ザンキ99 転生して魔剣士目指しつつナゾの魔道具士やってみます   作:そこの角にいる

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09 プラザの決斗

 

 

 

 

 

 屋台の側に護衛が三人、伸されて転がっている。

 

 屋台には雇いの護衛を必ずつけることになっていた。

 まだ実力に不安がある新人たちのよい収入源になっている。

 護衛は抑止力だが、実力よりも、それ自体が重要だった。

 護衛を雇える財力があるということ。

 それだけなら狙われる口実になりかねないが、財力があるということはつまり商会が間接的に、あるいは直接その商売を仕切っていると考えられる。

 そして護衛がいるということは、ギルドに依頼が出されていたか、商会と繋がりのある冒険者の一派が担うことになっているかだ。

 護衛のいる店に手を出す。それはつまり、冒険者一派と商会と冒険者ギルドを一度に敵に回しかねない行為、ということになる。

 

 さて、辺境伯領第三の都スレーヴェンにも、マフィアやギャングのような裏の組織というものが存在する。

 ただこの街ではそういった裏組織の根底は、必ず冒険者の一団が基になっている。

 街の中だけでなく、外の狩り場の縄張り争いまであるような状態だ。

 しかしだからこそ、表立ってギルドに敵対することはない。

 除籍されればただの犯罪組織。

 ギルドとスレーヴェン小領主からも賞金がかけられ、冒険者たちから袋叩きにあって都市から排除されるだろう。

 

 大声で恫喝する男たちはそういうことがわかっていないのは明白だ。

 一方でレムはそういうことを踏まえた上で行動に移す。

 指先に魔力の光を灯し、静かに眼前に魔法陣を描きながら走り出す。

 

「何者にも縛られざるものたちよ、わが(からだ)、一陣の風となせ」

 

 周囲の魔力が〝祝詞(チャント)〟で喚起され、魔法陣にカチリと嵌まった感覚があった。

 レムは男たちの目の前に跳んでいた。

 

「はいどーんっ」

「ぐぺっ⁉︎」

 

 跳び蹴り喰らって吹っ飛んだ男が、仲間の二人を巻き込んで転がっていく。残りの二人がそんな三人の仲間を呆然と見送った。

 レムは着地を決めてポーズをキメた。

 

「はい10点!」

 

「……こ、のガキ……っ!」

 

 男三人が起き上がってきた。

 レムはウェイトの差は如何ともし難いなぁと頭をかく。

 顔面に靴跡がくっきり残ってる男が怒りに震えていた。

 

「クソが……ァ……!」

「なるほど! あなた方が噂の、クソ虫……の、フンかな?」

「んだとっ⁉︎」

 

 

 

 レイグは一部始終を見ていたが、メルティナに零さずにはいられなかった。

 

「何やってんの? あいつは」

「レイグがあの子に言っといてあげないから」

「いや、真っ先に突っ込んでいくとは思わんだろう? まあ、目立たん裏路地ならともかく、ギルド門通りで絡んでくる阿呆がいるのも予想外だったが」

 

 話しながら弁当を片付け、敷物を畳んだ二人はレムの元に向かう。

 

 今日はレイグが代表する冒険者チームへの入団試験だった。

 屋台の側で伸されている三人が新人。

 別に今は弱かろうと構わない。団の気質に合えばそれで良かったので、入団試験というよりも、新人(候補)をそれとなく見る会、だった。

 なので、今日に限っては屋台の売り子も団員であるし、周りにも何人か団員が待機していた。

 入団を許可するかどうかも含め、今回、他の者に全て任せてあるので、レイグは本当にただピクニックのついでにチラッと様子を見て帰るだけのつもりだった。

 

「団長」

 

 近寄ってきた男も団員だ。

 共に現場に着くと、レイグたちを含めて十人の団員がゴロツキを囲む形になった。

 威嚇しながらも戸惑いを隠せないゴロツキに混じって、レムもキョロキョロしているのがなんとも言えない。

 

「去れ」

 

 団員の一人が男たちに言う。

 

「んだてめえっ」

「子供に負けたと噂が立つ前に消えろってんだよ」

 

 別の団員が静かに言うが、ゴロツキは一気に頭を沸騰させた。

 

「負けてねえよッ!」

「わかったわかった。落ち着けよ」

「どこのもんか知らねえし知りたくねえからさっさと家に帰れ」

 

 言い方は馬鹿にした感ありありだが、これで彼らの優しさであった。が、他人に、ましてゴロツキたちにそんな察しの良さは備わっていなかった。

 

「俺らは〝宵闇(ダスク)〟だぞ!」

「あ~あ。言っちゃったな」

「言っちゃったなぁ」

「〝這いずる宵闇(スリザリング・ダスク)〟か……」

「大手だな」

 

 団員たちがビビってると思ったか、ゴロツキたちの勢いが増す。

 

「へ、余裕こいてられんのかあ⁉︎」

「舐めた口ききやがって! 後悔させてやる!」

「あー……それで? どうすんだ?」

「サシで決闘だ。変な噂立てられちゃ堪んねえからなあ」

「ふーん。ま、いいけどな」

 

 それを聞いてゴロツキがニヤリと笑った。

 十人を相手に五人じゃ勝てないが、1対1なら勝てると踏んで、うまく誘導できたとでも思っているのだろう。

 決闘がどうの以前に、ゴロツキたちは帰れと言われた時に帰るのが最善だった。そうすれば名前も所属も知られることなく有耶無耶になったはずだ。

 団員たちも追求する気もなかった。

 しかし所属を堂々と名乗り決闘とまで言い、周りで聞いていた者たちも少なからずいるとなれば、もう後には引けない。

 トラブルの発端から考えて、ゴロツキたちの所属先は決闘がどうあれ彼らに罰を下すだろう。

 と言ってこれ以上、優しくしてやる必要もなし。これが団員たち共通の認識だった。

 

「団長?」

 

 これまで口を挟まず黙っていたレイグに、団員が伺いを立てた。

 レイグがレムを見据える。

 

「レム、どうする?」

 

(おおっ? ぼくに決闘やらせてくれんの?)

 

 最初に反撃したのがレムだからとか、そういう暗黙の了解みたいのがあるんだろうと、納得してレムはピンと手を挙げた。

 

「はい! ぼくがやりまーす!」

 

「まあ、そう言うと思った」

「いいんですかい? 団長」

 

「てめえら……どこまでもナめクサりやがって……‼︎」

 

 

 

 決闘するため広いスペースに移動しながら、団員の一人に声をかけられ、レムは彼を見上げた。

 

「あ、サビラおじさん」

「うんお兄さんな」

「オニイサン」

「そう、お兄さんまだピッチピチの五十代前半の五十四だから」

 

 こくりとレムは頷いた。

 

「で、いいのかい? 誰も手伝えないぞ? 坊ちゃん」

「がんばります!」

「いいのか? 団長」

「俺の息子だからこそ例外はない」

「……わかった。坊っちゃん、相手は典型的な剣士に見せちゃいるが、背負ってる盾がキレイすぎる。おそらく本命はナイフ。んー、三つ……四つか? 仕込んでる。スキルとナイフに気を付けてな。それでたぶん奴は──……」

 

 7歳の子供でもやると決まったら即座に切り替え、アドバイスをくれた。

 こんなところで異世界の意識の違いを実感して、レムは「はえ~」とこくこく頷いた。

 

 決闘は命を取ることが目的ではない。

 勝負がついたと判断した、あるいは判断されたら互いに引くのが作法である。結果的に死ぬこともあるが基本はそうだ。

 ゴロツキにマナーを求めるつもりはないが、当然、レムを死なせるつもりもない。

 団員の何人かは、今この場で手が滑ったとか言ってゴロツキを始末しちゃダメかなぁと考えている。

 

「レム」

「はい?」

 

 父を見上げる。

 

「自分の命が最優先。相手を気遣う必要はない」

「はい」

 

 全長50cm程度の木剣をレムが振るう。

 刃渡りで見れば30cmあるかどうか。

 

 ゴロツキは額に青筋を浮かべて片手剣を抜く。

 

「……クソが」

 

 周りの大人の誰一人として子供にナイフすら持たせようとしない。

 こちらに木剣に変えろとすら言ってこない。

 そもそもガキを決闘に出すって何考えてんだ。イライラが募る。

 

「クソが」

 

 決めた。

 ヤツらが止める間も与えない。

 最初に片腕、片脚を落とす。

 子供の細い手足なら余裕だ。

 

 10mの距離で向かい合う。

 開始の合図はない。

 ゴロツキが飛び出した。

 

「ダ」

 

 レムが呟く。

 一気に距離を詰める途中でゴロツキが後ろに吹っ飛んだ。

 腹を抑えて悶絶する。

 何が起こったかわからない。見物人がざわついた。

 ゴロツキは空歩の要領で浮かべた魔道語印に鳩尾からぶつかったのだった。

 

「ダ」

「あだ⁉︎」

 

 起き上がろうとしたゴロツキの後頭部で魔道語印が砕けた。

 

 ゴロツキは魔力の扱いがてんでなっていなかった。

 

 意志によって自身の魔力は喚起され、害をなすあらゆるものへの障壁となる。

 意志を持って立ち向かえば、あらゆる魔法は減衰を免れない。

 戦闘時の昂りを考えれば、魔道語印(アトン)の一欠片くらい容易く砕いて然るべき。

 

 レムは7歳である。

 飛び蹴りの結果からもわかる通り、木剣の被弾も覚悟で接近戦に持ち込めば十分な勝機があった。

 彼らはやはりゴロツキであって冒険者ではないとレムは思った。

 

「クソがっ〈三連嘴(トライペッカー)〉!」

 

 魔力によってゴロツキの声が不思議に響く。

 スキル──。

 聞いていた通りの、ナイフの射出スキル。

 半身に立ち位置を変え──一本。

 首を傾げて──二本。

 木剣で払って──三本。

 

「なっ⁉︎」

 

 やはり聞いていた通り工夫もない。

 習熟すれば狙いの箇所も、速度も、軌道も変えることができるスキルだが、初期の仕様通りに飛んできた。

 ゴロツキはまだ立ち上がっていない。

 驚きの声を上げている内に距離を詰めて、ゴロツキの片手剣を蹴り飛ばした。

 念のため、蹴るに合わせて距離を取ったが、ゴロツキは動かなかった。

 座り込んだまま俯くゴロツキに近づいた。

 

「これで終わりでいいですか?」

 

 俯くゴロツキの視界にレムの靴先が入った瞬間ゴロツキが動く。

 

「〈ペク──〉ぅぐぁあッ⁉︎」

 

 スキル発動の前に腕の付け根を強かに打ち付けた。

 先読み。

 スキルとしての先読みもあるが、これは違う。

 感情に反応した魔力の質と、スキル発動の前兆としての動きからの先読み、〝殺気読み〟などとも言われる技術だった。

 それ以前に、やってくるんだろうーなー、とは思っていたけれど。

 ゴロツキのナイフを彼の喉に触れさせた。

 

「これで終わりでいいですか?」

 

 ゴロツキが頷く。

 周りから歓声が上がった。

 

「……クソ! …………なんで……!」

 

 父母の元に歩き始めていたレムが振り向いた。

 

「それ、ぼくに言ってんの?」

「……」

 

 もう勝負は終わったと言うのに、観客はまだ増えていた。

 

 最前列の一角に子供たちが固まってレムを見ている。

 鼻をほじりながらこっちを見てる子を、レムも立ち止まって見た。

 隣の女の子がひっぱたいていた。

 レムより年長の男の子がレムを凝視している。

 数秒見合って、レムはぺこりと頭を下げるとレイグの元に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

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