ザンキ99 転生して魔剣士目指しつつナゾの魔道具士やってみます 作:そこの角にいる
「
炎の螺旋と化して魔人マッケンローがシニグマに向かって疾駆する。
それに劣らない速度でシニグマは巨剣を振り合わせた。
シニグマの躯からは次々ランバージャックが分離して物量でも圧倒してくる。
ランバージャックはさらに変成が進んでいた。
リュードゥに治癒魔法をかけて助け起こしていたが、マッケンローから赤黒い炎の塊がやたらめったらに飛んできて、炎に巻かれたランバージャックも飛んできて「ふっざ……!」慌てて逃げた。
空中を滅茶苦茶に回転しながら跳んできたランバージャックの管が伸び、目の前に迫っていた。
避けられない。
視界を遮ったのはリュードゥの腕だった。
突き刺さった管が根を張るように急速に腕に張り巡らされ、本人の意思とは関係なく動き始めた時には、リュードゥ自身が自らの腕を斬り落としていた。落ちた腕がなおも動くのを無表情に細切れにする。
「なかなか厄介だ」
「他人事みたく言ってる場合⁈」
レムは慌てて治癒魔法で応急処置し、止血する。魔力を貯めてた宝石が尽きた。
リュードゥが顔を上げ見据える先に、跳び上がるランバージャックの群れ。
一体いつまで、どれだけ湧き上がってくるのか。
「え?」
ドスドスドスとレムは自身を貫く衝撃に声が漏れた。
空中に気を取られた隙に、地面の中から飛び出した管に腹と胸を穿たれていた。
「若ぁああア──ッ‼︎」
誰かの叫び。
色とりどりの魔力光が閃く。
幾つものスキルが発動。
レムを刺し貫く管がまとめて断ち切られ、ランバージャックがひしゃげて千切れて打ち落とされた。
剣者の7人ほどが途中で切り返して戻ってきたのだった。
「なんで……なんで戻ってくるんだよ……」
しかしそれでも追いつかないのだ。それほど数が多い。
空から飛び降りてくる。地面から、樹々から、ぬるりと現れ掴みかかり、掴んだところに口が表れ噛みちぎる。
そこから管が入り込む。あるいは眼球を突き刺し、耳から鼻から口から入り込んで根を張って操ろうと蠢く。
「クラー兄ィッ!」
妹の剣者を守ろうとした一人が、肘を噛み砕かれた。瞬く間に群がってくるランバージャックに操られることを嫌った彼は、自ら首を切り落とした。
しかし、切断面から管が伸びて落下途中の頭部を繋ぐ。感情の抜け落ちた顔が、ゆらゆらと揺れる。
「う、ああ、お前──ッ」
ランバージャックを掻き分けるように兄の元へ向かう妹もすぐに埋もれて見えなくなった。
他にも。
「ヘンドリック──ッ⁉︎」
という悲鳴が聞こえ目を向けるが、彼の姿はどこにも見当たらない。
「ぐ、ぅぅぅ、もういい、……もう、たくさんだ」
レムは血と共にそう吐き出した。右目からひと筋、涙が溢れた。左目の滴は虹色の炎が蒸発させた。
「…………シニグマ……」
歯を食いしばって、呪文を唱える。
長い呪文だ。
その間にもみんながランバージャックの波を押し留め、飲み込まれる。
最初の被害者だかなんだか知らないが、すでに
呪文から
「我、ここに
血を吐くように、
「天道
言の葉を紡ぐ。
命を燃やして魔力に換える。
「万象を薙ぎ払え──竜の姿の終末」
【
最初それは蝶に似ていた。
赤、黒、白、緑、黄、橙、赤の濃淡。青の濃淡。銀色、金色。色とりどりの数百数千数万の蝶の群れ。鱗粉が輝いて、火の粉が舞い散って、集まったそれらはやがて小さなトカゲや鳥の大群に変じ、充満し、弾けて、解き放たれた──城の如き巨体の竜として。
火神の
レムは竜の眼前にいた。文字通りの眼前、眼球の前。鱗に覆われた凹凸に立っている。縦に割れた瞳孔がちょうど大人の大きさくらい。
焔が疾る皮膜の翼が爆発音と共に広げられ、燃え盛る竜の炎の咆哮が、世界を震わせた。
小さな火の粉がただ触れるだけで、ランバージャックが欠けて炎上し、破砕され、壊れていく。
火神に意識はないようだった。
しかし、絶対者はただ単純に破壊の行使に動く。
腹から喉から口へ──鮮烈な光が増大していく。
(うわ、やばい)
手を離してはだめだ。制御の手を。
(あくまでぼくの意思で、使役しないと……!)
抑え込め。
「バカな」
「火の
「ありえん」
『全ての人々の要塞』と『スレーヴェン』を結ぶ途上にいくつかある防衛施設であり訓練場でもある丘の一つ。
裏から手を回し、密かに私物化し拠点の一つに使っているその場所で。
同志たちが信じられない光景に慄然とする中、一人お祭り騒ぎしている男がいた。
「ヒョホホホホホすばらしいっ! すばらしいぞっ一体どうなっておるのだ⁉︎ ヒョホホホ」
ソドー子爵である。
魔道具によって部屋に大写しにされていたシニグマの観測は、いつの間にかその対象を変えていた。
「本当に一体どうなっている……?」
「儀式もなしに、たった一人で火神を召喚したというのか……!」
本来、神の力を借りるというのは、まず場を用意し(どれほどの場が必要か想像もつかない!)、その上で何十人もの魔道士が何日もかけ、対象の神にお伺いを立てやっと力の一端を貸してもらえる
「不可能だ」
「だ、だが、現に……」
「……」
「仮に……神の名を知っていたとしたら……どうだ?」
「バカな。口にした瞬間に消滅しかねんぞ」
膨大な時間と魔力を込めて、祝詞と
不安定な魔法陣という名の積み木を場に並べ積み上げて、見上げるほどの城を造る。神が仮に座す場所として居心地がいいように場を整える。
神を呼ぶとはそういうものだ。
それをしたとして声が届くとは限らない。
声が届いたとして来てくれるとも限らない。
そして来てくれるとは、神そのものが来るということではない。
そういうものだ。
「それほどの〝格〟が、あの小倅にあるのかもしれん。ヒョッホ興味深い」
そんな……。
だとしたら……。
我々が輪郭さえ見えない遥か階段の上の
「そんなバカな」
だとしたら我々の数十年の研鑽は?
(許されんぞ。あの小僧を生かしておくなど)
「ええおいっ! 誰ぞあの小倅を死なせるな! ワシのもとへ! ワシにょもとへ連れて参れ‼︎」
(バカな!)
「何を仰いますか。最早あの小僧は助かりますまい。惜しいのはわかりまするが、マッドハッターを確保すれば良い事です」
(そうだ!
「その通り! あれほどの魔法の知識を授けられるマッドハッターを早う見つけねばなりますまい」
「ばっかもんッ! そうではないのだそうではッ‼︎」
ぐぬぬ……こやつら。とソドー子爵は子供と甘く見て目が曇っている同志らに失望と歯痒さを感じて呻いた。
(あの小倅、少なくともマッドハッターという魔道士集団の一員であることに疑いない。おそらく中核をなすメンバー…………いや、もしかすると……あの小倅こそがマッドハッター殿であるかもしれぬ)
「ぐ、ぉお、お、どうする……宝が失われてしまう……」
映し出された『
「ぎゃああワシの
「ダメだシェリン!」
「お前もだイロア、しれっと行こうとすんな!」
「う〜」
「は、な、せぇっ!」
シェリンが複数人を引き摺りながら叫んだ。
「行ってどうするっ、何もできないだろう⁉︎」
「知るか! とにかく近くにいなきゃいけないんだっ!」
──でなきゃ、でなきゃレムが死んじゃう。
「聞き分けろ! 足手まといになるだけだろっ!」
「それでいいんだよ‼︎」
「なんでだよいいわけあるかっ!」
「思い出させなきゃいけないんだよッ!」
「意味わからん! とにかく待て!」
「いやだ! 離せ!」
──いやだ、レム。おいてかないで。
圧倒的なまでに巨大で、異形だった。
下顎が奇妙に膨れ上がり、口腔から青白い焔がスパークする。
おぞましい苦痛が全身を侵食していく。
巨大な業炎が吐き出された──灼熱の竜息──それは火神の憤怒そのもの。
天地が驚動する。
先刻、魔の森を燃やした魔道具による爆発など比較にもならない。
業炎の通過に伴い周囲の大地は砕け、浮き上がったそれらが融解し、消滅しながら魔の森を貫いた。
最終的に着弾した場所にたぶんシニグマはいなかったろう。シニグマとマッケンローが戦う遥か先に到達したから。でもそれは関係ないかも知れない。
膨れ上がった業炎が弾け世界を染め上げ、立ち昇った焔が今度は空を貫いた。
常に霧が立ち込めるような魔の森の奥地、山々の起伏は平され、そのさらに広大な範囲を衝撃波が蹂躙する。
業炎を放った火竜自身の炎さえ、届いた爆風に煽られて激しく乱れた。
ただの一撃で、小国を消滅させうる威力であった。
レムはチラリと背後を伺った。
空には夜の気配が迫り、『全ての人々の要塞』はもうなんか廃墟のような姿を晒していた。
シニグマ一体のために影響の範囲が広すぎる。
衝動のままに任せてはならない。
(なによりぼく自身を制御しないと……!)
シニグマはもう破滅している。
戦って戦って、死んだ。なのにまだ戦ってる矛盾を取り除かなければならない。
破滅というならば、自分もそうなんだろう。
全身の関節が苦痛の絶叫をあげている。
ほんの少し気を緩めれば、バラバラになって千切れて死ぬ。
そのことが分かっているからこそ、レムはありったけの魔力を掻き集める。体内の魔力も枯渇して構わないとばかりに注ぎ込む。
「く、あああああああああああっ!」
代わりに──……。
焔に侵食される。
消える。
崩れる。
ポロポロと。
大切なものを失って行く。
まず、大切でない人たちの存在の記憶が失われていった。
もう大切な人たちしか残っていない。
いないのに、記憶が削られていく。
ガリガリと。
頭の中に蟲がいて、脳を貪り食われていくようだ。
ああ。
やめて、
やめてくれ、
やめてください。
「あ、ぐ――!」
それでも──堪えた。
大切な人たちを守り通したい、大切な存在を、生きた記憶を。
火神を抑え込む。
(ぼくの中に)
迷いはない、躊躇もない。
今、一時、キミはぼくのモノだ。
キミはぼく。
ぼくはキミ。
「カナルカミナルイカリノカンゲン──」
──火神の
身の裡に竜を喚ぶ。
身体が変換される。
人にあらざる咆哮。
(ああ、これが──……)
──本当の〝
少し、違っていたんだなと。
呪文だけだったら、ただ自滅していただろう。
不完全な魔法だった。
呪詞を聞き届けてくれたのは火神自身だろうか。
不完全な魔法だったのだ。
しかし、今、
顔を──上げる。
成人男性ほどの体躯。
鋭く頑強な爪を備えた手。
腕には竜の鱗のような模様から火の粉が散る。
竜の尾で一度大地を叩く。
上向いて尖った二本の角が魔力を供給し続ける。
力が溢れる。
一方で、心がざわつく。
ココロ?
そう、そのぼくのココロが見つけたものがあったはずだ。
絶対に失くしたくなかったものだ。
ぼくのココロ……何を探してんだろう。
譲れなかった想い……は、なんだっけ。
ココロってなんだっけ。
超常の瞳がシニグマを捉えた。
ボロボロに崩れていく躯を、逆再生するかのようにランバージャックを集めて繋ぎ止め、歪な肉体を造り上げていく。
──アア。
とにかく奴を滅ぼさないと。
「ヒィイいいヤアあああああああっ! ヒョーおおおおほおおほほひょひょひょひょひょっ」
興奮で気が狂いそうだと、ソドー子爵は床に転がってビクンビクン震えながら思った。
傍から見ればすでに気が狂ってるとしか思えない姿だった。
ガバリと起き上がると血走った目で同志らに叫ぶ。
「
「竜尾兵?」
「知らんのかッ! もはや希少な魔道具によって呼び出される『竜牙兵』は元々、人の手によって『竜尾兵』を創り出すことを目指したものなのだぞ‼︎ まさに! まさぬぃーっ、これは神話の再来なのだ!」
言いながらソドー子爵はその丸い体で床を転げ回る。
「もしかするともしかするかもしれぬぅぞっ」
「な、何がです?」
「南にあった大陸を消し飛ばし、南洋諸島海域へと変えた【世界火】が見れるやもしれん‼︎」
「……そんなことになったら我々も無事では済まないのでは……?」
「何を言う! 直に感じることができるのだぞ! ……最高ぢゃないかあ……ああ、早くぅ。いつでもよいぞ……さあ……」
「うわぁ…………」