ザンキ99 転生して魔剣士目指しつつナゾの魔道具士やってみます   作:そこの角にいる

7 / 40
07 やべーやつ

 

 

 

 

 

「母様、先生んとこ行ってきまーす」

「はいはーい」

 

 裏口から家を出て、裏庭を突っ切り、高さが大人の胸ほどの塀をよっこいしょと乗り越え、下草を踏み締め、生垣を潜ると、先生の家の庭の畑に出る。

 広々としたL字型の平屋。

 近所の子供たちに読み書きを教えているから先生と呼ばれている。

 

「先生、来まし──」

 

 ドォン、と平家の一角が爆発した。

 モクモクと煙が立ち昇り、がしゃんとひしゃげた窓枠が落ちる。

 

「…………」

 

 先生の本業は、錬金術師だった。

 歪んだ戸を蹴り開けて、長身アフロ頭の男が現れた。爆発でもじゃになったのではない。元からそういう頭だ。

 

 レムの認識では、錬金術師とは何かやべーもん作ってるマッドなヤツら、である。

 実際は魔法による力を使ったマジックアイテム製作者だ。

 ガンコな汚れを落とす洗剤。

 水仕事によるヒビ赤ぎれを防ぐ手をコーティングする軟膏。

 インクや接着剤等の各種調剤。

 様々な効果をもたらす水薬(ポーション)類から爆弾まで。

 病気に対処するために薬師と錬金術師の連携は欠かせないし、志ある者は鍛治師と組んで魔導具(マギア)を作り出すために力を尽くしている。冒険者の生存の道を切り開くため、道具での支援と研究。活動は幅広い。

 立派な職業である。

 それなのにレムの認識が残念なのは、概ね目の前のモジャのせいだ。魔物の素材で爆弾ばっかり作っているモジャがいけない。

 

「ああ、レム! ……なんか用っ?」

「うん、ちょっと見てほしいものがあって。というか大丈夫? まだ爆発してるけど」

 

 断続的に爆発音がして、壊れた窓や入り口から爆風が吹き荒れている。

 

「ああ、誘爆っ! しばらく放置! レム、こっち! 書斎行く!」

「うん」

 

 耳の穴をほじくりながら叫ぶモジャに従う。

 何かがガッシャンガッシャン崩れる音を背に、建物の反対側へ回る。

 

 

 

 部屋のぐるりを書棚に囲まれた部屋。

 ソファに座り、向かいに座る先生が水薬(ポーション)を飲んでる間に、ローテーブルにメモを置く。

 

「これを見てほしいんだ」

「……どれどれ」

「意味不明でしょ?」

「ただ呪文を並べたというなら別におかしくないかな」

 

 魔道語印(アトン)には、呪文としての真なる言葉の他に読み方がある。それはかつて日常の中でも使われていた名残りだとされている。

 呪文としての言葉を並べただけなら、通常の読み方で意味が通らないのは無理もない、との見解だ。

 

「でも呪文だとすると、剣に刻まれていたこれはただの覚書(メモ)ってことになってしまう」

 

 陣を成していないゆえに。

 それでは魔道具(マギア)足り得ない。

 

「呪文だとしてもどれか見覚えある?」

 

 先生は首を横に振って否定した。

 呪文として唱え、それが正解であっても発動はしない。

 結果が想像できていないから理解が及ばず、魔力もどれだけ必要かわからないからだ。

 

「父様の剣は魔道具であることは間違いないんです。常に発揮し続けている効果があるから。ならこれは祭文(フォーミュラ)であるはずです。こんなに意味が通らないもの?」

 

 他に魔法陣を見落としているとは流石に考えられない。

 

「レムはこれらの魔道語印は意図的に崩されて描かれたものとして、既存の、レムが知る魔道語印に当てはめたんだーね? それによって意味が通るはずのものが通らなくなったんじゃないかと考えた。……と、するならばそれらは未知の、あるいは失われた魔道語印なんだろうということになる。それなら……原因はこれかね。あとここと、ここと、ここ、ここ、ここ、ここ、ここ、それからここ。レムももうわかっているんだろぉ?」

「むー……」

「しかも祭文として意味が通ったからと言ってなに、という問題があんね。魔法陣をなしていないんだかんね。情報が足りないんだよ、根本的に、魔道具の」

「ですよね、じゃあ、先生魔道具(マギア)持ってません?」

「え? 現代魔道具士のビミョーなのじゃなくて?」

「毒吐くなぁ」

「発掘された本物が欲しいの? いくらかかると思ってんの?」

「完品じゃなくて、壊れたヤツが複数あると助かるんですが」

「知ってる? そういうのは大体ギルドが研究資料として持ってっちゃうんだに? ……たしかいくつかあったと思うから探しておくよ」

「さすが先生」

「なに? そっちに本格的に手を出すつもり? 魔道具士でも目指すの?」

「いえ、僕用の鉄刀(サヒ)が欲しいので」

「ふーん。なんか面白いことがわかったら噛ませてね。これ最後の四文字だけは間違えようのない字体だね」

「やっぱり先生から見ても『はにまる』はやっぱり『はにまる』ってことですね」

 

 レムは床にも積み上げられている本を一冊手に取った。

 魔法関連の書物はどれも手間暇かけて写本された豪華なものだ。

 

「先生、話は変わりますが、ここに載っているこの魔道語印(アトン)、間違ってました」

 

 レムはもう一冊別の本を手に取り開く。

 

「こっちが正しい形みたいです」

「ほーぅ……」

「最初でつまずいたために、あとの全部を誤植(ミス)ってしまった。もったいないですね。いい本なのに」

「そだねー」

「もうちょっと興味持ってください」

 

 モジャ先生が肩をすくめる。

 

水薬(ポーション)を始め、錬金術の多くは魔法に反応させて精製するんでしょう? 僕は先生が爆弾作ってるとこしか見たことないですけど」

「錬金術は手間がかかるし、制度による制限も多いかんね」

「制限……爆弾作ってるのに?」

「そう。爆弾作ってるのに」

 

 レムは疑わしげにモジャを見つめる。

 

「ホントだに? 回復ポーションなんて低級品しか許されてないんだかんね?」

「そうなの? なぜ?」

「ごうつくばりの神官たちが独占してるんだ、許せないよね。爆破するしかないよね」

「へー、……あれ? 父様に売ってたのってアレ低級品だった?」

「……さて、ボクぁ部屋を片付けてくるかんね。ゆっくりしてってってって?」

 

 もっさぁ、と髪を揺らしてモジャが部屋を出て行った。

 レムは本を手に取って読み始めた。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。