ザンキ99 転生して魔剣士目指しつつナゾの魔道具士やってみます   作:そこの角にいる

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03 魔フォーっ!

 

 

 

 

 

 レムは前世の記憶があるために言葉遣いに戸惑い、手間取って、混乱して、うまく喋れない時期があった。

 下手に言葉の勉強をしてしまったがために、どういう言葉遣いが正解かと考えすぎて言葉が出てこない。

 そんな訳で同年代の子に比べて遅れていると、周りで噂されるくらいだった。

 父母への言葉さえ定まらないことに情けなさを感じつつ、レムは前世と合わせても二人が年上で助かったと思った。もし年下であったら、恥ずかしさのあまり柱に頭を打ち付けて、床をでんぐり返しし続けただろう。

 なぜ言葉が遅れているのか、わかろうはずもないのに父母は根気よく付き合ってくれた。特に母は常に楽しそうにいろんな話をして、いっぱい聞こうとしてくれた。

 面倒だったろうにありがとう、と素直に思えるようになって、レムの焦りは氷解した。

 二人を尊敬し、頼っていいんだと思うと同時に、二人を助けられるようになりたいと思った。

 言葉遣いは、今は冒険者とはいえ父が元騎士で教養もある、ならば自分もクソガキでいてはいけないと、多少丁寧な言葉を心がけることにした。心の中はともかく。

 

 

    ◆

 

 

 レムは前の自分のことをそれほど覚えていない。

 ただ魔法への憧れは人並みにあった。

 中村玲夢であった時、もしもこうすれば必ず魔法だの超能力が得られるというものがあったなら、それがどれほど過酷であろうと挑戦しただろう。得られる魔法が指先に明かりを灯すだけのものでしかなかったとしてもだ。

 何せ魔法であるのだから。

 方法が確立されているなら、ほとんどの人間が自分と同じように考えると、レムは疑わない。

 何せ魔法があるのだから。

 

【フォーアロストゥーウィズ】

 

 レムの指の先で、ぱちっと小さな音が鳴り、ロウソクのような火が灯った。

 

「いやっふーぅ!」

 

 小さな拳を突き上げて奇声を上げる。

 

 この世界では魔法とは身近なものだ。

 薪に点火する、コップ一杯の水を生成する、そのくらいであればほとんどの人ができる。

 生活魔法と呼ばれることもあるが、多くの人々にとって魔法とは生活魔法のこと。したがってわざわざ生活魔法とは言わない。

 

 一旦火を消し、また呪文を唱えて火を灯す。

 

「魔フォーっ!」

 

 使っていない暖炉の前で【(スパーク)】を使っては奇声を発し、ケタケタ笑う息子の背中を見つめて、メルティナは苦笑する。

 

「ぽーう! ぱちぱち!」

「こーら、レム。火で遊ばない」

「えー」

「えーじゃないのよ」

「でもでも母様、僕は魔法という神秘の探求をですね」

「あきらめないわねー。調子に乗ってるとまた魔力の使い過ぎで倒れるわよ?」

「それもまたよし」

「よくないのー。じゃあ夕食の準備始めるから、こっちに来て火をつけて。それで今日はおしまいね」

「はーい」

 

 ピシっとレムは掲掌(けいしょう)の敬礼で応えた。

 

 

 賑やかに食卓を囲む。

 レムたち三人だけではない。他に四人の女性が共にテーブルを囲んでいた。

 

「はい、どうぞ坊ちゃん」

「わあ、ありがとう」

 

 肉を多めによそってくれた女性にお礼を言う。

 

 5年前に一家は広い家に引っ越しをしていた。

 広い前庭。さらに広い裏庭。

 三階建ての家と、二階建ての家を平屋が接続している。

 

 二階建ての方には働き手を失った未亡人や、一人で暮らすには心配な若い女性などをお手伝いさんとして最近雇うようになった。仕事の場を与えるため、身重のメルティナの今後の負担を軽減するためなどの理由からだ。と言っても、メルティナはまだお腹が目立つような時期でもなく、元気に動き回っている。

 

 平屋の半分を食堂にして使っている。

 もう半分は冒険者として必要な武器防具、道具類の保管と手入れの部屋だ。

 

 玄関先の長椅子に座り、家の壁にもたれて夕闇の空をレムは見上げた。

 

 自分をこの世界に落としたあの男は何者だろうか。

 現実なのか。

 あれは別の世界なのか。

 それともこの世界のどこかにあるのだろうか。

 そもそもなんでそんな状況に陥ったのか。

 

 何度も考え思ってきたことを反芻する。

 忘れないための作業のようだった。

 

 手がかりはない。

 

 そしてレムは同じ結論に至る。

 

「うんまずは魔法だな。手がかりないんだもんなー、仕方ないねこりゃ」

 

 レムは楽しみを優先する。

 

 

    ◆

 

 

 ぱちり。

 翌朝レムは目を覚ますなり机に向かう。

 

 魔法に必要なのは想像と理解と魔力だ。

 

 魔法の行使はその結果を繰り返し見て、脳裏に焼き付ける必要がある。

 火の魔法、水の魔法、風の魔法といっても、この世界の人々はなかなか想像が及ばない。及ばないからこそ、志したのなら誰かに師事することは必須。

 逆に点火や水の生成は日常的にいくらでも見る機会があるために、想像という条件を容易にクリアする事ができると言える。

 その点では、中村玲夢の中に参考にできる情報が詰まってるため、レムに大きなアドバンテージがあった。

 

 本を開き、紙を用意し、手本を見つつ書き写す。

 

 魔法を使うためには術式を知らねばならない。呪文や魔法陣に代表されるものだ。

 多くの魔法使い──この世界では魔道士(メイジ)と呼ばれる彼らは、行使の結果を覚え、丸暗記した、呪文か魔法陣に魔力を込めて魔法を放つ。

 が、そこを更に突き詰めていくと、呪文や魔法陣の〝もと〟となるカタチに行き着く。

 魔法陣を解きほぐすと見えてくる、魔法の大元となるカタチ。

 

 無条件で事実とされる神秘文字──神秘の知(ミスティカル・ノウレッジ)──それが『魔道語印(アトン)』だ。

 

 魔道語印には対応する意味があり、数字があり、読み方があり、印契の結び方(ジェスチャー)があり、呪文としての真なる言葉がある。

 そこには現在では失われたものも、未だ発見されてないものもあるとされている。中にはそのカタチだけが失われたものも、呪文だけが失われたものも、印契(いんげい)だけが失われたものもある。

 

 紙にひたすら書き写す。

 

「ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ」

 

 やってることは小学生の漢字の書き取り練習と何も変わらなかった。

 

「あー、タ、タ、タ、タ、タ、タ………………ホァタアッ!」

 

 集中が切れた。

 

 

 

 

 

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