ザンキ99 転生して魔剣士目指しつつナゾの魔道具士やってみます 作:そこの角にいる
壁に映し出された映像は、誰かの手記のようだった。
──生物的な発生段階のモノを大規模に徴用し、粗末な蛹から恐ろしい生物化学的兵器を作り出すシステム『
ヒュドラは非常に強力ではあるがこちらの指示を聞くほどの知能はなく、それを承知で強行されたのは、当然、巨神の存在による。想定通り、誘導するまでもなくヒュドラは巨神に向かっていった。
しかし結論から言えば、たしかにヒュドラは巨神には通用しなかった。
巨神を超える質量をぶつけるというコンセプトにプラスして、竜という破壊性能を付与したヒュドラは、実のところ巨神の質量には遠く及ばなかったことが判明し、コンセプトの時点で実現不能という最初から破綻をきたしていたモノだった。
今度はどこかの壇上で演説する男の姿を映した。
──ヒュドラがまったくの無駄であったと断ずる声もあるようだが、それは誤りであると強く訴えるものである。賢明なる
ヒュドラは巨神が生み出したおぞましいクリーチャーの大群を打ち破り、そして今、次のステージへと至るのです。
ヒュドラの超再生という稀有な能力を移植する『
切り替わったのはさっきの男の自室か、執務室のような場所。視点が低い。隠し撮りだろうか。
男が机を両手で何度も叩いた。
──私のヒュドラ兵をミュータントだとっ⁉︎
他の教授たちまで『ミュータント化計画』などと軽々と口にする!
意図的な突然変異を促しうんぬんと、あろうことか私の前でしたり顔で解説する始末! それで褒めているつもりかッ⁉︎
私の研究は『超神化』だ!
そ、そのうえ、こここの私を『
次に写ったのはある日の日記。
2986 DAY 608
私を馬鹿にした教授らが相次いで亡くなったとの報せ。
お悔やみを申し上げる……ざまをみろだ。
実験記録 case 82
複製体メカニズムを持つ
元より、我々『生術師』『錬金術師』の専門であったホムンクルスを使い、我が方の優秀な解析者が紐解き、抽出したゴーレムの秘術によって造り出されるはずであった『戦闘
一体なにがいけなかったのであろうか。
生み出されるものは結局通常のホムンクルスと大差ない。ご存知の通り概ねこの一言、「大きなひとつ目の緑の小人」で言い表すことのできる姿である。
差異といえば死に
実験過程においては確かに可能性を感じていた。成功しそうでしないジレンマ。その微妙なラインが研究を無駄に長引かせることとなった。今となってはどこに手応えを感じていたのか首を傾げるばかりだ。
80回を越える実験によって我が研究棟ではホムンクルスが飽和状態だ。周りを見れば必ずホムンクルスがちょろちょろしている。
危険な場所の清掃や、危険生物の飼育を任せていたが、なかなか死なないこともあって今では所員の世話係まで始める始末。いや、もはやそれを超えてプライマリースクールの様相を呈し始めている。どうしてこうなった。
彼が手に入れてくれたゴーレムの秘術も無駄になってしまった。
そういえば、ゴーレムの秘術などという奴らが頑なに口を閉ざすようなもの、彼はいったいどうやって手に入れたんだろう。
……彼、……とは、誰だ?
2987 DAY 773
他部門の長がわざわざ部下を大勢引き連れて我が棟を見て帰った。
なにが「大変活気があるようで結構ですな」だ。
2987 DAY 777
他部門の長が死体で発見されたとの報せ。
私ではない、が……。
『
ラードーン計画が始まった。
世界はすでに終わっている。
この大地の残された時間は?
大規模にやって大胆に取捨選択していく。
周辺地域に生き残りがいると判明した場合、彼らに供給できる食料がなくなるが致し方なし。
不滅の百頭竜計画 #4
ラードーンはヒュドラとは根本的に違う。
死なないことを企図したヒュドラ兵に対して、死んでも蘇るのがラドン兵だ。
兵たちは言わば切っても生えてくる首であり、その根本となる胴体こそがこの施設そのもので、〝核〟はこの部屋である。
『集積祭壇』には、奇しくも巨神戦争で犠牲となった神々の遺物が数多くの納められている。
選り分けを行う。
我々は凍結された実験をただ当然と通り過ぎるものではない。
ホムンクルスの術理と、H細胞、そして遺された神々の生体細胞から、百頭竜の頭の素となるべき多細胞生物のごく初期段階の固体〝
これはホムンクルスを超えた新機軸である。
不滅の百頭竜計画 #28
溶液
生体材料の突然変異を促され、発生させた未成熟の生命体を、ヒュドラの時に設計した
不滅の百頭竜計画 #31
第一生産ライン・1−czまでの80体は、急速に成長させられたことによる副作用から、その精神状態は極めて不安定で興奮状態にあり、制御は不可能。廃棄を決定。次に備えライン設備の清掃を指示。
不滅の百頭竜計画 #32
第一生産ライン・2−az、廃棄。
不滅の百頭竜計画 #36
第一生産ライン・3−azに【記憶転写】によって所員の記憶の一部を植えつけたところ、暴れ回ることは無くなったが、錯乱状態は続いているとみられる。一人の死をきっかけに、次々と自死を始めた。廃棄。
不滅の百頭竜計画 #46
移植術師の主導で様々な遺物の配合を試しているが未だ成功と呼べるものはなし。
不滅の百頭竜計画 #49
ついに計画の〝核〟たる『
この2つのシステムが成長を進めれば、計画は加速するはずだ。
不滅の百頭竜計画 #53
ラドン兵は未だに安定とは程遠い。
不滅の百頭竜計画 #67
有機体のそもそもの生成術式がほぼ生物化学的増強システムに占められていて、有機体の心的機能への移行プロセスが不十分であると、『
ホムンクルスは勝手に性格の違いが現れ、自己を確立していく様子のためその辺りを見落としていた。
不滅の百頭竜計画 #68
指摘を改善し実行したところ、また新たな問題が生じた。
心的機能への移行プロセスにおける、本能的神経系パスの欠如に阻まれることがわかった。
肉体と魂との繋がりが断たれた状態にあり、これは百頭竜計画にとって致命的だ。
しかしそれを新たに組み込むこと自体が我々には困難であった。秘儀術師か神秘家、せめて屍霊術をかじったことのある者がいれば違っただろうに。
不滅の百頭竜計画 #70
急速成長させた肉体の中で、未成熟で宙ぶらりんの状態にある魂に、調整された精製精霊を転送し魂と肉体を馴染ませる試みは神経系増幅剤(定式#D-7J4)の投与後、
そもそもこれは急速成長による弊害であり、普通に育てたら起こらないのではないかとの声が上がった。
検証してみてもいいが子育てができるものなどここにはいない。
折を見て、一人作ってみようということになった。
不滅の百頭竜計画 #75
未だ自我の芽生える兆候はなし。
不滅の百頭竜計画 #77
今の肉体が滅ぶとそのまま肉体と一緒に魂も崩れ去ってしまう。そうなると新たな肉体が生誕槽に形成されても、二度と動かない。
不滅の百頭竜計画 #82
未だ自我はない。動きが遅いわけではないが、どこか緩慢な印象を受ける。
命令に従い動くことはできるので次の段階に進む。
不滅の百頭竜計画 #83
いよいよ必要に応じて追加の能力を提供する。この融通性が新たな
能力に対応する生物の細胞の選別を急ぐ。
不滅の百頭竜計画 #108
異種細胞の寄生的移植を経て、それぞれの生物化学的身体部位が共生的関係の下、正しいバランスを探る。
槽で育てられた未成熟の胚が、幼生段階に至ったら一度、生誕槽から引き上げ能力細胞と結合させる。結合させた胚は、培養槽の環境保護ジェルと血管ケーブル、流体臍帯の中で確実に成熟した段階まで成長させる。
取り出し、さらに様々な生物化学的強化を授け、能力的には一人前のラドン兵を、
不滅の百頭竜計画 #113
自我はない。
動きにわずかながら個体差が見られる。
不滅の百頭竜計画 #126
いくつかの個体に感情の発露を確認。
不滅の百頭竜計画#129
感情があるものとないもの。
あきらかにないものより、あるものの方が戦闘力が高い。
しかし感情が目覚めてしばらくすると、何か常にいらだっている様子が見受けられるようになった。
不滅の百頭竜計画 #133
喜怒哀楽が激しく、再び制御に問題が出始めた。
──〝末裔〟が集まってきている。
不滅の百頭竜計画 #157
感情を、自我を目覚めさせた上で、その自我を封印して運用することにした。
無駄な手間のように見えるが、元から感情のないものよりは、あらゆる面で上の値を示している。
以降、4から9のプラントを『
1から3のプラントにおいては我々がさらに戦闘能力の向上に努める。
──なんとか、間に合ったか。
男が深く椅子に腰掛けた映像を最後に、部屋の壁に映写機よろしく部屋の壁に映し出した上映会が終わった。
「映像の彼が、──白骨のこのカレなワケだ」
デスクの横に倒れている遺体をレムは見下ろした。
彼を中心に絨毯の染みが大きく広がっており、壁にも、見上げれば天井にも血痕らしきものが盛大に。
レムはこの部屋にいるもうひとりに向けて微笑んだ。
「ありがと」
発光していた巨大なひとつ目が、息切れ起こした電灯のように点滅して、光が消えるとつぶらな瞳へと戻る。
乳児ほどの大きさのホムンクルスが、兜の
ガコン、ガコンと左右に、上下に、斜めに壁が開く。
ホムンクルスが先導し、一つの部屋へとたどり着く。
『おかえりなさい。統合体、いいえ……──レム』