ザンキ99 転生して魔剣士目指しつつナゾの魔道具士やってみます   作:そこの角にいる

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34 セイダ……? あー、ノヒノヒ? 知ってる知ってる夏休みのことっしょ。ジョーシキだよジョーシキ。由来? …………わがんない!

 

 

 

 

 

 足元を砕くほどの強烈な踏み込みが、けたたましい音を立て地面に亀裂を入れる。次の瞬間にはレムは空中にいた。

 掘り起こされたかのようにガタガタになった魔の森を、飛ぶように駆け抜ける。

 空間そのものが熱を帯びている。

 鮮紅色の閃光を曳いて、レムは夕闇に沈む森の中をジグザグに切り割く。

 

 

 

 

 

 生き残った団の剣者たちが立ち尽くしていた。

 あの灼熱の竜息の直前、火でできたトカゲがたくさんウロチョロしていたかと思うと、ドラゴンブレスの余波を完璧に防ぎ切って消えた。

 一瞥もすることなく走り去ったレムのいた場所を、呆然と見つめた。

 

 

 

 

 

 シニグマは溶け崩れた脂肪の塊のような姿になっていた。それも常に蒸発し、流れ落ちている状態だ。

 絶え間なく周囲に展開した紫色した魔法陣から、不死者が現れては地面を這い、空中から滴るように次々とシニグマに食われていく。ドラゴンブレスの影響で、油断するとたちまち燃え上がり火だるまになるため、それらで(からだ)を、己を保つ。

 そんなシニグマから束になった管が、真赤炎狼(マッケンロー)を拘束して引きずっている。

 

 レムは状況に頓着することなく、行動を開始。

 

 ──突き刺す火花の咳一つ。

 

【コフ】

【コフ】

【コフ】

 

 もはや呪文も何も必要なかった。喉の奥で軽く咳をするような音を立てると、三度、耳をつんざく轟音が空気を揺らし、目を灼く強烈な光が閃いた。

 シニグマをマッケンローもろとも爆破し上空に打ち上げる。

 マッケンローが爆煙を突っ切って現れ、空中を蹴ってレムのそばに着地──思念が届く。

 

 ──偉大なる火の祖霊(アンセスタ・マグニ)……。

 

 マッケンローは喋れるわけではないので、それだけだ。

 レムは横目でマッケンローを眺めて、指の先から炎の蝶を飛ばした。

 

 ──【火の花カゴ】

 

 マッケンローはどことなく嬉しそうにその蝶に触れる。マッケンローの傷を癒やし、纏う炎が力強さを増した。

 

 レムが宝石から魔力を取り出すときのように、うまく〝同調〟できればその加護を受け取ることができる。

 どうやらマッケンローは『同調(ジョイン・フォーシズ)』を使って炎への完全耐性を得ているようだ。灼熱の竜息すら問題にならない。

 

 ズドン、と爆煙の中から下に突き出た管の群れが地面に突き立った。

 煙がはれる。

 無数の管が絡み合って枝葉を表現したような悪夢の巨樹が出来上がっていた。というか、見上げるほどの大根というべきか。

 

「……」

 

 レムは無感情にそれを見上げた。

 

 マッケンローが一歩大きく踏み込むと、四つの炎が地を疾り、四方からシニグマに飛びかかる。さらにマッケンローは拳を突き出すたびに炎の矢を放った。左右の拳で順番に炎の矢を繰り出し、足の踏み込みで地を疾る炎のケモノをけしかける。

 

 マッケンローの思念が伝わってくる。

 

 ──どすこい、どすこい。

 

 シニグマは幾百、幾千の管を放射状に広げた。

 視界を埋め尽くす壁となって殺到する。

 

 シニグマの管とマッケンローの炎。

 交錯に光が瞬き、一拍遅れて轟音が衝撃波と共に大気に轟く。

 激突した両者が虚空に無数の火華(ひばな)を咲かせた。

 

 レムはモムモムと口を動かすと、うぇっと何かを手のひらに吐き出す。そこに【焼けつく息(スコーチング・ブレス)】を吹きかける。

 

 ──【融けた心臓(モルテン・ハート)】。

 

 燃え盛るそれは自身の長く伸びる二本の角の上に浮かび上がると巨大に成長を始める。

 魔法を重ねて、重ねて、重ねていく。

 

 ──【眩しく輝く太陽(ディズイングリー・ブリリアント・サン)

 

 それを認識したシニグマは大樹のようだった幹を枝分かれさせ、数十mの長さの虫の(あし)のように変えると、高速で後退しながら管を撚り合わせた棘を豪雨のように放った。

 

 未だ西の空に溶け残る太陽を差し置いて、レムは生み出した眩い太陽を背負う。

 

 棘はレムに近づくほどに燃え上がって塵溶かす。

 その間に1000mを超えて距離を取ったシニグマに向かい、指さした。

 

熱線(ヒートレイ)

 

 熱線の狙撃で肥大した顔面を撃ち抜いた。

 

 レムは瞬く間に距離を詰めながらさらに【熱線】を放つ。

 一条の閃光が斜めに走り、硬直したシニグマを切断。

 閃光が瞬く。

 翻り切断。

 切断。

 切断。

 一閃、ニ閃、四閃、八閃、十六、三十二、六十四、百二十八。

 無数の斬線がシニグマに乱雑に赤い線を引く。

 そして最後に上段一閃。

 熱線はシニグマの身を縦に斬割した。いや、シニグマを遥か超えて世界の空を横切って縦に振れた。

 

 奇しくも南へ向かったその一閃は、辺境伯領第二の都ウォーフ港近海に押し寄せる『通商連合艦隊(トレード・フェデレーション・フリート)』の戦列艦十数隻を両断して爆発炎上させた。

 

 シニグマが赤い線に沿ってバラバラに滑り落ちるその前に、レムは背負った灼熱の太陽のエネルギーを解放。周囲に火災が発生。

 地上から高い位置にいるシニグマに目を向ける。ちょうどシニグマの背後には大きな月が重なっていた。

 極大出力の陽光を放射。

 

最後の陽光(ザ・ラスト・デイライト)

 

 夕闇を昼に変え、周辺の樹々を灰にして、大地を沸騰させた。

 シニグマは塵さえ残らない。

 

 この世界の月は月銀(イスリル)の砂に覆われた天体だ。

 そのため波のような模様が観測されることはあるが、基本表面は真っさらで、青白い光を湛えている。

 が、この日、大きな穴が月に穿たれた。

 この日から三週間にわたって断続的に、世界各地でダイヤモンドダストのように、月銀の粒子が降り注ぐ現象が見られ、この期間に制作された武具は性能が跳ね上がり、不死者への特攻を備えることが知られるようになる。

 

 毎年この日を『聖断罪の火の日(デイ・オブ・セント・マグニ)』と呼び、この期間は『盛夏の頃(イン・ザ・ハイト・オブ・サマー)』と呼ばれるようになる。

 

 

 

 

 

 

 

 リュードゥは魔の森にしてはずいぶんと拓けた場所へと変わった地に辿り着くと、炎の向こうに見える人影に叫んだ。

 

「若! レム!」

 

 振り返った人影はとても不思議そうにリュードゥを見つめた。まるで、振り返ったのは単純に声に反応しただけで、自分を呼んでいるとは露ほども思っていないかのような……。

 レムはふいとリュードゥから視線を外すと、少し先で待っていた真赤炎狼(マッケンロー)と森の奥へと跳び去った。

 

「……くそ、なんてことだ」

 

 

 

 戻って来たリュードゥはそれをロアンにだけこそっと教えた。誰に伝えるか、ロアンの判断に委ね、皆にはレムは見つからなかったと話した。

 団の誰もがレムが逆火現象の影響下にあったことをわかっていた。生存は難しいだろうと。そのことはリュードゥの結論も同じだった。長くはない。

 火神と一体となって、もしかしたら炎の精霊となってみんなを見守ってくれるならそれが一番いいんじゃないか。

 

「ぅぅぅうぇ、えええん……」

 

 シェリンは声を上げた。

 耐えに耐えていた涙があふれ出た。

 唇を噛んで我慢しようとしたが耐えきれず叫んだ。

 

「なん、なんで、そばにいてくれないん、んだよぉ」

 

 喉を詰まらせた。どれほど一緒にいたいと思っているか、自分の気持ちを知った。

 再び涙が溢れ出した。

 かすんだ視界の中でイロアもまた泣いていた。

 イロアは両手で顔を覆ってしゃくりあげた。指の合間から絶え間なく涙が流れ落ちていた。

 

 大切な存在はこの日、炎と共に消えてしまった。

 

「忘れない……」

 

 この悔しさを。

 突風がロアンの髪を乱す。涙さえ吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





次回は9時90分ごろに投稿しま
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