ザンキ99 転生して魔剣士目指しつつナゾの魔道具士やってみます 作:そこの角にいる
「はい、構えーっ!
号令で正眼に構える。
「どんな時も正中線は崩さない。腕で振るのでなく、身体の真ん中、中心で振るのです。肩や腕に力みが出ると、剣先に気が篭りません。中心は芯であり真であり心なり――腹の内で撃つのです。力み、息みはもっとも禁物ですよ」
ヤットーヤットー。
「気の篭らない剣筋は、粘りがないため敵に正中線を奪われ、そのまま首、胸、腹に突き
ヤットーヤットー。
「剣先は糸に引かれるが如く。ピタリと一直線上を行かねばなりません。上体が上下左右に揺れていると剣先も揺れるのです。剣型一号は、刀術の
ヤットーヤットー。
鍛錬を終え、訓練場を出るときに、ジュリアンたち若いパーティにすれ違った。
ジュリアンは振り返る。
遠ざかるレムの背をじっと見つめていた。
レムはじゃらじゃらと手の中で宝石をもてあそぶ。
その日の余剰の魔力を石に篭めるのが最近の日課になっていた。
団のヒマそうにしている独り身の人たちにも協力してもらっている。
人工魔石と違い、内包する魔力を使い切っても砕けて消え難く、再利用可能なところが宝石の良いところの一つだ。
日々着々と集まってきている。
そろそろ宝石を買い足したいところだ。
他人の篭めた魔力を使うには〝
魔法陣の選定と並行して、
レムとズンガとモジャで平原に出て、検証を行う。
同じ素材を使っても、ズンガの腕とモジャの錬金薬が合わさると武器の性能が大きく向上することがわかっている。
切れ味が明らかに違ったのだ。
ズンガの調子がとても良いと、刃紋が魔力を帯びて
そうなるとより強靭に、より使い手に馴染み、切れ味が増す。
刃紋からしてこの不可思議な現象は、まさに魔法の付与と言っていいものだった。
ズンガが言うにはそれでも運が良かったという。現状100打っても出来ない可能性が高いと。
まずは刻む魔法陣を厳選し、工夫を重ねる──……。
剣に刻む魔法陣基本6種を決めた。
剣の状態を保つ魔法などは初級のものでしかないが、それでも今わかっている限りで最高のものだ。
あとは個人に合わせて1つか2つ魔法を足して、グナトの
これだけの数の魔法を組み込めるのは刀のパーツの多さ故だろう。
そんなある日、風の魔法を試していると、人影が近づいてくるのに気づいた。
一人だ。
やがて誰かわかると、レムは呟いた。
「ジュリアン……?」
ジュリアンの足取りはどこか怪しげで、表情にも陰が見えた。
モジャとズンガが警戒したが、大丈夫だからと、レムはジュリアンと二人少し離れたところまで歩いた。
「どうしたんですかジュリアン」
「……お前は、俺を知っているか……?」
レムは首を傾げた。
「ちょっと意味がよく……?」
「……俺は、何者だ?」
「何者って。うーん……若い世代では頭一つ抜けた実力を持ったグナトの剣士?」
(わざわざぼくに褒められに来たわけじゃないよね。なんなんだろ?)
「まーでも、さすがグナト最強の呼び声も高い、ゼンキさんの息子だなとは思うけど……?」
「……!」
なぜかジュリアンが驚いたように目を瞠って、レムも驚いた。なんだなんだ。
「…………そうか……」
(ほんとうになんなワケ?)
「お前は……知らないんだな」
「なにが?」
しばらく沈黙が落ちた。
黙らないでほしい、と思うものの、何か葛藤しているジュリアンを待った。
「お前は……知って、いるのか?」
「なにを?」
今度はなにっ、と叫びたい衝動を抑えて大人しく待つ。
「お前は…………」
一方のジュリアンは脳裏に浮かんだサビラ副長の「口に出したら許さねえぞ」という言葉を飲み込んで、レムを見据えた。
「団長ご夫妻の本当の子供じゃない……ことをだ」
レムは、なんだそんなことかと頷いた。
「はい知ってますよ」
こともなげに言うレムに、なぜかジュリアンが動揺しているのを見て、レムはまた首を傾げた。
「い、……いつから」
いつからもなにも最初からだけど、と思いつつも、そのまま言うわけにもいかないので、レムは「ずいぶん前から」と答えた。
そんなことよりいったいこの会話はなんなんだろうと思うレム。
そしてジュリアンは再びサビラの言葉を思い出していた。
──誰にとっても良いことはねえ。お前にとってもな……──
「はははっ、なるほど。滑稽なのは俺の方か」
そう言ってジュリアンはふらふらと帰っていった。
レムはぼそっと呟いた。
「……おーい、説明してけー」
「ジュリアンが消えた……?」
数日後、団の訓練場に行くとそんな話になっていた。
ジュリアンとパーティを組んでいる若い連中が、家にも帰っていないと相談を持ちかけていた。
ジュリアンはここ南区ではなく、西区で母親と二人暮らしをしていたらしい。
その母親にもパーティの仲間にも誰にもなにも告げずに消えた。
「なんでそんなことに? もしかしてなにか事件に巻き込まれた?」
レムがそう発言すると、若者たちが言葉を濁した。
「そ、うじゃない、と、思う」
「はい?」
なんでそう言えるのかと思っていると肩を叩かれ振り向いた。
あごヒゲがとんがったオジさんが、くいくいっと親指で指し示す方へ連れ立って向かう。
口ヒゲに尖ったあごヒゲの男の名はリュードゥと言った。
古参の剣者で元は隊長格の一人だったが、後進に譲ると言って自らその地位を降りていた。
「どうやら数日前に迂闊な奴らの話を立ち聞きしちまったらしい」
「はなし」
「ああ。ジュリアンがゼンキの本当の子じゃないっていう、な」
「へー」
「驚かねんだな」
「まーね。ああ、それでか」
「なんかあったか?」
ジュリアンが会いに来たことを告げる。
「あーくそ。余計なこと言われたんだな?」
「うん?」
そこで気付いた。
古参の団員はレムとレイグに血の繋がりがないことを知っているが、まだ子供のレム自身がそのことを知らないと思っている人が多いのだと。
「ぼくは知ってたからね。特になんとも。父様は父様だし、母様は母様だ。弟はかわいいしね」
「そうか」
リュードゥが優しく笑ったようだが、気色悪いだけだと思った。
そんなことより、ジュリアンは父と血の繋がりがないことを知り、同じ状況のレムがどんな心境か知りたかったのかもしれないと思った。
(いや、ただ単純に自分の心を落ち着けるための作業、が近いのかな)
自分だったらと考えてそう結論付けた。だから彼は説明しなかったし、同意等を求めることもなかったのだと。
単純に自分だけの境遇じゃない、落ち着け自分と言い聞かせるためのものだったのではないか。
「ああ、そう言うことか」
レムが考え込むのと同様に、顎ひげをジョリジョリ撫でていたリュードゥがこぼす。
「つまり簡単に言えば、本当の親子じゃない、本当の団の子ではないと見下していたのに、自分も同じだった上に、若坊ちゃんは承知していて、自分はなにも知らなかったってことで精神的な衝撃に耐えられなかったかね」
「あれ? そういう話?」
レムは思ってたことのナナメ上で戸惑う。
「うん? だから滑稽なのは自分ってとこに繋がるんだろう?」
「あー……そう。ぼく見下されてたんだー」
「「「すまねえ、若坊ちゃん」」」
「うぉわっ⁉︎」
いつの間にか真後ろに男たちがいた。
「迂闊な話をしていた迂闊な野郎どもだ。改めてすまねえな若坊ちゃん」
無駄に高い隠密技術で近寄ってこないでほしい。