ザンキ99 転生して魔剣士目指しつつナゾの魔道具士やってみます   作:そこの角にいる

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35 それから(それ、からあげだから)

 

終章

 

 

 

 

 

 ……──1週間後。

 

 スレーヴェンと『全ての人々の要塞』を結ぶ丘の一つに特別埋葬地が造られた。

 連なる墓石。

 棺が埋められ、墓石がその上に設置され──その一連の作業が今も続けられている。が、墓石の下に眠っている者などいない墓も多い。

 すすり泣く声、声、声。

 冒険者にとって、生も死も身近なものである。

 その事を知らしめるため、参列者の中には普段通りの服を着込んでいる者も多かった。

 

 ウォーフ港の混乱から救出されたリディクラウス・アブサード大司教が祈りを捧げる。

 

「どうか──戦士たちの魂にお慈悲を。どうか、彼の者らのために道を開きたまえ。彼らは善く戦い、善く学び、善く平和を求めた英雄なり────栄光と祝福を」

 

 出席者が一斉に黙祷を捧げる。

 それぞれに存在を思い浮かべ涙する、あるいは──理不尽さに怒りを抱く。

 

「皆さんに語るべき言葉を……(わたくし)は持ち合わせておりません」

 

 大司教は遺族たちに告げる。

 

「あなたがたの愛する方々に救われた一人である(わたくし)が、どうして彼らをしたり顔で語ることができましょうか? ……死は等しく、自身の存在意義を無意味なものに追いやります。それはたとえ、この私と云えどもです。死に意味があるとするならば、それは我々生者にとって意味があるべきものなのです。彼らの命は私を救い、弱き者を救い、蛮行に走る者たちを打ち倒しました。そのことを、ご遺族の皆様は決して忘れないでください。死とは……無意味です。しかし、彼らが生きて為しえた事は、決して無意味ではないのです」

 

 大司教は一人一人の手を握った。握った手は時に冷たく、時に熱かった。時間が許す限り全員の手を握り、彼らの悲しみと喜びを分かち合おうとしていた。

 

 

 

 

 

「全員──敬礼ッ!」

 

 ギルドマスターが号令をかけた。彼の下で働く者も、そうでない者たちも、すべての者がそれに従った。

 蒼穹の丘の上、整然と、厳粛な態度で彼らは戦士たちの鎮魂を祈る。

 

 

 

 スレーヴェンの『冒険者の宿(イン)』の各所で、ある同様の光景が見られた。

 

 夕刻、酒を手に男たちが、手で、足で、声で、ゆったりとしたリズムを刻む。

 低く太い声で『孤独の谷(ロンサムバレー)』を歌ってる。

 開拓者の歌を、まるで国歌のように厳かに。

 街全体に響き渡る。

 

 

 たった一人でそこに向かうのだと。

 

 貧しさ、孤独、不安に苛まれども。

 

 愛失った寂しさに耐えられずとも。

 

 神さえもただひとりその道をゆくのだと。

 

 平坦ではない。

 

 厳しく困難な道を行かねばならない。

 

 たった一人、生かねばならない。

 

 自らそこに、ゆかねばならない。

 

 

 

 死者をとむらい送り出す、都市の歌声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……──1年が巡った──……。

 

 

 その間にも様々な変化があった。

 

「ま、俺くらいは付き合ってやらねえとな」

 

 そう言ってリュードゥは、ジュリアンと世界を周る旅に出た。

 失ったはずの左腕に不死鳥が宿る──〝赤腕〟のリュードゥと、〝烈風〟のジュリアンとしてやがて遠くスレーヴェンにもその名が聞こえるようになるが、それはまたしばらくの後のこと。

 

 

 辺境伯領を侵略し、大司教を誘拐した通商連(トレード・フェデ)のその後は──。

 艦隊は辺境伯麾下の部隊に散々に打ちのめされ、率いていたトップが逮捕された。

 すぐに中央で裁判が開かれ、スピード判決で三度の裁判にいずれも有罪となったが、未だに通商連の総督の座にあるどころか、今や自由すら手に入れている。

 彼の最大の味方は艦隊ではなく、帝国の腐敗にあった。

 

 その腐敗を止めるため、リディクラウス・アブサード大司教はこのほど、帝国元老院最高議長の座に就いて奮闘を始めるとの噂。

 

 

 風の剣士団は功績を評価され、匠合聯合(ギルド)と大司教の推薦もあり、団長レイグが辺境伯により男爵に叙せられた。

 領地はかつての主家の地であり、断絶した家の名も継ぎ、ヴィントベルク男爵。

 風の剣士団は名実共に再び『ヴィントベルク男爵の剣士団』となった。

 未だ領地は魔の手に落ちたままであるが、辺境伯勅書による〝切り取り次第〟の認可を受け、剣士団は捲土重来を期する。

 しかし、肝心の団長が現在、知人に会ってくると言ったまま行方知れずであり、スレーヴェンを離れ拠点を移す準備はてんやわんやである。

 

 一方でスレーヴェンに留まることに決めたのは、ロアン、シェリン、イロア、アンディの幼馴染み組をはじめとした面々だ。母と弟もしばらくは残ると決めた。

 

 魔境の奥地へ消えたレムを探し出すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 焚き火に照らされた夜闇の中で、レイグは懐から折り畳まれた紙を取り出すとそれを広げた。

 息子の字で一文が綴られている。

 

『石の永遠 山の忍耐 住まう緑土に結ばれし 大いなる地の精霊よ』

 

 謎であったレイグの持つ片手半剣(サヒ)〝はにまる〟に刻まれた祭文の訳だった。

 もう一枚の紙には〝はにまる〟が備える魔法効果の一覧と祭文により起動する魔法について書かれていた。

 すでに書かれた内容は一言一句すべて記憶している。レイグはただ書かれた文字をなぞった。

 

 

 焚き火の明かりの中に静かに降り立つ者がいた。

 細身に見えるが、実際にはその上背は3mに近い。

 赤子であったレムをレイグに預けた人物──アト。

 

 レイグはレムを救い出すための方途を見出すためにアトに接触したのだった。

 レイグを始めとした風の剣士団の古参は元軍人であり冒険者である。そのため、とても整理なんかつくはずもない気持ちを無理やり強引に落ち着かせることには慣れている。が、しかし、今度ばかりは無理だった。

 

 あの時、大司教を救出し、聖地に送り届けた後、大司教本人から知らされた。どうやらスレーヴェンが大変なことになっているようだと。

 聖地には各地を結ぶ特殊な伝達手段が備わっているらしい。

 知らせを聞いた直後、中でもサビラの荒れようは見たことがないほどであった。

 挨拶もそこそこにレイグたちは全力で駆けた。

 空を横切る光の線や、立ち昇る火柱を目撃し、衝撃波を掻い潜って辿り着いたが、一歩遅かった。

 

 レムの状況を詳しく聞いた。

 逆火現象(バックファイア)で長くはないだろうと皆が言う。記憶を失っている可能性があると報告を受けた。あの真赤炎狼(マッケンロー)と共にいるかも、とも。

 しかしそれらの知らせが諦める理由になどならない。

 

 事情を語って聞かせると、アトは感嘆に唸った。

 

「そうか。それほどあの子にとってお前たちは大切な存在になったのだな。お前に託したのは正解だった。礼を言う」

「よせ。あの子は剣士団のかけがえのない家族で、俺の大切な息子だ」

「そうか」

 

 アトはどこか懐かしむような笑みを浮かべてそれだけ応えた。

 

「それで、あの子は……」

「ふむ。最初に見つけた時、あの子の記憶を覗いたが」

「そんなことしてたのか」

「ああ。そも、レムという名はそうして読み取ったものだ。ふん……()()()()()()()()、同じ光景がなん度も繰り返されている。記憶が混乱しているためかとも思ったが、どうやらそうではないようだ。細かな情景に差異がある」

「よくわからんが」

「その光景というのが、赤子のレムが怪しげな男によって深い穴に捨てられるというものなのだが」

「はあ?」

「おそらくレムは実際にその男によって何度も穴に投げ捨てられている」

「そいつは一体どこのクソだ」

「今重要なのはそこではない」

「ああ?」

「つまりレムは死なない、か、生き返る。条件はあるのだろう、当然。そしてその中の一つにおそらく、復活は特定の場所にて行われる、というものがあると考える。だから何度も捨てられていたのだと。なぜかは知らんが」

「なんだそりゃ。でも、そうか……そうか!」

 

 意味はわからないが、生きている。

 ようやく明るさを取り戻したようなレイグに、アトは早まるなと諌める。

 

「しかし記憶についてはわからんぞ。失っていないのならお前たちの元に帰っているだろう。それとも、何か今は帰ることのできない理由があるか。もしかしたらある日ひょっこりと帰ってくるかもしれんが」

「それならいいんだがな。今も元気でいるというなら。しかしただ信じて待つことに納得しないヤツらがいるからなあ……」

「俺からもひとつ話がある」

「なんだ?」

「実は──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……──コポ……コポポ……。

 

 ──生誕槽(バースバット)の正常な起動を確認──

 

 ──〝ウツシオミ〟の形成を開始──

 

 ビーッ! ビーッ! ビーッ!

 

 ──不具合が発生しました──

 ──異常を確認してください──

 ──異常を確──……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スレーヴェンは今日も各地から冒険者が集い、また旅立っていく。

 新たにこの地に辿り着き、冒険者として身を立てることを志す者たちはまず『冒険者の宿(アドヴェンチュラーズ・イン)』を訪れる。

 一般的には実績や雰囲気、支援体制、所属の僚友団などを吟味して、希望の『冒険者の宿(イン)』の試験に臨む。

 すでに何らかの功績により名の知れた者が所属を探している場合は、どこからか聞きつけた『冒険者の宿』の側から誘いをかけることもある。

 あとは、これまでの自分の実績を自ら語って売り込み、試験を免除されることもある。

 

 売り込みをする者たちの多くに、なぜか『ナメられたらおわり』という考えが共通していることに、まともな者たちはしきりに首を傾げる。自分を高く買って欲しいから売り込むのだろうに、なぜに低く見せるような真似を? と。

 

 そして今日もそんな日常の一幕が。

 

「オイオイオイ、冒険者の宿だって聞いて来たんだが、なんでガキが居座ってんだ? 子守の依頼でも受けてんのか? まさか冒険者だなんて言わねえだろうなあっ、ええオイ⁉︎」

 

 冒険者の宿・ハイアカンに入ってくるなり、男はそう大声で言った。

 言われた方のテーブルの二人組は、成長が見られるシェリンとイロア。

 

「北の戦場暮らしも飽いたんで本格的に冒険者にでもと思って来たんだがなあっ? ここは〝斬鬼〟ってすげぇのが居るってんで俺もここに所属してやろうってわざわざ来てやったのによお! 冒険者ってのはガキでもできるほどぬるいのか⁉︎」

 

 男は魔王軍との戦争に参加していた傭兵のようであったけれど、そんななにやら騒がしい男などは彼女たち二人の眼中にはなかった。

 シェリンは夢中でステーキをナイフで切り分けると、口いっぱいにステーキ肉を頬張ってもっさもっさと咀嚼しながらイロアに目を向ける。

 

「イロア、食べないの?」

「ゴエもん読んでるから、いい」

 

 ゴエもんとは巷で大人気の物語『奴隷者(ドレイもん)』から派生した『がんばれ護衛者(ゴエもん)シリーズ』のことである。

 

 イロアは本に落としていた目線を上げてシェリンを見る。

 

「野菜も食べなよ?」

 

 そんなイロアにシェリンはもごもごと口を動かしながら不思議そうに首を傾げた。

 

「なに言ってるの? 野菜って……草よ?」

「シェリンがなに言ってるの?」

「え? ……でも大丈夫。さっきもう一品たのんだから! あ、ほらきた!」

「へい! お待ちどお」

「ね?」

「ね? じゃない。それからあげじゃないの」

「うん。え?」

「……バカ」

 

「オイオイオイ、メスガキども、無視ぶっこいてくれちゃってんじゃねえぞッ!」

 

 男は怒声を上げてテーブルを蹴り上げた。

 イロアはようやく男を見た。

 ほっぺたぱんぱんのシェリンは床に飛び散った肉を悲しげに見た。それから二人は互いの顔を見合わせた。もぐもぐ。

 

 

 

 

 

 どごん、と開けっぱなしの入り口から男が吹っ飛んできて、通りを転がった。

 

「ぐへえ」

 

 冒険者が一人、宿の中から歩いてくると、男の横にしゃがんだ。ぽんと肩を叩く。

 

「まあ、お前が言う通りガキには違いないが、あれで裏組織に平然と喧嘩を売るガキなんだ。てか、お前の言う〝斬鬼〟ってアイツらだぜ?」

「え?」

「あの〝峨羅(ガラ)〟にも喧嘩を売ったって話さ。そんなヤツらに喧嘩を売るなんてお前なかなか見どころがある。どうだ、ウチの試験本当に受けてみるか、対魔王戦線の勇者サマよ? 試験免除でもいいが、その場合、店の雑用からだぞ勇者サマ」

 

 そんな提案に男はうつむいてぼそぼそと喋った。

 

「勘弁してくだせぇ。……すいませんでした」

「俺に謝ってどうするよ」

 

 言われて男はがばりと居住いを正すと「すんませんでしたッ‼︎」と叫んで頭を下げた。

 すると宿の中から「おう! おととい来やがれ!」とどう考えても自分をぶっ飛ばした少女たちではないおっさんの声で返答があった。

 しかし男は長居は無用とそそくさとその場を立ち去った。

 

 ロアンがこの冒険者の宿の主人であるハイアカンとの話し合いを終えて奥の小会議室から戻ってくると、周囲の雰囲気の違いに首を傾げた。

 

「なんかあった?」

「なにも」

「なにも」

 

 シェリンとイロアは興味なしとばかりに口をそろえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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