ザンキ99 転生して魔剣士目指しつつナゾの魔道具士やってみます   作:そこの角にいる

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31 大爆発

 

 

 

 

 

【火炎旋風】に一度呑み込まれた岩や魔の森の樹々が、引き裂かれて打ち上げられて、噴水の如く今度は周辺広範囲に炎の雨となって降り注ぐ。

 この場の誰もが見たことのない強力な魔法。

 シニグマとてひとたまりもない。

 そんな共通の思いが確かにあった。

 

 竜巻の中の瞳のような太陽が閉じられ、竜巻が細くなって地上を離れた。まるで龍が空に昇っていくように。風も止んだ。

 残っているのは未だ炎がちらつく炭と化した物体。急激に冷えたせいか、バキッと音を立てて亀裂が走った。

 

「うぉーっ! やった!」

「シニグマを倒した!」

 

 そんな歓喜の表情は、次の瞬間、早くも剥がれて落ちた。巨大な炭の塊がひび割れて、ぼこりと剥がれ落ちるのと同時に。

 炭化した黒い塊の下から、灰色の屍肉が蠢いていたからだ。

 

「ぉぅ……アレでダメなのかよ……」

「こわっ、……こわぁーっ。怖いって! キモいって!」

「でも……! サイズはだいぶ小さくなった。もう一息なんじゃねぇか⁉︎」

「そうだっ、今のうちに叩いちまおう!」

 

 そんな声が聞こえたわけでもあるまいが、屍肉の塊の周囲に魔法陣が広がった。そこからうぞうぞと無数の死体が這い出して、屍肉の塊と融合していく──巨体のシニグマが出来上がっていく。

 

「……なぁんでそぉゆうことするのぉ?」

「どんだけ死体を貯め込んでやがんだよ」

「やばいって。どうする。逃げる? 逃げない?」

 

 わかってた。

 レムはすでに呪文を唱え終えている。

 眼前に魔法陣が回転していた。待機状態の維持も楽じゃない。でもまだだ。まだ不十分。

 もはやこの領域はレムにとっても未知である。

 逆火現象(バックファイア)は避けられないだろう。

 それでも倒し切れるかわからないのがシニグマだ。

 なればこそ、二の矢、三の矢を放つため、逆火の影響を少なくし、魔法の精度と強度をできるだけ高める。

 

「聖騎士隊! 対魔法防御用意!」

 

 ハッとした顔でレムを見たあと、彼らは迅速に動き出した。

 レムは祝詞(チャント)の詠唱に入る。

 

「……うつろは光に満ちている。うつろううつつに光が刺して、幾千の光かざして、うつほに黒白(うろ)は溶け合いて、終わりをもたらす炎を吐き出す──……」

 

【フェイタルバイル】

 

 黒と白。

 不可思議な光の線が一点に集まっていく。

 いや、ひょっとすると集まっているのではなく、逆に放っているのかもしれない。

 世界から音と色が消え世界が静止した。

 白黒の世界が収束し、爆発的に広がった。

 それは虹色の炎と凄まじい衝撃音を伴っていた。

 

 炎の魔法【大爆発(フルミネイト)】。

 

 虹色の炎が世界を彩る。

 炎がシニグマを呑み込み大地を舐め、巨大なすり鉢状に削り取る。

 爆炎は不死者の軍勢を消し炭にして爆煙と共に吹き飛ばした。

 

 聖騎士隊がスキルによって多重展開した〝光盾(ライトシールド)〟という光の壁も瞬く間に全て砕け散った。

 世界全体が揺さぶられ歪む。その反動で何もかもがひっくり返るようだった。

 全員、レムも含め一人残らず一斉に浮き上がったと思ったら、5m以上後方で地面に叩きつけられて転がった。

 

 衝撃波が通り抜けると、シェリンはすぐに起き上がった。身体は痛みを訴えていたが無視した。そんなものより焦りが(まさ)った。知らない。あんな魔法聞いてない。見てない。

 つまり、これまで一度も試していない魔法。

 

「レムっ!」

 

 焦げた(にお)いと灰が雪のように舞う(けぶ)った視界の中にその姿を探してすぐに見つけた。

 片膝立ちで、顔を押さえていた手をどけて振り返ったレムを見て、「あぁ……」シェリンは泣きそうになった。

 

 レムの左目から左耳の半分、側頭部にかけて、一瞬一瞬で色合いを変える炎がこびりついている。

 逆火現象(バックファイア)

 顔を灼かれ、熱にさらされた瞳は白濁し始めていた。

 

 ふいと顔を再び前に向けたレムの視線を追うように前を見る。

 空気の流れが変化して、急速に白煙が散する先で、シニグマが飛び出した。

 

 躯の大部分が吹き飛んだシニグマは2mほどまでに縮んでいた。燃える肉片が地面に滴る。しかし大きさより何より露わになったその姿に驚かされる。

 それは熊の毛皮を纏った人の姿であった。

 熊の頭を被って目元などは見えないが、口元は無精髭の生えた角張った顎が見て取れる。屍人ゆえに肌の色は蒼白だが、毛皮のマントの下、裸の上半身はエグいくらいの筋肉で鎧われている。

 もしかしてアレがシニグマではなく魔人シグマの本来の姿だったのだろうか。

 まさに『熊の毛皮を着たもの(ベルセルク)』だった。

 

 扇状地を駆け下ってくるシニグマは、一歩ごとに足下から屍肉に覆われていったが、大きさは4mほどで止まった。それで打ち止めなのかそれとも……。

 

「ぎゃー」

 

 悲鳴を上げた冒険者が尻餅をついたまますごい勢いで後退りしていく。

 

「キタキタキタキタっ、キタってコレ! 来ちゃったって!」

「さすがにさっきの魔法をもう一度食らったらマズイと思って距離を詰めてきたか」

「なに尻で逃げながら冷静に解説しちゃってんの? せめて起てや」

 

 そんなやり取りをなんとなく眺めてしまったが、はたと気付いてレムにまた目をやったシェリンは、さっきまでいた場所にレムがいないことに狼狽えた。

 レムは走り出していた。しかもシニグマに向かって。

 

「レム⁉︎」

 

 シェリンは追いかけようとしたが腕を掴まれ止められた。

 振り向けばいつの間にかロアンがいて、その後ろにイロアも、団員たちもいる。

 

「レムを追わないと!」

「ダメだよ」

「なんでよっ⁉︎」

 

 ロアンに食ってかかるシェリンの肩に剣士団の剣者──ヘンドリックが手を置いた。

 

「俺らが行かぁな」

 

 ヘンドリックはシェリンの稽古にもよく付き合ってくれている、シェリンの手本とする一人だった。

 

「ならあたしも!」

「駄目」

「なんでよっ⁉︎」

「え、邪魔」

「ぅぐ」

「お前たちはまだ早い」

 

 シェリン、ロアン、イロアと目を向けてそう言った。

 シェリンは悔しそうに顔を歪め、イロアは無表情ながら強く拳を握る。シェリンを止めたロアンだって眉間に皺を寄せじっとレムの背を見ていた。

 

 

 

 

 

 熱い。

 左の視界に虹色の炎がチラついて、そのほかの景色が擦れていく。

 左の耳にはボボボと燃える音が常に聞こえる。

 こびりつく炎はじりじりとその範囲を広げている。

 左側頭部はどこまで焼かれているのだろうか。もしかして脳まで達しているのではないか。熱いばかりで痛みがないことが逆に恐ろしい。

継続治癒(リジェネレート)】は唱えたが、逆火現象には効果が見られない。

 

 シニグマが腕を振り上げ、手を前に突き出す。

 屍肉が尋常じゃない勢いで腕に流れ集まり、大蛇のようになって爆進した。

 慌てて魔道語印(アトン)を踏み台になんとか逃れた。

 

 屍肉の大蛇腕は味方の軍を貫いた。躱しても大蛇から腐屍者(ゾンビ)がむくりと生え、しがみついて大蛇の中に引き摺り込んだ。助けようと切り込んだ者もいたが、何の意味もなかった。その者たちも腕の一部と化した。

 

 レムは印を組んで【火射】を連続で放ったが、本質は強打であり火はおまけ程度の【火射】では意味がない。

 すぐに【焦熱砲】に切り替える。

 

【グルファトマール】

 

 省略法の短縮詠唱で炎を放つと、大蛇の腕から次々と腐屍者が飛び出して盾になった。

 

「あ、この……!」

 

 手段なんか選んじゃいられない。

 死ぬにしろ生きるにしろ。

 いや、死ぬだろう。

 でも、それで得られるものがある。

 なら、すべてやりきってやる。

 ただ、得たものを見届けられないのは少し寂しいけれど。

 

【高速化】

【増幅】

【加速】

【増幅】

【自己魔力倍増】

【増幅】

 

 歯を食いしばり、ごく低い姿勢でシニグマに迫った。

 易々と懐に入り込んだが、大蛇の腕が湾曲して割り込んできた。そこから生えた腐屍者と至近距離で相対。

 レムは怯むことなく呪文を唱えた。

 

断ち風(ティグルシクル)

 

 風が空間を切り離す。そこにあったもの全てが斬割される。

 1mほどの幅で消滅。大蛇の腕が切断され地面に落ちて、シニグマが縦に分たれた。

 再び大蛇の腕が融合しようと切断面から無数に屍の手が伸ばされる。

 

「クルイバ」

 

 不発。

 

氷刃(クルエ)

 

 右手に氷の長刀を創り出して切り付けるとそこから広がる氷に閉じ込める。

 

氷槍(クレイブ)──増幅(グムレドノ)

 

 十数の氷の槍を飛ばし、大蛇を地面に縫い付け凍らせた。

 

 その間にシニグマ本体は両方の断面から伸びた数十の手と手ががっちりと組み合わさったところだった。

 

 

 

 

 

 

 

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