ザンキ99 転生して魔剣士目指しつつナゾの魔道具士やってみます   作:そこの角にいる

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30 段唱-カスケード-

 

 

 

 

 

 亡者と亡者のような魔法【呪霊(グラッジ)】が飛び交い、あらぬ方向から襲いかかってくる。

 空に気を取られていたがために、誰もが地面を覆い尽くす魔法陣に気付くのが遅れた。

 下からの暗い光に気付いた者から一様に立ち竦んだ。そして逃げ場がないことに思い至って総毛立つ。

 

「レムっ」

「どうすんのっ⁉︎」

 

 ロアンとシェリンの呼びかけに、頷くことしかできなかった。

 冷たい汗が背中を流れた。が、その間になにも起こらないことを自覚して、改めて周囲を観察する余裕ができた。

 生きてる者には影響はない。

 死体が、魔法陣に沈んでいく。

 シニグマを見やれば、ヤツの周囲にも魔法陣が回転し、周囲で消えた死体が堆く積み上がっていく。

 

(なにするつもりだ)

 

 苦し紛れに印を組んで【火射】を放つと、燃え始めた死体の沈み込みが止まった。

 

「シニグマが死体を集めているぞ利用させるなっ! 燃やせッ‼︎」

 

 レムが叫ぶと、「燃やせ」とロアンとシェリンが続いた。イロアはすでに次々と【火射】をはなっている。

 

「燃やせ!」

「燃やせ!」

 

 声が伝播し、広がっていく。

 それでもすべて燃やすことなんてできない。

 

 山と積まれた死体が蠢き、シニグマの巨腕を形成していく。塔のように上に上に上に上に。

 数百mの高さに巨大な拳が形成されると──地上に落とされた。

 迫る巨腕の影から逃れようと味方の軍が逃げ惑い交錯した。

 シニグマの拳は『全ての人々の要塞』にまで届いた。要塞を半壊させ、大地に叩きつけた腕の左右を土砂が津波の如く襲う。

 

「上ッ!」

 

 レムは叫んで【魔道語印(アトン)】を足場に空に駆け上がった。

 ロアン、シェリン、イロアが続き、土砂の津波をなんとか躱す。

 4人ともが顔色を青くした。

 眼下は酷い惨状だ。

 ただ、タフな者たちは土砂の下から這い上がってくる者もいて、少しホッとしたものの、よく考えたら腐屍者(ゾンビ)と区別がつかない有様だ。

 

「うわっ」

 

 シェリンが思わずといった風に掠れた声を上げる。

 

 ズズズと引きずる音。

 大蛇のような巨腕がシニグマの元に戻っていく。

 

「行くよ」

「どこへ?」

 

 レムが指し示したところでは、背後にたくさんの人たちを庇って土砂を防ぎ切ったのであろう部隊がいた。

 

「あの人たち、たぶん聖騎士(パラディン)だ」

 

 聖騎士とは──防衛戦(マスター・オブ・)闘術の達人(ディフェンシヴ・コンバット)である。

 

「彼らの力が必要だ」

 

 

 

 

 

 高い攻撃力を企図して構築した火魔法が二つある。ただ高威力の魔法はその範囲も広い。逆火現象(バックファイア)を抜きにしても、味方を巻き込むかもとか、作るときに正直あまり考えていなかったため、勝手にぶっ放したらヒドイことになりそう。真の敵はレムだった、みたいになりかねない。

 対象を単体に絞った高火力の魔法を考えるべきだったと思うが、結局は逆火が障害になる。失敗した場合、周りを巻き込まないかどうかなんて知りようもないし、いろいろ調べて苦心して作っても試せないから楽しくないしで、放置してしまったところだ。

 単純な話、なぜか火魔法は単体より範囲攻撃の方が強い、使える、みたいな思い込みがあった。反省。

 

 ということで、聖騎士の皆さんには、その時が来たらスキルによる広範囲の防衛術で味方を守ってね、とお願いした。

 優秀そうな彼らなら勝手にそのように動いてくれたかもしれないが、こうして話を通しておくことも大切だ。無用なトラブルを招かないためにも。

 そもそも広範囲の防衛術なんてのがスキルにあるものか知らなかったけれども、あるみたいなのでおっけーだ。

 

「さて……と」

 

 まだ魔法を使うにあたっての最大の問題が残っている。

 チラと横目で彼らを確認した。

 この家族の如き幼馴染みたちが、逆火の危険を承知で魔法を使うことを許してくれるかどうか。

 

「無理だな。特にシェリン」

「なに?」

「なんでもない」

 

 シェリンの頭を撫でて、彼女の耳を両手で塞いだ。

 

「なに?」

 

 レムは見上げてくるシェリンに微笑んで、イロアを見てまた微笑んだ。

 そしてロアンと目を合わせた。

 

「ロアン、頼むね」

 

 レムは説得を放棄した。ロアンが察してくれるのを期待して。

 レムは厳しい表情でもう一度言う。

 

「頼んだからね? ロアン」

「いや何が?」

 

「よーし、始めるぞっと」

「いや何が⁉︎」

 

 

 死体が敵として蘇ってくる今回、敵味方が入り乱れた乱戦になり易い。

 これから魔法を使う上で乱戦はまずい。それでは聖騎士たちが味方を護れない。

 だが今、奇しくもシニグマの一撃によって、敵と味方の間に距離ができている。

 

 やるなら今だろう。

 

 深く息を吸って、吐いた。

 命は惜しい。が、他に惜しむべき命が多すぎて、「しょうがないなぁ」と苦笑する。

 

 

 

 片手半剣(サヒ)の制作を通して、生活魔法を含めた魔法の学びは深まった。

 ロアンの勘違いと、団のみんなの期待に押された形だったけれど、それが結果としてその学びを加速させたことは間違いない。

 そして、転生者の感覚と、レムのズレた感覚とが結びついたことで、超一流の魔道士が持つか、あるいは一部凌駕する魔法の知識を得るに至った。

 中でも最大の発見は特定の魔法ではなく、逆火現象(バックファイア)を軽減させる方法のとっかかりを得たことだとレムは思う。

 

 魔法を行使する基本は想像(イメージ)と呪文。

 イメージとは魔法陣と魔法発動の結果をいう。

 呪文とは世界のルールを呼び覚ます真なる言の葉。

 そしてそれを簡略化する省略法(ノタリクス)がある。

 

 魔道具の遠隔実験ではなく、生活魔法をいろいろ試しているうちにわかった。

 呪文とその省略法、当然意味は同じになるその二つを続けて唱えることで、間違ったイメージがある程度自動で修正される。

 魔道全盛の時代に使われた詠唱技術であり魔法の強化方法の一つであった。

 それによって失敗しても逆火現象が軽減されると同時に、新しい魔法を行使しながら修正を重ねることができるようになった。

 

 生活魔法なら逆火現象が大したことないと試しまくった成果だ。とはいえ普通は全くそうは思わない、レムの感覚のズレとはそういうところだったりする。

 

 さらにもう一つが祝詞(チャント)の有用性である。

 ただイメージの言語化というだけではなく、魔道書の一節にあるように『聞き届けるのが誰であろうと、祈りには力がある。』

 魔道具の失われた製法の一つに『精霊封印式』というのがあるようだし、下火になりつつあるが古くからの精霊信仰もある。

 レムとしては、あらゆるものに神が宿っているという感覚は比較的理解し易いものだ。

 

 祝詞(チャント)、呪文、省略法。

 この三つでさらに逆火の危険は減る。

 ただ唱えるに時間は相応にかかるけれど。

 

「ということで、集中する時間が欲しい。敵を近付けないで」

「わかったわ!」

 

「我、ここに祝詞を捧げ、集い従い力となれ──」

 

 ──トゥーウィズエミルグゥールグゥールモーズィオン……──

 

 聖騎士たちは先ほどレムの話を聞いて承知したが、その魔法を唱えるのがその子供だとわかって驚きを露わにした。「おい」「本気か?」「だいじょうぶなのかっ?」

 

「うるっっさい! 黙って見てろ!」

 

 シェリンがキレた。

 ロアンは妹がじっとシニグマを見つめていることに気付いて自分もそちらに目をやった。

 

「シニグマが……!」

 

 屍の巨腕が速度を増しながらシニグマの元に引き戻されて、(からだ)に巻き付き、シニグマ全体が巨大化していく。

 

「もしかして、……今度はあの腕を横に薙ぎ払ったり……しないよな? ……な?」

 

 他方からそんな声が聞こえた。

 ただ落とすだけだったさっきのでも甚大な被害が出ているのに、あの腕を支えられるほどの膂力で薙ぎ払われたら……。

 おそらく、腕でこの場の者は一掃され、続く衝撃波と土砂で要塞は全て呑み込まれ、先の丘のいくつかも押し流されるかのように崩壊する。

 そう理解した全員が蒼白になった。

 そんな中シェリンが叫んだ。

 

「そんなことよりなに黙って見てんのよっ! レムに言われた防御の準備しなさいよっ!」

 

 シェリンはシェリンだった。

 

 ……──アロストゥーウィズ──

 

 レムの手のひらから、魔力を引き出されて空になった宝石がぽろぽろとこぼれ落ちていく。

 

「──その眼は輝く沈まぬ太陽、叫びは身を切る嵐雲の爪牙──」

 

火炎旋風(ティグンザファト)

 

 最後に省略法から発動した魔法が劇的な変化をもたらした。

 中央に太陽を抱いた竜巻がシニグマを呑み込んだ。

 熱を伴った暴風が届く。

 周囲の全てを引き摺り込もうと風が巻く。油断してると嵐の方へ飛ばされそうだ。

 

 

 聖騎士たちが支援スキル〝盾の仲間の祝福(シールドメイツ・ブレッシング)〟から〝光盾(ライトシールド)〟の多重展開で【火炎旋風】の影響を遮った。

 

 

 

 リュードゥは魔法の発動を見てひやりとした。

 間違いなくレムの仕業だと思ったと同時に、サビラが覚悟を促された話を思い出したからだ。

 逆火現象(バックファイア)を承知で魔法を使ったのかと。

 急いでレムのところに向かおうとしたリュードゥだったが、遠目にロアンやシェリン、イロアの様子に取り乱すような素振りがないことを見て取って、ホッと息をつき踵を返した。

 

 ロアンたちは【火炎旋風】がジュリアンに渡した片手半剣(サヒ)南風(ロンバルト)に仕込んであることをレムから聞いて知っていた。

 

〝光盾〟のこちら側で歓声が広がった。

 

 ロアンたちがレムの背を見て誇らしげに頷き合い、自慢げに「ふふん」と笑みを浮かべて周囲の反応を見ている中、レムは厳しい表情で新たな魔法の詠唱を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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