ザンキ99 転生して魔剣士目指しつつナゾの魔道具士やってみます 作:そこの角にいる
魔境は第5区(D5)から数字が小さくなるほど深く、危険度が増していく。
第1区には巨大な都市遺跡が広がっているが、そこに辿り着ける冒険者は全体の一割に満たない。
第5区を北や南に回ることで第6区から13区の特殊な地域に繋がり、第1区のさらに奥には深層1区(DD1)から今度は数字が大きくなる。現在定められている区画は深層3区(DD3)まで。
衝撃波が駆け抜けて、地響きと共に森に埋もれた古い塔が崩れ落ちる。
土煙が津波のように押し寄せてすべてを一色に染め上げる。
フーデッドローブの小柄な影が土煙を突っ切って現れた。それを追う三つの火球。
小柄な影は右手に長剣を持ったまま身軽に宙返りを繰り返し火球の着弾から逃れた。
爆風に煽られてバサバサとローブがはためき、フードが払われる。冒険者装備に身を固めたその顔は──。
「蛙っ⁉︎」
ロアンは思わず叫んだ。
1mそこそこの身長しかない時点でレムではないとわかってはいたが、まさかのカエル人間。
「魔人……なのか?」
土煙の中から唸り声が聞こえ、炎がチラついた。
飛び出してきたのは燃え殻に被われた野犬だった。躯(からだ)の隙間や目や口から炎が噴き上がっている。
「〝燃えがら犬〟か。どうする?」
ロアン、イロア、シェリン、三人は顔を見合わせて首を傾げた。
「加勢する!」
シェリンが真っ先に走り出す。
「一応聞くけどどっちにっ?」
「カエル!」
「左右からも来るぞっ!」
「──ゲッコーはぁ、ゲッコーってゆう」
「……キミはゲッコーって名前なんだね?」
ロアンがカエル顔の新たな友人に確認する。
「ゲコ。そぉ」
「精霊竜と戦ってたのもキミ?」
「そぉ。死ぬかち思た」
「なんで戦ってたの?」
「なんか必要なんだってぇ。ゆってた」
「誰がっ? 誰が言ってたのっ⁉︎」
激しく反応したシェリンが鍋をかき混ぜる魔女のごとく、小柄な友人の体をぐりんぐりんと揺さぶって訊ねた。
「ゲッコォ⁉︎」
「えっ? アンタっ? アンタが言ったの⁉︎」
「チ、ちが、違──」
「じゃあ誰っ⁉︎」
「ゲコォーッ⁉︎」
「えッ? アンタ⁉︎」
「違、ちがう」
「もう‼︎ 案内してっ‼︎」
魔境の森を駆ける。
縦列を維持して走る3人の横を、カエルの魔人が飛び跳ねる。両足で踏み切ってぴょんぴょん跳んでいるというのに、3人を置いて行くかという速度で時に数十mをひとっ飛び。
前方に立ち塞がる魔物がいれば高速で飛び込んで切り捨てて先を行く。
なんだかんだ丸2日かけて、4人は第1区(D1)まで走り抜けた。
厄介な場所や手に負えない区画を避け、たどり着いた第1区は広大な都市遺跡。
かつてこの魔法息づく都市で、設計家たちが競い合った絶麗なる建築物が積み重なる高層都市の姿があった。
自重を忘れた都市建設の果て、迷路のような通りと林立する尖塔。
石や金属ばかりではなく、植物も建物の高低問わず繁茂している。おそらく初めからそう意図して造られたのだろう。
同じように張り巡らされた水路はどこからきてどこに終着するのか。
そして、都市に人はおらずとも、ここには未だ多くの住人が生息しているようだった。
不意にその辺の街角から見たことのない強力な魔物や、魔人のなりかけがひょっこり、ばったり。
なんだかんだ魔人に詳しいカエルと彼が持つ
三面六臂の
双頭の
都市遺跡内にそう多くない貴重な拓けた場所を占拠する
どのようなきっかけや要因で魔人が魔人となるのかはわからないが、それらはほぼ唯一無二の存在と言っていい。そんな魔人がこれほど多く同じ場所に集まっている。あまりに異常だった。
異常といえば、いたるところに危険が転がっているこの都市遺跡が驚くほどに原形を留め、キレイに保たれていることもそう。
ある種の秩序が保たれているのかと、そう思ったが違う。
今なお都市には魔法が生きている。破壊されたとしても逆再生のごとく修復される。都市は都市が護っている。
薄暗く、けれど青い空間だった。
どこか水族館を思わせるが水槽などがあるわけではない。ただ水の音だけは遠くかすかに聞こえてくる。
おそらくなんらかの施設の一棟に、カエルの先導で入り込んでいた。
突然ひらけた広い空間。
精緻な意匠の柱。見上げれば絵物語の複雑な彫刻。
というか床は水浸しだ。いやこれは故意に水が張られているのか。
広間の中央にアンティークのソファセット。一人掛け、三人掛け、ローテーブル。どれも植物の蔦がモチーフかと思われたが、よく見ればそれはタコだかイカだかの触手が絡まったようなデザインだった。水面から飛び出た触手の形をしたライトスタンドのランプの灯りに照らされている。
そして巨大な一枚鏡がそれらの奥に。
よくわからない空間だ。
歩くたび、鏡のような水面の床に無数の波紋が立つ。静寂を乱し、ただ一つ乱れのない一枚鏡の前まで進む。
カエルが背負っていた剣を抜いた。腰の剣とは違い、カエルが扱うには大きな剣で、骨のように真っ白な剣だ。その材質が金属かすら判別がつかない。
カエルは白剣の切っ先を鏡に向かって突き出した。鏡は割れることなく、ましてや剣が貫通することもなく、ずぶずぶと刃を呑み込んでいった。
同期して、ス──と鏡の中に人影が浮かび上がった。
左目から側頭部を炎に焼かれながら、無表情に目を瞑った、あの日のままのレムの姿だった。
「──ッ⁉︎」
「レムっ‼︎」
イロアが息を呑んで、シェリンが叫び、ロアンがすぐさま鏡に近づいた。
「レムッ! ゲッコーどうなってるんだッ⁉︎」
ロアンが鏡とカエルを交互に見ながら悲鳴のように叫んだ。
カエルは説明しようと口を開き、正真正銘の悲鳴を上げた。シェリンが鏡を破壊しようと得物を振り上げていたからだ。
そんな騒ぎをよそに、鏡の中のレムは無表情のまま声も発することもなかったが、その顔の横にまるで古いRPGの吹き出し窓のようなものが立ち上がると、ぺぺぺぺっと文字が吐き出されたのだった。