ザンキ99 転生して魔剣士目指しつつナゾの魔道具士やってみます   作:そこの角にいる

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36 手がかかる

 

 

 

 

 

「ちょっと気になる話があるんだ」

 

 ロアンは椅子に座りつつ、シェリンとイロアを見る。

 

「依頼を出してたやつ? 信用できるの?」

 

 ロアンは些細でも何でも手がかりを得られないかと『求ム! 魔境の〝フシギ〟』という匿名での情報提供依頼を出していた。気になるものには報酬を払うとして、あえて範囲を曖昧にしてある。

 

「まあ、あまり期待してなかったけど、別々に同じ情報が寄せられてね。中堅どころでも厳しい第四区(ディー・フォー)の深くだっていうし、報告者からしても悪ふざけってこともなさそうだし、ちょっと調べてみたいんだ」

 

 シェリンとイロアがこくこくと頷いているのを確認して続ける。

 

「D4の湖で巨大な水精龍が身をくねらせて暴れてたんだって。報告者は津波に襲われたんで逃げ帰ってきたらしい。もう一つが山の尾根の陰から風陣竜が現れてデタラメな軌跡を描いて飛び去ったって」

「どっちも精霊竜ね。でも、それって同じ情報なの?」

「どちらもなにかと戦っていたんだ。で、その相手というのが子供のようだったって」

 

 精霊竜など一等星の冒険者でもそう簡単に手出しできない。

 場所によっては土地神として崇められ信仰の対象にもなり得るレベルだ。

 そんなのにケンカを売る子供?

 

「準備してくる!」

 

 三人はすぐさま動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()

 その時にはもうレイグは抜刀していた。

 

 都市の闇に潜む異形の怪物たち──。

 

 ずるりと背中の肉を突き破って複数の金属の肢が危険な音を奏でる。

 

 金属でできた虫と獣の合いの子のような化け物。

 

 頭は人間だが、首から下は金属の骨格のみの奇妙な姿を持つ者。

 

 機械なのか、そういう全身鎧なのか区別のつかない者。

 

 見た目だけは人間にしかみえないモノ。

 

 凄まじい勢いで飛び出してくる影ども。

 炯々たる眼光が狂気に瞬く。

 片手半剣(サヒ)の刃の閃きが、半円の軌跡を描いて疾った。

 最小限の動作で闇のモノどもをすり抜ける。

 左肩から右脇下に抜け、一体目。翻った刀身が二体目の胴を抜く。

 翔ける銀の斬線は淀むことなく、敵を捕え続ける。低空を滑り一瞬跳ね上がったと思えば標的の首が高く打ち上がる。

 

 帝都──聖堂内部、奥深く。

 無数の影の只中をレイグは駆けた。

 他方で明かりが揺らめく。炎の明かり。聖堂の荘厳な意匠の陰影が浮き立つ。

 奇声を発し怪物が燃える。アトが淡々と魔法で燃やしている。

 多種多様な無数の足音。入り乱れる斬撃。

 レイグの襟巻きがなびく。

 闇に重なる音の中、一際に響く殷々(いんいん)たるひとつの音。細く長く尾を引いて静寂をもたらした。

 一拍ののち、周囲の敵が一斉に崩れ落ちた。

 機械油のようなねばついた血が聖堂の床や壁を汚した。

 

「帝都まで来てこれか。治安はどうなってんだ治安は」

 

 レイグが片手半剣(サヒ)の峰で肩を叩きながらため息をついた。

 

「というか、なんだアレ。〝失われた技術の結晶(アーティファクト)〟? 〝死肉の魔像(フレッシュゴーレム)〟?」

「そうだな、似たようなモノだ。どっちも違うが」

「違うのかよ」

「失われた技術ではなく、そもそもこの世界にない邪法であるし、死肉というより、生術と錬金術によって培養され、金属と融合された肉体だ」

「……それが前に言ってた神の仕業ってワケか。魔王の背後やシニグマの異様に関係してるっていう」

「そうだ。正確には神が招き寄せたモノによる仕業だ」

 

 

 そもそも神とは──。

 

 神と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、永く在る精霊や、嵐や大地の化身とされる超常の存在。

 だが、アトは語る。

 それらは特定世界に縛られた一種、局地的な現象だと。

 

「俺の故郷には、数百、数千の神々がいてその中に序列があった。その中で真に神と云えるのは、世界と世界を自由に行き来できる稀なる能力を持ったいくつかの神〝徒歩(かち)渡り〟」

 

 戦闘だけを見れば局地的な現象に及ばないこともあるが、彼らは世界を渡り歩き魔法を蒐集し、強大な力を蓄えることができる。彼らに限界値はない。

 

「俺たちの世界は彼らが創造したものだ。ただ、故郷が砕けて滅んだ時、彼らの誰も故郷には残っていなかったし、危機に駆けつけることもなかったが」

 

 他に、場所によっては強大な力を持つ魔物を土地神として奉ったり、魔道士や権力者のただ人を神と崇めることもあるだろう。なんらかのきっかけで定命の(くびき)から解き放たれた者どもをそのように扱ったり。

 

「俺は、そこに属する。大きな括りで二級神や下位神と呼ばれるもののひとつ。地上の人々は大霊や仙人、大精霊などさまざまに呼び表していたが、俺もそんな地上人からの成り上がりだ。俺がこの別の世界に存在しているのも偶然でしかない。世界を渡る能力など持ち合わせていないのだから」

 

 アトたち二級神は、尖兵なのだという。

 星を喰らい、世界を食い荒らす巨神を食い止めるために醸成された土地で、発生を促された神々。

 

「そして、俺と同じように流れ着いた奴がいる」

「で、悪さしてると」

「なに考えてるかわからん奴が多いからな」

 

 

 目的はこの先にある。

 

 両開きの扉をくぐる。

 幻想的な魔法の光が浮かぶ広い空間の先、祭壇の前に佇む法衣を纏った人物が、柔和な笑みを浮かべて振り返る。

 レイグは目元を引き攣らせてつぶやいた。

 

「……リディクラウス大司教」

「やあ、男爵。それと──」

 

 アトが無表情に大司教に向かった。

 

「〝嘲りのリディキュラス〟」

「フ……こちらは何と呼べばいいかな。〝神皇アスアトル〟かな? 眷属のお前が庇護者である一級神の名を騙るとはね」

「え、お前が神皇なの? 聞いてねえぞ」

「……」

「ハァ……というか大司教、アンタがいろいろ裏で糸引いてんだって? 魔王にシニグマ? もしかして通商連も?」

(わたくし)の傘下にあるわけではありませんよ。少し、状況を煽ってみただけでね」

「誘拐騒ぎも自作自演ってことかよ」

「いえいえそれは違います。あれらは私のことは知りませんから。あれらなりに考えて大司教を攫うことにしたのでしょう」

「そうなるように動いたんだろ?」

(わたくし)はね、トリックスターの眷属なんですよ」

「〝帝国の良心〟がどうなってんだよ」

「フフ、そうですね。帝国に良心はなかった。皮肉が効いていて大変よろしい。最初に言い出した者には勲章を差し上げたいところです」

「うるせえよ」

「リディキュラス、世界を混乱させるのが目的なのか?」

 

 アトが静かに問うた。

 

「……ふむ。アト、私はね、帰りたい。故郷にね」

「我々の世界は滅んだだろう。時間を遡った上で世界を渡るつもりなのか?」

 

 リディキュラスは静かに笑う。

 

「さすがにそれが出来るとは思ってないよ」

「ならば」

「確かに私たちの世界は砕けた。しかし滅んだとは思えないのだよ。〝徒歩渡り〟でないとしても、あの一級神たちが簡単に滅びを受け入れるかな?」

「……帰ってどうする」

「フフ、その時、私は〝真なる神〟だ」

「なあ」

 

 レイグが割り込んだ。

 

「あーなんつうか……そのためにこの世界を弄ぶと?」

「……ふむ。この世界は我らが故郷の10倍広大だ。なのに重力は変わらないのだよ」

「なにが言いたいのかわからん」

「海や空に棲まう強力な生物に隔てられ、それぞれの特徴を持った十の世界が同じ星に存在してるに等しい」

「……」

「そう、つまりこの世界、個によるのか複数からなるかは知らぬが、おそらく複数。それらの手によって好き勝手に弄られてきた世界なのだよ」

「ほーん。じゃあ自分だって好きにしていいだろうって?」

 

 レイグは獰猛に笑って──……。

 

 予備動作は一切ない。

 すでに大司教の目の前。地が揺れるほどの勢いで踏み込んだ──。

 

「ふざけろよ」

 

 

 

 

 

 

 

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