック)

 これらを修め至極をなして剣者と認められる。

 

「先ほどの話にも通じますが、グナトは兵法です。そして兵法とは心法です。誘いの隙、誘いの気は、兵法の常道。退却も兵法のうちです。議論で相手の闘志を打ち伏せる、言葉で有利を獲るのもまた兵法のうちだったりするのです」

 

 子供たちから「ええー」「だせぇ」と不満の声が上がった。

 

「ふふ、真の武は必要最小限にして脱力柔軟。最短最速は身体の動きだけを指すのではありません。そして心法における最も重要なことが、気をのせる、気を篭めること。その気篭りが剣者の基礎にして奥義の一つです。天地自然に融和する境地。残響する気概(エコーイング・メトゥル)──〝残気(ザンキ)〟」

 

 剣者(ソードジャック)とは──元は剣術屋ほどの意味であったが、いつしか剣の賢者としてグナトの一流の剣士の称号になった。

 

「まずは速さより気篭りを意識して。剣先に気が篭らぬ剣は、いかに速くとも用をなさぬものです。

……十分な気が乗らば、我ら一刀の早さ知る人ぞなき──……ってね」

 

「カコイイ!」

「でも聞けば聞くほど対人の技術だよね」

「そりゃ冒険しろ! て言われるよね」

 

「いえいえ、そんなことはないですよ。グナトの闘法は千変万化に来撃してくる敵に応ずる刀法です」

 

 グナトは百敵に勝つ。

 百敵とは数ではなく種。

 

 あらゆる敵に勝つ(わざ)なり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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