ザンキ99 転生して魔剣士目指しつつナゾの魔道具士やってみます 作:そこの角にいる
年若いパーティの5人が揃って駆けてくる。
あちらこちらから悲鳴や怒号が聞こえてきていた。
「
『全ての人々の要塞』では、堀や植物、計画的に整備した大路を造るなどで侵攻経路を誘導する仕組みがなされている。
しかし今回、すでに要塞内の深くまで敵に入り込まれていた。
要塞内で特別な許可を得た墓地からも
「触れられるなよっ! 命を吸われるぞっ‼︎」
そんな警告が飛び交っているが、レムは跳び上がるとゴーストの体に手を突っ込んだ。
「ぎゃーっ、まじで吸われるぅ!」
「なんでよっ!」
「何やってんの⁉︎」
レムは着地すると頭を掻きつつシェリンやロアンに答えた。
「いやどんな感じかと思って」
「バカなの?」
「でもどうやら命というより急激に魔力を吸われて衰弱するようだね」
一気に魔力を消費すると命に関わるのでそういうことだろう。
急降下して襲いかかってきたゴーストに、レムは気を篭めた剣鉈を振り抜いた。
ゴーストは『ヒアーッ』と引き笑いみたいな声を残して塵と消えた。
「翻って、攻撃の意志を篭めた魔力はそう簡単に吸えないみたいだ。不意を突かれて接触されないよう気をつけよう」
「わかった」
魔の領域に対する前線基地だけあり、多くの冒険者たちが周囲で戦っている。
「ゴーストにはスキルを使えッ!」
「やばい! レックレスのカモウだ! あいつ死んでたのかッ」
「
カンカンカンカンとけたたましい警鐘が複数箇所から鳴り響く。
「領域の境にシ、シニグマを確認! シニグマを確認ッ!」
「はあっ⁉︎」
周知させるために情報を触れ回る足の速い者たちが走り回っている。
「どどどうする⁉︎」
「阿呆! そういうのは〝一等星〟に任せておけ! 俺たちは雑魚を狩り尽くすんだよ!」
「狩るっつっても限度があんぜっ」
そんなやり取りが聞こえてレムは首を傾げた。
「一等星って?」
腐屍者を打ち倒したロアンが振り向く。
「冒険者の格付けで〝
「うん。ちなみにぼくらは?」
「六等星」
「良いんだか悪いんだか」
「一番下だよ」
「あそう」
「と言っても星なんかそう簡単に上がらないけどね。五等星でも自慢できるくらい」
「へー」
小走りで広場に戻る途中。
「それにしても……数が多い」
周囲を窺うと、ゴーストに吊り下げられたゾンビが空から落ちてくるのを目撃した。
「そんなのアリ?」
広場は酷い混乱に包まれていた。
職人たちはまだしも商人やその関係者の非戦闘員が恐慌を来している。
無理もないと、レムは考える。
いろいろな本を読んできたが、屍術なんてシニグマ関連以外に見られない。
それにしても──。
阿鼻叫喚の地獄絵図。
容易く人体を引き裂く腕の力、自身のアゴの関節を無視して唇や頬の肉を引き千切りながら口を開き、標的の首を噛み砕く。
そしてこの場で死んだ者が新たにゾンビとして蘇る。
レムたち一団は子供連れの人たちを護りつつ、退却を考えていた。
最前線とはいえ、魔人ほどの脅威などすでにお伽噺であり、犠牲者の絶えない危険地帯なりの場慣れもあり、この場所で生活基盤を整え、家族でそれなりの暮らしをしている者たちも多かったのだ。
路地を飛び出してくる者たちがあった。
二重、三重にもただ一人を囲い護っている。
その一人は護衛の誰が何人ゾンビの餌食にされようとも、慌てることなく、時に笑い声さえ上げながら歩いていた。
「ヒョッヒョヒョヒョ──ゥ! うまくいったー、うまーくいったーたったらたー」
レムはその男に見覚えがあった。
「ソドー子爵……!」
「ヒョッヒョヒョヒョ……ひょ?」
ソドー子爵が短い指に指輪が連なる短い手を軽く挙げると、護衛が左右に分かれて道を作った。
そこを跳ねるような勢いで脂肪を揺らし近付いてきた。
「おやおやおやおやあ? これなるはレイグの小倅っ。ヒョヒョヒョ。おまえ、マッドハッター殿を紹介しろよ」
「嫌だよ」
「ヒョォッヒョヒョ」
「あの爆発はあなたの仕業だってね。なんで?」
「ヒョ。小僧のくせに耳が早いではないか?」
「
「無いとは言わぬ」
「辺境伯への嫌がらせ」
「無いとは言わぬ」
「ぼくらへの嫌がらせ」
「無いとは言わぬ」
「興味」
「正解」
レムは顔をしかめた。
「クソ野郎かよ」
団の一人が吐き捨てた。
ソドー子爵がにんまりと笑ってその彼を見た。
「高貴なる者だよ」
ソドー子爵は見下した笑みを浮かべて語る。
「実際、ワシは大したことはしておらぬ。マッドハッター殿が産み出した新たなる炎の魔剣は素晴らしい。お前たちがその利を得ているのは許せんが。マッドハッター殿を紹介しろよ」
「嫌だ」
「炎の剣の価値が上がり、魔道士の価値が下がる。ワシはそこを指摘したに過ぎん。如何に魔道士の炎が優れたるか世間に見せてはどうかと助言しただけのこと」
ヒョヒョヒョと愉快げに笑う。
「結果、魔の森付近で炎の魔法が使用される頻度が上がり。ヒョヒョ。その結果なぜか不死者が頻繁に目撃されるようになり。ヒョヒョッヒョ。なぜか急に魔の森を出てくる
「本当に一掃できるならそれでも良かった。そうしたら功労者として名乗り出る。シニグマが来るならそれも良かった。もっとも、あなたはシニグマが現れると確信していた」
「…………正かーい! お前たちが作った流れに乗っかってみたよ?」
無駄に溜めを作って腹の立つ顔でそう言った。
「ヒョッヒョッヒョ。ワシは概ねで満足しておる。帰る」
「ふざけんなっ! ブタ野郎がっ!」
団の若い一人が激昂した。
「高貴なる者だ。控えよ」
「高貴なるブタ野郎がッ! どれだけ犠牲者が出てると思ってるッ、この惨状を見て何も思わねえのかよッ‼︎」
ソドー子爵は言われて初めて気が付いたかのように周りを見渡すと、
「まるで虫のようだ。気色悪い」
ハンカチで鼻と口を覆って言った。
「こ、のッ」
「しかし、しかしだ。今ここでマッドハッター殿がどこに居るか教え、〝炎上〟と〝焦熱〟の術式を渡すなら、即座に避難とシニグマ討伐の部隊を動かそう」
「はあ?」
どの口が言うんだと、シェリンが声を上げて一歩詰め寄ろうとしたが、護衛が目の前に立ちはだかった。
「ワシが気に入らなかろう。が、お前たちがその感情を呑み込んで、情報を渡せば多くの人々を助けることができるのだ。約束しよう。ワシが集めた
空間が揺らいでいるようだった。
ソドー子爵の言葉に、魔力に、妖しく揺らぐ。巨大な手が覆い被さってくるような。
団の仲間たちが不安に呑まれて怯む。
ソドー子爵の護衛が包囲するように動き、精神的な圧迫を強める。
レムは黙って見ていた。
「どうする。若いお前たちではほれ、そこの二十人余りを救うのが限界だろう。ワシは貴族である。動かせる規模が違うぞ。さあ、お前たちが決断すれば、ワシも貴族の義務が果たせるのだ。決断しろ、ワシに情報を渡せ。人々を救うのだ」
息苦しさを感じ、小さく呻くみんなを見回して、一つ、レムは大きく手を打ち鳴らした。
魔力の妖しい揺らぎが霧散する。
視線が集まる。
「はい、みんな深呼吸して周りを見て。仲間たちの顔を見て。一人じゃないことを思い出せたかな? これは子爵の術だ。習ったでしょう? 兵法とは、心法である。心の隙につけ込まれるな」
「生意気な小僧だ」
ソドー子爵が舌打ちした。
「変な笑い方を止めて誠実さを演出しても、ぼくのあなたへの信用度はマイナスを振り切っているので」
ソドー子爵が唇をひん曲げた。護衛たちが身構える。
その時、通りに響く声があった。状況を知らせるために走り回っている者たちの声だった。
「一等星がシニグマにやられた!」
「一等星がやられたぞっ!」
「逃げろ! 雪崩れ込んでくるぞ!」
今度はレムが顔を歪めた。
耳障りな「ヒョッヒョッヒョ」という笑い声。
「ワシの術式はしばらく預けておこう。さて、辺境伯は伝説にどう対処するか。楽しみだの……帰るぞ! ヒョォーッヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョ」
黙って見送るしか今はない。