ザンキ99 転生して魔剣士目指しつつナゾの魔道具士やってみます   作:そこの角にいる

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27 高温で乾燥した風

 

4章 動乱

 

 

 

 

 魔の森が燃えている。

 爆発は基地内で起こったのではなかった。

 ただ衝撃波による被害が出ている。

 走りながら、巨大な要塞のところどころが崩れて落下する様を見上げた。

 一体なにが起きたのか。

 こんな強力な魔法があるのか。

 こんな強力な魔法を放つことのできる存在がいるのか。

 

 普段なら市が開かれている広場には、色とりどりの敷物の上に大勢の怪我人が横たわり、治療に当たる者たちがその間を行き交っていた。

 続々と人を満載した馬車や荷駄獣(パックビースト)に牽かれた台車が広場を出立していく。

 

 治療に当たってる者の中にロアンを見つけて手を振った。

 向こうも気づいてレムに手を振る。

 誰か仲間に怪我人が出たのかと心配したがそうではなかった。

 ロアンが呼びかけ集まってきた人数を数えると全員揃っている。

 どうやら治療や救助のお手伝いをしていたようだ。

 

 彼らの方へ向かいながら、その背後、通りを行く集団の中にジュリアンを見つけた。

 ロアンやシェリンをスルーしてジュリアンを追いかける。

 

「なんでよっ⁉︎」

 

 

 

 集団が入っていった酒場に、レムは躊躇うことなく踏み込んだ。

 この状況の中で他にも客がいる。不自然。

 なんでガキがという注目を浴びながら、レムは堂々と睥睨した。

 

「……レム」

 

 見つめる先の呟きをそのままに、ジュリアンのところに歩いた。

 

「なにしてるの?」

「なに、って……」

「……」

「……」

「まーいいんですけど。あの爆発についてなにか知ってることあります?」

「……魔道士ギルドの魔道具(マギア)によるものらしい」

「魔道士ギルド? 魔道士ギルドがなんでこのタイミングで魔の領域にちょっかいをかける……?」

 

 通商連の侵攻はすでに戦争に踏み込んでいる。

 そんな時に魔の領域を刺激する意図、控えめに言って辺境伯のためではないだろう。

 

「ギルド本部は承知してるのかな?」

「いや、魔道士ギルドの独断って話だ。ソドー……? とかいう大魔道士(メイガス)が旗を振ってるらしい」

「ソドー子爵?」

「知ってるのか?」

「うん、まーちょっと……」

 

「おいおいおいおいおいおい」

 

 完全に意識の外に置いていた同じ卓の男が割り込んできた。

 

「喋り過ぎだぜえジュリアン」

「……ああ」

 

 むっつり黙ったジュリアンをよそに、レムは口出ししてきたチンピラの顔をぐいぐい押して椅子からどかして自分が座った。

 

「オイこらガキ──」

「しーっ」

 

 チンピラが「はあ⁉︎」みたいな顔をしつつも黙ったので放っておく。

 

「で?」

 

 ジュリアンと目を合わせる。

 

「……」

「この人たち〝峨羅(ガラ)〟でしょ?」

 

 ガタリと立ち上がったのが何人か。剣呑な空気が漂う。

 無視して話を続ける。

 

「しかも下っ端でしょう?」

 

 ガタガタと立ち上がる。

 レムはもしかしたら彼らは峨羅ではなく劇団員かもしれないと思い始めた。

 少なくとも暴力のプロとは思えない悠長さだ。

 

「入るんですか?」

 

 言ってレムはため息をついた。

 

「血の繋がりだけが親子の絆ですか?」

 

 睨まれた。が、ジュリアンは何も言わなかった。いや、言った。

 

「お前に何が分かる」

 

 レムはなるほどと頷いた。

 一見、似た境遇に見えてそれでもレムにはわからない、そう言ってるのだと理解した。

 

「こう言ってはなんですが、ゼンキがあなたの母親から離れなかったのは、あなたがいたからじゃないですか? あなたはそれに気付いてゼンキに対してうしろめたく思っている。罪悪感がある。しかし搾取しなければ生きてこれなかった母親の弱さも幼かった自分の弱さも知っている。仕方なかったと自分に言い聞かせてきたのかな」

「黙れ」

「だからこそ剣士団に入って誰もに認められたかった。認められなければならなかった?」

「黙れ」

「迂闊な大人たちの話を聞いて……どこまで聞いたか知りませんけど、張り詰めていたものが切れてしまった。ゼンキの子として団に入ったそれは、独りよがりの空しい努力でしかないと知れたから」

「黙れと言ってるだろ!」

 

 レムは1秒黙った。

 

「こだわるとこ、間違えてない?」

「……なんだと?」

「あなたが求めているのは、べつに剣士団のみんなに認められることじゃないでしょ?」

「お前に……」

 

 何が分かる、もう一度言おうとして、彼は言葉に詰まった。

 

「あなたは、許されたいんだ、彼……ゼンキに。だけど彼はもういない。だからどうしていいのかわからない」

「……」

「でも、…………ゆるすもゆるさないもないんだよ。だって、あの人は──ゼンキは、あなたを愛していたんだから」

 

 ジュリアンが目を見開いた。

 ジュリアンが団に入った時、すでにグナトの基礎を身につけていたのはそういうことだろう。ゼンキがジュリアンのために残したもの。

 

「だからこそ、いいんですか?」

 

 レムは周りを見渡した。

 

「こだわるなら剣士団じゃなくて、ゼンキの教えを受けたグナトの剣士であるところにこだわれよ」

 

 レムは立ち上がった。

 

「悪いことするなとは言わない。こんな世界だ。見方によってどうにでも変わる正邪を押し付けるつもりはありません。まー、」

 

 理不尽を許すわけじゃないけれど、と笑ってみせた。

 

「ね」

 

 レムはジュリアンと目を合わせた。その後、この場にいる者たち一人一人を見渡した。

 

「魔王って悪だと思う?」

 

 全員が「は?」という顔をした。

 レムは善悪の話の続きじゃないけれど、と前置きして続けた。

 

「西方大陸に本拠がある神意教会の大天使(アポストロン)たちが言う『破壊者(アポルオン)』は誰を指しているのかな? 神皇はなぜ眠りについたの? 本当に還ってくるの? 帝国の中枢は神皇の帰還を望んでいないと聞くけど?」

 

 不敬にもほどがある話。全員が「はあっ?」という顔をした。

 聞く者によっては即座に処刑騒ぎになるだろう話の数々に、あんぐりと口を開く犯罪組織の構成員とジュリアン。

 レムは「劇団員か!」とツッコミたかったが自重した。

 

「創造神は女神だとする『女神教』は神を創り出したらしいね。聖戦を唱えてるようだけど、神ってつまり兵器?」

 

  交流もない遥か遠方の大陸事情など誰も知らなかったがそんなことは関係ないとばかりにレムは続ける。

 

「上陸も容易ではない南方大陸は太古の姿を今も留め、巨獣という頂点捕食者を怨敵と定め、あるいは神と崇めて暮らしている獣人(ファウナ)たちがいるんだってね。神さまもいろいろだね。人と同じく」

「なにが、言いたいんだ?」

「別に」

 

 教え諭すとかそんなつもりはまったくない。

 

「剣士団の大人たちにとって、剣士団とはヴィントベルク男爵の剣士団で、そこに強い誇りを持っている。でも僕にとって剣士団とは冒険者です。男爵領奪還の悲願達成への協力は惜しまないけれど、ぼくはぼくで、仲間を見つけて世界を回るよ。魔王にも天使にも会いに行く。なぜならぼくは冒険者ですから。まだまだここからガンガン行くよ。ほどほどにダラダラしつつね!」

 

 店のどこからか、なんだそりゃと声が上がった。

 

 レムはジュリアンに刀を放る。

 受け取ったジュリアンが驚いて顔を上げ、視線を刀とレムに彷徨わせた。

 レムは言う。

 

「じゃあ、あなたは何者ですか?」

 

「俺は……俺、は……」

「……誰に憚ることなんてない。ゼンキの子だとそう名乗ればいい。……片手半剣(サヒ)南風(ロンバルト)。そいつをあげる。できたばかりだ。そいつの渇きをあなたの渇望(かわき)は満たしてやれるのかな?」

 

 あとは好きにしたらいい、そう言ってレムは店を出た。

 

 

 

 店を出ると入り口のすぐ脇にロアン、シェリン、イロアがいた。

 どうやら中の様子を窺っていたらしい。

 シェリンがスカした笑みを浮かべて言った。

 

「そいつの渇きをあなたの渇望(かわき)は満たしてやれるのかな? フッ」

「やめてええっ⁉︎」

 

 

 

 この日この酒場にいた者たちがのちに〝峨羅〟という組織の中で、あるいはまったく違う場所で、義賊や冒険者として、名を上げることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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