ザンキ99 転生して魔剣士目指しつつナゾの魔道具士やってみます   作:そこの角にいる

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38 トカゲとヘビのチ、カエル、イナゴの時系列

 

 

 

 

 

 ロアンたちが無事『すべての人々の要塞』に帰り着くと、街は騒然としていた。

 通りがかりの商人らしき男に訊ねれば、彼は半ば恐慌(パニック)状態で答えた。

 

「氾濫だ! 魔物の氾濫(スタンピード)だ! ああっ、私はなんという時に来てしまったんだ!」

 

 急いで所属する冒険者の宿『ハイアカンズ・イン』に飛び込む。

 そこにはすでに多くの冒険者が詰めかけていて、大人たちが分厚い壁となって視界を塞いだ。

 隙間を縫うように前に出る。

 途中カエル人間を見た者たちがギョッとして二度見するが、ゲッコーはその都度かるく手を挙げつつ、「ちわ、ちわ」と挨拶しつつ、通り過ぎた。

 

 階段の途中に陣取ったこの『冒険者の宿(アドヴェンチュラーズ・イン)』の主であるハイアカンが皆を見下ろして声を張り上げる。

 

「一報を聞いた通り、〝氾濫〟だ! が、今回は他の魔物が入り混じることはない。今回の氾濫は〈蝗害〉、イナゴの群れだ!」

「……おお」

 

「諸君! 我らの主食を食い荒らす副菜が現れたぞっ! 捕獲しろッ‼︎」

 

『うおおおおおおおお────ッ‼︎』

 

 そこにあるのは、本来あって然るべき氾濫の恐怖によるパニックではなく、頭のイカレたお祭り騒ぎだった。

 

「獲れ獲れ──ッ!」

「投網! もっと投網用意しろっ!」

「大鍋だ! テキトーな広場に運び込め! 10⁉︎ 足りねーよっ、鍛治師どもに作らせろ!」

 

「炒めろ──っ」

「煮込め──っ、甘辛く!」

「食え食え──っ!」

 

『うおおおおおおおおお────ッ‼︎』

 

 それからしばらくの間、街を歩けば頻繁に炊き出し現場に遭遇し、人々はチキンレッグをかじるがごとく虫の脚を咥えて歩く姿が散見された。

 

 スレーヴェンから中央へと逃げ帰った商人たちから、「魔境の街はやはり魔境であった」という話が流布され、辺境はかくも恐ろしき場所であるという認識が広まることとなった。

 

 

 

 

 冒険者の宿に併設された酒場にて、周りの喧騒とは裏腹に、ロアンたちは静かに食事を摂っていた。

 

「ニンゲンの作ったメシ。うまー」

 

 カエルがひとりだけ山盛りのイナゴの甘露煮をぱっぱく食べている。

 

「さて、これからどうする?」

 

 シチューを食べ終えたロアンがイロアとシェリンに問いかけた。

 

「もちろん待つわよ」

「……うん」

 

 鏡に映し出された文字列を思い出していた。

 

『レム:無事。そのうち帰る』

 

 本当かどうかわからない。

 レム本人の言葉なのか。第三者が伝えて来たのか。それとも、まったくの嘘か。

 わからない。

 でも今は信じて待つしかない。

 その気になったのはカエルもそれを肯定しているからだ。

 

「それはそうなんだけど、その間どうする?」

「……つよく、なる」

「そうね。イロアの言う通りね」

「そうだな。わかった。それで、ゲッコーは? これからどうするんだ?」

「ゲッコーは次はヤキトリを食べーる」

「何もなければおれたちを手伝って?」

「いいよー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●▼●

 

 

「うわっ⁉︎」

 

 手のひらに乗るような小さなトカゲから、吐き出されて、意識が戻った。

 

「あぇ?」

 

 小さなトカゲを見る。

 表皮が時おり、炎となって揺らめいていた。

 

「……精霊?」

「まー、そうだ。位としては上の上の、そのまた上なんだ」

「おおぅ、しゃべったー」

 

 ふと辺りを見渡すと、何もない空間。地面もない。薄暗いそこにぼんやりと光る自分とトカゲ。

 レムはトカゲに向き直って見つめた。

 

同属(おナカマ)を喰らうわけにもゆ火……──」

 

 ボッとトカゲから炎が上がる。

 

「──火……カ……ゆカん火らな」

 

 ボッ。

 

「お仲間……? 精霊じゃないけど?」

「竜だ」

「えっと……? 竜じゃないけども?」

「なんだ、知らぬの火……カ。お前炎……オマ炎……オマ、オマエには竜の因子が組み込まれているんだ。そのように造られたんだな。火竜とは違うが」

「キミが、あの時に力を貸してくれた火竜?」

「まさ火っ!」

 

 ボフッ!

 

「あれはオヤジさ。ォレはあのとき生まれたの火?」

 

 ボ?

 

「いや知らないけど」

「なんだ、知らぬの火……カ。残燃」

 

 ボッ、ボボボッ。

 

「……それで……ここはどこ?」

「うん、水の神殿。神託の間、『蓄積した知識の祭壇』とカご大層に言われてる場所──の中。水竜の寝所」

「それはー……まずいんじゃ?」

「そうも言ってられん。ヘタな所でオマエを解放して〈夜霊の女王(モーリアン)〉に見つカったら終わりだ火……カらな。その点火!」

 

 ボファッ!

 

「おっと、その点、ここなら死の女神の手も届火──」

 

『──だらっシャあああ────ッ‼︎』

 

 突如視界を影が横切ったかと思えば、トカゲが見事な飛び蹴りを喰らって「ぎゃああああ──ぁぁぁ⁉︎」吹っ飛んでいった。

 いや、影の正体を見れば足なんてない。

 それは小さなヘビだった。

 

「さっきからボッボッボッボうっとうしィん蛇あああ──ッ‼︎ ……っダァボがァ」

 

 小さなヘビはギラリンと今度はレムをにらんだ。

 

「ん蛇ァ? オメー……まさかオカミに手をあげようってん蛇ねェだろなァ。……ん? いや、もしかして、(メシ)か?」

「そんなわけないだろっ、くそヘビがっ」

「ん蛇ァ? クソトカゲ! まずはお蛇魔しますだるォ⁉︎」

「はあ⁉︎ お邪魔しますー!」

「ああ?」

「おお?」

 

「シャ────ッ!」

「フカ────ッ!」

 

「なかよしだね」

 

『はあああっ⁉︎』

 

「蛇れがッ!」

「オマエ目ん玉ついてんの火ッ⁉︎」

 

 

 

 

 

「オマエは本来、肉体に限界が訪れると、新しい肉体に転送されるようになってるんだ。これまでにも何度火……カ、あったはずだ。要は、オマエがォレたちを身の(うち)に喚んだのと、同じ仕組みの上にオマエは立ってる」

「ぜんぜん覚えがないけれど?」

「意識の覚醒まで多少の時間を要するんだ。その間も身体は動いて直前にいた場所に戻る。古い肉体とのつながりと、オマエに組み込まれた竜の因子を利用して元の場所に戻る。一回だけの転移を実現してる」

 

 トカゲが言葉を確かめるようにゆっくり話す。

 対してヘビが早口で言う。

 

「限られた神々が世界と世界を移動する〝徒歩(かち)渡り〟の擬似的な再現なんて、ヒトには無理だるォなァ」

 

 ヘビが「ダァボが。そういうことかよォ……」と呟いてるのを横目に、レムは回想する。

 

「そういえば、数時間の空白がちょくちょくあったような……? なんか怖いね」

「のんき蛇なァオメー」

「寝ちゃってただけかと思ってたけど」

「まー実際、寝てる間に入れ替わってることもあった火……カもな」

「……で、ぼくは今その魂だけ? なんだけども?」

「そう。オマエがォレたちを身の裡に招き入れたことで、正常に転送が実行されなカった」

「なるほ、ど?」

「オマエがちゃんと生き返るには、オマエの身体がある世界に渡って、新しい身体を手に入れねばならないんだ」

「世界を渡る……? それって一部の神さまにしかできないんでしょ?」

「そう。そこでこいつさ。こいつなら案内できる」

「さァ? なんのことだか知ら──」

「お? 水竜の眷属が、〝知らねえ〟と。そう言うの火? ああ⁉︎」

「言ってねェッ! クソトカゲがよォ!」

「ああっ⁉︎」

「おおっ⁉︎」

 

「フカ────ッ‼︎」

「シャ────ッ‼︎」

 

「ねえ。どういうこと?」

「うん。天上の神のように自由に門を開けることはできない。し火し……しカし、次元を繋ぐ太古の神秘、『魂を運ぶ古き川(ソウルキャリバー)』を水竜とこの〈探知鱗(センサースケイル)〉だけは泳ぐことができるんだ。こいつなら見つけ出せる。だから──」

「だが断るゥ!」

 

「フカ────ッ‼︎」

「シャ────ッ‼︎」

 

 

 トカゲがため息を吐く。ボボボッ。

 

「仕火たない……、仕火たない! では直接、水竜に話そう火!」

「おい! ふざけるん蛇ァねェぜ。よそモンがオカミの眠りを妨げるゥ? 殺すぞっ!」

「わ火ったわ火った! では、無事成功したら〈水精龍〉をくれてやる。どうだ?」

「水精龍はお仲間じゃないの?」

「いや、違う。あれは水の精霊を食い荒らし力を肥大化させる竜擬(りゅうもど)き。邪悪に進化したドレイクの一種。残虐性と食欲の化け物だ。ただし、力を増した個体というのは、水の精霊にとっても有用なんだ」

「チ…………俺様がァ、オカミに聞いてきてやるゥ」

「おお! ありがとう!」

「だがァっ! オカミがダメと言ったらダメだ。その時はオメーらがなにを言おうとしようと協力はしねェ。いいなァ⁉︎」

「わかったありがとうヘビくん」

「っダァボ」

 

 

 10分後──。

 

「そういえば」

「うん」

「ヘビくんは〈探知鱗〉ていうんでしょ? じゃあトカゲくんは?」

「ああ、ォレは〈吐火〉ってんだ」

「トカゲのトカくんね。よろしく。ぼく、レム」

「知ってる」

 

 

 1時間後──。

 

「みんな無事かなあ?」

「オマエを追い火……追いカけてきたやつがいたな。たしカ」

「そっかー。心配かけちゃってるなー」

 

 

 3時間後──。

 

「案内はヘビに任せて、ォレはここに残るカらな」

「そなの?」

「オマエのこの(からだ)

「うわあっ⁉︎」

 

 トカゲがベッと吐き出したのは、なぜか小さな角が生え、側頭部に虹色の炎がこびりついたレムの肉体だった。

 

「これはォレがもらう。逆火はォレには関係ないし、オマエがこっちに戻ってくるのに、目印になるこの躯を保ってお火……おカないといけない火らな」

「ありがとう、トカ」

「べつにいいんだ」

 

 

 5時間後──。

 

「やっぱり説得は難しいのかな」

「探知鱗のヤツを信じて待つしカない」

「うん」

「それより、『魂を運ぶ古き川(ソウルキャリバー)』をゆく時は気をつけるんだ。あそこは〈夜霊の女王(モーリアン)〉の目が光っている火……カら」

 

 

 ──8時間後。

 

「ん? やっと帰ってきたんじゃない火」

 

 ボ。

 

「遅いぞクソヘビっ」

「うるせェん蛇よォ」

「それでどうだった?」

「あァ……行ってすぐ許可が出たァ……」

「は?」

「はい?」

「いく必要はねェ、助ける理由もねェ、クソ生意気だからほっとこうォ、むしろさっさと追い出そうォ、って、散々言ったんだがァ、『いいよ、行ってきな』って」

「……」

「……」

「……」

「テメッ、このクソヘビがあああッ‼︎ くっそ時間かけて真逆の説得してんじゃねえ!」

「うるせェッ! 俺様をオカミから引き離そうとする悪魔どもめェ‼︎」

 

「フカ──────ッ‼︎」

「シャ──────ッ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではレムを頼むぞ。探知鱗」

「違う。探知鱗ではない。我は〈知恵の蛇(オフィディアン)〉。高闇之龗神(タカヤミノオカミノカミ)()()にしてやがて(りゅう)へと至るモノなり」

「いや今さらそんなこと言っても火っ好良くないんだ」

 

「シャ────ッ‼︎」

「フカ────ッ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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